企業法務弁護士は「裁判官リスク」とどう向き合うべきか?
今年4月に経産省から「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書について」がリリースされて以来、日経新聞ではどうも企業法務強化の話題が増えたような気がします。ということで(?)、当ブログでも企業法務弁護士に関する話題をひとつ。
判例時報の最新号(6月1日号 №2365)から、鬼頭季郎(すえお)弁護士による連載論稿の掲載が始まりました。タイトルは「企業間ビジネス紛争及び会社組織等紛争に関する裁判の運営上の諸問題-企業法務の訴訟代理人及び裁判官のために」というもので(ずいぶん長い・・・)、真っ先に拝読いたしました。「裁判官はしょせんビジネスの素人なんだから、『できる裁判官』ほど、権力行使には謙抑的であろうとしてプロセス重視の判決になっちゃうんだよね~♪」などと、したり顔でクライアントに説明している法律家には必読です(実は私もですが・・・)。
鬼頭季郎弁護士といえば、ちょうどこのブログを開設した2005年3月、東京高裁裁判長として、ライブドア・ニッポン放送の新株予約権発行差止仮処分事件の抗告審(高裁決定)に関わり、有名な「鬼頭四要件+主要目的ルール」を決定文で示した元裁判官でいらっしゃいます(たとえば、こちらの決定要旨が参考になります)。敵対的買収防衛なる言葉が「お茶の間」でも話題となり、ガバナンスやファイナンスの専門家の皆様が連日ニュース番組やワイドショーに登場しておられましたね(なつかしい・・・)。現在、鬼頭弁護士は皇居近くの(専用エレベータのある?)大きな法律事務所に在籍されておられるようです。
内容につきましては、商事事件に関わる同業者の皆様にはおススメであることは間違いありません。「裁判官が企業法務弁護士に期待すること」も参考になりましたが、私が一番拝読しておもしろかったのが「裁判官リスク」です。鬼頭先生は、「世間の汚れを知らず、法律の訓練しか受けていない裁判官が、いわば世間の常識に沿わない事実認定や法律判断をするおそれがある」という、いわゆる「裁判官リスク」を考えている人たちが少なくない、と述べて、そこに(楽しい)反論を加えておられます。なるほど・・・私は反省すべき点がたくさんあるなぁ(笑)。多くの企業法務弁護士が抱いている、この「裁判官リスク」について、鬼頭先生が語るところは新鮮です。ぜひ、お読みいただければと。
「裁判官の視点から、企業に期待する訴訟紛争の可能性を考慮した日常対応」については、私が最近10年間の商事最高裁判決・決定を参照しながら、講演等で述べているところと全く同じだったので、意を強くいたしました。スルガ銀行vs日本IBMシステム開発紛争事件の判決の決め手なども紹介され、企業の平時からの取組みが有事に活きることが示されています。
次の掲載号である判例時報(6月21日号)では、「企業法務弁護士の多くが誤解している経営判断原則(ビジネス・ジャッジメント・ルール)と日本裁判所における経営裁量判断尊重原則の違い」が解説されるそうで、こちらも待ち遠しいですね。
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コメント
スターバックスの店舗内で勉学に励む人達を見るのは珍しくなくなりましたが、平成時代がカウントダウンになる昨今、世間の常識も変化するケースもあるかと思っています。若い世代の人達には、スーパーやコンビニ等の蒲焼きが当たり前で、売れ残りは捨てれば済むと短絡的に考える人も多いかと。今は少数派になってしまった、注文を受けてから天然のウナギをさばき、化学合成された調味料に頼らず、備長炭で焼き上げる熟練の職人が作る一品(逸品)も高嶺の花になり、本物を食する機会も減っていると思います。人間の成長において、その人がどの様な生活環境で育成されて来たかが重要なのは言うまでもありませんが、インテグリティが国際競争力維持に不可欠と思っている者の一人として、「誠実さ」という隠し味を持つ法律関係者が多く輩出してくる世の中であり続けて欲しいと思っています…。
投稿: にこらうす | 2018年6月 5日 (火) 08時19分