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2018年10月29日 (月)

小野薬品のめざましい業績の陰(かげ)にコンプライアンス問題?

週末(10月27日)の朝日新聞朝刊に、小野薬品工業さんの社長さんのインタビュー記事が掲載されていました。「オブジーボ 裏に社員の熱意」「本庶氏の指摘 ちょっと心外」という見出しで、同社長さんが本庶氏による研究に小野薬品さんも多大なる貢献をしてきたことを熱く語っておられます。朝日だけでなく、他紙でも大きく取り上げられていましたね。文春の記事によれば小野薬品さんと本庶さんとで双方に代理人弁護士を立てて協議をされていた時期もあったそうで、オブジーボの収益配分については今後も協議が続くようです。

この朝日新聞の社長インタビュー記事(大阪版です。東京版では記載がありませんでした)ですが、社長さんがオブジーボの開発の苦労話を語っておられる内容の一部が興味深い。もう1980年代のことですが、小野薬品さんには「がん治療薬は当社ではやらない」という不文律があったそうです。ところが社員が本庶さんの研究に着目して、経営陣にバレないように薬の開発番号を変えて(本来ならば7で始まる番号を付さねばならないところ、4で始まる番号を付して)、本庶氏の研究を支援しておられたそうです。社長さんは「誰もやっていないことに挑戦する社風も後押ししたのだろう」と語っておられます。その後、商品開発に同社が本格的に取り組むのは1999年(市場に出たのは2014年)ですから、相当長い間、経営陣にバレないように研究支援を続けていたものと推測されます。

結局、小野薬品さんはオブジーボの商品化が業績向上に寄与して、武田薬品さんに次ぐ時価総額(東証)の製薬会社になったわけですが、この社員の方によるコンプライアンス違反(法令違反ではなく、経営陣が知らないところでの企業理念に悖る行動、社内ルール違反)がなければいまの小野薬品さんはなかった、ということなんでしょうか?80年代のお話ということなので、いくらコンプライアンスに厳しい製薬業界だったとしても、こういったことは(社内でも社外でも)それほど問題視されなかった、ということかもしれません。

ただ、新薬の基礎研究となりますと、実を結ぶ確率は低いわけですから、社内ルールに反するような社員の行為が現在行われたのであれば、内部通報・告発、内部監査あたりですぐに発覚してしまい、社会的に多大な貢献となる新薬の開発はなしとげられない、あるいは欧米の巨大製薬会社に持っていかれてしまう可能性が高いのでは・・・、そんなことに思いを巡らせますと、なんとも複雑な心境であります。

上記インタビュー記事には、本庶先生の「小野薬品が基礎研究にあまり貢献していない」とのご発言に反論する点に世間の関心が向いていたようです。また、研究時の裏話は「美談」として語られているものと受け止めたいところです。ただ、私的には、こういった裏話を読みますと、「コンプライアンスを秤にかけるな」とか「社内ルールの無視、無効化は内部統制の重大な不備である」と言い続けることにも、やや虚しさや限界を感じるところがありますね。

「多くの命を救って社会に貢献したい」という多大な熱意をもった社員の前では、コンプライアンス違反という言葉は無力・・・ということなのでしょうか。それともコンプライアンス経営を推進するためなら、社会的な課題を解決できるビジネスモデルの開発もあきらめてしかるべき、と考えるべきなのでしょうか。「ほれみい、コンプライアンスなんかでメシが食えるか」との声があちこちから聞こえてきそうです(笑)。

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コメント

コンプライアンスで、メシは食えない。
けれども、コンプライアンス無しで食らうメシは、体に悪い。
不文律すら見直すオープンな組織でなければ、コンプライアンスは生かせないし、長生きできないのではないか、と。

投稿: コンプライ堂 | 2018年10月29日 (月) 07時42分

不文律(Unwritten Rules)ということであれば、小野薬品においては「がん治療薬はやらない」とは言いつつも、一定の範囲であれば中間管理職が判断してよいというもう一つの不文律もあったのではないかと思います。小野薬品の社長さんも「誰もやっていないことに挑戦する社風も後押ししたのだろう」とお話しされているとのことですからそれを示唆しているようにも解釈できるのではないでしょうか。
(ちなみに、新薬の開発は有効物質が発見され上市できる確率は3万分の1と言われており、また基礎研究は開発終盤の多数の患者さんを対象とした臨床試験の費用に比べると非常に小さいのが通例と思います)

コンプライアンスでメシは食えないというのはそうかもしれません。しかし、求められる経営と言うことで考えれば、「コンプライアンスや内部統制というという領域」と「中長期的な価値創造という領域」の両方が並び立つ経営です。
(自動車でいえば、素晴らしいエンジン、的確な操作性のあるハンドルと制動力のあるブレーキが備わっているというところでしょうか…)
その実現によって広くステークホールダー、社会に貢献することができるということではないでしょうか。

投稿: Henry | 2018年10月29日 (月) 10時53分

ご意見ありがとうございます。そうですね、前向きに解釈したほうがよさそうです。このエントリーはニュースにもなってしまって、いろいろとご批判も受け、私自身も考えさせられました。でもブログの良さはなくさないようにしたいと思います。

投稿: toshi | 2018年11月 7日 (水) 11時26分

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