公認会計士を社外役員に採用することで企業価値は上がるか?
本日(7月9日)は日本公認会計士協会東京会主催の研修講座にて「コーポレートガバナンス・コード改訂のポイント」と題する基調講演をさせていただき、その後は現役社外役員の会計士の皆様がパネリストで登壇されるディスカッションのモデレーターを務めさせていただきました。懇親会にも参加させていただき、関係者の皆様にお世話になりました(ありがとうございました)。
大先輩の会計士の皆様に、かなり意地悪な質問もしましたが、意見交換をするうちに「企業がなぜ財務・会計的知見を有する人たちを社外役員にするのだろう?コンサルタントで十分ではないのか?企業価値の向上に、果たして会計士役員は役に立つのだろうか?」という点で、私なりの回答が整理されてきました。
このたびのガバナンス・コードの改訂でも、十分な財務会計的知見を有する社外役員を最低1名は選任すべし、とされましたので、どうも「理屈や論理の面で会計士のスキルが求められている」ように考えてしまうのですが、ちょっと違うように思います。むしろ、会計監査に長年関わってこられた方は、真剣勝負の監査業務のなかで、多くの上場会社の企業風土に触れてきた点に特色があります。つまり、企業が会計士を社外役員に迎える最大のメリットは、知見に基づいて企業風土の他社比較ができる、という点にあります。これは元経営者や弁護士、官僚、学者の社外役員には期待できませんし、会計士によるコンサルタント業務でも発揮できません。
他の上場会社の企業風土と当社の風土を比較することで、経営方針や事業戦略として「何を残し、何を捨てるべきか」理解する、つまり、会計士の社外役員を迎える真のメリットは、事業を遂行するにあたって求められる直観力という面で有益な意見を会社が得ることができる、ということではないかと。守りのガバナンスで力を発揮してほしい、会計監査人と会社との通訳的な役割を担ってほしい・・・などといった理由が語られることが多いのですが、そういったことよりも「サイエンス」ではなく「アート」の面で企業価値向上に資することができる、という点こそ、公認会計士が社外役員に就く最大のメリットであります。この点は、もっと会計士協会挙げてセールスしてもよいのではないでしょうか。
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コメント
山口先生がいろいろと意地悪な質問をしたうえで出された結論に僭越ながら個人的経験のレベルの話として付け加えてみたいと思います。
公認会計士の先生方には先生のおっしゃるように「他の上場会社との企業風土の比較ができる」という方もたくさんおいでと思います。
一方で私の狭い経験ですが、「会計」、「会計監査」という専門領域の知識、経験に依存しすぎるところがないかとも感じます。会計の視点をもって会社を見て頂くことは重要なことですが、公認会計士でなく「社外役員」という視点で経営全体を見て頂くことがより重要ではないかと感じます。
社内の役員がなかなか持ちえない体系的な知識とご経験を持ったご専門の領域に「長期的な企業価値を創るために」という視点を併せ持って社内役員と共に会社を見て頂けるとより大きな成果が上がってくるのではないかと考えます。
投稿: Henry | 2018年7月10日 (火) 09時42分
ご意見、ありがとうございます。事前打合せの際にも、登壇された会計士の方から同様のご意見(会計、監査という専門領域の知識、経験に依存しすぎるところがないか)をいただいていたところです。おっしゃるとおりスキルを期待されているところは間違いないと思うのですが、昨日の懇親会で多くの方とお話しているうちに、眠っている「お宝」があるじゃないか、これを企業の価値向上に役立てないともったいないではないか・・・と感じた次第です。本文ではやや「わかりやすさ」に偏重したきらいがありますが、ぜひとも会計士協会の上層部の方にもお考えいただければ・・・という気持ちで自説を開陳させていただきました。今後ともよろしくお願いいたします。
投稿: toshi | 2018年7月10日 (火) 11時34分