公益通報者保護法改正に向けての最大の壁とは?
本日(9月19日)の日経新聞朝刊(社会面)に、「パワハラ法整備 年内に方針結論」なる見出しで、小さな記事が掲載されています。パワハラ対策を法制度とするのか、それともガイドラインにとどめるのか、といった方向性を、厚労省が年内にも結論を出すとのこと(あくまでも厚労相の発言ですが)。ただし、労働側と経営側で意見が分かれており、調整は難航する可能性があるようです。このあたりは他紙でも詳しく報じています。
「業務上の指導と(パワハラとの)線引きがむずかしい」として経営者側が法制化に反対するのも一理ありますが、この適正な指導が萎縮するリスクとパワハラ放置による企業側の5大リスク(訴訟リスク、「ブラック企業」とレッテルを貼られるレピュテーションリスク、職場の良質な労働力の喪失リスク、パワハラ連鎖リスク、不祥事隠ぺいリスク)とを比較して、適正指導萎縮リスクのほうが上回るのかどうかは明らかではありません。被害者側の人権侵害という問題を抜きにしても、企業側にとって法制化に反対することが果たして適切なのかどうか・・・、なかなかむずかしいところです。
ところで、この厚労省における注目すべき議論の帰趨は、公益通報者保護法改正の審議にも影響を及ぼすのではないか・・・と推測しております。内閣府の公益通報者保護制度専門調査会において公益通報者保護法の改正審議が進んでおり、こちらも経営者団体(経済団体?)が法改正にやや反対(もう少し強めの反対?)の意向を示しておられます(たとえば経団連意見書はこちら)。これまでの(消費者契約法等)消費者庁発の法改正提案についての流れをみますと、おおよそ予想される反対意見ですが、実は法改正に向けた流れの中で、最大の壁は厚生労働省の意向ではないかと想定しております。今後、働き方改革の実行段階において、厚労省では諸政策の審議が山積しており「公益通報者保護法改正どころではない」「法改正に伴う通報の増大に対して、わが省では物的、人的資源がない」といった声が聞こえてきそうです。
公益通報者保護法の改正にあたっては、厚労省の後押しがなければ事実上法制化はむずかしいのではないかと。主管である消費者庁の皆様がどのような「根回し」をされているのかは、私もまったく存じ上げませんが、厚労省内の優先順位を上げることはなかなか容易ではないようにも思えます。私からみれば、おもいのほか近時の企業不祥事が、海外の機関投資家に与える影響は大きいので、なにか「神風」が吹くようなことでもあれば・・・とも期待しておりますが、いかがなものでしょうか。そもそもパワハラも公益通報問題も「伝統的な日本企業における支配・服従関係」に起因するものなので、いっそのこと一気に解決してしまってはいかがでしょうかね。
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コメント
今年前半の「公益通報者保護専門調査会」で、厚労省の方がヒアリングを受けていましたが、「公益通報者保護法改正が重要課題であることは認識しているが、目先は「働き改革」で手いっぱい」である旨、正直に吐露していました。
山口先生のお考え通りなわけですが、「調査会」の招きに対応して出席され、「公益通報者保護」を認識されていることを示したのは良いことだと思っています。
ところで昨日9月20日(木)、内閣府消費者委員会「消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討WG(第9回)」で興味深い議論を拝聴しました。
本WGは消費者法分野を広く俯瞰した内容なのですが、
「自主的に問題解決を図る企業」と「詐欺のようなこと(不正)をする悪質な企業」はデュアルで規制を考える必要があり、「全体規制には「問題がある」とするのはいかがなものか」という議論がありました。
そもそも「問題ない企業」が「全体規制」に反対するのだろうから(不正企業は「反対」できないわけです)、全体的には玉石混交だと認識する必要があるということではないかと思います。
高委員長や池本委員長代理(本WGの座長代理でもあります)からは、本議論に関連して「公益通報者保護法」も言葉にされました。
また、この議論の前に高委員長から「不正の事後チェックについては【(当該?)事業者側の協力】が不可欠なので、行政処分にもメリハリをつける工夫が必要ではないか」と御発言がありました。
私、9月19日(水)の「第19回公益通報者保護専門調査会」も傍聴していたので、いろいろ考えさせられました。
19日の調査会では、締めくくりに山本座長が今後の進め方の重要事項として「同じことの繰り返し(堂々巡り)は避けたい」と披露され、委員からも「そのためには事務局の事前準備が大切で、委員に内容を通知してほしい」と要望がありました。
内閣府事務局だけでなく消費者庁からも「要望に沿う」と回答がありましたので「神風」とともに期待します。
たびたび審議の中で現れる消費者庁「民間事業者向け通報ガイドライン」やコーポレートガバナンス・コード【原則2-5】の捉え方についても、一定の方向性がまとまると良いと思います。
投稿: 試行錯誤者 | 2018年9月21日 (金) 08時09分
9月24日(月、振替休日)の日本経済新聞1面記事に「神風」の気配を感じました。
厚生労働省のパワハラに関する年末に向けての見解は「公益通報者保護」とほとんど同じです。
明日25日は内閣府消費者委員会に「公益通報者保護専門調査会、今後の進め方」に関する意見提出をしてきます。
投稿: 試行錯誤者 | 2018年9月24日 (月) 18時01分