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2018年10月31日 (水)

KYB免震偽装事例と公益通報者保護法の改正に向けた立法事実

連日の内部通報制度関連のネタでございます。本日(10月30日)、国交省大臣は、免震装置の偽装の有無について、徹底した社内調査を免震ゴム事業者85社に要請しておりましたところ、調査が遅れている1社を除き、すべてにおいて「不正はなかった」と発表しました。

KYBさんの事例では内部通報(その後の内部告発?)によって不正が発覚し、その直後の川金HDさんの事例では、KYBさんの事例をきっかけとした社内調査の中で、不正に関与していた社員の自主申告が端緒となって発覚に至りました。ちなみに3年前の東洋ゴム工業さん(グループ会社)の事例では、内部通報や告発は機能せず、グループ会社の技術社員が最初に不正疑惑を上司に申告してから親会社のトップが公表するまで2年を要したことが明らかになっています。

つまり、これらの事情及び(本日公開された)国交省による調査要請の結果を前提とするならば、免震ゴム偽装という不祥事は「どこでもやっている不正であり、たまたまKYBさんは運が悪かった」という性質のものではなく、ほとんどの事業者は誠実に作っているけれども、「異常値」としてKYBさんと川金さんだけで発生していた、その異常値は内部通報制度や公益通報でなければ明るみにならなかった、といえそうです。私は技術者ではありませんので「内部通報制度が国民の安全には不可欠」とまでは申し上げる勇気はありませんが、せめて「内部通報制度は国民の安心には不可欠」ということを示す立法事実はこれで示せるのではないかと考えます(「安心」といえば先日、事務所近くの中央公会堂前にブリヂストンさんの「免震ゴム体験バス」が公開され、一般の方々が振動体験をされていました)。今回と同等の効果(企業不祥事という「異常値」をもれなくすみやかにピックアップして、行政処分を通じて国民の安全・安心に資する)を、内部通報や内部告発とは別の代替的手法によって可能とするものがあれば「立法事実」とまでは申しませんが、いまのところなかなか思いつきません。

今回、KYBの社員の方は退職覚悟で(すでに退職された?)内部通報をされたわけですが、退職しなければ通報ができないという事態は現行の公益通報者保護法の欠陥であり、今後は(国民の安全確保のためにも)絶対に改善しなければなりません。そのためにも、通報者保護、不利益処分禁止を徹底した公益通報者保護法の大幅な改正は(国民の生命、身体、財産の安全確保のためにも)不可欠ですし、このような立法事実が明らかになった以上は内部通報制度の構築義務を改正条項に盛り込むことも不可欠と考えます。

また、内部統制構築義務の「レベル感」というものが議論されますが、少なくとも法令遵守体制の整備義務のレベルとして、民間事業者向けガイドラインを標準とした取締役の内部通報構築義務は会社法で議論されるべきものではないでしょうか。中小の事業者にそこまで問うのはむずかしい・・・とのご意見もありますが、今後は労働時間の規制、有給休暇の強制取得、パワハラ規制の法制化など、事業者内における支配服従関連の歪み自体が通報対象となるケースが増えてきます。そうであれば、どんなに社長さんが「すべてを見渡せる規模の事業所だから不要」と考えたとしても、不正事実が社長さんに届かないリスクは高まるものと思います。したがって、たとえ包括的な努力義務としての性質でもよいので内部通報制度の構築義務は公益通報者保護法の中で条文化すべきと考えます。

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2018年10月30日 (火)

代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制

ひさしぶりの内部通報に関連するエントリーです。高松市に本拠を置く百十四銀行さんは、本日(10月29日)、取引先との会食に同席した女性行員が、取引先から不適切な行為を受けたとして、その責任をとるかたちで代表取締役会長さんが退任するそうです。(毎日新聞ニュースはこちら)。

読売ニュースや上記毎日ニュースと岩手日報ニュースを総合しますと、問題の会食が行われたのは今年2月。その後、5月に同行の内部通報制度によって同行の経営陣が知るところとなり、社内調査によって同行女性行員が取引先から不適切行為を受けたことが判明したそうです。社内調査の結果、宴会に出席していた会長さんと執行役員の方は、当該不適切行為を制止しなかったとして減俸処分とされたそうですが、この幕引きに社外取締役さんが納得されなかった。社外取締役さんはさらなる徹底調査を要請し、外部弁護士を交えた調査を行い、最終的には①会長さんらが女性行員への不適切行為を制止できなかったこそ、②そもそも、そのような席に女性行員を同席させたこと自体に問題があったと結論付けました。

記事は(いずれも)サラっとしたものですが、代表取締役が関与する不適切行為について内部通報が届き、これを経営陣が真摯に受け止めて調査を行い、さらに社外役員が重大なコンプライアンス問題と指摘して今回の社内対応に至ったわけですから、取締役会では相当紛糾したのではないかと推測いたします。けっして経営トップが不適切行為に及んだわけではないものの、取引先の行為を制止できなかった点を問題視して社内調査に持ち込んだ経緯や、穏便にすまそうとした社内の空気を社外取締役が一切読まずに正論で押し切った経緯、そして会食が行われた2月から通報があった5月までの間、社内で本件はどう扱われていたのかなど、もう少し詳しく知りたいところですが、いずれにしてもリリースでは「一身上の都合」としか開示されていない事情が、即日のうちに明らかになるというのは、他社にも参考になるところが多いかと。

また、記事の内容からは、銀行側としては報道されることにより「女性行員が特定されること」を極力回避しようとの姿勢がみられます。こういった内部通報は退職覚悟で断行することが多いのですが、通報を行ったとしても秘密が守られ、不利益処分のおそれもない状況が確保されていたとすれば銀行の対応としては評価できるものと思います(結果として特定されるケースも多いのが現実ではありますが・・・)。これらの状況を総合すれば、百十四銀行さんの内部統制、ガバナンスは十分に機能していたと言えるのではないでしょうか。ただ、取締役を退任したとしても、この方が「相談役」として残るというのは異論はでなかったのでしょうかね?・・・最近の上場会社では「相談役として残る」というのはセンシティブな問題なので、やや疑問も残りますね。。。

金融機関の場合、取引先との宴席に、経営陣らが「将来有望な若手幹部」を同伴することはよくありますので、当該若手幹部がたまたま女性行員であった、ということであれば問題にはならないと思います。したがって、一般的に「女性行員を同席させたこと」が(それだけで)不適切にはならないはずです。宴席を設定したのは銀行側だった、ということのようですが、おそらく人材育成目的とはほど遠く、取引先への何らかの利益供与、およびその見返り目的で同席させたからこそ問題として指摘されたのではないでしょうか。

今年1月には、大手食品会社の執行役員の方が空港ラウンジのCAの方への不適切行為に及び、同席していた社長さんが、これを制止しなかったとして辞任に追い込まれた事例がありました。こういったセクハラ系の事件はなかなか詳細が明らかにはなりませんが、だからこそパワハラ系とは異なり「グレーゾーンはアウト」もしくは「グレーゾーンを作出した行動こそ組織の品位を害する」とみなされ、一発退場を求められるケースが増えているように思います。26日の産経新聞朝刊によりますと、グーグル社では、この2年間で幹部13人を含む48人がセクハラで解雇処分(退職金なし)とされ、今後はセクハラ禁止基準をさらに厳格にすると宣言しています。職場環境や人権への配慮が、企業業績に大きく影響するとの認識を、経営陣が意識するようになった証左だと思います。

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2018年10月29日 (月)

小野薬品のめざましい業績の陰(かげ)にコンプライアンス問題?

週末(10月27日)の朝日新聞朝刊に、小野薬品工業さんの社長さんのインタビュー記事が掲載されていました。「オブジーボ 裏に社員の熱意」「本庶氏の指摘 ちょっと心外」という見出しで、同社長さんが本庶氏による研究に小野薬品さんも多大なる貢献をしてきたことを熱く語っておられます。朝日だけでなく、他紙でも大きく取り上げられていましたね。文春の記事によれば小野薬品さんと本庶さんとで双方に代理人弁護士を立てて協議をされていた時期もあったそうで、オブジーボの収益配分については今後も協議が続くようです。

この朝日新聞の社長インタビュー記事(大阪版です。東京版では記載がありませんでした)ですが、社長さんがオブジーボの開発の苦労話を語っておられる内容の一部が興味深い。もう1980年代のことですが、小野薬品さんには「がん治療薬は当社ではやらない」という不文律があったそうです。ところが社員が本庶さんの研究に着目して、経営陣にバレないように薬の開発番号を変えて(本来ならば7で始まる番号を付さねばならないところ、4で始まる番号を付して)、本庶氏の研究を支援しておられたそうです。社長さんは「誰もやっていないことに挑戦する社風も後押ししたのだろう」と語っておられます。その後、商品開発に同社が本格的に取り組むのは1999年(市場に出たのは2014年)ですから、相当長い間、経営陣にバレないように研究支援を続けていたものと推測されます。

結局、小野薬品さんはオブジーボの商品化が業績向上に寄与して、武田薬品さんに次ぐ時価総額(東証)の製薬会社になったわけですが、この社員の方によるコンプライアンス違反(法令違反ではなく、経営陣が知らないところでの企業理念に悖る行動、社内ルール違反)がなければいまの小野薬品さんはなかった、ということなんでしょうか?80年代のお話ということなので、いくらコンプライアンスに厳しい製薬業界だったとしても、こういったことは(社内でも社外でも)それほど問題視されなかった、ということかもしれません。

ただ、新薬の基礎研究となりますと、実を結ぶ確率は低いわけですから、社内ルールに反するような社員の行為が現在行われたのであれば、内部通報・告発、内部監査あたりですぐに発覚してしまい、社会的に多大な貢献となる新薬の開発はなしとげられない、あるいは欧米の巨大製薬会社に持っていかれてしまう可能性が高いのでは・・・、そんなことに思いを巡らせますと、なんとも複雑な心境であります。

上記インタビュー記事には、本庶先生の「小野薬品が基礎研究にあまり貢献していない」とのご発言に反論する点に世間の関心が向いていたようです。また、研究時の裏話は「美談」として語られているものと受け止めたいところです。ただ、私的には、こういった裏話を読みますと、「コンプライアンスを秤にかけるな」とか「社内ルールの無視、無効化は内部統制の重大な不備である」と言い続けることにも、やや虚しさや限界を感じるところがありますね。

「多くの命を救って社会に貢献したい」という多大な熱意をもった社員の前では、コンプライアンス違反という言葉は無力・・・ということなのでしょうか。それともコンプライアンス経営を推進するためなら、社会的な課題を解決できるビジネスモデルの開発もあきらめてしかるべき、と考えるべきなのでしょうか。「ほれみい、コンプライアンスなんかでメシが食えるか」との声があちこちから聞こえてきそうです(笑)。

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2018年10月27日 (土)

相談役・顧問の「失敗体験」こそ立派な知的財産では?

10月25日の日経朝刊に「相談役・顧問制度」に関する記事が掲載されていました。活動状況について、まだまだ開示されていない会社も多いようですが、アンケートに回答された会社の過半数は「相談役・顧問がいる」とのこと。ただ、相談役等がいらっしゃる場合でも、大半は「経営には関与していない」と回答されています。

元経営者の方から、よく「成功体験」をお聞きする機会があります。ただ、私がお聞きしたいのは「失敗体験」なのです(「経営は1勝9敗」と言われるわけですから)。「成功体験」をお聞きしても「それって、運がよかったんじゃないですかね?」と思ってしまうのですが、さすがに「失敗体験」は、なるほど説得力があります。あまり良い話ではないので他人に話をする際には脚色もあるでしょうが、「失敗体験」は聞いていてとてもおもしろい。また、失敗を「そこそこ」でおさめるための知恵(たとえば後腐れなく、合法的に他社に責任を転嫁させる)みたいなものは、お聞きしてとても参考になります。

相談役・顧問の方々が、本当に「経営に関与していない」のであれば、せめて現役の皆様に迷惑がかからない範囲で「失敗体験」を語り継いでいただきたいですね。なぜ成功したのか、ということよりも、なぜ失敗したのか、という理由のほうがよほど企業にとって貴重な財産になるように思います。まあ、現役のころから取締役会で「なぜ、あの意思決定は失敗したのか」と分析するような会社であれば申し上げるまでもないのですが(あんまり、そんな会社ってないですよね)。

「持続的成長」という言葉を金科玉条のごとく唱える時代であれば、私は成功体験よりも失敗体験を上手に糧にする会社のほうが強いのではないかと考えます。

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2018年10月24日 (水)

ガバナンス・コードへの対応は「引き算」で考えたほうがうまくいく

昨日(10月22日)の日経法務面では、コーポレートガバナンス・コンサルティング会社の名誉会長に就任された前経団連会長さんのインタビュー記事が掲載されていました。日本企業では、まだまだ社外取締役は十分に機能していないが、「ようやく先進的な企業も出始めた」とされています。社外取締役が中心になって、いわゆるサクセッションプラン(後継者計画)を作り、複数の候補者をインタビューして決めるのだそうです。また、社外取締役にふさわしい人物としては「経験豊富な元経営者で、企業統治の知識も備えた人が望ましい」とのこと。

このたびのガバナンス・コードの改訂でも、後継者計画の作成やCEOの選解任手続の透明化が要請されているので、企業が前向きに取り組むこと自体は賛成です。ただ、社外取締役が中心になって社長を選任することでかならずしも「中長期的な企業価値が向上する」ことはありません。当然のことながら人選に失敗して企業価値を低下させてしまうこともあります。要は様々な取締役会改革が機能して「健全なリスクテイク」を繰り返せばランダム性が高まって業績の変動幅も大きくなります。株主が歓迎するのは、こういったサクセッションプランに社外者が関与することで、企業価値の向上と低下の変動率が大きくなり(ボラティリティが高まり、これをオプションでコントロールすることで)、その期待値が株価に反映するからではないかと。

ただ、この株主の「期待値」は、あくまでも「国家の政策として、企業の持続的成長を歓迎している」ことが前提です(成長性が見込めない企業は早めにつぶして、資源の流動性を高めるほうが国策としては良い・・・という意見もありますので)。そうだとすると、持続的成長を阻害する要因を企業自身が排除する仕組みが強く求められます。

以前、「社長解任手続など、社内でルール化できるのだろうか」と、批判的な意見を述べましたが、よく考えてみると、業界に精通していない社外取締役が活躍するのはこっち(解任)だと思います。どんな人が社長に向いているか・・・というのは、正直言って社外取締役にはわからないし、「この人がふさわしい」と判断しても、それは認知バイアスによる後付けの理由で決めているケースが多いはずです。解任とちがって、選任のケースでは、現社長は退任の意向を固めているわけですから、社内取締役の方々には格別のデフォルト値はありませんので、社内の意見を尊重することも大切かと思います。もし選任手続に社外取締役が関与することに長所があるとすれば、「社長が勝手に後任を指名することは許されない」という会社の姿勢を社内外に示すことにあるわけで、そうであるならば、社外取締役が積極的に人選に関与することまでは求められていないようにも思えます。

しかし解任となると、やる気満々の現社長の顔色をみる社内取締役にとっては「解任する」という選択肢はデフォルト値ではないはずです(人は考えることが困難な問題では、考えることを放棄して現状維持の決断を下すことが多いので)。だからこそ社外取締役の判断が大きなウエイトを占めることになります。また、なんといっても、「この人は適任」と判断することよりも、「この人が社長を続けると結構ヤバイかも・・・」と判断することのほうがダイバーシティ(多様性)を確保した取締役会の構成員にとっては正確な判断に至るのではないでしょうか。不祥事を起こしたときの行動、健全なリスクテイクに及び腰でROEなど考えない、政府の役割を肩代わりするような「公益の番人」としての企業責任を何ら果たそうとしない、といったことで、「CEOとして顕著にふさわしくない」という場合には、手続が明確であるかないかを問わず、社外取締役の方々の行動に大きな期待が寄せられるのではないでしょうか。

会社の中を見渡すと、現状維持のバイアスが効いて、なかなか社内の人たちでは削減することができないシステムがたくさんあります。ガバナンス・コードへの対応において、なにかを付け足すことについては社内の合意が得られても、なにかを差し引くことについてはなかなか合意が得られないケースが多いように見受けられます。そういったところにこそ、業界の常識にとらわれていない人たちの意見が反映されるべきではないかと思いますね。

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2018年10月23日 (火)

積水ハウス地面師事件-企業を騙すには「点と線」が有効である

積水ハウスさんの地面師事件については、犯人グループが逮捕されて以来、いろいろと新しい情報が出ています。昨日(21日)のニュースでは、取引を中止した買受希望者(不動産会社社長)の方が交渉の場を隠し動画で撮影していた事実が報じられ、当該データが公開されていました。所有者に扮した女性が「田舎はどこですか?」と買受希望者から聞かれてボロを出してしまった様子も、証言として紹介されていました。

そして本日(22日)の産経新聞朝刊に「積水側と数年前から面識-地面師、仲介役に勧誘か」と題する記事に、新たな情報がふんだんに掲載されています。さすが「事件モノの産経」だけあって、警察筋から得た(と思われる)情報は興味深い。平成25年ころから積水ハウスさんの社員とつきあいのある不動産業者を(実行犯グループが)仲間に引き入れ、積水ハウスさんをじっくり時間をかけて騙す様子が報じられています。

私は企業のリスク管理、内部統制システムの構築・・・という視点で、「どうすれば地面師に騙されないシステムを(企業側が)構築できるか」を考えながら、本事件の流れを辿ってきました。その流れにおいて、本人認証の公正証書、偽造パスポート、免許証の存在、売主側弁護士の存在、真正所有者からの度重なる内容証明郵便を受領していたこと、本人不在での異常な交渉経過、社長案件による関係者への事後決裁の事実などに関心を寄せていました。しかし、これらはいずれも「点」であり、時間軸の存在についてはほとんど想像しておりませんでした。つまり、実行犯グループの中に、5年ほど前から積水ハウスさんから信頼を得ている者が存在する、という「線」の存在には気づきませんでした。

なるほど、たしかに積水ハウスさんがなぜ騙されたのか・・・という疑問が、これで少しわかってきたように思います。「仲介者に間違いない人がいる」という安心感は、おそらくすべての懐疑心を骨抜きにしてしまいます。社内で不正が発生したとしても、なかなか不正を見つけられないのは「あの社員なら長年の仕事ぶりを知っているから間違いない」といったバイアスが監査の目をくもらせるからです。私が担当するパワハラの社内調査においても、調査担当者が「パワハラにはあたらない」「パワハラを受けた側にも問題があったのでは」といった結論に至りがちですが、やはり加害者(上司)の長年の仕事ぶりを評価している調査担当者に強いバイアスがはたらいているところを経験します。

犯人グループが、どういった経緯で積水ハウス側との付き合いのある不動産業者をとりこんだのかはわかりませんが、時間軸を活用して(つまり一定の時間をかけて)積水さんを騙すためのテクニックを弄したとすれば、やはり相当なワルだなぁと恐怖を感じますね。上記産経の記事では、暴力団関係者が「事前の面識の有無が犯行の成否を分けたのだろう」と証言していますが、私も同感です。

なお、先述の隠し動画では、交渉のテーブルの真ん中に弁護士の方が座っておられましたが、こういった事件では専門家もうまく利用されることが多いようです。地面師事件に利用された弁護士の法的責任につきましては、以前、弁護士側が勝訴(最高裁確定)した事例をご紹介しましたが、近時、弁護士側に極めて厳しい高裁判断が下されました。追って判例雑誌に掲載される予定と聞き及んでおりますが、自戒をこめて、不動産取引に関与するためには最大限の注意が必要と痛感する次第です。

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2018年10月22日 (月)

企業不祥事のケーススタディ-実例と裁判例(新刊書のご紹介)

Hushouji013今年も本当に企業不祥事が多い1年(正確には企業不祥事が多く報道された1年)になってしまいました。近時、不正が発覚するたびに第三者委員会報告書が公表され、原因分析や再発防止策が語られるわけですが、どれも紋切り型の表現が多く、企業不祥事の予防・早期発見とガバナンス、内部統制の在り方が説得的に語られている第三者委員会報告書は少ないように思われます。

企業不祥事のケーススタディ 実例と裁判例(2018年10月 弁護士法人中央総合法律事務所編 商事法務 4,400円税別)

本書は、森本滋先生(京大名誉教授)の指導のもと、中央総合法律事務所の実務家の方々が中心となって企画したセミナーや、資料版商事法務に掲載された同事務所のご論稿「不祥事事例の分析」をもとに、「企業不祥事に関して取締役等に生じうる法的責任」に係る実例や重要裁判例の事実と分析を一冊の書籍として取りまとめた新刊書です。企業不祥事発生企業に焦点をあてて効果的なガバナンスや内部統制について分析をして、さらに近時の裁判例を分析したうえで役員の法的責任を解説するところに本書の特長があります。最近の関心事であるグループ会社における不祥事予防や早期発見のためのガバナンス、内部統制にも多くのページをさいて解説がなされています。東証の「不祥事予防のプリンシプル」の解説も詳細です。

企業実務家の皆様には全編を通じて第三者委員会報告書や裁判例を通じた事例分析をお読みいただくのがお薦めですが、法曹実務家向けには144頁から186頁までの森本先生ご執筆「裁判例における取締役の責任の考え方」が参考になろうかと思います。私が不勉強なので、これまでの森本先生のご論稿やご著書で解説済の論点もあるかもしれませんが、不祥事発生企業の取締役・監査役等の法的責任の考え方に特化して解説されたものであり、「監督義務と監視義務の区別」「法令違反の認められない場合の任務懈怠と経営判断原則」「業務執行の決定と経営判断原則」「経営判断原則下における裁量範囲」「経営判断原則と信頼の権利」「内部統制システムの構築と経営判断原則」など、取締役の責任の存否を判断するにあたって微妙な問題を取り上げておられます(これはとてもありがたい)。

個人的に「これはとてもありがたい」と考える理由は、おそらく今後コーポレートガバナンス・コードのコンプライ・エクスプレインとの関係で、企業不祥事が発生した場合に(会社法上の役員の善管注意義務の履行責任、金商法上の「役員が相当を注意を果たしたことの立証責任」の根拠事実として)コードの運用責任が問われる可能性が高まってくると考えるからです。理屈・法理論のうえでは森本先生の解説を参考にして、さらにその根拠とされる裁判例、第三者委員会報告書における実例の理解については上記法律事務所の先生方の解説・分析を参考にする、といった本書の活用がお薦めです。まだ、読み始めたばかりですが、ぜひとも私自身の本業にも参考にさせていただきたいと思います。

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2018年10月20日 (土)

財務省コンプライアンス推進会議アドバイザーに就任いたしました。

昨日(10月19日)の財務省報道発表のとおり、このたび財務省コンプライアンス推進会議のアドバイザーに任命されました。財務省再生プロジェクトの一環として「コンプライアンス推進会議」が設置されましたが、今後の会議の運用を通じて同省の信頼回復につながるよう、微力ながらお手伝いさせていただく所存です。

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2018年10月19日 (金)

続・KYBの不祥事公表の姿勢-私は(やっぱり?)評価したい

昨日に引き続き、KYB社の免震装置偽装の件です。データが改ざんされた装置の交換には2年を要するとのことが報じられ、また株価についても東証1部最大の下落率となるなど、不祥事が経営に及ぼす影響は甚大なものとなっています。

ただ、コンプライ堂さんのコメントで初めて知りましたが、KYBさんは3年前の自動車部品カルテル事件でDOJから罰金の減額を受けていたようです。私も調べましたが(JCAジャーナル2016年6月号 51頁以下)、たしかに日本企業ではめずらしくDOJ(米国司法省)から「社長が率先して調査に協力したこと、コンプライアンス・プログラムの将来にわたる有効性が確認されたこと」を主な理由として罰金の減免を受けています(連邦量刑ガイドライン最大2億700万ドルのところ、6200万ドル)。なによりも、KYB社の経営トップの方がコンプライアンスを経営の最優先事項としたことが評価されています。

このJCAジャーナルの論稿でも解説されていますが、単に過去のコンプライアンス・プログラムに沿った対応が行われたとしても減額を受けることはできませんが、将来にわたるプログラムの内容が秀逸で、これを実行できる体制が認められた場合には減額もある、ということのようです。

「経営の最優先事項だったら、今回のような不正は撲滅されていたはずじゃないのか?」との批判もあり得るところですが、昨日のエントリーでも書きましたが、やはりKYB社の有事対応については(組織ぐるみでないかぎりにおいては)一応評価できるのではないかと思いますし、これからのステイクホルダーとの向き合い方についても誠実性が期待できるのではないでしょうか。

ただ、コンプライ堂さんやskydogさんもおっしゃるように、東洋ゴム工業さんの免震偽装事件が発覚した際、リスクの重大性を認識して「うちも大丈夫か?」とはならなかったのでしょうか?東洋ゴムさんもグループ総売上のうち、わずかな売上を占める部署で発生した不祥事でしたので、状況はKYB社と同様です。グループの小さな部署で発生した不祥事が、グループ全体の信用を毀損し、著しい損害を発生させてしまうリスクについては危惧していたところはあったのではないかと。どこの企業にも、同じようなリスクは潜んでいるような気がいたします。

グループ経営管理は、とてもゼロベースでリスク管理を考えることができない・・・ということを前提としますと、毎度申し上げておりますとおり「不祥事はかならず起きる、起きた時にどう対応するか」という点にも十分な資源を配分する必要があると思います。あの「ジャパネットたかた」さんでも法令違反に至る時代です。「有事において何を最優先で守るべきか」、平時のうちから経営陣で検討すべきです。

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2018年10月18日 (木)

KYBの不祥事公表の姿勢-私は(条件付きで)評価したい

(18日午前 更新)

すでに報じられているとおり、部品メーカー大手のKYB社(及び同子会社)が、建物用免震装置の検査データ偽装を公表し、大きな騒ぎになっております。19日には該当建物名の公表が予定されているそうですが、改ざんは20年近く続いていたこともあり、同社が大きな社会的批判を浴びることも当然のことと思料します。国交省認定基準に反するデータ偽装であったこと、大手ゼネコンをはじめ、関係先に「先に知らせなかった」こと、補償が求められる可能性が高いこと、そして公表時に全容が判明していないことからも、株価が急落して当然なほどに重大な不祥事です(国交省のリリースはこちら)。

グループ経営管理は企業統治改革の中でもホットな課題ですが、KYBグループ全体のわずか2%程度の売上にすぎない免震装置事業がグループの信用を失墜させるとなれば、今後ますますグループ・ガバナンスに関心が向けられることになりそうです。

ただ、不正を知った社員が上司に報告をしたことによって社内調査が先行したものである、つまり、同社が自浄作用を発揮して不正公表に至った当社の姿勢については(被害者の皆様からのご異論は承知のうえで)一定の評価をしたい。不正に手を染めていた人が申告をした・・・というわけではなく、不正に関する会話を聞いていた社員が上司に報告をした、ということのようなので、偶然といえば偶然に発覚したということですが、それでも経営トップは正直に国交省へ報告したわけですから有事対応としては「ステイクホルダーを重視した」と言えるようにも思えます。

(18日午前 追記)なお、18日朝にテレビニュースで紹介された「社員と上司とのやり取りを録取したデータ」を聴いたかぎりでは、会社側が「このままだと社員が内部告発に至るかもしれない」と感じたことが公表の原因かもしれません。

最近、海外の機関投資家から「この会社は不祥事が起きた時、止める力はあるのか、誠実に不祥事に向き合う姿勢はあるのか、そのように言える理由はどこにあるのか」と質問を受けることがあります。もちろん不正はないことが望ましいわけですが、そうはいっても競争している以上はかならず不正(もしくはコンプライアンス上の問題行為)は起きます。そういった意味では、起きたことへの向き合い方は大切です。

なお、評価にあたっては一つ条件があります。「組織として不正隠しを行ったものではない」という点が明らかになることです。神戸製鋼さんの事件発覚のときにも同じことを申し上げましたが(そして、残念ながら予想が当たってしまいましたが)、20年近くもデータ改ざんが続いていたということは、本当に経営陣は知らなかったのだろうか・・・という点について、合理的な理由によって疑念が払しょくされることが条件です。今後は第三者委員会による調査が進むはずですが、この「組織的関与」という点がステイクホルダーにとっても最大の関心事ではないかと。

たとえば①品質管理、品質保証部門の責任者の方が、その後に親会社役員に就任していた場合、②世間でデータ偽装が問題となり始めた2年ほど前から今回の発覚に至るまで、データ改ざんの有無に関する独自調査を行っていた場合、③親会社と子会社で同時期に同種のデータ改ざんが行われていた場合、④改ざん方法が歴代の担当者間で類似している場合などは、組織ぐるみの改ざんと評価されるような事情はなかったのかどうか、慎重な調査が必要です。リスク認識が甘かったことも問題ですが、それは内部統制の不備と評価されます。リスク管理は十分にできていて、内部統制も整備されていたにもかかわらず、なぜ内部統制を無視、無効化したのか・・・、こういったことを裏付ける事実が明らかになった場合には、「組織ぐるみ」「経営者関与」といった評価につながりますので要注意です。

追記

今朝のテレビ報道で、社員と上司とのやり取りを録音したデータが公開されていました。「もうこんな不正にかかわるのは嫌だ」と上司に訴える社員、「まあ、不正と言われれば不正かもしれない」と回答する上司のやりとりはぜひ多くの人に聴いていただきたいと感じました。

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2018年10月17日 (水)

不正防止の要となる監査役監査を-日本監査役協会会長声明

積水ハウス海喜館地面師事件の容疑者逮捕のニュースが報じられ、地面師暗躍の脅威とともに、ふたたび積水ハウス社のリスク管理の問題に光があたっています。買受希望のライバル会社も虎視眈々と買受の機会を狙っている、そして社長さんのゴーサインが出る、土地所有者とされる売主(らしい人)は、確認書類として本人認証に関する公正証書も持参している・・・・そんな状況において、果たして積水さんは「これは怪しいからやめとけ」と取引を中止できたのでしょうか。

もし仮に中止をしたとして、(実行犯はあきらめて)事件にもならなかった場合、その「やめとけ」と勇気をもって取引を止めた役職員は、どのように組織で評価されるのでしょうか。別件で被害者が出れば「組織を救ったヒーロー」として評価されますが、犯罪が実行されなかったときには誰にも評価されないだけでなく、「空気を読まないやつ」「リスクにチャレンジできないリスク」などと揶揄されて終わり・・・なんてことになるのでは。。。

ライバル会社は取引寸前に「ニセ所有者」と見破ったわけですが、これは社長ご自身のフトコロがいたむからこそ周到な本人確認を社長自身が行ったことによるものと思います。一方、日本を代表する優良企業となりますと、だまされても関係者のフトコロがいたむことはありませんので、むしろ(ゴーサインを出した)社長の意向を忖度するほうが関係者にとっては大切、ということだったのでしょうか。いずれにしても、私には他社でも同様のミスが起こる可能性は十分にあるように感じております。社長案件であろうが、不正の予兆を感じたときに、これを止める役員として期待がかかるのが監査役さんです。

ところがこの「監査役」さんが、現実には企業不祥事を止める役割を果たしていないようです。10月15日、日本監査役協会HPに監査役協会会長による声明が公表されました。声明では「某銀行」とされていますが、いわゆるスルガ銀行事例の第三者委員会報告書における(常勤監査役への)厳しい指摘を契機として、不正を防止すべき役割を担う監査役職務への警鐘が鳴らされています。会長声明では、某銀行の常勤監査役の職務懈怠が「善管注意義務違反」と評価されたことへの屈辱感(くやしさ?)が示されています。ただ、私は多くの企業不祥事において、監査役監査の問題が指摘されていないことに悔しさを感じております。そもそも監査役には不正防止の役割がそれほど期待されていないのではないか・・・、といった残念な気持ちです。

上記会長声明では「三様監査」の重要性についても述べられています。会計監査人、内部監査人らとの連携を図って不正予防に努めることは大切ですが、最近の裁判で監査役が敗訴した理由も「連携と協調」にあることを忘れてはいけません。厳密にいえば「三様監査」ではなく、もっと広く取締役会との連携、監査役間の役割分担とコミュニケーションという点が問題となりましたが、セイクレスト事件裁判、エフオーアイ事件裁判で、なぜ監査役は(控訴審でも)敗訴してしまったのか。裁判官は決して「監査役が不正を止められなかった」ことをとらえて法的責任を認めたわけではないのです。監査役の法的責任との関係でも取締役や会計監査人との連携が重要であることは、また、監査役さん向けの講演等で詳細に解説をさせていただきたいと思います。

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2018年10月15日 (月)

企業統治改革-後継者計画の前に労働慣行の見直しが必要

10月10日の朝日新聞朝刊「経済気象台」に、「後継者計画の客観・透明性」との見出しで近時のコーポレートガバナンス・コード改訂に関する解説記事が掲載されていました。「後継者計画」との見出しですと、中小会社の事業承継を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、記事は上場会社向けのいわゆる「取締役会改革の一環としての後継者計画」に関するお話です。

企業の持続的成長のカギはなんといっても経営者ですが、その経営者の後継は現経営者が不透明な手続きで決めている、という点に投資家が不満を述べていました。そこで改訂コードでは、社外取締役らが中心となって任意の指名委員会等が(計画の初期段階から)関与すること、また経営者の選解任手続きを規約化することなどが求められています。記事では「長期的な企業価値向上のための合理的人選が、現状の指名委員会で可能かどうか」と疑問を呈しています。そもそもそういった後継者計画が、果たして中長期の企業価値向上につながるのかどうか、根本的に疑問を投げかけています。

14年ほどにわたる私自身の社外役員の経験(指名委員会やガバナンス委員会の委員長等)や、改訂コード対応への上場会社さんからのご相談事例など、ホントに狭い経験に基づく個人的な意見しか申し上げられませんが、私も後継者計画(サクセッションプラン)自体が企業の持続的成長につながるのかどうかは、やや懐疑的です。大きな理由は、日本企業の労務慣行が後継者育成計画を許容する土壌とは言えないからです。

職能ではなく、マネジメント能力(修羅場をどう乗り切ってきたか)の視点から「ふさわしい人」を育成プログラム候補に推薦するわけですが、年功序列・終身雇用の性格が強いタテ組織の「360度評価」は本当の実力者が選別されるのかどうか不安が残ります。「あの部署(カンパニー)から候補者を出さなければ部署の士気が下がる」「とりあえず〇〇君を候補者にしないと相談役は黙ってない」「あくまでも『候補』なんだから、女性もひとり入れないとマズいんじゃない?」など、いろんな忖度やしがらみがノイズとして入ってきます。職能による労働の流動性が高まり、「上司よりも仕事」「社長よりも会社」といった労務慣行が成り立たないと、ちょっと今のままでは制度の運用が成り立たない(選定者が厳しい責任のもとで権限を行使できない)気がします。

さらに(これも自身の経験からですが)、後継者計画に従い、育成プログラムの最終段階になりますと、優秀な幹部候補者数名から経営者候補が1名に絞られます。つまり、優秀な幹部の数名は「レースに敗れる」わけです。たしか米国では後継者選任手続きで指名されなかった人たちは、さっさと他社に移って自らの実力を存分に発揮する場を求めるそうですが、日本だとそんな風にはいかないようです。「レースに負けた人」として、そのまま組織に残るのは(敗者復活戦のムードが高い組織なら良いのですが)、相当に厳しいでしょうし、モチベーションも上がらない。もし、後継者計画を実践するのであれば、このあたりの労働慣行についてもケアが必要と思います。

投資家からすれば、企業業績の変動比率(ボラティリティ)を上げることが好ましいわけですから、真の実力者を(透明性のある手続きのもとで)次期経営者に選任したいのは当然ですし、私自身も、サクセッションプランとそれに紐づいた選任・解任プロセスの透明性自体に反対というわけではございません。ただ、その前にやることがあるのではないか、と。自身の組織を見つめ直して、果たして後継者計画や選任・解任プロセスの透明性(ひいては社外取締役が主体となって選任・解任に関与すること)を実践するにふさわしい組織風土なのかどうか、そこをまず役員全体で審議したうえでコンプライ・オア・エクスプレインを決するべきではないかと思います。

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2018年10月13日 (土)

最近の論稿、メディア露出等について(まとめ)

ひさしぶりに台風を気にすることもなく、また秋の日差しが心地よい大阪の週末でございます。ということで(?)、遅ればせながら最近の論稿発表等をお知らせいたします。タイトルを「最近のもろもろ」としたかったのですが、川井信之弁護士のブログの「もろパクリ」になってしまうのでやめました・・・( *´艸`)。

P_20181008_221227_400①旬刊経理情報(中央経済社)の10月10日号に「2018年秋施行予定、内部通報認証制度の概要と企業がとるべき対応」と題する論稿を掲載いただきました。手続的なことよりも、準備段階からどのような制度構築を図るべきか・・・という点に重きを置いて書かせていただきました。

なお、同号では森・濱田松本法律事務所の先生が書かれた「これから監査等委員会設置会社への移行を検討する際のポイント」と題する論稿が掲載されており、こちらがとても参考になりました。私も「これから監査等委員会設置会社から監査役会設置会社へ戻すことを検討する際のポイント」と題する論稿を書こうかな(笑)。たぶん、どこの法律雑誌でも取り上げてもらえないと思います・・・(*´Д`)トホホ。

②つぎに、10月9日、神戸新聞に「神鋼データ改ざん1年 識者に聞く」と題するインタビュー記事が掲載されました。こちらはWEB版(神戸新聞ネクスト)でもご覧になれます。神鋼のデータ偽装事件につきましては、私なりの原因分析や他社への教訓といった考え方がありますので、「こんな見方もあるのか」といった感想を持たれるかもしれませんが、ご興味がございましたらご一読くださいませ。

③デロイトトーマツさんの「企業の不正調査白書2018-2020」の巻頭対談に出演いたしました。西村あさひ法律事務所の三村まり子弁護士との対談です。白書をダウンロードしていただきますとお読みいただけます。GEや海外の巨大製薬会社で法務責任者をされていた三村さんの経験・知見はとても新鮮でしたね。

P_20181008_221440_1_400_2④そして最後になりますが、週刊金融財政事情(金融財政事情研究会)10月8日号におきまして「スルガ銀行は不祥事を防ぎえたか」と題する論稿を掲載いただきました。公務員機関と金融機関には独特のコンプライアンス経営が求められるということを、その理由とともに書かせていただきました。第三者委員会報告書を読み、いろいろと考えることが多かったのですが、スルガの件は証券会社や保険会社を含め、多くの金融機関の方々の関心がとても高いものであることを痛感いたしました。役員の責任問題はほとんど指摘せず、(他社の参考になるように)おもに組織としての構造的な欠陥に焦点をあてて書いたつもりです。

また、現在執筆中の経済誌や法律雑誌の原稿などもありますので、これからはできるだけタイムリーにご紹介したいと思います。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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2018年10月12日 (金)

ファーストリテイリング社の社内取締役復活-指名委員会は機能したのだろうか?

ファーストリテイリング社の2018年8月期の決算短信が公表されましたが、「その他」項目においてCEOの長男、次男の方々が同社の取締役に選任されることも発表されました(もちろん11月末に予定されている定時株主総会での承認が条件です)。おふたりとも、これまでグループ会社の業務執行に携わっておられたので同社では(CEO以外に)ひさびさに社内取締役が復活することになります。

日経ニュースによりますと、CEOは記者会見で「もし私がいない場合でもガバナンス(企業統治)がきくという意味。決して2人が経営者になるということではない」と述べられたそうです。また、別の日経ニュースでも

――CEOの長男氏と次男氏が取締役に就任する人事を発表しました。経営体制の未来像を教えて下さい。
CEO「(自身の)退任は考えていない。必要とされるうちは社長をしたい。OやG、その他の執行役員も成長している。自分がいなくても十分に経営できる。取締役に2人の息子を選任するが、勘違いしないでもらいたいのは、決してこの2人が経営者になるという意味ではないということだ」

と語っておられます。社外取締役中心の取締役会がモニタリング機能を発揮する、ということで、長男、次男の方々は会長や副会長となって監督する役割を果たしていく、それがガバナンスの在り方だ・・・といった趣旨のご発言と理解いたしました。これはオーナー家の存在する上場会社としては大塚製薬グループさんの経営形態にかなり近いものですし、大株主創業家が存在する上場企業のガバナンスとしては決しておかしなものではないと思います。

なお、ファーストリテイリングさんの場合、社外役員が中心となって構成されている人事委員会(指名委員会)が組織体制や人事体制について審議・提言する立場のようですから、そもそも創業家から経営者を出すかどうかは人事委員会の意向が強く働くことが筋だと考えます。しかし、上記のCEOのご発言からしますと「うーーーん、やっぱり創業者が取締役や後継CEOをひとりで決めるのだなあ」と感じてしまいます。そして、これだけタレントぞろいの社外取締役さん方は、(人事委員会を通じて)後継者計画について何も発言する権限と責任はないのだろうか、とも「勘違い」してしまいそうになります。ぜひとも人事委員会がどのような活動をされたのか、どこかのタイミングで明らかなればいいですね。

とくに今年はガバナンス・コードが改訂され、上場企業はどこも「後継者計画の策定」「社長解任手続の透明化」「任意の委員会の設置と役割の明記」あたりのテーマで悩んでおられます。オールコンプライされているファーストリテイリングさんが、ガバナンス・コードへの対応という意味において、「世襲ではないか」と(少なくとも外からは)思われる取締役選任状況について、どのような説明をされるのかは注目しておきたいところです。

以前、NEWSPICKSのインタビューにサントリーHD副社長のNTさん(次期社長となるであろう創業家の方)が「創業家は経営の狂気と理性とのバランスを図ることが理想的ではないか」と回答されていたのが印象的でした。社長が暴走するときには創業家が理性となってこれを止め、官僚的なムードで社内が沈滞したときには狂気となって会社を活性化する、ということをお話されていたように記憶しています。もちろん大株主として外から発破をかけるということもありえますが、創業家が取締役という立場で経営に参画する以上は、やはり会社の状況次第では経営者として会社をひっぱることも(会社のためには)十分にありうるのではないでしょうか。大きな企業の長期にわたる成長を維持する場合には、経営を引き継ぐという意味で「創業家の世襲」もあってよいと思います。

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2018年10月10日 (水)

不祥事企業への機関投資家の議決権行使(取締役選任議案)について(その2)

9月18日付けエントリー「不祥事企業への機関投資家の議決権行使(取締役選任議案)について」では、不祥事を発生させた企業の株主総会において、機関投資家は取締役選任議案にどう対応するのか・・・という点について意見を述べました。昨日、当該エントリーをお読みになった同業者(弁護士)の方から、「議決権行使に関するものではありませんが、こちらをご参考ください」ということで機関投資家協働対話フォーラムさんの「書簡送付のお知らせ」を教えていただきました。

なるほど、議決権行使基準とは異なりますが、パッシブ運用を行う投資家の方々は、このような視点から協働対話を求めておられるというのは参考になります。具体的な要請としては、第三者委員会への企業の全面的なサポートと適切な情報開示、そして社外役員の人選に関する考え方に関する十分な説明などが示されています(手紙を送付した不祥事企業からは、きちんとした回答が得られなかったことにも言及されています)。また、このような要請を行う根拠としては、

日本版スチュワードシップ・コード原則4-1は「企業価値が毀損されるおそれがあると考えられる場合には、より十分な説明を求めるなど、投資先企業と更なる認識の共有を図るとともに、問題の改善に努めるべきである」と規定しています。パッシブ運用の投資家は、不祥事が発生した企業に十分な説明を求めるとともに、投資家が懸念する課題を伝えて課題認識を共有化し、改革を促し、企業価値の再生を支える役割が求められています。

と示されています。 「より十分な説明」の内容次第ではレギュレーションFDとの関係でルール違反にならない配慮が必要ですが、スチュワード株主の方々は業績だけでなく倫理的側面にも関心を向けておられるので、こういった手法も考えられるところです。

さらに、これは不祥事発生時の対話ではありませんが、10月1日に「株主総会で相当数の反対票が投じられた議案に関する原因分析と対応」なる書簡送付のお知らせが公表されています。近年、国内外機関投資家をはじめとする投資家・株主の議決権行使の活発化・厳格化に伴って、株主総会において会社提案議案に対して相当数の反対票が投じられるケースが増えていますが、その原因分析や今後の対応などについての説明が要請されています。こちらはスチュワードシップ・コードではなく、コーポレートガバナンス・コードの補充原則1-1①が根拠として示されています(ちなみに2018年7月に改定された英国コーポレートガバナンス・コードでは、相当数の反対票の目安として20%以上の反対票が投じられた場合が想定されています)。

コーポレートガバナンス・コードのエンフォースメントについては、先日の日本内部統制研究学会でも少し話題になっていましたが、私は「対話」の存在が大きいと思いますし、そのためには機関投資家側の積極的な働きかけが必要です。ただ、機関投資家といってもスチュワード株主もアクティビスト株主もいらっしゃいますので、誰の反対票で相当数に及んだのか・・・という点には注意が必要ではないかと。「株主は一枚岩ではない」ということは、こういった対話でも心得ておくべきではないでしょうか(こういった対話の場では、会社側も「こんな株主に保有してもらいたい」という意思を示してもよいのではないでしょうか)。

協働対話フォーラムさんの代表者の方は、以前日弁連主催の社外取締役シンポジウムでもご一緒させていただきましたが、ESG投資にとても造詣の深い方だったと記憶しております。ポピュレーション・アプローチ(コードによる上場企業全体への働きかけ)だけでなく、ハイリスク・アプローチ(日本企業の「横並び主義」の傾向を前提とする、特色のある企業にピンポイントでの働きかけ)についてもパッシブ運用の機関投資家が動き出す意義は大きいのではないでしょうか。

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2018年10月 9日 (火)

会計監査に関する情報提供の充実と「3本目の矢」

10月6日、日本内部統制研究学会の第11回年次大会が日本公認会計士協会本部(市ヶ谷)にて開催されました。前日の理事会から当日懇親会まで、1日半ほど会計士協会さんにお世話になりました。会計や監査の学者の方々、会計士の方々、弁護士の皆様、そして企業実務家の方々がすべて会員資格をもって学会を盛り上げるというのもめずらしいと思います。金融庁企画市場局長の三井秀範氏の特別記念講演も、とてもタイムリーなもので、近時の会計監査を巡る行政施策を整理するのにとても有用なお話でした。

会計監査を巡る行政施策といえば、10月9日の日経法務面で特集されていた「監査 AIを生かす 粉飾兆候を見抜く・会計士の負担減」なる記事に掲載されていた課題についても、「高品質な会計監査を実施するための環境整備」の一環として、官民で協力して克服されていくものと思われます。AIで「不正を見抜く」となりますと、「不正」かどうかは法律問題であり、また入力すべき不正データの数にも限りがあるため活用も容易ではないと思いますが、「不正の兆候を見抜く」ということなので、おそらくAIの力が発揮される可能性は高いのでしょうね。

ただ「不正の兆候」は判明しても、それを「不正」もしくは「不正の疑いあり」と認定することがきわめてむずかしいのは東芝事件で関係者の方々が痛感したところであります。ここをクリアするためには、①多くの不正は見逃してもしかたがないから、誰がみても「不正」と言える事例だけを摘発するのか、それとも②結果的には「不正」とは評価されず、(不正を認定した者が)企業から訴訟を提起されてもやむをえないことも承知のうえで、あえて広く不正事例を摘発するのか、どちらの道で運用していくのか、というところを(社会的合意をもって)決めなければいけないと思います。

非常にハードな選択ですが、不正を見抜くために、この①と②をどこかでバランスをとって調和させる道として、KAM導入(監査報告書の長文化)や非定例監査時における詳細な情報開示などに期待が寄せられるところです。三井局長による講演レジメでも「会計監査に関する情報提供の充実」に関する残された課題として、「通常と異なる監査意見が表明された場合など、監査人から資本市場に対してより詳細な情報提供が求められるケースにおける対応の在り方について、問題意識の共有を図り、必要な対応策を検討することが必要」と示されています。

監査法人版ガバナンス・コードの策定、KAM導入に次ぐ「会計監査に関する情報提供の充実に向けた三本目の矢」が、今後審議される予定のようですが、監査人の守秘義務解除の問題、公認会計士のゲートキーパー問題、そして企業の財務報告に向けたガバナンス問題をクリアして、形あるものにできるかどうか・・・、内部統制報告制度の形骸化問題と並んで、今後注目しておきたいところです。

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2018年10月 4日 (木)

日本版司法取引第1号は否認事件へ-求められる刑事弁護人の力量

本日(10月3日)の毎日新聞(朝刊社会面)のみが報じているところですが、MHPS社と検察官との間で、他人の「特定犯罪」の立件に協力し、自らの犯罪に関する不起訴等を求める、いわゆる「日本版司法取引」第1号案件について、起訴された同社元取締役が公判で起訴事実を否認する方針であることが明らかになりました(「関係者への取材で」とありますが、誰がそんなことしゃべるのだろう・・・いつも疑問に思うところです)。MHPSさんの不正競争防止法違反事件の内容については、こちらの7月のエントリーをご参照ください。

MHPS社の役職員による外国公務員への贈賄(不正競争防止法違反)について、法人であるMHPS社が、(たとえ違法ではあったとしても、会社のために不正に手を染めた)社員を売った・・・ということで、本事例での司法取引の適用については「これって司法取引制度の趣旨とはかけ離れているのでは?」と、世間からはかなり批判(異論?違和感?)を受けておりました。そういった声も反映されたのか(?)、不正行為を実行した現地社員については立件されず、ターゲットとされていた(指示をしていたとの疑いのある)経営陣のみの立件ということで決着がついたものと思われました。しかしながら、司法取引で立件のターゲットとされていた元取締役の方が否認をする・・・ということで、今後は舞台を裁判所に移し、刑事公判活動にも注目が集まることになりそうです。

司法取引制度については、立案当初から「無実の他人を巻き込むおそれあり」として批判されていましたので、否認事件となりますと俄然裁判官の公判での運用に関心が向くのは当然と思われます。報道では「当初、起訴内容を認めていたが、U被告人のみが否認に転じた」とあるので、刑事弁護人とのやり取りの中で、否認する方針を固めた、ということでしょうか。起訴前の弁護活動から同じ弁護人がついていると思われるのですが、こういったマニュアルのない世界で被告人に有利な判決を勝ち取るには相当な力量が求められるものと思います。まずなんといっても法人側証人は検察側の「(司法取引に関する)合意の離脱」や虚偽証言罪のプレッシャーがありますので、検察官に話したことは絶対に曲げないはずです。この供述の信用性を反対尋問で弾劾するのはかなりむずかしいと思います。

ただ、元取締役の共謀や指示がなかった(評価しえない)ことを立証するメール等についてはフォレンジックによって判明する可能性はあります。とりわけメールについてはクラウド上に残されているものを含めれば膨大な文書数であり、検索ワードの掛け方の巧拙によって重要メールを発見できる場合もあると思います。それらの調査を弁護人が丁寧に行うことによって起訴後に否認に転じるということもありうるかと。また、そもそも「法人」が司法取引の当事者である、という点にも課題があるかと思います。「他人の犯罪」を立証する証言について、どこまで真実を知り得たのか、検察のストーリーに沿って、なんとなくこれに応じて証言してしまったのではないか、というあたりにツッコミどころがあるのかもしれません。

そもそも司法取引制度を創設した検事総長の「勇退のはなむけ」として立件されたMHPS事件とのことで(ちなみにFACTA10月号36頁によると、嫌がるMHPS社に検察側から司法取引への協力要請があり拒否できなかった、とのこと)、万全の状態で立件できたのかどうかはわかりません。9月27日、法務省の検察長官合同会議では、稲田検事総長が「(司法取引制度は)国民の理解が得られるような事案でのみ利用すべき」と述べたそうですが、次は刑事裁判官がこの制度に基づく第一号事件をどう取り扱うのか、たいへん興味が湧くところであります。しかし、こういった刑事弁護人をやれるというのは(どなたが弁護人なのかは存じ上げませんが)正直うらやましい・・・笑。

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2018年10月 3日 (水)

企業不祥事対応-広報vs法務の「仁義なき戦い」?

今朝(10月2日)の日経朝刊に「海外の投資家と企業の対話支援 経団連・経産省」なる小さな記事が掲載されています。経団連と経産省が、環境配慮や企業統治といった日本企業の経営戦略について、海外の機関投資家に売り込む場を作ることになったと報じられています。投資マネーを日本に呼び込むため、「企業と機関投資家との対話促進」を図るということのようです。ここのところ、ESG投資に対応したESG情報開示の方策なども法律雑誌で特集されています。中国や韓国の企業に競争で勝つためには差別化(技術革新)は不可欠ということで、経産省も対日投資促進には本腰を入れてますね。

ところで、投資促進ということとは直接結び付きませんが、企業不祥事が発覚した場合、企業のどの部署が情報開示の主導権を握るのか・・・という点については「対話促進の時代」が進むにつれてホットな話題になりつつあります。できるだけわかりやすく説明責任を果たすことを重視するならば広報・IR担当者が広報コンサルタントの支援を受けながら対応したいところです。しかし一方で「余計なことまで話してしまう」ことによる企業や役員のリーガルリスクを排除したいのであれば法務部門が大手法律事務所の支援を受けながら対応したいはずです。

そういえばISS日本法人の石田猛行氏も、ご著書「日本企業の招集通知とガバナンス」(商事法務2015)において(株主総会対応についてではありますが)「議決権行使担当者にとっては、法務部門の情報コントロールが(今後の)大きな課題である」と述べておられました。

このあたりについて、最近は(法務部門の方々の団体である)経営法友会でも話題になっているようですが、最近の「経営法友会レポート」2018年6月号でも、小林製薬さんの広報・IR部長の方が論稿を掲載しておられました(「企業不祥事の記者会見における法務部門・広報部門の対応」)。この方は、以前は同社法務部門に在籍され、旬刊商事法務に論稿を公表したり、同誌の法務担当者座談会に出席されておられたので、いわば広報も法務も責任者を歴任されました。ということで、ご論稿をたいへん興味深く拝読させていただきました。

法務と広報とでは、想定しているステイクホルダーが異なるということで、この方の結論としては「双方が連携協力することが理想ではあるが、なかなかむずかしい。企業不祥事対応としては広報・IR部門が経営トップの理解を得ながら主導するほうがよいのでは・・・」とのことです。まぁ、おそらくいろいろと意見は分かれるところかと。

実は私も(ある事件について)企業不祥事対応の支援をしておりまして、広報vs法務の仁義なき戦いが繰り広げられるところを目の当たりにしたことがございます。ただ、最後は「双方の連携と協力」によって記者会見やその後の情報開示がなされたわけですが、なぜ和解に至ったかのは「専門家の知恵(企業秘密)」として、ここでは差し控えさせていただきます(笑)。

先日も、スルガ銀行さんの6月総会を前に、会社上程にかかる取締役選任議案に対する機関投資家(信託銀行)の賛否が大きく分かれたことをご紹介しましたが(こちらのエントリーをご参照ください)、「組織力学のバランス」が、このような場面においても重要課題となるのかもしれません。上記広報・IR部長さんのご論稿は、広報や法務の責任者としての悩ましい内面にも言及されており(注-けっして小林製薬さんが大きな不祥事を経験した、というわけではございません)、たいへん参考になります。もし入手可能な方がいらっしゃいましたら(こういった問題に触れる論文などあまりないと思いますので)ご一読をお勧めいたします。

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2018年10月 2日 (火)

人は見たいものしか見えない-だからこそ監査が不可欠

富田林の逃走容疑者が、顔をさらして「道の駅」支配人の記念撮影に応じていた、というニュースに驚いた方も多かったのではないでしょうか(たとえば写真付きの毎日新聞ニュースはこちらです)。色黒く精悍な風貌ではあるものの、新聞を賑わせた犯人写真と比べればすぐに同一人物とわかるはずであり、「なぜわからなかったのか!?」「なぜ大胆にも記念撮影に応じたのか?」などと疑問を抱いた方も多いと思います。

ただ、認知心理学の世界では有名な「ゴリラのバスケット実験」(youtube動画)をご存知の方であれば、道の駅の職員の方々がわからなかったのも無理はないと思うかもしれません。実は私も「ゴリラのバスケット実験」では最初は被験者となり、バスケットチームのパスの回数を必死で数えていることに集中していて、ゴリラの存在にはまったく気づきませんでした。なるほど「人は視界に入っているものでも、意識して見たいと思ったものしか見ていない(知覚していない)」ということかと思います。彼の生き方に共感した支配人には、もはや彼を「逃走容疑者」と疑う気持ちにすらならなかったはずです。

企業でも、同僚のB氏が「Aさんは昔からよく知っている。きちんと自分の仕事はこなす人」と思ってしまうとA氏の不正を見抜くことはむずかしい。一度「誠実な人」という予断を抱いてしまいますと、そもそも懐疑心など湧くはずもないからです。この逃走容疑者の場合、おそらく自分でも「樋田淳也」ではなく「櫻井潤弥」に完全に生まれ変わったつもりだったのではないかと(だからこそ、別の道の駅で女性警備員に詰問されたときも、とっさに逃亡することなく櫻井潤弥として事務所へ向かったのではないでしょうか)。知人と一緒に日本一周の旅を続けている姿に共感してしまうと、彼と面識をもった者は、もはや逃走容疑者と疑うことも一切なかったものと思います。

道の駅での逮捕劇は、彼の身元への関心を持たず、ただその行動に疑念を抱いた警備員による不正発見が端緒でした。企業不正の発見にも、対象者の身元への関心を持たず、ただただ不正の疑惑に目を向け、職業的懐疑心を発揮すべき人が必要と思います。「彼は昔からよく知っている」ということから目が曇りそうになるのは当然です。でも、内部監査や監査役、会計監査人に携わる方々は「上司のためではなく仕事のため」「社長のためではなく会社のため」にこそ職業的懐疑心を抱きながら業務を遂行することが求められます。

「重箱の隅をつついて、小さなミスが出てくると鬼の首を取ったような物言いをする」「内部監査の次は監査役監査って?なんで同じことを何度も説明しなきゃいけないの?」などと監査担当者には批判の声が向けられます。もちろん、監査の効率性を向上させる工夫は必要ですが、監査の目的、役割を広く一般の社員の方々にも理解してもらうことも大切です。警察にとって屈辱的な前代未聞の逃走劇は、道の駅を巡回していた女性警備員の方々によって終止符が打たれたという事実は、多くの教訓を含むように感じました。

なお、最後に私の素朴な疑問ですが、彼が支配人に残した置き手紙の文面から推察するに、逃走した彼は、自分でも「櫻井潤弥」になってしまっていて、支配人のいた道の駅では窃盗行為はしていないのではないでしょうか。逃亡のための「仮面」であればすぐにバレてしまったかもしれませんが、本気で「自転車で日本一周をめざす櫻井潤弥」になっていたからこそ、誰にもバレなかったのかもしれません。これからの捜査の進展次第では「ひょっとしたら映画化されるかも?」などと不謹慎にも期待してしまいそうです。

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