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2018年9月28日 (金)

川崎重工・新幹線台車亀裂事件の調査報告、再発防止について

本年4月以降、当職が委員に就任しております川崎重工・新幹線台車亀裂事故に関する全社品質管理委員会の意見に基づき、本日(9月28日)、同社が事故原因調査結果(概要)ならびに再発防止に向けての提言を公表しましたのでお知らせいたします。

外部有識者委員は、委員長をはじめ科学技術(モノづくり)に精通された学者の先生が多く、弁護士委員は「ひとりぼっち」です。車両カンパニーの工場も見学し、毎回、事前に配布される資料は一生懸命に予習して会議に臨みますが、やはり審議はとてもむずかしいものでした。とりわけ論点の抽出、品質管理の相場観については理解するまでかなり時間を要しました。

ただ、ヒューマンエラーに関する議論や「安全」と「安心」に関連する議論などにおいては(自分で言うのもへんですが)法律家の視点での意見は不可欠ではないかなぁと感じた次第です(なお、審議内容についての詳細は控えさせていただきます)。委員としてのお務めはまだ続きますので、最後まで品質管理への理解を深めたいと思います。

なお、品質問題に関する話ではございませんが、コーポレート部門とカンパニー部門、カンパニー部門相互の関係など、「企業経営と組織の在り方」についても、いろんな「気づき」があり、今後の仕事において参考にさせていただきたいと思います。最後になりますが、委員のひとりとして、今後の川崎重工の品質向上への取組みに大いに期待をしております。

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2018年9月26日 (水)

監査報告書の長文化導入と同時に四半期報告制度を廃止すべきでは

日経朝刊のトップに「監査不信 ふたたび」と題する記事が掲載された日曜日(9月23日)、東京新聞朝刊経済面に「決算『四半期』→『半期』 米で検討 企業歓迎 透明性後退も」と題する特集記事が掲載されました。

トランプ大統領が米国企業の決算について四半期から半期に見直すことを表明し、すでにSECが検討に入ったことはご承知かと思いますが、日本も対応を迫られる可能性が出てきた、ということを報じています。具体的には、金融庁WGが「現時点では四半期開示について見直すことはしない」としながらも「海外動向などを注視し、必要に応じてその在り方を検討する」とまとめたことから、日本でも見直しの機運が高まりつつある、という趣旨の記事でした。米国大統領の提案に日本商工会議所も、経団連も共感を示していて、八田進二先生も(コメントの解釈として)一定の理解を示しておられます。

米国では1970年から四半期開示が義務化されましたので、1999年に東証マザーズで義務化された日本よりも30年も長い歴史があります。証券市場に深く根付いた制度なので(あまり報じられていませんが)廃止反対論も多いのではないでしょうか。また、日経新聞の社説では、先日「四半期開示制度は必要」とのことでしたし、日曜日の「監査不信」の特集記事でも「四半期開示の廃止は、さらに大きな会計不正を生むおそれがある」と締めくくっていたので、日本でも四半期開示制度を廃止することについては投資家サイドを中心に、根強い反対意見があると思います。いっぽうでは四半期開示に要する「膨大な時間と費用」について、企業側からの廃止提案も出ています。

ところで(ここからは私の勝手な意見ですが)、日本では2021年3月期から60年ぶりの改革となる「監査報告書の長文化(透明化)」が施行されます。5年前に導入された「監査における不正リスク対応基準」と同様、企業と会計監査人との協働によって監査の信頼性を高める制度が導入されるわけですが、資本主義の負担をどう分配するか・・・という点については、企業と監査法人との「解を模索する努力」は、これまでもやってきたわけでして、今後もさらに続くはずです(単に、世間の方々が、監査制度にあまり関心を抱いていないだけかと)。

現に、トラブル案件を通じて、中小の監査法人の監査実務を近くでみている者としては、監査における不正リスク対応基準が実務に及ぼす影響はかなり大きい、と実感します。やや「認知バイアス」(代表制ヒューリスティックス)気味な話かもしれませんが、私の周囲を見回しても、これまで遠慮して企業側にモノが言えなかった会計監査人が、会計士協会の報告書や実務指針、金商法193条の3を根拠に、会社側に厳しい意見を述べる場面は確実に増えています(3年ほど前に、当ブログでご紹介したように、オモテに出てしまった事例もあります)。このあたりは、普段から監査法人に検査に入っている金融庁が一番認識しているのではないかと思います。

監査報告書の改革に不正会計の予防効果があるかどうかは未知数ではありますが、せっかく導入するのですから、この際、同時期に四半期報告制度は廃止してはいかがでしょうか。監査法人には限られた資源しかありません。これから始まる監査報告書改革には物的・人的資源が必要なので、四半期報告書制度を廃止することによる資源を、企業も監査法人も、そちらに振り向けることには、それなりの合理性があると思います。四半期報告制度が(かならずしも不正防止という趣旨とは直結しない)重要なインフラであることを承知のうえで、監査に要する資源には限りがあるという現実を見据えながら、あえて提言してみたいところです。

監査制度は資本主義社会に不可欠な制度であり、監査人と企業とが共同でこれを担っていくべきものです。監査不信を本気で払しょくするのであれば、証券市場に関わる人たち全てが「何かを始めること」よりも「何かを終える」勇気や覚悟を持つべきだと思います。会計不正を防止する覚悟、そしてなによりも政府の推進している企業統治改革を実施する覚悟(「中長期における企業価値向上への経営戦略」への建設的な対話)があるのなら、多少の混乱を承知のうえで「何かを捨てること」から始めるべきです。

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2018年9月25日 (火)

注目されるダイキン工業の「攻めのグループ経営戦略」

昨日(9月24日)の産経新聞1面に、ダイキン工業さんのグループ経営管理に関する記事が掲載されていて、とても関心を持ちました。「本社⇔子会社 情報パイプ役~ダイキンが専門職新設へ~経営戦略や現場の声 正確に」との見出し記事です。ダイキン工業さんは、会社の経営方針をグループ会社内の隅々まで浸透させる「橋渡し役」(ブリッジ・パーソン)の専門職を、今後3年以内に50名ほど選任するそうです。

この50名は、経営目標や理念に精通した一定基準を満たした社員から選抜するそうで、組織内の情報の目詰まりを取り除き、トップの経営判断を迅速に実行に移す体制の整備が目的とのこと。これまで、多くのM&Aによって大きくなったダイキン工業さんのグループでは、情報伝達の在り方が大きな課題になっていたそうです。空気清浄では超一流の会社でも「現場の空気が本社に上がってくるときにはきれいな空気に変わるのはマズい」ということで、不祥事防止にも、「ブリッジ・パーソン」への期待がかかるそうです。

企業統治改革5年目の目玉として、経産省CGS研究会でも実務指針作りのためにグループ経営管理の在り方が審議されていますが、「ブリッジ・パーソン」なる専門職を新設するというのは、さすが海外売り上げが8割を占め、多くの海外企業を買収しておられるダイキン工業さんらしい「攻めのグループ経営戦略」だと思います。こちらのエントリー(イオン監査役アカデミーは企業価値を向上させるか?)でもご紹介しましたように、過去にもイオンさんが「イオン監査役アカデミー」を新設したり、また不祥事を起こした近鉄さんが子会社常勤監査役を大幅に拡充した例はありましたが、グループ経営の有効性や効率性を主たる目的として「50名もの専門職を新設する」というのは、これまであまり他社事例で聞いたことはありません。

講演等では毎度申し上げますとおり、グループ経営管理にはマニュアルはない、50社のグループ会社があれば、経営管理手法は50通り必要である、というのが持論なので、ダイキン工業さんの手法は経営管理手法としては、結果を出すために現実を見据えたものではないかと考えております(同制度の今後の運営に期待しております)。

ただ、経営方針の共有にしても、また不祥事予防にしても、グループ経営管理のためには「役職員間の時間軸の共有」が必要です。とりわけ「持続的成長に向けた株主との対話」などと言われる時代となりますと、社長と経営幹部、現場責任者と現場社員とでは、それぞれ「儲けること」の時間軸はずれてきますので、これを修正する作業が必要になります(現場責任者や社員にとっては、今シーズンの当該部署の業績がすべてであり、「中長期的な企業価値向上」への認識はあまりもてないのが当然かと)。「儲けの時間軸」を一致させる努力なしに「グループ会社との情報共有」などできるわけもなく、そのあたりに「橋渡しの専門職」を設けた一番の存在意義があるように思います。

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2018年9月20日 (木)

公益通報者保護法改正に向けての最大の壁とは?

本日(9月19日)の日経新聞朝刊(社会面)に、「パワハラ法整備 年内に方針結論」なる見出しで、小さな記事が掲載されています。パワハラ対策を法制度とするのか、それともガイドラインにとどめるのか、といった方向性を、厚労省が年内にも結論を出すとのこと(あくまでも厚労相の発言ですが)。ただし、労働側と経営側で意見が分かれており、調整は難航する可能性があるようです。このあたりは他紙でも詳しく報じています。

「業務上の指導と(パワハラとの)線引きがむずかしい」として経営者側が法制化に反対するのも一理ありますが、この適正な指導が萎縮するリスクとパワハラ放置による企業側の5大リスク(訴訟リスク、「ブラック企業」とレッテルを貼られるレピュテーションリスク、職場の良質な労働力の喪失リスク、パワハラ連鎖リスク、不祥事隠ぺいリスク)とを比較して、適正指導萎縮リスクのほうが上回るのかどうかは明らかではありません。被害者側の人権侵害という問題を抜きにしても、企業側にとって法制化に反対することが果たして適切なのかどうか・・・、なかなかむずかしいところです。

ところで、この厚労省における注目すべき議論の帰趨は、公益通報者保護法改正の審議にも影響を及ぼすのではないか・・・と推測しております。内閣府の公益通報者保護制度専門調査会において公益通報者保護法の改正審議が進んでおり、こちらも経営者団体(経済団体?)が法改正にやや反対(もう少し強めの反対?)の意向を示しておられます(たとえば経団連意見書はこちら)。これまでの(消費者契約法等)消費者庁発の法改正提案についての流れをみますと、おおよそ予想される反対意見ですが、実は法改正に向けた流れの中で、最大の壁は厚生労働省の意向ではないかと想定しております。今後、働き方改革の実行段階において、厚労省では諸政策の審議が山積しており「公益通報者保護法改正どころではない」「法改正に伴う通報の増大に対して、わが省では物的、人的資源がない」といった声が聞こえてきそうです。

公益通報者保護法の改正にあたっては、厚労省の後押しがなければ事実上法制化はむずかしいのではないかと。主管である消費者庁の皆様がどのような「根回し」をされているのかは、私もまったく存じ上げませんが、厚労省内の優先順位を上げることはなかなか容易ではないようにも思えます。私からみれば、おもいのほか近時の企業不祥事が、海外の機関投資家に与える影響は大きいので、なにか「神風」が吹くようなことでもあれば・・・とも期待しておりますが、いかがなものでしょうか。そもそもパワハラも公益通報問題も「伝統的な日本企業における支配・服従関係」に起因するものなので、いっそのこと一気に解決してしまってはいかがでしょうかね。

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2018年9月18日 (火)

不祥事企業への機関投資家の議決権行使(取締役選任議案)について

本日は企業の有事対応を支援する者にとっては興味深いお話をひとつ。

先週金曜日(9月14日)の朝日新聞朝刊(経済面)に、スルガ銀行の取締役の選任議案(今年6月の定時株主総会)に対する機関投資家の議決権行使結果が概ね開示された旨、報じられていました。たいへん興味深い結果でして、みずほ信託さん(9名の取締役)、第一生命さん(会長さんの再任議案)が反対票を投じ、三菱UFJ信託さん、三井住友信託さん、明治安田生命さんは(会社上程議案の全員について)賛成票を投じたそうです。また、住友生命さんは棄権とのこと。

三菱UFJ信託さん、住友生命さんの話では「6月総会時点では十分な情報がなかった」とのことですが、たしか第三者委員会が設置されたのは5月中旬だったので、この時点でいろいろとマスコミで出ていた情報を重くみていた機関投資家とそうでない機関投資家で結論が分かれた、ということではないかと思われます。ちなみに三菱UFJ信託さんの最新の議決権行使基準(2018年4月1日更新)の「取締役の選任」に関する基準を読みますと、「不祥事」については反対票を投じるのは「不祥事の発生により、経営上重大な影響が出ていると判断する場合」とされており、その「経営上重大な影響が出ている場合」という例示も示されています。これを読むと、たしかに5月~6月はじめのころにはまだ判断に足りる情報が世に出ていなかった、という理由にも納得できそうです。

それでは、「よくわからない」「判断できない」という場合に賛成票を投じる、というのはどうなのでしょうか。とくにスチュワードシップ・コードの実施を宣言している機関投資家の方々は、実質株主の方々に対して信認義務を負っていますので、株主権(とも言われている)行使の一環として対話を求めることも考えられると思うのですが、それでもわからないということであれば住友生命さんのように「棄権」という方法もあるかもしれません。ただ「棄権」というのも、そもそも(議決権行使の判断を放棄したものとして)信認義務に反しているという見方もありえますので、このあたりは私もよくわかっていない状況です(笑)。

先日ご紹介した鬼頭季郎弁護士(元東京高裁判事)によるご論稿(判例時報2367号)によりますと、「今後、スチュワードシップ・コードによる機関投資家の行動規範については、法律的論点となる可能性があり、企業ビジネス弁護士や裁判官にとって先回りして研究しておくべきところである」と述べられています。おそらく、このあたりも「株主との対話」に関する会社法的論点とともに、機関投資家の信認義務の内容として研究されるところになるのかもしれません。

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2018年9月13日 (木)

内部通報に関する運用の巧拙は企業風土の醸成を左右する

本日(9月12日)は、内部通報制度の運用面での巧拙を示す対照的な事例がマスコミで報じられました。ひとつはクボタ社における検査証明書改ざん事例です。クボタ社の製品について、出荷前の製品検査証明書が偽造されていたことが、社員の内部通報→社内調査によって判明した、とのこと。もちろん今後の外部弁護士による調査によって更なる不正が発覚するかもしれませんが、現時点では自浄作用を発揮した典型例かと思います。

また、毎日新聞朝刊記事(東京版よりも大阪版が詳しく報じています)によりますと、大阪府職員による(不正を告発する)内部通報が府コンプライアンス委員の弁護士へ届いたのですが、弁護士の処理にやや問題があったことと、弁護士から同通報事実を受領した法務課が内容を確認せずに(調査のために)該当部署へ通報内容を送付したことから、誤って通報者の特定情報を漏えいしてしまったそうです(大阪府は通報者に謝罪をしたそうです)。内部通報制度の運用ミスの典型例ですね。

一般的に内部通報制度は不祥事の「早期発見」のための制度と言われます。したがって、実効性を評価するにあたっては「不正の早期発見のために機能したかどうか」が問われます。しかし、通報制度の適正な運用が「不正予防」にも実効性があることはあまり知られていません。クボタ社のように、社内の不正が内部通報によってコーポレート部門が知るところとなり、社内で厳格な調査が行われるとなれば、「見て見ぬふりはできない」「当社は本気で不正を見逃さないのだ」という風潮が全社的に浸透します。最終的には通常のレポートラインが健全化されることになり、不正予防に向けた内部通報制度の実効性が高まるものと評価されます。

いっぽう、大阪府のように通報者の秘密が侵害されたり、さらには内部通報の責任部署のミスが重なったりした場合には、「この組織は本気で内部通報制度を運用する気があるのだろうか」「こんな制度だったら誰も通報などしないから、みんな黙認してくれるにちがいない」といった風潮が蔓延するおそれがあります。つまり、早期発見の機能どころか、不正予防の機能も失われてしまい、かえってコンプライアンス軽視の風潮を助長してしまうおそれがあります。

最近の企業不祥事をみても、通報を受領した後のずさんな社内調査によってグループ会社を含めた組織全体での信頼を喪失させるケースが多く見受けられます。内部通報制度の運用は、通報受領に続く社内調査の巧拙によって左右されますし、個別案件の処理を超えて、不正を見逃さないといった組織風土の醸成にも大きな影響を及ぼすものであることを肝に銘じておくべきです。

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2018年9月11日 (火)

不正防止に向けた情報共有の巧拙は「情報受領者」で決まる

本日は、日弁連のある委員会に招かれまして、内部通報制度に携わる弁護士からのヒアリングということで外部窓口業務や内部窓口支援の様子などをお話いたしました。本日のご質問にもありましたが、従業員の方々に、どうすれば内部通報を促すことができるのか(内部通報のハードルを低くすることができるのか)…という点は、本当にむずかしい課題ではあります。スルガ銀行の第三者委員会報告書でも、これだけ多くの不正行為が行内で頻発していたにもかかわらず、なぜ行員は内部通報をしようとしなかったのか、という点に関心が向けられていました。

産地偽装等、企業にとっての重大な不正が発生しても、内部通報制度が機能して早期に発見できた事例も経験しましたが、個社名を挙げてご紹介することは、さすがにできません。ただ、一般論として言えることは、内部通報制度の運用の「権限と責任」が明確になっている企業については、とても通報件数が多いという傾向があります。つまり、通報があった場合に、誰が責任をもって対応義務を負うのか(誰が具体的に対応するのか、という問題ではありません)、その責任者は、不正を止める権限を実際に行使できる立場にあるのか、通報者が不利益処分を受けないための人事権が行使できるのか、という点が内部通報制度上明確になっている企業のケースです。

よく企業不祥事は発生しますと、再発防止策として「不都合な事実についても情報を共有できる体制作り」が提案されます。そうしますと、具体的には一般社員が研修等において「不都合な事実でも正直に報告せよ」と言われ、一般社員に情報共有の内部統制が敷かれます。しかし、これでは何ら問題解決にはならないと思います。むしろ情報共有の責任は中間管理職の姿勢にあります。製造や営業、研究開発や安全(品質)等、企業業績に関わる報告は、誰が言わずとも下から上に上がります。しかしコンプライアンスやCSRなど、「今日も一日、何も起きなかった」「それはすばらしい!」とは評価されない事項については、そもそも中間管理職に明確な責任と権限が付与されていなければ報告事項としての優先順位はかなり下がってしまいます。

「売上や利益の向上につながらない部署だけど、今度のコンプライアンス・CSR担当役員は創業家出身の○○さんらしいよ」「あの〇〇さんが内部通報も担当して、全件報告を受けるらしいよ」といった制度改革だけで、中間管理職の方々の内部通報制度に関する権限と責任が明確となり、一般社員がコンプライアンス研修を受けずとも通報件数が飛躍的に伸びたことがありました。つまり不正リスク管理の一環としての情報共有は、情報を伝達する社員への働きかけも大切ではありますが、情報を受領する側への働きかけのほうが即効性があると考えます。

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2018年9月 8日 (土)

スルガ銀行不正事件を「他山の石」とするためのコンプライアンス上の視点

昨日(9月7日)に公表されましたスルガ銀行第三者委員会報告書をもとに、近々金融誌に論稿を発表させていただきます。特集における何名かの執筆者のひとり・・・ということなので、私はガバナンスやコンプライアンス、内部統制の視点から・・・ということになります。

ということで、第三者委員会報告書の内容について、このブログではあまり論及しませんが、本事件を謙虚な気持ちで(自戒をこめて?)「他山の石」とするためには、当該第三者委員会報告書の内容だけでなく、同行を取り巻く過去と未来にも関心を寄せる必要があると考えます。

たとえばちょうど1年前のこちらの記事などは、スルガ銀行のすばらしいガバナンスが地銀トップの収益力をけん引している、と紹介しています。私は決して揶揄するつもりではなく、本当にこの記事を読めばスルガ銀行は非の打ちどころのないコーポレートガバナンスを構築しているように思います。もちろん、昨年の時点において不動産収益ローンの問題点を指摘する方々もいらっしゃいましたが、おそらく「事業リスク」としては取締役会でも議論されていたとしても、「不正リスク」としては把握できなかったのかもしれません。

いま流行の「取締役会の実効性評価」を行えば、同行はまず間違いなく日本の上場企業の中でもトップクラスの評価ではないでしょうか。著名な美術館を建築して地元に多大な貢献をしている創業家のもとで、著名な社外取締役らが次世代のスルガ銀行の経営戦略、経営方針の決定に向けて激論を交わしているということについては、まさに他社が模範とすべきガバナンスといえます。東洋経済さんの役員報酬ランキング2018でも会長さん、社長さんらが上位に名を連ねているのも、インセンティブ報酬礼賛の折、この業績からみれば当然のように思えます。

ただ、現実のスルガ銀行さんの資金利益の内実は第三者委員会報告書のとおりなのですから、コーポレートガバナンス・コードが理想とする「執行と監督の分離」(モニタリングモデルによる取締役会改革)の問題点が浮き彫りになったのではないでしょうか。スピード経営を重視して、現場への権限委譲を進めるガバナンス形態には、なにかが足りなかったのではないかと。

そしてもうひとつが同行を取り巻く未来です。同行の不正行為が明らかになった状況において、監督官庁がどのような処分を行うか、という点は極めて重要です。不正行為が明るみになったことで、不正に関与した者への個別的なペナルティを重視するのか、それとも過去の行為への制裁は別として、なによりも再発防止に向けた「組織としての構造的欠陥」への対応を重視するのか、という点です。ここ数年、金融行政における規制手法が大きく変化している中で、監督官庁はスルガ問題をどう受け止めるのか、その受け止め方に、現状の金融政策との矛盾は生じないのか、とても関心を抱くところです。

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2018年9月 7日 (金)

企業不祥事を見抜けなかった取締役・監査役の法的責任

台風や地震の影響について、多くの上場企業から適時開示が相次いで出されておりますが、皆様の会社ではいかがでしょうか。被災された方、事業所の皆様にお見舞い申し上げます。

さて、9月5日の朝日新聞朝刊「けいざい+(プラス)」では、オリンパス社の巨額損失隠し事件に関する裁判が現在も続いていることを報じています。不正を追及した元社長マイケル・ウッドフォード氏が取締役会で「不正の疑惑」を警告したにもかかわらず、元会長をはじめ多くの取締役らはウッドフォード氏を解任(解職)しました。その後、損失隠しの事実が発覚するわけですが、この取締役会でなんらの調査もせずに安易に解任に賛同した(とされる)取締役の方々には法的責任はないのか、という点が株主代表訴訟で争われています(東京高裁)。

当ブログでも過去にこの裁判を取り上げましたので、ここでは私自身の意見を再度コメントすることは控えます。ただ、こういった企業不祥事を見抜けなかったとされる取締役さんの法的責任は、いかなる場合に認められるのか・・・という点は、おそらく多くの方も興味を抱くのではないかと推察いたします。

この株主代表訴訟の一審(東京地裁判決)は、積極的に損失隠しに加担した役員以外の取締役の皆様には「善管注意義務違反なし」、つまり法的責任は認められない、と判示しています。もしご興味がございましたら、最高裁HPのこちらの判決全文をお読みください。具体的には168頁から178頁にかけて、かなり詳細な事実認定がなされており、参考になるところが多いと思います。オリンパス社の損失飛ばし事例では、当時責任調査委員会の報告書もリリースされ、そこでも責任判定がなされておりました。当該報告書の記載と比較して検討してみてもよいかもしれませんね。

9月7日はスルガ銀行さんの第三者委員会報告書がリリースされるそうですが、さて、取締役の法的責任にはどこまで言及されているのでしょうか(なお9月7日の午後3時半から、第三者委員会の記者会見が開かれるそうですね)。また週末にでも精読したいと思っています。なんだかものすごい分量の予感がしますが・・・(*´Д`)

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2018年9月 5日 (水)

会社法改正に向けた審議進む-社外取締役選任義務化の予感!?

関西地方の皆様はおわかりかと存じますが、台風21号、恐ろしかったですね。自宅の納屋が吹っ飛んでしまいまして(笑)、日ごろ「リスク管理」などと偉そうに語っていながら、自分の財産のリスク管理の杜撰さに情けなくなっております。皆様はいかがでしたでしょうか。

すでにいろいろなところで議論になっていますが、会社法改正に向けた審議が法制審議会で続いておりますが、直近の8月29日の審議では改正案(要綱案)のたたき台が示されたようです(法制審議会会社法制部会第16回会議の開催について)。

社外取締役の義務化(ただし会社法上の公開大会社であり、かつ監査役会設置会社に限る)については、いまのところ賛否両論が併記されている状況ですが、どうも法務省の作成した「たたき台」を読みますと法制化の流れが出来つつあるように読めますね。もちろん会社法改正を審議する場合には、経済団体経営者団体の意向がかなり重視されますので、いまだ確定というわけではありませんが、これだけ(立法事実として)大きな上場企業で社外取締役が複数選任されている状況の中で、「原則として企業の自主性に任せるべきだ」として反対する理由もないようにも思えます。前回の法改正の際に「附帯決議」もされていますし・・・

しかし平成26年改正の「社外取締役を選任しない会社は『(社外取締役を)置くことが相当でない理由』を開示せよ。ただし社外監査役が2名いる、というだけでは理由にはならない」というルールはちょっとイケてないですよね。

社外取締役の義務化を会社法で規律するとなりますと、1名以上とするのか、2名以上とするのかはわかりません。ただ、いずれにしましても「補欠取締役」を選任する必要がありますので(そうでないと社外取締役が欠員した状況で取締役会で決議ができないことになってしまいます)、各企業で「補欠社外取締役」候補者を探すことになりそうですね。

現在も補欠監査役さんは多くの企業で選任されていますが、補欠取締役さんはそれほど多くはないのではないかと。また、「補欠」とはいえ、社外取締役に就任することのほうが会社にとっても候補者にとっても(いろいろな意味で)リスクが大きいような気もいたします。中小の上場会社さんにとっても影響はありそうですが、それなりに大きな上場会社さんも、今後の会社法改正に向けた審議会の議論に注目しておいたほうがよろしいかもしれません。

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2018年9月 3日 (月)

(お知らせ)9月4日は事務所の臨時休業

明日9月4日は台風接近のため、事務職員の安全を考慮して終日休業させていただきます。なお、メールでの緊急対応につきましては当職のアドレス宛、お願いいたします。

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過去の内部通報が活かされなかったヤマトグループ引越料過大請求事件

先週金曜日(8月31日)に、ヤマトHD社(正確にはグループ会社)の引越料金過大請求事件に関する第三者委員会報告書(全文)が開示されましたので、この週末に全文拝読いたしました。平成22年ころからヤマトHDさんの通報窓口に引越料の不正請求に関する内部通報が届いており、またその後も全国営業会議などで不正事実を訴える支店長が存在していたにもかかわらず、全社的な(組織ぐるみの)不正との認識を持たず、法人顧客への見積り過大請求が繰り返されてきた経緯が詳細に理解できました。以下では、私なりの視点による事件への感想を述べておきます。

まずは、毎度のことながら「内部監査や監査役監査が不正予防または不正早期発見のために果たすべき役割は何であったのか、報告書を読んでもよくわからない」という点です。本報告書を受けて、ヤマトHDさんは経営陣の処分を発表していますが、そこにも監査役の方々の処分についての記載はありません。そもそも取締役会の監督や監査役監査がなぜ機能しなかったのか、こういった事例ではきちんと分析しなければならないと思います。親会社の取締役会や監査役会には、ガバナンス上の機能発揮に関する期待がされていないことの裏返しのようにも思えて、たいへん残念でした。

つぎに、内部通報はされていたものの、親会社は通報に基づく調査をグループ会社に丸投げしてしまい、ずさんな調査結果をそのままうのみにしている点です。この点はイビデングループ・セクハラ事件最高裁判決(平成30年2月)や雪印種苗品質偽装事件の第三者委員会報告書でも同様の問題を指摘することができます。最近はグループ内部通報制度も多くの企業(群)で設置されていますが、その全てにおいて親会社がグループ会社の通報調査に関与しなければならない、というものではありません。ただ、本報告書では「グループ会社での調査をうのみにしてはいけない」事情がいろいろと指摘されているものと考えます。社内調査(グループ内調査)のずさんさは、自浄能力の欠如と評されますので世間的にも批判が高まります。内部通報制度の問題点としては、通報窓口業務に光があたりますが、通報受領後の調査の適正についても光をあてるべきです。

そして最後に、これは私がヤマトHDさんの不祥事として最も重大なポイントと考えますのが顧客の信頼を裏切る背信行為に及んでしまった、という点です。つまりお得意様(報告書では「ヤマト単独決定法人」と称されています)がヤマトを信頼していることを奇貨として、不正な利益ねん出のために「信頼を悪用してしまった」という点です。2008年、産地偽装で揺れた船場吉兆さんは、顧客の支援もあってなんとか民事再生で不祥事を乗り切ることができるかにみえました。しかしそのような時期に「食材使いまわし」事件がメディアで報じられ、それまで支援していたお得意様への裏切り行為が発覚。これで支援が途切れ、同社は破産の道をたどることになりました。

人材不足の折、「仕事は断れない」というデメリットもありましたが、やはりヤマトさんにとってはもっとも収益が見込める法人顧客を相手に裏切り行為に及んだわけで、これは極めて重大な不祥事(業績の悪化につながる不祥事)といえます。今後、どのように信頼を回復していくのか、ヤマトグループ全体を通じて、再発防止策への取組が注目されるところです。なお、最後になりますが、毎日新聞の9月1日朝刊記事には、内部告発をされた方のコメントが掲載されていました。雪印種苗事件の内部告発者の方も、第三者委員会の報告書で指摘されていた事実だけでは狭い、ということで更なるマスコミへの告発をされていましたが、ヤマトの件についても厳しいコメントを述べておられます。いま、企業としてきちんと再発防止策を実行していかなければ、さらなる告発によって「二次不祥事」を招くことになりかねないことに留意すべきです。

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