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2018年5月 4日 (金)

法令違反が放置されている内部統制報告制度の運用(その2)

いつも有益な情報をいただいております「いたさん」さんから教えていただいたのですが、日本公認会計士協会さんが、4月6日、監査・保証実務委員会研究報告第32号「内部統制報告制度の運用の実効性の確保について」を公表されたようです。少し長いですが、ようやく拝読させていただきました。

『本研究報告は、平成28年3月に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言「―会計監査の信頼性確保のために―」において、「内部統制報告制度の運用状況については必要な検証を行い、制度運用の実効性確保を図っていくべき」とされたことを踏まえて、内部統制報告制度について所期の目的を達成するような運用が定着しているのかどうかについて検討を行い、その結果を取り纏めたもの』とのこと。

ようやく訂正内部統制報告書の運用に内在する課題についても光があたりましたね。私は2013年10月に「法令違反が放置されている内部統制報告制度の運用」なるエントリーを書きましたが、ようやくそこで問題提起していたことが、日本公認会計士協会さんでも取り上げていただけることになったようで、少しうれしい気分です。最初にこの問題をブログで取り上げて、もう10年ほどですね。

このように考えますと、そもそもリスクを開示せよ、としている金商法の適用において、経営者も監査法人も法令違反の状態にあると言わざるを得ません。制度施行から5年が経過して、この点について誰も疑問を抱かないということは、まさに上場会社のすべてが、そして監査を担当するすべての監査法人が思考停止状態にあると言えます。ちなみに今年3月に出版しました拙著「法の世界における会計監査」の中でも、この問題について疑問を呈しましたが、これまで、この点についてはどなたからもご異論をいただいておりません。

ずいぶん上から目線で偉そうな物言いをしていますが(笑)、それだけ当時は内部統制報告制度の運用に危機感を抱いていた・・・ということでご容赦ください(いまは当時ほどの情熱が・・・)。<m(__)m>いま読み返してみて、当時と今と、私の意見は全く変わっておりません。

いずれにしましても、会計不正が発覚した企業において訂正内部統制報告書が提出される場合に、訂正の理由を経営者が詳細に開示するとなりますと、経営者の法的責任が問われるリスクは高まるでしょうね。日本の内部統制報告制度ではダイレクトレポーティングを採用していないわけですが、それでも会計監査人のリーガルリスクも考えられるわけです。会計士の皆様方が、この研究報告で課題とされていることを実践していただくことに期待します。まさに職業倫理に裏打ちされた会計プロフェッション、そして財務報告サプライチェーンにおける「ゲートキーパー」としての役割だと思います。

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コメント

本件と関連して、たまたま資料版/商事法務で面白い記事を見つけました。○座談会:金商法と会社法の将来―再び、公開会社法を巡って―神田秀樹/上村達男/(司会) 中村直人。
 この中で、内部統制に関する制度の統合についても言及されています。上村「金商法の制度と会社法の制度の統合・調整を行う場合に、会計・監査・内部統制の金商法上の理論的位置付けを見直すべきなのかそうでないのかが問われてくるように思います。」「内部統制監査はダイレクトレポートにすべきではないかとという話になってきそうです。」中村「財務報告の内部統制というものも、今は金商法の財務報告の内部統制報告書と会社法の内部統制の決議義務という形で、ばらばらのものがそれぞれ勝手に存在しているという状況になりますけれども、仮にこの情報開示規制が一体化してくるならば、これは公開会社としてはそのような財務報告の内部統制を構築するのは当然のことというような整理になるかと思います。」こうした議論はまさしく久々に見る気がしますが、今後改めて再活性化することを期待しています。
 この座談会は、CG改革の最高の仕切り屋の神田教授と現行のCG改革の最大の批判者の上村教授の対話という点と懐かしの「再び、公開会社法」、という副題に惹かれて読みましたが、二人の若いころからの交友というゴシップ的エピソードも含めて、様々な意味でとても面白い内容でした。この対談が行われた理由が単に「上村先生が今年古希を迎えられたお祝い」だけなのか、大きな改革の流れの中での「公開会社法構想」の復活を示唆するのか、大変興味があるところです。媒体が影響力絶大な「商事法務」でありながら、一般にはなじみの薄い「資料版」という点も微妙なところです。
 小生が一番印象的だったのは、ESG投資に関連して神田教授が以下の主旨のことを述べられたことです。「ESGはちょっと品がよすぎる、地球が抱えている問題はもうちょっと深刻だ、一つは富の偏在で地球上に非常に貧困が存在する、この格差の是正をどうするか、もう一つは「三大リスク」自然災害リスク、致命的な疾病リスク、テロリスク。そういう問題に企業が対応する、解決に向けて貢献することが、社会的に非常に求められている。」上村教授の前だからでしょうか、日頃淡々と話されることの多い神田教授が熱く思いを語られたことに、失礼ながら体制べったりの学者との印象を抱いていただけに、驚きと感銘を受けました。

投稿: いたさん | 2018年5月 8日 (火) 16時39分

またまた誘惑的な(?)記事のご紹介、ありがとうございます。うーーん、これは読まねば。。。

投稿: toshi | 2018年5月 8日 (火) 16時53分

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