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2018年8月23日 (木)

KAMの開示と会計監査人の守秘義務解除の正当理由

週刊エコノミストの最新号(8月28日号)では、会計・監査に関する特集が組まれておりまして、監査報告書の長文化、いわゆる「監査上の主要な検討事項(KAM)」の開示に関する監査基準の改訂について報じられています。KAMの記載は2021年3月期から(早期適用可)強制適用されるそうですが、監査報告制度にとっては「60年ぶりの大改正」との見出しが躍っております。とりあえずは金商法監査に関する監査報告書のみ、ということですが、連結だけでなく個別財務諸表監査も含むものとされています。

5年前に「監査における不正リスク対応基準」が新設されたときに、私は会計監査人の不正対応基準への準拠と上場企業のガバナンス向上は「車の両輪」と法律雑誌等でも主張をしておりました(たとえば中央経済社「企業会計」2013年11月号、同「ビジネス法務」2013年6月号等)。会計監査人、企業双方が不正会計を防止する責任を負担し合うべきである、との考えです。そして、このたびのKAMの開示についても、企業の重要な情報を開示するにあたっては、まずは会社側がKAMにおいて開示すべき情報をリリースして、会計監査人の守秘義務解除の負担(リスク)をできるだけ軽減すべきと申し上げております。

ふだん仕事をご一緒している会計士さんと話をしておりましても、いくらKAMの開示といいましても、また守秘義務開示の正当理由が認められるとしましても、その「正当理由あり」の判断はかなりあいまいであって、おそらく会計監査人は容易には判断できないだろう、とのこと。同エコノミスト誌で解説をされている関学の先生も、「詳細な監査手続の説明の前提には、企業側が開示する財務諸表情報の充実がある」としています(まったく同感です)。

そして、経営財務の最新号(8月20日号)には、このあたりについて、金融庁の監査基準の改訂に関与された企業開示課の皆様による解説がなされており、「監査人がKAMを記載するにあたり、企業に関する未公表の情報を含める必要があると判断した場合には、経営者に追加の情報開示を促すとともに、必要に応じて監査役等と協議を行うことが適切である。・・・取締役の職務執行を監査する責任を有する監査役等には、経営者に追加の開示を促す役割を果たすことが期待される」と述べられています。さらに、「監査人が追加的な情報開示を促した場合において、経営者が情報を開示しないときに、監査人が正当な注意を払って職業的専門家としての判断において当該情報をKAMに含めることは、監査基準に照らして守秘義務が解除される正当な理由に該当する」と述べられています。

たとえば「のれん、無形資産」「税効果」「収益認識」といったあたりで、監査上の主要な検討課題に該当する重要な事実があれば、監査役さんが責任をもって社長さんに未公表事実の開示を求める、ということになるのでしょうね(まぁ、現実的には経理部と会計監査人との事前協議で済むことが多いとは思いますが・・・)。そのように、できるだけ会計監査人の守秘義務違反のリスクを低減させることが、開示内容の充実、そして利用者である株主、投資者の知見の向上、株主との建設的な対話の実現につながるということになります。この監査役等の協力と経営者による追加開示という会社側の尽力があってこそのKAM開示といえそうです。

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コメント

日本公認会計士協会の事前トライアルでは、
会社の未公表情報を記載せざるを得なかった会社の割合について、
IFRS導入会社は6.7%、日本基準は43.9%だったとか。
 その理由を考えると、プリンシプルベースで考えると開示を充実せざるを得ない、こんなところがあるのかもしれないですね。プリンシプルでは開示が必要でも日本基準では開示義務なしで開示しない、こんな運用なんでしょうか。

 もっとも、東芝の事例でも、「損失を計上している子会社の減損について・・・」というKAMなら、WH社の減損に限定して触れるわけではないので、未開示のものを開示したことにはならないでしょうから、この問題が出るのはよっぽどのレアケースなのかと思っています。

投稿: KAZU | 2018年8月24日 (金) 11時15分

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