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2018年10月17日 (水)

不正防止の要となる監査役監査を-日本監査役協会会長声明

積水ハウス海喜館地面師事件の容疑者逮捕のニュースが報じられ、地面師暗躍の脅威とともに、ふたたび積水ハウス社のリスク管理の問題に光があたっています。買受希望のライバル会社も虎視眈々と買受の機会を狙っている、そして社長さんのゴーサインが出る、土地所有者とされる売主(らしい人)は、確認書類として本人認証に関する公正証書も持参している・・・・そんな状況において、果たして積水さんは「これは怪しいからやめとけ」と取引を中止できたのでしょうか。

もし仮に中止をしたとして、(実行犯はあきらめて)事件にもならなかった場合、その「やめとけ」と勇気をもって取引を止めた役職員は、どのように組織で評価されるのでしょうか。別件で被害者が出れば「組織を救ったヒーロー」として評価されますが、犯罪が実行されなかったときには誰にも評価されないだけでなく、「空気を読まないやつ」「リスクにチャレンジできないリスク」などと揶揄されて終わり・・・なんてことになるのでは。。。

ライバル会社は取引寸前に「ニセ所有者」と見破ったわけですが、これは社長ご自身のフトコロがいたむからこそ周到な本人確認を社長自身が行ったことによるものと思います。一方、日本を代表する優良企業となりますと、だまされても関係者のフトコロがいたむことはありませんので、むしろ(ゴーサインを出した)社長の意向を忖度するほうが関係者にとっては大切、ということだったのでしょうか。いずれにしても、私には他社でも同様のミスが起こる可能性は十分にあるように感じております。社長案件であろうが、不正の予兆を感じたときに、これを止める役員として期待がかかるのが監査役さんです。

ところがこの「監査役」さんが、現実には企業不祥事を止める役割を果たしていないようです。10月15日、日本監査役協会HPに監査役協会会長による声明が公表されました。声明では「某銀行」とされていますが、いわゆるスルガ銀行事例の第三者委員会報告書における(常勤監査役への)厳しい指摘を契機として、不正を防止すべき役割を担う監査役職務への警鐘が鳴らされています。会長声明では、某銀行の常勤監査役の職務懈怠が「善管注意義務違反」と評価されたことへの屈辱感(くやしさ?)が示されています。ただ、私は多くの企業不祥事において、監査役監査の問題が指摘されていないことに悔しさを感じております。そもそも監査役には不正防止の役割がそれほど期待されていないのではないか・・・、といった残念な気持ちです。

上記会長声明では「三様監査」の重要性についても述べられています。会計監査人、内部監査人らとの連携を図って不正予防に努めることは大切ですが、最近の裁判で監査役が敗訴した理由も「連携と協調」にあることを忘れてはいけません。厳密にいえば「三様監査」ではなく、もっと広く取締役会との連携、監査役間の役割分担とコミュニケーションという点が問題となりましたが、セイクレスト事件裁判、エフオーアイ事件裁判で、なぜ監査役は(控訴審でも)敗訴してしまったのか。裁判官は決して「監査役が不正を止められなかった」ことをとらえて法的責任を認めたわけではないのです。監査役の法的責任との関係でも取締役や会計監査人との連携が重要であることは、また、監査役さん向けの講演等で詳細に解説をさせていただきたいと思います。

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