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2018年7月30日 (月)

(続編)ヤマトHD子会社・過大請求事件-不十分な社内調査が「二次不祥事」を生む

先週木曜日に、こちらのエントリーにてヤマト運輸さんのグループ会社(YHC社)における引越代金過大請求疑惑についてご紹介し、「これはかなり重大な不祥事ではないか」と申し上げましたが、やはりヤマト運輸さんとしては厳しい立場に追い込まれそうな状況です。いや、ヤマト運輸さんだけでなく、当該疑惑を調査する第三者委員会のメンバーの皆様も、今後厳しい調査が求められるものと思料します。

7月27日の朝日新聞ニュースなどによりますと、7月2日にマスコミに対して内部告発をしたYHC社の元支店長の方が、親会社の会見が行われた24日の説明は虚偽であり、そもそも見積書の内容自体が過大請求だったことを改めてマスコミに証言されたそうです。こうなりますと、2011年の内部通報時の社内調査が不十分だっただけでなく、マスコミ取材に基づく社内調査においても不適切な調査がなされていた可能性もあり、複数の「二次不祥事」が発生していた可能性がありそうです。

告発をされた元支店長さんは、「第三者委員会の調査に対しても全面的に協力する」と述べておられますので、今後、独立公正な立場で調査を行うべき調査委員会が、当該元支店長さんにどこまで事実解明への協力を要請するのか、とても関心が湧くところです。

そういえば、今年3月に雪印メグミルクの子会社である雪印種苗社の品質偽装事件について、たいへん秀逸な第三者委員会報告書が公表されましたが、当該報告書が公表された後、会社関係者の方が再度(内部資料を持参して)マスコミに情報提供を行う、という事態が発生しました(たとえば北海道新聞ニュースはこちら)。内部告発者にとってみれば、社会的に評価が高い第三者委員会による調査が行われたとしても、「不十分な調査」であるとして厳しい指摘をされることが多いように思います。

元支店長さんは、YHC(もしくは関係者?)について詐欺罪で刑事告訴に踏み切る予定と述べておられますので、今後の第三者委員会の調査結果に注目が集まるものと思いますが、委員会としては「どの時点まで遡って調査を行うのか」「組織の上層部のどのあたりまで関与があったのか(親会社には関与はなかったのか)」といったところを中心に、深度ある調査を遂行することが重要になるはずです。本件は、他人事(ひとごと)では済ませられないほど、どこの企業でも発生しうる問題であり、今後の推移を注意深く見守りたいと思います。

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2018年7月25日 (水)

ヤマトHD子会社・過大請求事件-不十分な社内調査が「二次不祥事」を生む

ヤマトHDさんのグループ会社であるヤマトホームコンビニエンス社(YHC)が、法人向け引っ越し事業の約4割で料金を過大に請求していたことが判明、原因究明のために特別調査委員会を設置されるそうです。こちらの毎日新聞ニュースを読みますと、(HDの社長さんは否定されていますが)組織ぐるみと言われてもしかたがないほど、かなり重大な不祥事と思われます。

2011年に内部通報があった際、YHC社としても社内調査はしたそうですが、「たいした不正ではない」との思いで全社的な調査はされなかったようです。以前ご紹介した雪印種苗さんの品質偽装問題でも、ずさんな社内調査が後日の内部告発の誘因になっていましたが、このたびのYHC社の件も同様です。今回は報道機関に内部告発がなされて「全社的な不正」が発覚したわけですから、まさにYHC社、ひいてはヤマト運輸グループに自浄能力が欠如していたといわざるを得ません。2011年の内部通報によって適切な調査ができていれば「一次不祥事」で済んでいたものが、通報への対応が不適切だったために(過大請求の長期間放置という)「二次不祥事」を発生させてしまった典型例かと。

過大請求をしていなければYHC社は赤字決算だった可能性があるので、グループとしても原因究明と再発防止策の早期実施は喫緊の課題です。当ブログでも何度も申し上げておりますが、社内調査や第三者委員会調査では、どれだけ「件外調査」をきちんと行うかがカギになります(社内の方々は、有事になるとどうしても「たいしたことはない」と思いたいのです)。そして今回のような内部告発による「二次不祥事」(自浄作用の不全)に至らないためにも、適切な調査活動までを想定した内部通報制度を構築することが重要であると、あらためて認識するところです。

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2018年7月24日 (火)

コード対応の指名・報酬委員会と監査等委員会との関係について

数は少ないのですが、本則市場に上場している監査等委員会設置会社の方々から、このたびのコーポレートガバナンス・コード改訂への対応に関するご相談を受けております。ご相談の中で、よくわからないのが監査等委員会設置会社と任意の指名・報酬委員会との関係(補充原則4-10①)ですね。

具体的には、①監査等委員会は(コードが要望する)任意の指名・報酬委員会に代替しうるか、②監査等委員会とは別に任意の指名・報酬委員会を設置する場合、人事・報酬決定プロセスに監査等委員会をどう関与させるか、という点です。

私は、上記①について、監査等委員会設置会社が任意の指名・報酬委員会を設置しない場合には、補充原則4-10①は実施しない、としたうえで、当社の監査等委員会は指名・報酬といった重要事項を審議するに十分な体制があることをエクスプレインすべし、と回答しておりました。

しかし、最近の旬刊商事法務(2171号)に掲載されている(コード改訂に関わった方々の)解説を読みますと、代替させる気があるのなら「コンプライしている」と回答してもよいみたいですね。つまり理由の開示は不要となり、ただし監査等委員会が社長人事や個別取締役の報酬決定を可能とするだけの体制を充足しないと「コンプライ」にはならないそうです。私の回答のほうを訂正しといたほうがよさそうですね(^^;

しかし、そもそも監査等委員会は監査権限とは別に経営評価権限を行使しなければならず、人事や報酬に関する意見決定義務を(善管注意義務の一環として)尽くす必要があるので、そもそも監査等委員会設置会社の機関形態を選択した時点で(コードが求める任意の指名・報酬委員会の機能を具備することは)当然に要求されているのではないかと思います。

②については、任意の指名・報酬委員会による素案が決まった後に、監査等委員会に委員会案が提示され、同意が得られれば取締役会で委員会案が審議・決議されるといった流れが一般的のようです。ただ、このたびのガバナンス・コード改訂により、後継者計画や具体的な社長さんの選解任手続については具体的なルールを作って開示することが要請されており、また個別取締役の報酬決定プロセスについても(開示までは要求されていないものの)客観的な社内ルールが策定・運用される必要があります。監査等委員には人事・報酬に関する意見決定義務があるので、この社内ルールの策定関与も含めて、監査等委員がどのように重要な経営判断に関与するのか、明確にする必要があると考えます。

なお、監査等委員は、重要な人事、報酬決定過程のプロセスを事後チェックすることで意見決定義務を尽くしたものと解する、という考え方もありますが、そもそも人事・決定過程のプロセスチェックは、監査等委員の「監査権限」に基づくものであり「経営評価権限」に基づく職務ではないと思われます。コードの改訂により、ファイナンス思考(資本コストを意識した経営)に基づく経営戦略、経営方針が取締役会で議論され、P4Pによる報酬制度の更なる改革が求められるなかで、取締役会の在り方は「重要事項の決定への積極的関与によるモニタリング」という方向性が強くなりつつあります。株主に対して人事・報酬決定に関する法的な説明責任を負う監査等委員の役割は極めて重要になるはずです。

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2018年7月23日 (月)

続く法人の刑事処罰事例-最後は検察の気合ではないか?

先週は(新聞やニュース等で)木曜日に神戸製鋼さんの法人としての起訴が報じられ、翌日には初適用(とされている)MHPSさんの日本版司法取引(法人は不起訴)が報じられました。私も何社か新聞記者さんから取材を受け、コメントも東京新聞朝刊に掲載されましたが、有識者とされる方々が多くのコメントを出しておられましたね。それぞれの分析を拝読し「なるほど、こういった視点もあるのか」と感心いたしました。

法人の刑事立件は企業、とりわけ日本を代表する大企業にとっては社会的評価に大きく関わりますので、なぜ起訴されたのか、なぜ起訴を免れたのか、他社からすれば予測可能性を高めるためにもできるだけ理屈で理解したいところかと思います。

でも刑事立件の予測については理屈では割り切れないこともあるのではないでしょうか。検察のトップがいよいよ今週交代するわけですから(しかも日本版司法取引の立案責任者の方ですから)、組織一丸となって勇退を飾ろう・・・という「気合」が一番大きかったのではないでしょうか。新聞報道にあるように、本件は検察側から提案があったそうですし。

もちろん司法に関わることなので論理や理屈が大切であることはわかります。しかし、当ブログでも何度か取り上げた東芝の元経営トップの立件に関する金融庁(証券取引等監視委員会)と検察庁とのバトルなどをみましても、刑事立件には「気合」がつきものです。組織をひとつにまとめ上げるために理屈や論理、予見可能性、あるいは海外圧力といったことだけでは割り切れないもので制度が運用されることも十分ありうるかな・・・と思います。

さて、MHPSさんの件は、元取締役の方も起訴されたわけですから、今後どんな展開になるのか、まだまだ注目しておきたいと思います。いずれにしても、神戸製鋼さんの件も、MHPSさんの司法取引の件も、企業コンプライアンスの視点から一般予防的な効果を示すには十分だったわけですが、企業としては過度に委縮することなく、トライアル&エラー、「走りながら考えるコンプライアンス」を心掛ける必要があると思います。

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2018年7月19日 (木)

速報版-公益通報者保護専門調査会中間整理案の公表

7月19日、内閣府消費者委員会HPにて、昨日付けの「公益通報者保護専門調査会 中間整理案」が公表されています。今年1月に、内閣総理大臣からの諮問を受けて急ピッチで審議が続いておりましたが、このたび(中間整理案というものではありますが)公益通報者保護法の改正に関する方向性が取りまとめられました(第17回公益通報者保護専門調査会)。

これから週末にかけて内容をじっくりと検討したいと思いますが、企業において内部通報制度の整備・構築義務が明記される方向性がはっきりとしました。また大企業では、内部通報制度の整備・構築義務の懈怠が、内部告発(第三者への情報提供)の保護要件を緩和する(内部告発者が広く保護される)という「画期的な」改正の方向性も明記されるようです。

私が消費者庁の検討会で強く主張しておりました「通報者に対する不利益処分に関する立証責任の転換」の論点については(解雇の場合のみ認める・・・ということで)やや後退しておりますが、その他はほぼ主張が通っている論点もたくさんありますので、この中間整理案をたたき台として、更なる法改正の審議を尽くしていただきたいと切に願うものです。

なお、2010年に始まった米国の内部告発法ですが、この8年間で1500億円ほどの財務問題解決の効果を上げ、不当な利益のはく奪も800億円に上るそうです。内部告発者への報奨金も290億円に上るとのこと(経営財務2018年7月9日号記事より)。その米国でも、更なる内部告発の実効性向上を図るために規則改正が公表されています。日本でも、不祥事予防、発見のための通報制度の実効性を高めるため、早急な法改正が必要と考えています。

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増えるか?企業統治指針に基づく企業年金のESG投資

MHPSさんによる、タイの発電所事業を巡る現地の公務員への贈賄疑惑の件につきまして、一昨日のエントリーで予想していたとおりの見通しになりそうですね(たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)。ただ、そうなりますと、今後は海外当局の動きや集団訴訟のリスクがどうなるのか・・・、そのあたりに注目しておきたいと思います。

さて、7月18日の日経夕刊一面に「社会貢献重視のESG投資 エーザイ、年金で運用」と題する記事が掲載されており、エーザイ企業年金基金は年内にもESG経営に前向きな企業の株を選んで保有する、いわゆる「ESG投資」を始めることが報じられていました(ちなみに日経電子版の同記事を読むと意味が通りますが、この日経新聞の夕刊記事は紙幅の関係からなのか中間の記事が省略されているために意味不明な記事になっていました)。

企業年金基金がスチュワードシップ・コードの受け入れを表明しているところはまだまだ少ないようですが(たとえば7月1日現在、一般事業会社関連ではNTT、パナソニック、セコム、エーザイの4社のみ)、エーザイさんは、積極的にESG投資を行う方針のようです。スチュワードシップ・コードの指針3-3あたりを意識されたものと思われます。なお、エーザイさんのガバナンス報告書の最新版を拝読しましたが、ガバナンス・ガイドラインや取締役会の実効性評価の概要など、とても参考になりますね。

ところでコーポレートガバナンス・コード改訂版の原則2-6では、「企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮」として、スチュワードシップ・コードの受け入れを含め、企業年金の運用に関する要請事項を定めています。そこでは、運用における取組み状況を開示すべき、とありますが、上記4社を調べたところ、コーポレートガバナンス報告書で「取組み状況」を開示している企業と開示されていない企業に分かれていることに気づきました。改訂版のパブコメについての東証の考え方を読みますと、ここでの開示は従業員への開示だけでなく、一般の投資家への開示も要請されているようですから、ガバナンス・コード原則2-6をコンプライする以上は、ガバナンス報告書での開示が必要ではないかと思うのですが、いかがなものでしょうか。

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2018年7月17日 (火)

日本版司法取引初適用事案への個人的感想

P_20180714_152450_400リスクマネジメント・トゥデイの7月15日号では「司法取引制度の奔流」なる特集が組まれておりまして、私も「本当に活用できる内部通報制度の構築を目指して」と題する論稿を掲載していただきました。ほぼ同じタイミングで(?)、覚せい剤事案への刑事免責制度の適用が報じられ、今度は海外贈賄事案への協議・合意制度(日本版司法取引)の初適用が報じられています(いよいよ本格的に改正刑事訴訟法が施行されるようになりましたね)。日本版司法取引では法人自身が協議・合意の当事者となりうること、過去の不正についても遡及適用されることが明らかになりましたが、第三者が介在するような海外贈賄事案に適用されたことには意味がありますね。

MHPSさんは、2014年2月に三菱重工さん(65%)と日立製作所さん(35%)の事業統合として設立された会社ですが、同社は2015年9月に南アフリカの発電設備の件でFCPA違反として、米国SECによる司法取引に応じています(23億円程度で民事制裁金受け入れ)。南アフリカの件は元々日立さんが受注した件であり、今回のタイの件は三菱重工さんが受注した件ですし、南アフリカの件では追加開発費用を巡って三菱重工さんと日立さんで商事仲裁事案に発展していますので、「内部告発がMHPSに届いた」という経緯も、やや組織力学的な事情があったのかもしれません(もちろん、私の勝手な推測です)。

私も今年、わずか1件だけですが海外贈賄事件を担当し、海外贈賄を担当する中国の代理店の方々にヒアリングを行いました。さすがに日本企業から賄賂を受け取る海外公務員の人たちも「学習機能」を高めています。「日本人に迷惑をかけないように」配慮をしながら賄賂を受け取る方法を心得ていますし、また、どのタイミングで賄賂を要求すれば日本企業が断ることができないか、とても熱心に研究しています(笑)。このたびのタイの桟橋使用料など、典型例ですね。不正競争防止法による海外贈賄案件をもっと厳しく摘発せよ、とOECDから要望されている中で、このような形で司法取引が合意に至ったことは大きな意義があるように思いました。

今回の件は、法人が社員の特定犯罪について司法取引による合意がなされたようですが、司法取引制度を導入した本来の趣旨からすると、逆に社員が法人の特定犯罪を申告して自身の罪を免れるような場面が想定されていると思われます。ただ、協議を経て合意するかどうか、という点は、検察に大きな裁量があるわけでして、実際に社員の申告によって司法取引が成立する、という例はかなりむずかしいのではないかと。社員の証言は、協議の段階で他の関連証拠によって信用性が補完される必要がありますが、いくら不正に関与した社員といっても自身の証言を裏付ける関連証拠にアクセスできる人はそんなにいないように思います。つまり、不正に関与した社員が司法取引を検察に持ち掛けるインセンティブはそれほど大きくないのであって、だからこそ社員は(原則として)社内通報を選択すべきと考えています。

「それでは通報をした者が会社の司法取引によって立件されることになり、正直者がバカを見ることになるではないか」との反論もあるかと思います。ただ、今回の司法取引の運用にあたっては、検察は「(自己負罪型ではない、公判協力型の司法取引制度については)国民の納得のいく形で運用する」と述べていて、巨大な利益を享受した法人を免罪して、実行社員を罰するという「とかげのしっぽ切り」を容認するような運用はしないだろうと予想しています(あくまでも私の個人的意見です)。7月16日の日経新聞朝刊の記事で「納期遅れ回避のために、MHPSの元取締役が関与か?」と報じられていますが、会社と地検が司法取引の合意に至った理由は、実行社員の立件よりも、これを指示した同社役員の刑事責任を追及することに会社が全面的に協力するから(社内調査によって、立件に不可欠な「関連証拠も提供する」から)ではないかと。

しかし、会社が司法取引に合意するとなりますと、たとえば海外贈賄事件においては「組織ぐるみ」「経営者関与」といった事件に発展する可能性が高まりますので(単なる「とかげのしっぽ切り」案件ではないと思われますので)、海外の司法当局による立件や集団訴訟のリスクも覚悟したうえで対応する必要があります。また、海外贈賄事件は(先日のパナソニックさんの中東航空機電子機器贈賄事件のケースと同様に)規制当局によっては会計不正事案として立件する可能性もありますので、たとえば(合意によって)会計不正に関する刑事免責も約束されたのかどうか、というところも興味があります。ともかく日本版司法取引の運用にあたっては、通報者のジレンマ、会社のジレンマ、弁護人のジレンマがいろんな局面で出てきますから、個別の案件ごとに、また個別の局面ごとに、協議を開始すべきかどうか、合意書面を作成すべきかどうか、刑事弁護や検察実務に精通した専門家と相談しながら検討することが必要です。また、役員の法的責任を考えた場合、社内リニエンシー制度を導入して、できるかぎり社内に不正情報が届くシステムを構築すべきでしょうね。

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2018年7月14日 (土)

企業法務革命-企業価値向上のための法務機能とは?

51fjfiuogl私自身の論稿等が掲載されている専門誌が二つほどありますが、そちらの紹介は後回しにしまして、本日は企業法務に携わる方々にお勧めしたい新刊書をご紹介いたします。

企業法務革命-ジェネラル・カウンセルの挑戦-(ベン・W・ハイネマンJr著 企業法務革命翻訳プロジェクト 訳 商事法務7,500円税別)

今年4月、経産省から「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」がリリースされました。リーガルリスクが多様化、複雑化する中で、経営層・事業部門も法務リテラシーを高めることが必要である、法務機能の守り(ガーディアン機能)と攻め(パートナー機能)は表裏一体の関係にあり、企業の持続的成長のためには両社は単純には切り分けられないと提言されています。この報告書が公表されて以来、日経新聞でもやや後ろ向きに捉えられていた(と思われる?)法務記事が、かなり前向きに捉えられるようになり、各企業が(弁護士ではない)ロースクール卒業生などを別枠で採用したがっている、といった紹介記事まで掲載されるようになりました。そのような中で、企業法務革命と題する本書は、まさに絶妙のタイミングで発刊されたといえます。

著者は、GE社元ジェネラル・カウンセル(役員クラスの企業法務責任者)であり、ご自身の経験を踏まえて、企業法務がいかに経営にとって重要であるかを全編で説いておられます。その趣旨を一言でいえば「企業法務革命:パートナーとガーディアンとの間の緊張関係の解決」というもの(ご著者は、「日本語版はしがき」にて、本書のタイトルを、このように紹介しています)。企業は、高い業績と倫理性・誠実性、そして健全なリスク管理を統合する使命があり、法務責任者にはその使命を全うする責任がある、というジェネラル・カウンセルの基本思想が企業の在り方を変えつつある、その変遷が「革命」という名のもとで示されています(たとえば社内における法務の役割の変遷、社内弁護士と社外弁護士の役割の変遷など)。

先日ご紹介した「法学の誕生-近代日本にとって『法』とは何であったか」 においても、中心テーマは「どうやって日本が憲法典・民法典を輸入したのか」ということよりも「どうやって西欧のリーガルマインドを日本に根付かせたのか」という点でした。本書でも同じことが中心テーマです。法務部門のガーディアン機能といえば法的スキル(専門家的スキル)に光があたりますが、パートナー機能ではリーガルマインドに関心が向きます。たとえば私流に述べるのであれば「経済的合理性」「関係当事者の信頼と協働(信頼の原則)」「公正であること(実体的正義と手続的正義)」「公平であること(私的自治原則、ステイクホルダーの利益保護)」「論理整合性があること(説明責任)」「安定性があること(他の事案でも同様の解決方法が妥当する)」といったところが事業戦略には不可欠な考え方かと思います。ビジネスを進めるうえで「法的なグレーゾーン」は山ほどありますが、あえてリスクをとってチャレンジする、リスクを回避して考え得る代替手段を実践するといった決断にはリーガルマインドが不可欠かと思います。

また、私は重大事故を発生させた某社の品質管理委員会の委員として、某社経営陣の方々と議論を重ねている中で、「ジャストインタイムの生産方式は品質偽装の温床ではないか」といった私の考え方が間違っていた(恥ずかしながら・・・)ことを教えていただきました。BCPに配慮したうえで、時間とコストを極限まで省く日々の努力は、生産計画、生産管理の実効性を高めることになるので、むしろ不正の芽を摘むことになります。つまり、高い業績と倫理性はトレードオフの関係には立たないのであり、生産効率と倫理性の相乗効果をいかにして発揮するか・・・というところに法務の役割を見出すこともできるように思います。

このあたりは、そのまま私自身の日ごろの業務でも心がけているところでして(心がけているだけでなかなか実現はしておりませんが)、「適法ではあるが、正義ではない」「従業員の皆様に新たなルールを厳守してもらわなくてもコンプライアンス経営はできる」という結論を社長さんにどう腹落ちしてもらうか・・・というところに腐心しております。本書では、著者のご経験や他のジェネラル・カウンセルの方々の経験に基づく知見がふんだんに示されており、社内における意思決定、社外に対する説明責任の実践に役立つヒントとなりそうです。また、大きな法律事務所の弁護士の方々には、後半の「外部の法律事務所との付き合い方」といったところも参考になるかもしれません(やや耳の痛い話ではありますが・・・)。大部ですので、まだまだ読了には時間を要しますが、今年上半期では(先日ご紹介した)内田貴先生の「法学の誕生」に匹敵するほど、ワクワクしながら拝読しております。

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2018年7月13日 (金)

監査役会等の活動状況は開示できても実効性評価はむずかしい

近時の企業統治改革の流れに沿って、6月28日には金融審議会「ディスクロージャーWG報告」、そして7月5日には企業会計審議会「監査基準の改訂に関する意見書」が、相次いで公表されました。記述情報(非財務情報)を盛り込んだ有価証券報告書の深化、投資家との建設的な対話を促進するための情報の信頼性向上を図ることについては、市場の活性化、信頼性確保のためには不可欠な取組みだと思います。

ただ、これらの開示規範の中に、会社法上の機関である監査役等、監査役会等の役割と責任についてもかなり盛り込まれています。一見しますと、会社法で規制すべき監査役等の行為規範が、金商法で上乗せ規制されているのではないか・・・との疑問も湧きますが、とりあえず当局の考え方は「あくまでも会社法上の監査役等の職務権限の範囲で役割と責任を明記したものであり、監査役等に新たな法的義務を課したものではない」とのこと。私も、そのように読みたいと思います(ちなみに2021年3月期から施行予定のKAM記載は、あくまでも金商法監査に関するものであり、会社法監査については追って検討する、とのこと)。

ところで、金融審議会のWG報告書の16~17ページあたりを読みますと、監査役会等の活動の実効性を判断する観点から、監査役会等の活動状況の記載を求める・・・とあります。この(開示すべき)活動状況には、業務監査に加えて、会計監査のための会計監査人との連携や選解任に関する審議状況なども含むものと考えられます。エフオーアイ事件やセイクレスト事件の判決などを読むと、監査役に本来期待されている監査業務が誠実に履行されていなければ善管注意義務違反として監査役等の法的責任が認められておりますので、監査役等が誠実に職務を履行していることを対外的に示すためには監査役会等の活動状況を開示することにも一定の意味はあろうかと思われます。

しかし、それが果たして監査役会等の実効性評価につながるか・・・といえば疑問です(取締役会の実効性評価に立ち会うことが増える中で、最近、このような疑問を感じるようになりました)。ひごろ多くの会社の監査役(監査役会)のご相談を受けている立場からみれば、監査役会等の実効性は個々の監査役の力量(及び力量に伴う行動)に左右されるものであり、いくら会議体としての活動が開示されても個々の監査役の実効性は開示されないからです。

また、そもそも監査役が会社を救う実例に何度か遭遇しましたが、それは会社も監査役会も対外的には開示することに消極的なケースばかりであり、「当該企業の監査役、監査役会は果たして企業に問題があった場合に機能するのかどうか」という点こそ「実効性」の重要なポイントであるにもかかわらず、積極的に開示することにはなじみません。このあたりをきちんと整理をしないと、監査役会等の実行性評価は投資家をミスリーディングしてしまわないか・・・との懸念が残ります。

以前、私は(取締役会の実効性評価と同様に)監査役会も実効性評価をすべきではないか・・・と申し上げました。監査機能が充実していることを株主、投資家に示すべき、という視点からは今も考えに変わりはありませんが、世間から期待されているような「不正を暴く」といった意味で「実効性」の有無を捉えるのであれば、その評価結果を開示することは至難の業だと思います。したがって、まず監査役会等の実効性評価を行うのであれば、「実効性」とは、監査役がどのような役割を果たすことへの「実効性」を評価するのか、そこを各社で定義する必要があると考えます。

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2018年7月11日 (水)

三菱自動車救済の裏で日産自動車の燃費データ偽装?

2013年4月から18年6月まで、日産自動車さんが子会社を含む5つの国内工場において(燃費、排ガスの性能に関する)抜き取り検査のデータ偽装を続けていた、と報じられています。無資格検査事件の発覚以上に、これは驚きました。朝日新聞朝刊記事によると、スバルさんの同様の不正があったことをきっかけに調査してみたら、当社でも不正が起きていたことがわかった、とのこと。おそらく日産さんは国交省の調査要請を受けていたので、スバルさんの件が発覚したことを機にかなり厳格な調査をされたのではないかと推測します。

しかし、以前にもご紹介した「不正の迷宮-三菱自動車」(日経BP社)の99頁以下を読みますと、軽自動車を三菱自動車さんと共同開発する中で、日産さんは(三菱の開発担当者から技術面でバカにされたことをきっかけに)三菱の燃費偽装を暴いたということのようですし、三菱の燃費偽装事件を契機に日産さんが救済出資に動いたことも事実です。そうであるならば、日産さんは2015年の秋の時点で「うちは燃費偽装については問題ないのか?」と調査に乗り出していても不思議はないと思います。もし三菱自動車さんの偽装を暴き、自社でも同様のことが起きていた、などと後でわかったらシャレにもならないはずです。でも、ホントにシャレにもならない事態となってしまいました。

抜き取り検査のおよそ50%でデータ偽装が見つかり、これはスバルさんの2倍だそうです。つまり相当の規模で偽装が行われていたようですから、そもそもなぜ三菱自動車の燃費偽装を暴いたときに、社内でも同様のことがないのか調査をしなかったのでしょうか。社内でドキドキしていた社員の方もいらっしゃったと推測されます。今後、設置されると思われる特別調査委員会の報告書において、ぜひこのあたりは(組織ぐるみと言えるかどうか、という点も含めて)詳細に解明していただきたいと思います。

なお、朝日新聞に記者会見の一問一答が掲載されていましたが、日産さんの工場のなかでも、ほとんどデータ偽装が発見されていない工場(日産自動車九州工場)があるそうです。なぜ偽装が多発していた工場と偽装が行われなかった工場に分かれるのか、このあたりの理由は、神戸製鋼さんのアルミ・銅部門と鉄鋼部門での偽装頻発状況の差にも通じるところであり、他社にとっても参考になるところかと思われます(詳しくはまた別途エントリーで書かせていただきます)。そもそも実効性のある監査体制を本気で構築する気があるのかないのか、そのあたりが分水嶺になったようです。監査の重要性を認識することができる事例といえそうです。

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2018年7月10日 (火)

公認会計士を社外役員に採用することで企業価値は上がるか?

本日(7月9日)は日本公認会計士協会東京会主催の研修講座にて「コーポレートガバナンス・コード改訂のポイント」と題する基調講演をさせていただき、その後は現役社外役員の会計士の皆様がパネリストで登壇されるディスカッションのモデレーターを務めさせていただきました。懇親会にも参加させていただき、関係者の皆様にお世話になりました(ありがとうございました)。

大先輩の会計士の皆様に、かなり意地悪な質問もしましたが、意見交換をするうちに「企業がなぜ財務・会計的知見を有する人たちを社外役員にするのだろう?コンサルタントで十分ではないのか?企業価値の向上に、果たして会計士役員は役に立つのだろうか?」という点で、私なりの回答が整理されてきました。

このたびのガバナンス・コードの改訂でも、十分な財務会計的知見を有する社外役員を最低1名は選任すべし、とされましたので、どうも「理屈や論理の面で会計士のスキルが求められている」ように考えてしまうのですが、ちょっと違うように思います。むしろ、会計監査に長年関わってこられた方は、真剣勝負の監査業務のなかで、多くの上場会社の企業風土に触れてきた点に特色があります。つまり、企業が会計士を社外役員に迎える最大のメリットは、知見に基づいて企業風土の他社比較ができる、という点にあります。これは元経営者や弁護士、官僚、学者の社外役員には期待できませんし、会計士によるコンサルタント業務でも発揮できません。

他の上場会社の企業風土と当社の風土を比較することで、経営方針や事業戦略として「何を残し、何を捨てるべきか」理解する、つまり、会計士の社外役員を迎える真のメリットは、事業を遂行するにあたって求められる直観力という面で有益な意見を会社が得ることができる、ということではないかと。守りのガバナンスで力を発揮してほしい、会計監査人と会社との通訳的な役割を担ってほしい・・・などといった理由が語られることが多いのですが、そういったことよりも「サイエンス」ではなく「アート」の面で企業価値向上に資することができる、という点こそ、公認会計士が社外役員に就く最大のメリットであります。この点は、もっと会計士協会挙げてセールスしてもよいのではないでしょうか。

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2018年7月 9日 (月)

リスクは関係者の心の中にある(現場主義の重要性)

滞在型観光地として有名な大分県のある温泉リゾート地に二泊三日で行ってまいりました(観光であればもちろん大雨でキャンセルするところですが、事業再生の仕事の一環としての視察でしたので休むわけにもいかず、しんどい移動の連続でした・・・)。数十年前までは何もない山間部に、いまは年間400万人の観光客が訪れるようになり、日本人観光客のほうが少ない・・・と思える雰囲気にたいへん驚きました。ただ、実際に行ってみますと、旅行雑誌には出てこない(あえて触れない?)、いろいろな問題も露呈されてきており、地方再生のむずかしさを痛感いたしました。

さて、6月28日の日経夕刊「私のリーダー論」に、日揮社の新しい社長さんの紹介記事が掲載されていました。日揮社が19年ぶりの最終赤字に転落し、元副社長の方を三顧の礼で社長として迎えた、とのこと。高専のご出身で現場主義を貫いてこられた方です。その新社長さんのリスク管理に関する考え方にとても感銘を受けました。(コストや技術的な問題もあるが)リスクは往々にして関係者の心の中に起因する、というものです。たとえば応援を要請して人を動員したのになかなかうまくいかない、実は応援に来た人は「私は応援ですから」と思っていて主体性がなかったということがあり、どんなに人を増やしてもうなくいかない。関係者の心の中まで解決していかなければリスク管理はできない、というもの。

そういえば、横浜のマンション傾斜事件の際、旭化成建材の現場責任者の方がデータ偽装に手を染めたことがありましたが、あのときの特別調査委員会報告書を読みますと、忙しさは同じだったにもかかわらず、偽装に一切手を染めなかった現場責任者の方がいらっしゃったことがわかりました。なぜ彼は偽装に手を染めなかったかといいますと、彼は旭化成建材の下請け会社出身であり、下請け事業者と厚い信頼関係があったことが記載されていました。まさに「リスクは関係者の心の中にある」ということだと思います。

ここ数日、某温泉リゾート地のいくつかの旅館・ホテルの「おもてなし」を受けましたが、そこには(値段に関係なく、また顧客が日本人か外国人かにも関係なく)大きな差を感じました。つまり、「おもてなし」に感動してくれるお客様と接しているかどうか、という点です。事業構想において、そのような「おもてなし」が必要なのかどうか、という点は意見が分かれると思いますが、従業員の皆様が「しょせん、自分は金もうけに必要な歯車のひとつ」といった感覚で顧客と接するとなりますと、やはり深刻な事業リスクは増えてくるのではないでしょうか。ここでも、やはり「リスクは関係者の心の中に宿る」ものだと考えるところです。

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2018年7月 5日 (木)

金商法の「いま」を理解する最適の入門書(本のご紹介)

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文科省の現職局長さんが逮捕された、と報じられています。もしこれが6月1日に施行された日本版司法取引の第1号ということになりますと(あくまでも仮定の話ですが)、本丸は贈賄側ではないのかな(組織的犯罪)?とも思ったりしております。

さて、市場規制の手法については、ソフトローの重要性がますます高まっています。しかし、ソフトローの中にも、上場会社の行動規範を示すもの、投資者保護に向けた開示規範を示すもの、逆に投資家やゲートキーパーの行動規範を示すもの、あるいは民間の力を活用するための解釈指針を示すものなど、その内容も様々です。そして、なぜソフトローが興隆するかといえば、市場に参加する人たちが、①ソフトローの趣旨を理解する能力を有し、②その理解に従った行動が期待できる誠実性を持ち合わせているからです。

ソフトローが適用される企業社会では、これに対応できる企業には営業の自由が最大限保障され、逆に対応できない企業は「フトドキモノ」と社会的に評価され、行政からピンポイントで規制(行動監視)の対象とされます。私は常々、市場規制を目的としたソフトローを理解するためには、ハードローとしての金融商品取引法の考え方を理解する必要であり、その考え方を、わかりやすく伝えてくださる書籍があれば良いな・・・と思っておりました。ちなみに、私にとりましては、なんといっても河本一郎大先生の「証券取引法(金融商品取引法)読本」でありました。

このたび、私も存じ上げている梅本剛正教授(甲南大学大学院法学研究科)が、一般の方々が金商法の発想や考え方を学ぶにはピッタリの一冊を上梓されました。金商法入門(梅本剛正著 中央経済社 2,500円税別) もう10年ほど前ですが、梅本先生による「現代の証券市場と規制」(商事法務)というレベルの高い論文集を拝読し、私が副代表を務めているIPO研究会にお招きして以来、ご活躍には注目をしております。

タイトルを「金商法入門」とされた理由は、おそらく「金融商品取引法入門」なるタイトルは、すでに著名な先生方の執筆されたご著書が複数存在するから・・・と推察いたします。そして、本書の内容も「金商法」というタイトルのとおり、他の教科書が詳しく説明している内容を大幅に省き、本当に重要と思われるお話に絞って(図表もふんだんに取り入れながら)書かれています。本書の目次の進め方(入門の入門→企業内容開示規制→投資者が受ける規制→証券会社→証券取引所→不公正取引規制)にも、そのような「わかりやすさ」や「考え方や発想を学ぶ」ということを重視した姿勢が示されています。読み物としても面白いのは、商法学者でありながら、著者ご自身も「泣き笑い」の投資家人生を歩まれているからではないかと。

一般の方にお勧めしたい本ですが、実は私もじっくりと拝読させていただいております。というのも、金商法は法律だけでもたいへんな分量ですが、関係政省令の改正が毎年のようにございますので、正直、勉強が追いつきません。本書では、本文もさることながら、ふんだんにコラムが掲載されていて、金商法界隈の最新事情も入手できます(クラウドファンディングやフェア・ディスクロージャー・ルールなども、金商法の条文との関係で概要だけでも理解できます)。まさに「金商法の今」を知る、学ぶためにとても重宝しております。

そして、もうひとつ指摘できる本書の特色は、著者が毎日のように更新されていらっしゃるブログ(匿名)の存在です(ブログの存在を書いてよいのか迷いましたが、本書ではご自身のブログを紹介されているので、その存在だけご紹介しておきます。ブログのタイトルとアドレスは、本書の著者紹介欄に記載されています)。金商法や会社法に関連する話題、たとえば今年の6月総会における話題の事件の解説、機関投資家と経営陣との支配権争いに関する法律解説など、本書とブログを併せて読むと、ますます金商法の理解がすすむのではないかと思います。ソフトローを含めた「金商法の今」を理解するためのおススメの一冊です。

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2018年7月 3日 (火)

グループ・ガバナンスの在り方に関する実務指針(未来投資戦略2018より)

昨年4月21日のエントリー「監査法人必読!もうひとつのエフオーアイ事件」でご紹介した裁判ですが、今年4月12日に東京高裁にて控訴審判決が出ています(最新号の金融・商事判例に全文掲載)。なんと控訴審判決では、ほぼ同じ事実が認定されていながら、エフオーアイの架空循環取引に協力した取引先従業員の方の損害賠償責任が否定されていますね(従業員および取引先企業の逆転勝訴ですね)。まだ解説文しか読んでおりませんので、また判決全文をチェックした後で自分なりの判断を書かせていただこうかと思っております。

さて(ここから本論ですが)、働き方改革法案の成立、TPP11整備法の成立による独禁法(確約制度-ただしハードコアカルテルへの適用は除外されるようです)改正など、今後も法律雑誌等で大きく取り上げられそうな話題が豊富ですね。そのような中で、6月15日に公表された「未来投資戦略2018」では、会社法改正によって認められる「株式交付」を活用した事業再編の推進と並んで、ガバナンス改革5年目の目玉としてグループ・ガバナンスが取り上げられている点が注目されます。

投資戦略2018の130頁あたりに「・企業グループ全体の価値向上を図る観点から、グループ経営において 「守り」と「攻め」両面でいかにガバナンスを働かせるか、事業ポー トフォリオをどのように最適化するかなど、グループガバナンスの在り方に関する実務指針を来年春頃を目途に策定する。」とあります。最近、グループ経営管理に関するご相談案件が東京でも京都・大阪でも増えていますが、私個人の感想としては「グループ・ガバナンスは難易度が高い」施策と認識していますので、汎用性のある実務指針が開発されるのであれば、たいへん興味があります。

たとえば海外子会社管理のガバナンスについては、先日のこちらのエントリーで示したように、同業他社と比較しても三者三様であり、一律にベストプラクティスといえそうなものは見当たりません。グループとしての中長期的な企業価値向上のために、どのような経営体制を敷くかは、各社で検討すべき事項が多いと思います。とりわけ、会社法がグループ・ガバナンスに対応していないので、親会社取締役の子会社管理と善管注意義務の関係を整理する必要があるのではないでしょうか(基本的に平成26年会社法改正における議論の積み残しではなかったかと)。また、子会社取締役からみれば、TMS、CMS等のグループ資金マネジメントシステムの導入など、利益相反問題と善管注意義務の関係などにも法的な課題があるように思います。

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