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2018年6月28日 (木)

今年の定時株主総会に出席して感じたこと(雑感です)

6月総会もピークですね。私は26日、27日と二日続けて株主総会に出席しておりました(取締役と監査役です)。当事者としていろいろと書きたいこともございますが、(守秘義務に留意しつつ控えめに)感想を述べておきます。

昨日(6月26日)の総会では、私が筆頭社外取締役(ガバナンス委員会委員長)ということで、投資家の株主の方からふたつほどご質問を受けました。ひとつは改訂されたガバナンス・コードとの関係で「当社では役員60才定年制を厳守しているが、社長の選任・解任に関する基準はきちんと決まっているのか、もし決まっているのであれば、社長選任においてガバナンス委員会としてはどのような点に重きを置いて判断しているのか」というもの。

そしてもうひとつは、当社のマスコミ等における風評から、社外取締役としては事故・事件の発生についてはきちんと報告を受け、対策を審議しているのか、というご質問。いずれも事前の想定問答集にはまったく掲載されていなかったご質問内容でしたが、まさにガバナンス委員会として普段から議論をしているところなので(守秘義務に反しない範囲で具体的に)回答をさせていただきました。やはりガバナンスやコンプライアンスに関連するご質問は増えていますし、(もちろん議長からの指名が前提ですが)社外取締役自身が回答しなければならない場面も増えていると思います。

そして本日(6月27日)は、株主総会自体はとくに問題なく終了したものの、終了後に社長(パナソニック出身)からお聴きしたパナソニックの株主総会の運営に関する話が興味深いものでした。会場出席の株主数が7000名、大阪城ホールの3階席まで出席者がいらっしゃるというのもたいへんなもの。東京、名古屋会場と映像でつなぐ、というのもパナソニックならお手のモノといったところでしょうか。3階席の株主の方が手を挙げたときに、どのように指名するか、といったことや、発言の打ち切り方、退場命令の出し方など、いわゆる議長の議事進行権限の行使については参考になりました。

総会支援で(弁護士として)関与した株主総会も含めて感じたことは、議長(代表取締役社長)さんが、けっこう株主の皆様の質問に丁寧に回答する傾向が強まっているように感じました(ガバナンス改革の影響でしょうか・・・)。外からみていたら、「この株主さんの発言は質問というよりも意見や要望として受け取ったら良いのでは?」とか「決議事項や報告事項とは関係がないのだから、終了後の株主懇談会のほうでお聴きすればよいのでは?」と思うようなことでも、制止せずに熱心に回答しておられるケースが目立ちます。資本コストに関連する厳しいご質問には丁寧に回答すべきですが、会社側としても株主の皆様からどのようなご質問を受けたいのか、ある程度のメッセージをお伝えしてもよいのではないかと思ったりしました。

あと、まったく質問が出ないというのも気まずいのか(?)、「ヤラセ質問」を用意される会社さんもあるように聞いていますが、一般の株主さんからみると「ヤラセ質問」かどうかはバレるそうです。最近の裁判例でも、一般株主の質問権を実質的に制限してしまうような「ヤラセ質問」の適法性については疑義が呈されていますので、控えておいたほうがよろしいのではないでしょうか。

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2018年6月26日 (火)

今後検討されるスチュワードシップ・コードにおける法律的論点

本日(6月25日)の朝日新聞朝刊一面に、機関投資家の圧力によって企業のガバナンスがじわりと変わってきていることを紹介する記事が掲載されていました。株主総会のピークとなり、株主提案への賛成率が、機関投資家の賛同によって高まっていることも報じられています。政府主導のガバナンス改革の効果が6月総会にもはっきりと出ているようです。

ガバナンス改革を支える機関投資家の行動規範としてはスチュワードシップ・コードが挙げられますし、今後は機関投資家と企業との対話の機会も増えると思いますが、上記記事のように、会社の経営や支配に機関投資家の影響力が高まるにつれて注目されるのは、「機関投資家の適切な行動をどうやって規律していくか」、つまりスチュワードシップ・コードにおける法律的論点の研究だと思われます。

先日も「次号が楽しみ」とご紹介しましたが、判例時報の最新号(2367号)に、元高裁判事でいらっしゃる鬼頭季郎弁護士の「企業間ビジネス紛争及び会社組織紛争に関する裁判の運営上の諸問題-企業法務の訴訟弁護士及び裁判官のために(2)」なるご論稿が掲載されています。そこでは「機関投資家の行為規範における法律的論点」に光が当てられており、とても参考になります。ご論稿では、日本の裁判所における経営判断原則適用における諸問題についても勉強になりましたが、会社を取り巻く力学的変動の中で「当事者の衡平上の視点から」浮上してくるような法律問題が論じられるのは刺激的で、やはり一番楽しいですね。

そういえば、神田秀樹先生と上村達男先生の対談「座談会-金商法と会社法の将来-再び、公開会社法を巡って-」(資料版・商事法務2018年3月号)も、「株主主権」とか「経済合理性を有する無色透明な株主」を想定する法制ではなく、適用される地域、国ごとに「市民としての投資家」「倫理観を持った投資家」を想定した市場ルールの在り方を探るというスケールの大きなお話が「公開会社法」を中心に展開されていました。機関投資家がコーポレートガバナンスの一翼を担う役割が強くなるのであれば、「企業との対話」「企業による情報開示」「株主による共益権の行使」においても、最終目的である「企業の中長期的な持続的成長」のために、株主がどのように企業と関わりあうのか、という点にも法律的な視点が必要になることを感じました。

私のような凡人の頭では、法律家は「守りのガバナンス」の領域ではモノが言えるが、「攻めのガバナンス」の領域では法律的思考は無用(役に立たない)、といった先験的な認識に至るわけです。しかしながら、実際には機関投資家の抬頭が進む中で、新たな法律問題が次々と発生するわけでして、鬼頭先生の上記ご論稿の言葉をお借りするのであれば「(法律的論点が浮上する前に)企業法務弁護士や裁判官にとって先回りして研究しておくべき」ということになるのでしょうね。

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2018年6月25日 (月)

続・取締役監査等委員→社外監査役の「横滑り」はあり?

今週は、株主総会のピークに加えまして、運命のポーランド戦もあるため、当ブログも少し更新がむずかしいかもしれませんが、どうかご容赦ください(2-2の壮絶な戦いは、ひさしぶりに感動いたしました)。

さて、ひさびさの監査等委員会設置会社に関する話題です。6月24日の日経朝刊2面に「監査等委員会設置会社への以降 上場会社4分の1に」との見出しで、あいかわらず監査役会設置会社から監査等委員会設置会社へ移行する上場会社が増えている(900社弱に上る)、との記事が掲載されていました。

地方の上場会社では、社外取締役候補者がなかなか見つけにくい、という現状もあり、監査役に就任されている方が社外取締役にそのまま「横滑り」で就任するケースが多いようです。議決権行使助言会社の指針が今後も厳しくなるかもしれませんが、とりあえず2名以上の社外取締役は確保できるわけですから、それなりに移行のメリットはあるのかもしれません。

なお、「監査役から取締役監査等委員」への横滑りはアリですが、取締役監査等委員から監査役への横滑りはむずかしいので要注意です。今年2月のエントリー「取締役監査等委員→社外監査役の横滑りはあり?」において、少し疑問を呈していたところでしたが、某社が監査等委員会設置会社から監査役会設置会社へ戻すにあたり、取締役監査等委員の方が、再び社外監査役に戻る旨のリリースを出されておられたので、少し心配しておりました。私の思いつかない何か裏技があるのかな・・・とも考えたりしておりました。

しかし、当該上場会社さんは4月中旬にリリースを訂正し、これまでの取締役監査等委員の皆様は6月の総会で退任され、新任3名の方が取締役監査等委員に就任されることになったようです(おひとりは常勤監査等委員)。やっぱり会社法違反になってしまうことになるのでしょうね。私のところに相談に来られる企業さんの様子をみておりますと、今後も監査等委員会設置会社から監査役会設置会社に戻る上場企業さんが増えると思われますが、その際には新たに社外監査役候補を2名以上必要とすることにご注意ください。

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2018年6月21日 (木)

社外取締役への企業の支援策を語るのはタブー?

本日(6月20日)は、関経連さんのお招きで、昨年9月1日に続き「最近の事例から考える企業不祥事の予防策-東証『企業不祥事予防のプリンシプル』の解説を中心に」と題する講演をさせていただきました(100名以上の会員企業の皆様にお越しいただき、ありがとうございました)。企業不祥事予防に向けての経営層の皆様の関心の高さを、あらためて痛感した次第です。終了後は企業法制委員会の皆様と意見交換をさせていただき、また、有益な意見も頂戴しました。

さて、6月18日の日経朝刊「私見卓見」では、経営コンサルタントの方による「社外取締役への支援手厚く」と題する小稿が掲載され、興味深く拝読いたしました。上場会社では社外取締役が増えており、企業統治の決め手となるものと評価されていますが、では社外取締役への支援は十分だろうか・・・といった疑問を述べておられます。会社と社外取締役との関係は一様には決められないものの、経営執行部の業務執行を批判的に検証し、場合によって対立することもあるのに、そのような場面を想定した社外取締役への支援体制がきちんと図られることが重要とのこと。

私もまったく同感です。会社と社外役員が対立することは決して好ましいことではありませんが、対立する可能性を想定して社内における情報収集や専門家との相談体制などを平時から取り決めておくことは当然ではないでしょうか。ちなみにコーポレートガバナンス・コードの補充原則3-2(ⅳ)では、「外部会計監査人が不正を発見し、適切な対応を求めた場合や、不備、問題点を指摘した場合の会社側の対応体制の確立」が要請されており、ほとんどの上場会社がこれをコンプライしているにもかかわらず、具体的な対応体制を詳細に開示している例はほとんどないと思います。また、このたびの会社法改正で審議されている社外取締役への「業務執行の委任」についても、取締役会での包括的な業務執行の委任が求められますので、社外取締役が経営執行部と対立する場面は想定されていないものと思われます。

本気で社外取締役を活用する気持ちがあるならば、会社にとって不都合な事実や不都合な意見を歓迎する意思を担保する仕組みが必要があると考えます。具体的には、上記私見卓見で論者が述べておられるような費用負担の仕組みです(なお、監査を担当する社外取締役さんや監査役さんについては制度的に担保されていますが、実際には「職務執行に必要と思われる相当額」が補償されるだけであり、相当性に関して会社と対立すれば、たとえ社外役員が必要と思っても補償されません)。

以前、このブログでも書きましたが、私もこのたびの会社法改正審議において、日弁連を通じて「監査役、取締役による株主総会検査役選任権」の創設を提案しましたが、法務省側では「検査役の報酬を誰が負担するのか明確ではないうえに、法改正が必要なほどに立法事実が認められない」ということで俎上にも挙げてもらえませんでした。

社外取締役さんが「健全なリスクテイク」のために意見を述べたり、不正リスクを管理するための意見を述べるためには、経営執行部と対立してでも審議を尽くす必要があるはずです。しかし、(調査や専門家委任に関する)費用面での支援がないとすると、会社側から出される情報だけで議論をするしか方法がないわけで、果たしてそれで社外役員としての役割が果たせるだろうか、との疑念を拭えません。というよりも、会社と摩擦を起こさない「空気が読める」社外役員が必要とされているのが現実であり、「有事のための社外役員支援制度」を平時に取り決め、これを開示する、といったことは(上記補充原則3-2と同様に)実際にはタブー視されているのではないでしょうか。

結局のところ、物分かりのよい社外役員さんは、会社と合わない場合には退任することで会社と円満解決に至るわけですが、その円満解決はガバナンス改革の進む中で抬頭してきた機関投資家の期待通りの行動となるのかどうか。第三者委員会委員のように、ステイクホルダーの利益保護を目的として中立公正な立場で会社業務を支援する専門家も出現している時代となり、もうそろそろ「社外取締役への支援問題」をタブー視するのをやめて、真剣に議論すべき時に来ているのではないかと思います。

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2018年6月18日 (月)

グループ会社ガバナンス-海外子会社管理は各社各様

6月18日(月)の日経法務面でも海外拠点における不正調査に関連する特集記事が掲載されているようです。不正リスクだけに限られませんが、グループ会社ガバナンス、とりわけ海外グループ会社の経営管理については、事業戦略として多くの会社で関心事になっていますね。

そういった意味で、6月8日の日経朝刊に掲載されていた「損保の海外統治 三者三様」なる見出しの記事はたいへん興味深いものでした。日本の損害保険大手3グループの海外事業の統治戦略の違いが際立っている、とのことで、各社の将来における収益力を左右する海外統治に各社が工夫をこらしている状況が紹介されていました。そこで、上記記事をもとに、各社トップのコメントも含めて、記事の内容を下記のとおり図表にまとめてみました。

Kaigaisonpo

日本の多くの企業でも、海外グループ会社の経営管理については、上記の3つの選択肢の中で悩んでおられるケースが多いのではないでしょうか。また、上記の分類はあくまでも一般論であり、現実には海外グループ会社の個社固有の事情(たとえば外国人トップなのか、少数株主は存在するのか、地域統括会社は存在するのか等)によってもっと細分化された管理が必要になってきますね。

健全なリスクテイクが求められる時代なので、SOMPOさんのように海外グループ会社への権限移譲ということも検討されて当然かと思いますが、「攻め」と「守り」の長所・短所は認識しておく必要があるように思います。これは行動経済学からの視点ですが、期待値が同じであるにもかかわらず、現状に留まっていては損失を被ることが確実な場合、人はリスク志向型となります。反対に、現状がうまくいっているが、さらに業績を上げたいと考える場合には「現状維持バイアス」がはたらいてリスク回避型となる傾向があります。

東芝事件が連日新聞を賑わせていた際、「チャレンジ」という言葉が流行しました。「このままでは東芝は将来がない」という意識のなかで「チャレンジ」と言われれば「不正がばれないことに賭けてでも会計不正に手を染めてしまう」ことが考えられます。当時、他社の経営者の方が「チャレンジ」という言葉は自分でも使うことがある、とおっしゃっていましたが、その「チャレンジ」は現状維持でも問題ないが、10年後の会社の将来のためにリスクをとろうとすることを念頭に置かれていたのではないかと(つまりそこで語る「チャレンジ」は東芝で出てきた状況とは異なります)。そのような状況での「チャレンジ」には、危険を冒してまで不正に手を染めようとの動機は、あまり役職員の間では生まれないですね。

いっぽう東京海上さんやMS&ADさんのように本社が手綱はガッチリ握って管理する、というケースも多いと思いますが、その場合には本社における(海外グループ会社管理に関する)権限と責任の明確化を図る必要があります。海外グループ会社の外国人トップからよく聞かれる不満が「日本本社の誰の指示を信用してよいのかわからない」というものです。事業部門の担当役員なのか、地域統括会社のトップなのか、それとも本社コーポレート部門の責任者なのか、ということです。なので、海外戦略のスピードが遅くなりますし、誰もリスクをとりたがらず、「健全なリスクテイク」が期待できない状況になります。

一口に「健全なリスクテイク」といいますが、グループ会社管理においては、そもそもリスクテイクができない組織になってしまうおそれもありますし、不確実性の期待値が同じ場合であったとしても、これを経営トップがどのように社員に説明するかによってバイアスの働き方が変わり、不正リスクにも影響を及ぼす可能性があることを知っておくべきではないかと考えます。

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2018年6月15日 (金)

決算「不適正」で説明責任を尽くすべきは上場会社も同様

本日、ある会合で、最近のコーポレートガバナンスに関連する話題として最も印象的なものは社外取締役によるインサイダー規制違反(疑惑)とのことでした。ご承知のとおり、ふたり続けて上場会社の社外取締役の方がインサイダー規制違反によって証券取引等監視委員会の調査対象となりました。「会社の情報管理体制の問題というよりも、一個人の行動に関する問題なので静観している」といったところかもしれません。しかし、証券市場の「酸いも甘いも」熟知した経営者OBの方々が、どうしてインサイダー取引に及んだのかは理解不能です。このあたりは会社側がきちんと調査のうえ説明責任を果たすべきと考えます。

さて、「説明責任」ということでは、6月13日の日経朝刊に「決算不適正、株主説明を」との見出しが躍っていました。金融庁や日本公認会計士協会を中心に、監査法人が適正意見を出さない場合に、その理由を株主に詳細に説明するルールの策定が検討されているそうです。昨年の東芝、PwC間の「限定付き適正意見」の開示を巡る問題が契機となっていることは間違いありません。東芝さんの株主総会でも、PwCさんに説明を求める株主動議が出されましたが、結局は却下されてしまい、日本取引所自主規制法人理事長も問題視されていました。

会計監査人(監査法人)が、一定の場合に守秘義務を解除して、詳細な説明を求められることには異存ありません。ただ、監査法人側に詳細な理由説明を求めるのであれば、会社側にもその理由に対する意見について説明を求めるべきです。なぜなら決算書については第一次的には会社側に作成責任があり、経営者は会計検査人に対して「確認書」を提出する立場にあるからです。会社側が会計ルールに従って真正に作成したと宣言している財務諸表について、無限定適正意見は書けないと会計監査人が主張しているわけですから、当然に会社側は反論すべき立場にあると思います。

いくら会社側と会計監査人との対立があるといっても、この対立は「どっちが勝つか」という(利益獲得を目指した)問題ではなく、投資者・株主保護を目指す双方の意見の擦り合わせ、つまり双方の勝利を目指す対立です。この対立の構図は、一般の投資者・株主に開示して情報の非対称性を解消すべきです。この点はしっかりと抑えておく必要があると思います。また、このように双方に詳細な意見を開示させる、ということで、本来の会計監査人の役割を投資者・株主が理解するきっかけとなり、いわゆる監査の重要性を投資者・株主が理解する道筋になると考えます。

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2018年6月14日 (木)

大阪大学ベンチャーキャピタル社の監査役を退任いたしました。

私事ではございますが、2014年8月の設立準備手続開始以来、丸4年ほど務めてまいりました大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の監査役(社外)を、本日の定時株主総会終了をもって退任(任期満了)いたしました。

VCの役職員の皆様、株主である阪大の総長以下理事、監事の皆様、産学連携本部関係者の皆様にはたいへんお世話になりました。客観的に見て、大学発ベンチャー4社(東大、京大、阪大、東北大)のなかでは当初から先陣を切っており、今年は投資案件初の上場会社も誕生しましたので、「ガバナンス構築支援という立場の監査役としては一区切りかな・・・」と思いまして退任を決意いたしました。再任を見込んでいた社長も、最初は困惑しておられましたが、なんとか理解していただけました。

株主総会の後、送別会をもうけていただきまして、社長および社外取締役4名の皆様から労いの言葉をかけていただいて、たいへん嬉しかったです。よくよく考えますと、監査役でもやらないかぎりはNTTドコモの元社長、りそな銀行元社長、サントリー元副社長、早稲田大学教授、といった(個性豊かな?)社外取締役の皆様と仕事を御一緒できるような機会はないわけでして、いろいろありましたが(笑)、たいへん有益な時間を過ごさせていただきました。ほんの少しですが、出身大学のために貢献できたとすれば望外の幸せでございます。

僭越な物言いになりますが、私の後任は日銀ご出身、証券取引所の元取締役でもいらっしゃる方なので、投資案件がますます増えるVCの活動を、ファイナンスの経験豊富な方の視点で監査していただけるものと期待をしております。私はまた阪大VCを応援するひとりのファンとして、日本のベンチャー企業興隆に向けた業績を見守りたいと思います。

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2018年6月12日 (火)

訂正とおわび(鬼頭季郎弁護士の執筆原稿の掲載は6月21日号だそうです)

先日、判例時報6月1日号の鬼頭弁護士による連載論稿をご紹介いたしましたが、そのエントリーの中で「次号掲載予定」として6月11日号と紹介してしまいました。

確認したところ、鬼頭先生の次のご論稿は6月21日号に掲載される予定だそうです。訂正してお詫び申し上げます。たくさんの問い合わせが判例時報社に届いている、とのことで、関係者の皆様にご迷惑をおかけしました。なお、6月5日のエントリーの該当箇所につきましては、さっそく訂正いたしました。

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週刊エコノミストに拙稿を掲載いただきました。

Ekonomisut三菱マテリアル社の経営トップの方が、品質偽装事件の責任をとって辞任されることが決まったそうで、大手企業の危機対応の巧拙に関心が高まりそうです。オムロン社でも不適合製品の出荷が公表されましたが、他社でも品質偽装問題が開示されるケースがまだまだありそうです。最近の風潮からみますと、企業が(品質偽装の事実を)公表することを決定したのであれば、そのタイミングも含めて、ステイクホルダーへの説明責任の尽くし方を慎重に検討したほうがよさそうですね。

さて、本日(6月11日)発売の週刊エコノミスト(6/19号)の特集「日本版司法取引にご用心」におきまして、拙稿「Q&Aで分かる 日本版司法取引 他人の罪を申告して処分軽減」を掲載いただきました。Q&A形式にて、日本企業による改正刑訴法「協議・合意制度」への対応をわかりやすく解説したものです。内容は、現場担当者向けというよりも、社会の変遷を感じるべき経営者向けに書いたものです。

最高検察庁準備室の対応指針が策定されていること、警察庁の犯罪捜査規範が改定されていることなどから、あまり神経質にならないでもよいのでは・・・といったことを中心に、比較的冷静な立場で書かせていただきました。当ブログでも以前から書いているように、弁護士倫理上の課題なども企業関係者の皆様に知っておいていただくほうが良いのではないかと思いましたので、そのあたりも後半部分で論じています。全国書店で販売しておりますので、ご興味がございましたらご一読くださいませ。

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2018年6月11日 (月)

法学の誕生-「人間学」へのアプローチ

Hougakutanjo5月に購入しておりましたが、ようやく内田貴先生のご著書「法学の誕生ー近代日本にとって『法』とは何であったか」を拝読いたしました。

明治初期、列強との不平等条約を改正するための条件として、短期間で西洋法制を日本に輸入しなければならない時期。その時期に立法、法解釈の場面で活躍した兄弟穂積陳重(のぶしげ)、八束(やつか)兄弟に焦点をあてて、「法の誕生」ではなく「法学の誕生」について語られた力作です。「世間からは、この兄弟にはこのような評価が下されているが、よくよく研究してみると、実は誤解されている点が多いのではないか」といった論調(しかも検証資料が豊富)が、読み手の興味をそそります。

陳重の思いが、119年の時を経て「日本国民にわかりやすい民法」への改正作業として開花することになりましたが、実際に(改正法が)そのようになっているかどうかは疑問もあります。内田先生は、そのような債権法改正作業の中心にいらっしゃるわけで、改正作業の初期に抱いた高い目標が、いま改正法施行を目前に「目標を果たせた」と評価されているのかどうか。法が「社会力」の発現となりうるためには、一般社会において「法律は国民にわかりやすい」ものでなければならず、今回の債権法改正条項は、国民意思の発現たる社会規範としてふさわしいものなのかどうか、という点はいろいろと議論されてもよいのではないでしょうか(ちなみに、現民法の信義則条項、権利濫用条項は、戦後の民法改正によって導入されています)。

また、日本にも憲法改正の流れが生じている中で、「社会力」としての法学がその使命を果たしているのか、そして改正後の憲法解釈やさらなる改正に、そのような法学の力が果たせるのかどうか、それは「人間学」としての法学を担う人たちにかかってくるものと思います。2000年に始まった司法改革ですが、そのなかで法科大学院の失敗がよく議論されます。その失敗を議論する要点は、予備試験が「抜け道になっている」といったところではなく、自然科学を含めた、法学の周辺領域にまで教養を深め、人間力を高めた者こそ「法学」を担うことが期待されたにもかかわらず、その役割を法科大学院が果たせていない点にあるのではないかと。本書を読み、そのあたりを痛感いたしました。

本書から多くの示唆を得ましたが、その個別内容(たとえば自然法思想や法実証主義、そもそもなぜ日本では法学が成立しなかったのか、など)については、また個別のブログエントリーの中で言及してまいりたいと思います。いずれにしても、西洋法学の土壌のない日本において、法典編纂の直後にこれを(日本の伝統と慣習を尊重しつつ)日本に根付かせるために尽力した二人の日本人の功労には敬意を表したいと思います。

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2018年6月 7日 (木)

会社法の過料(行政罰)を刑事罰に引き上げることの是非について

今週月曜日(6月4日)、日本公認会計士協会の某委員会の皆様と、2時間ほど(公式な)意見交換をさせていただきました。意見交換といいましても、実質は私がヒアリングを受ける・・・というものでしたが、私自身もたいへん勉強になりました。

ヒアリングの内容については(ご迷惑になるかもしれませんので)書けませんが、議論の途中で感じたのが会社法の過料規定に関する素朴な疑問です。これだけ会計監査人の「公益の番人」たる役割が期待される時代となり、企業と株主との建設的な対話が求められる時代になったにもかかわらず、ディスクロージャーに関連する違反行為が過料(秩序罰)のまま会社法の中に残っているのはいかがなものでしょうか。

たしかに会社法は小さな株式会社にも適用される法律なので、大きな上場会社を基準に検討することはできません。しかし、過料の対象となっている違反行為の中には、情報開示に関連するようなものが含まれており、違反行為の悪質性からみれば刑事罰に値するものも多いように思います。とりわけ会計監査人への報告義務違反や調査妨害といった行為は、欧米諸国では当然に刑事罰が規定されているのですが、日本の会社法では過料としての罰則規定があるだけで、その制裁としての実効性がほとんどありません。今こそ過料という秩序罰の一部について、刑事罰に格上げすべく法改正が必要ではないでしょうか。このあたりの「社会的な合意形成」はある程度はなされていると思うのです。

会社関係者の「行為規範」に関連するところなので金商法の改正ではなしえないと思われますし、やはりこのあたりは会社法改正で対応すべき課題ではないかと。不正リスク対応監査基準の新設、違法行為への対応に関連する会計監査人の倫理規定の改訂などにより、会計監査人の行為規範については改訂が進むなかで、会計監査人と向き合う会社関係者の行為規範(およびその実効性担保の手段)についてもそろそろ抜本的な改訂が必要ではないかと考えるところです。

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2018年6月 5日 (火)

企業法務弁護士は「裁判官リスク」とどう向き合うべきか?

今年4月に経産省から「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書について」がリリースされて以来、日経新聞ではどうも企業法務強化の話題が増えたような気がします。ということで(?)、当ブログでも企業法務弁護士に関する話題をひとつ。

判例時報の最新号(6月1日号 №2365)から、鬼頭季郎(すえお)弁護士による連載論稿の掲載が始まりました。タイトルは「企業間ビジネス紛争及び会社組織等紛争に関する裁判の運営上の諸問題-企業法務の訴訟代理人及び裁判官のために」というもので(ずいぶん長い・・・)、真っ先に拝読いたしました。「裁判官はしょせんビジネスの素人なんだから、『できる裁判官』ほど、権力行使には謙抑的であろうとしてプロセス重視の判決になっちゃうんだよね~♪」などと、したり顔でクライアントに説明している法律家には必読です(実は私もですが・・・)。

鬼頭季郎弁護士といえば、ちょうどこのブログを開設した2005年3月、東京高裁裁判長として、ライブドア・ニッポン放送の新株予約権発行差止仮処分事件の抗告審(高裁決定)に関わり、有名な「鬼頭四要件+主要目的ルール」を決定文で示した元裁判官でいらっしゃいます(たとえば、こちらの決定要旨が参考になります)。敵対的買収防衛なる言葉が「お茶の間」でも話題となり、ガバナンスやファイナンスの専門家の皆様が連日ニュース番組やワイドショーに登場しておられましたね(なつかしい・・・)。現在、鬼頭弁護士は皇居近くの(専用エレベータのある?)大きな法律事務所に在籍されておられるようです。

内容につきましては、商事事件に関わる同業者の皆様にはおススメであることは間違いありません。「裁判官が企業法務弁護士に期待すること」も参考になりましたが、私が一番拝読しておもしろかったのが「裁判官リスク」です。鬼頭先生は、「世間の汚れを知らず、法律の訓練しか受けていない裁判官が、いわば世間の常識に沿わない事実認定や法律判断をするおそれがある」という、いわゆる「裁判官リスク」を考えている人たちが少なくない、と述べて、そこに(楽しい)反論を加えておられます。なるほど・・・私は反省すべき点がたくさんあるなぁ(笑)。多くの企業法務弁護士が抱いている、この「裁判官リスク」について、鬼頭先生が語るところは新鮮です。ぜひ、お読みいただければと。

「裁判官の視点から、企業に期待する訴訟紛争の可能性を考慮した日常対応」については、私が最近10年間の商事最高裁判決・決定を参照しながら、講演等で述べているところと全く同じだったので、意を強くいたしました。スルガ銀行vs日本IBMシステム開発紛争事件の判決の決め手なども紹介され、企業の平時からの取組みが有事に活きることが示されています。

次の掲載号である判例時報(6月21日号)では、「企業法務弁護士の多くが誤解している経営判断原則(ビジネス・ジャッジメント・ルール)と日本裁判所における経営裁量判断尊重原則の違い」が解説されるそうで、こちらも待ち遠しいですね。

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2018年6月 4日 (月)

企業経営者において不正リスクへの意識高まる-経済同友会調査

公益社団法人経済同友会が5月にリリースした「社外取締役の機能強化-3つの心構え・5つの行動」を読みました。会員企業や社外役員の皆様への調査結果に基づく提言でして、題名からは「社外役員に関する調査」のように読めますが、コンプライアンス問題への調査・提言も含まれています(タイトルから、マスコミでもガバナンス関連の課題だけが取り上げられているようです。たとえば朝日新聞ニュースはこちら)。

コンプライアンス関連で興味を抱いたのが、経営者の皆様の不正リスクへの関心です。2005年の調査時には「当社には何らかの不正行為があると考えるべきである」と回答された経営者がわずか0.8%にすぎなかったのですが、今回(2017年)の調査では約18%に上った、とのこと。どこへ招かれても「残念ながら御社でも不正は起きます」と断言している私にとりましては、まだまだ少ない数字ではあります。しかしながら、ようやく「平時から有事を想定する」という思想が、少しずつではありますが、企業に浸透していることは間違いないと思います。

「平時から有事を想定する」というのは、平時から謝罪会見の稽古をしておくとか、敵対的株主とのIRを準備する、といったものではございません。要は有事になってもファンでありつづけてくれるステイクホルダーとの信頼関係を築くことが挙げられます。また、会社法や金商法の定める手続きには正義に適った合理的な目的がありますので、日ごろから意思決定のプロセスをきちんと履践する、といったことも含みます。有事になってからの「有事対応、危機管理」には、どんなに専門家に任せても限界があるわけでして、到底、企業が平時から履践している「有事対応、危機管理」には叶いません。その大切さを実感するためには、やはり平時から「何らかの不正行為はあると考えるべき」だと思います。

なお、上記経済同友会の提言では、もうひとつコンプライアンス関連の興味深い調査結果が掲載されておりまして、企業不祥事の原因はどこにあると考えるか、といった問いに対して「従業員のコンプライアンス意識の低さ」と回答した経営者の方が、2005年当時は12%でしたが、今回の調査ではなんと60%に上ったそうです。上記提言では、このギャップについて「経営者による従業員や現場への責任転嫁の傾向が読み取れ、経営者のコンプライアンスに関する意識やリーダーシップが不足しているのではないか」と指摘しています。

このあたりは、むしろ経営者の方々のコンプライアンス意識が高まっているからこそ、(ご自身の意識と比較して)不祥事の原因を現場従業員の意識に起因するものと考えているのではないでしょうか。そうであるならば、一番の問題は経営者の意識と現場の意識とのギャップであり、認識の壁を作っている組織風土の問題に帰着すると思います。とりわけ、私自身の不正調査の経験からすると、いわゆる「経営幹部、中間管理層」のコンプライアンス意識がすべてではないかと。ここは意見の相違もあると思いますが、経営者が現場に出向くのは、この経営幹部、中間管理層の意識を変えること(仕事における優先順位を変えること)に意味があると考えています。たとえば「働き方改革」によって形式的なコンプライアンス重視の姿勢を貫き、その結果として一番悲惨な状況にあるのが中間管理層と言われています。組織のファジーな部分を中間管理層の方々が背負うのであれば、「なにがコンプライアンスだ」と思われても仕方ないと思います。経営トップが現場に赴く理由はここにあります。

とりわけコンプライアンスやCSRという、「すぐに利益につながらない職務」については現場における権限と責任の明確化が必要です。経営トップが現場に赴くことで、誰が権限と責任を持つのか、現場組織において事業遂行上の優先順位が確認されることが重要だと思います。

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