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2018年7月 5日 (木)

金商法の「いま」を理解する最適の入門書(本のご紹介)

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文科省の現職局長さんが逮捕された、と報じられています。もしこれが6月1日に施行された日本版司法取引の第1号ということになりますと(あくまでも仮定の話ですが)、本丸は贈賄側ではないのかな(組織的犯罪)?とも思ったりしております。

さて、市場規制の手法については、ソフトローの重要性がますます高まっています。しかし、ソフトローの中にも、上場会社の行動規範を示すもの、投資者保護に向けた開示規範を示すもの、逆に投資家やゲートキーパーの行動規範を示すもの、あるいは民間の力を活用するための解釈指針を示すものなど、その内容も様々です。そして、なぜソフトローが興隆するかといえば、市場に参加する人たちが、①ソフトローの趣旨を理解する能力を有し、②その理解に従った行動が期待できる誠実性を持ち合わせているからです。

ソフトローが適用される企業社会では、これに対応できる企業には営業の自由が最大限保障され、逆に対応できない企業は「フトドキモノ」と社会的に評価され、行政からピンポイントで規制(行動監視)の対象とされます。私は常々、市場規制を目的としたソフトローを理解するためには、ハードローとしての金融商品取引法の考え方を理解する必要であり、その考え方を、わかりやすく伝えてくださる書籍があれば良いな・・・と思っておりました。ちなみに、私にとりましては、なんといっても河本一郎大先生の「証券取引法(金融商品取引法)読本」でありました。

このたび、私も存じ上げている梅本剛正教授(甲南大学大学院法学研究科)が、一般の方々が金商法の発想や考え方を学ぶにはピッタリの一冊を上梓されました。金商法入門(梅本剛正著 中央経済社 2,500円税別) もう10年ほど前ですが、梅本先生による「現代の証券市場と規制」(商事法務)というレベルの高い論文集を拝読し、私が副代表を務めているIPO研究会にお招きして以来、ご活躍には注目をしております。

タイトルを「金商法入門」とされた理由は、おそらく「金融商品取引法入門」なるタイトルは、すでに著名な先生方の執筆されたご著書が複数存在するから・・・と推察いたします。そして、本書の内容も「金商法」というタイトルのとおり、他の教科書が詳しく説明している内容を大幅に省き、本当に重要と思われるお話に絞って(図表もふんだんに取り入れながら)書かれています。本書の目次の進め方(入門の入門→企業内容開示規制→投資者が受ける規制→証券会社→証券取引所→不公正取引規制)にも、そのような「わかりやすさ」や「考え方や発想を学ぶ」ということを重視した姿勢が示されています。読み物としても面白いのは、商法学者でありながら、著者ご自身も「泣き笑い」の投資家人生を歩まれているからではないかと。

一般の方にお勧めしたい本ですが、実は私もじっくりと拝読させていただいております。というのも、金商法は法律だけでもたいへんな分量ですが、関係政省令の改正が毎年のようにございますので、正直、勉強が追いつきません。本書では、本文もさることながら、ふんだんにコラムが掲載されていて、金商法界隈の最新事情も入手できます(クラウドファンディングやフェア・ディスクロージャー・ルールなども、金商法の条文との関係で概要だけでも理解できます)。まさに「金商法の今」を知る、学ぶためにとても重宝しております。

そして、もうひとつ指摘できる本書の特色は、著者が毎日のように更新されていらっしゃるブログ(匿名)の存在です(ブログの存在を書いてよいのか迷いましたが、本書ではご自身のブログを紹介されているので、その存在だけご紹介しておきます。ブログのタイトルとアドレスは、本書の著者紹介欄に記載されています)。金商法や会社法に関連する話題、たとえば今年の6月総会における話題の事件の解説、機関投資家と経営陣との支配権争いに関する法律解説など、本書とブログを併せて読むと、ますます金商法の理解がすすむのではないかと思います。ソフトローを含めた「金商法の今」を理解するためのおススメの一冊です。

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