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2018年10月24日 (水)

ガバナンス・コードへの対応は「引き算」で考えたほうがうまくいく

昨日(10月22日)の日経法務面では、コーポレートガバナンス・コンサルティング会社の名誉会長に就任された前経団連会長さんのインタビュー記事が掲載されていました。日本企業では、まだまだ社外取締役は十分に機能していないが、「ようやく先進的な企業も出始めた」とされています。社外取締役が中心になって、いわゆるサクセッションプラン(後継者計画)を作り、複数の候補者をインタビューして決めるのだそうです。また、社外取締役にふさわしい人物としては「経験豊富な元経営者で、企業統治の知識も備えた人が望ましい」とのこと。

このたびのガバナンス・コードの改訂でも、後継者計画の作成やCEOの選解任手続の透明化が要請されているので、企業が前向きに取り組むこと自体は賛成です。ただ、社外取締役が中心になって社長を選任することでかならずしも「中長期的な企業価値が向上する」ことはありません。当然のことながら人選に失敗して企業価値を低下させてしまうこともあります。要は様々な取締役会改革が機能して「健全なリスクテイク」を繰り返せばランダム性が高まって業績の変動幅も大きくなります。株主が歓迎するのは、こういったサクセッションプランに社外者が関与することで、企業価値の向上と低下の変動率が大きくなり(ボラティリティが高まり、これをオプションでコントロールすることで)、その期待値が株価に反映するからではないかと。

ただ、この株主の「期待値」は、あくまでも「国家の政策として、企業の持続的成長を歓迎している」ことが前提です(成長性が見込めない企業は早めにつぶして、資源の流動性を高めるほうが国策としては良い・・・という意見もありますので)。そうだとすると、持続的成長を阻害する要因を企業自身が排除する仕組みが強く求められます。

以前、「社長解任手続など、社内でルール化できるのだろうか」と、批判的な意見を述べましたが、よく考えてみると、業界に精通していない社外取締役が活躍するのはこっち(解任)だと思います。どんな人が社長に向いているか・・・というのは、正直言って社外取締役にはわからないし、「この人がふさわしい」と判断しても、それは認知バイアスによる後付けの理由で決めているケースが多いはずです。解任とちがって、選任のケースでは、現社長は退任の意向を固めているわけですから、社内取締役の方々には格別のデフォルト値はありませんので、社内の意見を尊重することも大切かと思います。もし選任手続に社外取締役が関与することに長所があるとすれば、「社長が勝手に後任を指名することは許されない」という会社の姿勢を社内外に示すことにあるわけで、そうであるならば、社外取締役が積極的に人選に関与することまでは求められていないようにも思えます。

しかし解任となると、やる気満々の現社長の顔色をみる社内取締役にとっては「解任する」という選択肢はデフォルト値ではないはずです(人は考えることが困難な問題では、考えることを放棄して現状維持の決断を下すことが多いので)。だからこそ社外取締役の判断が大きなウエイトを占めることになります。また、なんといっても、「この人は適任」と判断することよりも、「この人が社長を続けると結構ヤバイかも・・・」と判断することのほうがダイバーシティ(多様性)を確保した取締役会の構成員にとっては正確な判断に至るのではないでしょうか。不祥事を起こしたときの行動、健全なリスクテイクに及び腰でROEなど考えない、政府の役割を肩代わりするような「公益の番人」としての企業責任を何ら果たそうとしない、といったことで、「CEOとして顕著にふさわしくない」という場合には、手続が明確であるかないかを問わず、社外取締役の方々の行動に大きな期待が寄せられるのではないでしょうか。

会社の中を見渡すと、現状維持のバイアスが効いて、なかなか社内の人たちでは削減することができないシステムがたくさんあります。ガバナンス・コードへの対応において、なにかを付け足すことについては社内の合意が得られても、なにかを差し引くことについてはなかなか合意が得られないケースが多いように見受けられます。そういったところにこそ、業界の常識にとらわれていない人たちの意見が反映されるべきではないかと思いますね。

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コメント

CEOの選解任手続きの透明化、特に解任については社外取締役の方の活躍を期待したいという山口先生のご意見はまさにその通りだと思います。社内取締役はその選任の経緯や社内における地位からしても、CEOの解任に主導的な役割を現状で期待することはできないと思います。
が一方で、制度だけでは解決できない問題もありそうだというケースもあり考えさせられています。

今月初めに米国GEのCEOフラナリー氏が期待された改革のスピードが遅い(?)ということで1年余りの在任で解任され、即座に社外から招聘された次のCEOが就任しました。米国における取締役会のガバナンスの強さを強烈に感じると同時に、いろいろな疑問も湧いてきました。
(特に、GEはウエルチ氏20年、イメルト氏16年と社内人材が長くCEOを務めてきた企業だけに驚きがありました。)
・そもそも前CEOを指名したのは取締役会だったはず?
・次のCEOが決まっていたということはいったいいつから探し始めていたのだろう?
・「事業改革のスピード」というが、事業戦略について解任以前に取締役会としてどのような議論がなされていたのだろう?

事業戦略をどのように議論しろとかはガバナンスコードに定めるようなものではないですが、企業理念やビジョン、そして事業戦略を十分に、適切に議論することができない取締役会であったら、CEOの選解任の話が本当にできるようには思えません。
GEの例は極端な例かもしれませんし、日本では起きそうにもないことですが、どのような制度、仕組みとするのかより良いイメージを作っていくためにはまだまだ議論が必要だと感じました。

投稿: Henry | 2018年10月24日 (水) 10時15分

 今回会社から大きな抵抗があったであろう項目は「解任」というキーワードではないでしょうか。
 解任というと、どうしても不祥事、クビ、というニュアンスが伴うため、刺激が強すぎるような気がします(某委員はこれくらいの刺激を与えて議論を活性化させようとしたのかもしれませんが。)。
 本当のニュアンスは、「選手交代」「経営者の交代」ということでいいと思いますが、いかがでしょうか。
 そうすれば、どういうときに選手交代を議論するか、あるいは任期を3期6年とか2期4年とかいわずに継続を依頼する場合の検討項目などを検討すればいいと思うのですが。

投稿: Kazu | 2018年10月25日 (木) 21時54分

Henryさん、kazuさん、いつも有益なご意見ありがとうございます。
>企業理念やビジョン、そして事業戦略を十分に、適切に議論することができない取締役会であったら、CEOの選解任の話が本当にできるようには思えません。

まったく同感でございます。おそらく、そのあたりはコードの趣旨を考えますと、取締役会の性格・性質とリンクしているものと思います。このあたりは米国ではあたりまえなのでしょうか。
>本当のニュアンスは、「選手交代」「経営者の交代」ということでいいと思いますが、いかがでしょうか。

解任と選手交代がどれほど違うのか、私はきちんと区別がつかないのですが、いずれにしましても経営支配を継続する意思のあるCEOに交代を告げるのは、やったものでないとわからないむずかしさがありますね(笑)。

投稿: toshi | 2018年10月26日 (金) 22時06分

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