代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制
ひさしぶりの内部通報に関連するエントリーです。高松市に本拠を置く百十四銀行さんは、本日(10月29日)、取引先との会食に同席した女性行員が、取引先から不適切な行為を受けたとして、その責任をとるかたちで代表取締役会長さんが退任するそうです。(毎日新聞ニュースはこちら)。
読売ニュースや上記毎日ニュースと岩手日報ニュースを総合しますと、問題の会食が行われたのは今年2月。その後、5月に同行の内部通報制度によって同行の経営陣が知るところとなり、社内調査によって同行女性行員が取引先から不適切行為を受けたことが判明したそうです。社内調査の結果、宴会に出席していた会長さんと執行役員の方は、当該不適切行為を制止しなかったとして減俸処分とされたそうですが、この幕引きに社外取締役さんが納得されなかった。社外取締役さんはさらなる徹底調査を要請し、外部弁護士を交えた調査を行い、最終的には①会長さんらが女性行員への不適切行為を制止できなかったこそ、②そもそも、そのような席に女性行員を同席させたこと自体に問題があったと結論付けました。
記事は(いずれも)サラっとしたものですが、代表取締役が関与する不適切行為について内部通報が届き、これを経営陣が真摯に受け止めて調査を行い、さらに社外役員が重大なコンプライアンス問題と指摘して今回の社内対応に至ったわけですから、取締役会では相当紛糾したのではないかと推測いたします。けっして経営トップが不適切行為に及んだわけではないものの、取引先の行為を制止できなかった点を問題視して社内調査に持ち込んだ経緯や、穏便にすまそうとした社内の空気を社外取締役が一切読まずに正論で押し切った経緯、そして会食が行われた2月から通報があった5月までの間、社内で本件はどう扱われていたのかなど、もう少し詳しく知りたいところですが、いずれにしてもリリースでは「一身上の都合」としか開示されていない事情が、即日のうちに明らかになるというのは、他社にも参考になるところが多いかと。
また、記事の内容からは、銀行側としては報道されることにより「女性行員が特定されること」を極力回避しようとの姿勢がみられます。こういった内部通報は退職覚悟で断行することが多いのですが、通報を行ったとしても秘密が守られ、不利益処分のおそれもない状況が確保されていたとすれば銀行の対応としては評価できるものと思います(結果として特定されるケースも多いのが現実ではありますが・・・)。これらの状況を総合すれば、百十四銀行さんの内部統制、ガバナンスは十分に機能していたと言えるのではないでしょうか。ただ、取締役を退任したとしても、この方が「相談役」として残るというのは異論はでなかったのでしょうかね?・・・最近の上場会社では「相談役として残る」というのはセンシティブな問題なので、やや疑問も残りますね。。。
金融機関の場合、取引先との宴席に、経営陣らが「将来有望な若手幹部」を同伴することはよくありますので、当該若手幹部がたまたま女性行員であった、ということであれば問題にはならないと思います。したがって、一般的に「女性行員を同席させたこと」が(それだけで)不適切にはならないはずです。宴席を設定したのは銀行側だった、ということのようですが、おそらく人材育成目的とはほど遠く、取引先への何らかの利益供与、およびその見返り目的で同席させたからこそ問題として指摘されたのではないでしょうか。
今年1月には、大手食品会社の執行役員の方が空港ラウンジのCAの方への不適切行為に及び、同席していた社長さんが、これを制止しなかったとして辞任に追い込まれた事例がありました。こういったセクハラ系の事件はなかなか詳細が明らかにはなりませんが、だからこそパワハラ系とは異なり「グレーゾーンはアウト」もしくは「グレーゾーンを作出した行動こそ組織の品位を害する」とみなされ、一発退場を求められるケースが増えているように思います。26日の産経新聞朝刊によりますと、グーグル社では、この2年間で幹部13人を含む48人がセクハラで解雇処分(退職金なし)とされ、今後はセクハラ禁止基準をさらに厳格にすると宣言しています。職場環境や人権への配慮が、企業業績に大きく影響するとの認識を、経営陣が意識するようになった証左だと思います。
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