企業法務革命-企業価値向上のための法務機能とは?
私自身の論稿等が掲載されている専門誌が二つほどありますが、そちらの紹介は後回しにしまして、本日は企業法務に携わる方々にお勧めしたい新刊書をご紹介いたします。
企業法務革命-ジェネラル・カウンセルの挑戦-(ベン・W・ハイネマンJr著 企業法務革命翻訳プロジェクト 訳 商事法務7,500円税別)
今年4月、経産省から「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」がリリースされました。リーガルリスクが多様化、複雑化する中で、経営層・事業部門も法務リテラシーを高めることが必要である、法務機能の守り(ガーディアン機能)と攻め(パートナー機能)は表裏一体の関係にあり、企業の持続的成長のためには両社は単純には切り分けられないと提言されています。この報告書が公表されて以来、日経新聞でもやや後ろ向きに捉えられていた(と思われる?)法務記事が、かなり前向きに捉えられるようになり、各企業が(弁護士ではない)ロースクール卒業生などを別枠で採用したがっている、といった紹介記事まで掲載されるようになりました。そのような中で、企業法務革命と題する本書は、まさに絶妙のタイミングで発刊されたといえます。
著者は、GE社元ジェネラル・カウンセル(役員クラスの企業法務責任者)であり、ご自身の経験を踏まえて、企業法務がいかに経営にとって重要であるかを全編で説いておられます。その趣旨を一言でいえば「企業法務革命:パートナーとガーディアンとの間の緊張関係の解決」というもの(ご著者は、「日本語版はしがき」にて、本書のタイトルを、このように紹介しています)。企業は、高い業績と倫理性・誠実性、そして健全なリスク管理を統合する使命があり、法務責任者にはその使命を全うする責任がある、というジェネラル・カウンセルの基本思想が企業の在り方を変えつつある、その変遷が「革命」という名のもとで示されています(たとえば社内における法務の役割の変遷、社内弁護士と社外弁護士の役割の変遷など)。
先日ご紹介した「法学の誕生-近代日本にとって『法』とは何であったか」 においても、中心テーマは「どうやって日本が憲法典・民法典を輸入したのか」ということよりも「どうやって西欧のリーガルマインドを日本に根付かせたのか」という点でした。本書でも同じことが中心テーマです。法務部門のガーディアン機能といえば法的スキル(専門家的スキル)に光があたりますが、パートナー機能ではリーガルマインドに関心が向きます。たとえば私流に述べるのであれば「経済的合理性」「関係当事者の信頼と協働(信頼の原則)」「公正であること(実体的正義と手続的正義)」「公平であること(私的自治原則、ステイクホルダーの利益保護)」「論理整合性があること(説明責任)」「安定性があること(他の事案でも同様の解決方法が妥当する)」といったところが事業戦略には不可欠な考え方かと思います。ビジネスを進めるうえで「法的なグレーゾーン」は山ほどありますが、あえてリスクをとってチャレンジする、リスクを回避して考え得る代替手段を実践するといった決断にはリーガルマインドが不可欠かと思います。
また、私は重大事故を発生させた某社の品質管理委員会の委員として、某社経営陣の方々と議論を重ねている中で、「ジャストインタイムの生産方式は品質偽装の温床ではないか」といった私の考え方が間違っていた(恥ずかしながら・・・)ことを教えていただきました。BCPに配慮したうえで、時間とコストを極限まで省く日々の努力は、生産計画、生産管理の実効性を高めることになるので、むしろ不正の芽を摘むことになります。つまり、高い業績と倫理性はトレードオフの関係には立たないのであり、生産効率と倫理性の相乗効果をいかにして発揮するか・・・というところに法務の役割を見出すこともできるように思います。
このあたりは、そのまま私自身の日ごろの業務でも心がけているところでして(心がけているだけでなかなか実現はしておりませんが)、「適法ではあるが、正義ではない」「従業員の皆様に新たなルールを厳守してもらわなくてもコンプライアンス経営はできる」という結論を社長さんにどう腹落ちしてもらうか・・・というところに腐心しております。本書では、著者のご経験や他のジェネラル・カウンセルの方々の経験に基づく知見がふんだんに示されており、社内における意思決定、社外に対する説明責任の実践に役立つヒントとなりそうです。また、大きな法律事務所の弁護士の方々には、後半の「外部の法律事務所との付き合い方」といったところも参考になるかもしれません(やや耳の痛い話ではありますが・・・)。大部ですので、まだまだ読了には時間を要しますが、今年上半期では(先日ご紹介した)内田貴先生の「法学の誕生」に匹敵するほど、ワクワクしながら拝読しております。
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