KYB免震偽装事例と公益通報者保護法の改正に向けた立法事実
連日の内部通報制度関連のネタでございます。本日(10月30日)、国交省大臣は、免震装置の偽装の有無について、徹底した社内調査を免震ゴム事業者85社に要請しておりましたところ、調査が遅れている1社を除き、すべてにおいて「不正はなかった」と発表しました。
KYBさんの事例では内部通報(その後の内部告発?)によって不正が発覚し、その直後の川金HDさんの事例では、KYBさんの事例をきっかけとした社内調査の中で、不正に関与していた社員の自主申告が端緒となって発覚に至りました。ちなみに3年前の東洋ゴム工業さん(グループ会社)の事例では、内部通報や告発は機能せず、グループ会社の技術社員が最初に不正疑惑を上司に申告してから親会社のトップが公表するまで2年を要したことが明らかになっています。
つまり、これらの事情及び(本日公開された)国交省による調査要請の結果を前提とするならば、免震ゴム偽装という不祥事は「どこでもやっている不正であり、たまたまKYBさんは運が悪かった」という性質のものではなく、ほとんどの事業者は誠実に作っているけれども、「異常値」としてKYBさんと川金さんだけで発生していた、その異常値は内部通報制度や公益通報でなければ明るみにならなかった、といえそうです。私は技術者ではありませんので「内部通報制度が国民の安全には不可欠」とまでは申し上げる勇気はありませんが、せめて「内部通報制度は国民の安心には不可欠」ということを示す立法事実はこれで示せるのではないかと考えます(「安心」といえば先日、事務所近くの中央公会堂前にブリヂストンさんの「免震ゴム体験バス」が公開され、一般の方々が振動体験をされていました)。今回と同等の効果(企業不祥事という「異常値」をもれなくすみやかにピックアップして、行政処分を通じて国民の安全・安心に資する)を、内部通報や内部告発とは別の代替的手法によって可能とするものがあれば「立法事実」とまでは申しませんが、いまのところなかなか思いつきません。
今回、KYBの社員の方は退職覚悟で(すでに退職された?)内部通報をされたわけですが、退職しなければ通報ができないという事態は現行の公益通報者保護法の欠陥であり、今後は(国民の安全確保のためにも)絶対に改善しなければなりません。そのためにも、通報者保護、不利益処分禁止を徹底した公益通報者保護法の大幅な改正は(国民の生命、身体、財産の安全確保のためにも)不可欠ですし、このような立法事実が明らかになった以上は内部通報制度の構築義務を改正条項に盛り込むことも不可欠と考えます。
また、内部統制構築義務の「レベル感」というものが議論されますが、少なくとも法令遵守体制の整備義務のレベルとして、民間事業者向けガイドラインを標準とした取締役の内部通報構築義務は会社法で議論されるべきものではないでしょうか。中小の事業者にそこまで問うのはむずかしい・・・とのご意見もありますが、今後は労働時間の規制、有給休暇の強制取得、パワハラ規制の法制化など、事業者内における支配服従関連の歪み自体が通報対象となるケースが増えてきます。そうであれば、どんなに社長さんが「すべてを見渡せる規模の事業所だから不要」と考えたとしても、不正事実が社長さんに届かないリスクは高まるものと思います。したがって、たとえ包括的な努力義務としての性質でもよいので内部通報制度の構築義務は公益通報者保護法の中で条文化すべきと考えます。
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