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2018年10月 9日 (火)

会計監査に関する情報提供の充実と「3本目の矢」

10月6日、日本内部統制研究学会の第11回年次大会が日本公認会計士協会本部(市ヶ谷)にて開催されました。前日の理事会から当日懇親会まで、1日半ほど会計士協会さんにお世話になりました。会計や監査の学者の方々、会計士の方々、弁護士の皆様、そして企業実務家の方々がすべて会員資格をもって学会を盛り上げるというのもめずらしいと思います。金融庁企画市場局長の三井秀範氏の特別記念講演も、とてもタイムリーなもので、近時の会計監査を巡る行政施策を整理するのにとても有用なお話でした。

会計監査を巡る行政施策といえば、10月9日の日経法務面で特集されていた「監査 AIを生かす 粉飾兆候を見抜く・会計士の負担減」なる記事に掲載されていた課題についても、「高品質な会計監査を実施するための環境整備」の一環として、官民で協力して克服されていくものと思われます。AIで「不正を見抜く」となりますと、「不正」かどうかは法律問題であり、また入力すべき不正データの数にも限りがあるため活用も容易ではないと思いますが、「不正の兆候を見抜く」ということなので、おそらくAIの力が発揮される可能性は高いのでしょうね。

ただ「不正の兆候」は判明しても、それを「不正」もしくは「不正の疑いあり」と認定することがきわめてむずかしいのは東芝事件で関係者の方々が痛感したところであります。ここをクリアするためには、①多くの不正は見逃してもしかたがないから、誰がみても「不正」と言える事例だけを摘発するのか、それとも②結果的には「不正」とは評価されず、(不正を認定した者が)企業から訴訟を提起されてもやむをえないことも承知のうえで、あえて広く不正事例を摘発するのか、どちらの道で運用していくのか、というところを(社会的合意をもって)決めなければいけないと思います。

非常にハードな選択ですが、不正を見抜くために、この①と②をどこかでバランスをとって調和させる道として、KAM導入(監査報告書の長文化)や非定例監査時における詳細な情報開示などに期待が寄せられるところです。三井局長による講演レジメでも「会計監査に関する情報提供の充実」に関する残された課題として、「通常と異なる監査意見が表明された場合など、監査人から資本市場に対してより詳細な情報提供が求められるケースにおける対応の在り方について、問題意識の共有を図り、必要な対応策を検討することが必要」と示されています。

監査法人版ガバナンス・コードの策定、KAM導入に次ぐ「会計監査に関する情報提供の充実に向けた三本目の矢」が、今後審議される予定のようですが、監査人の守秘義務解除の問題、公認会計士のゲートキーパー問題、そして企業の財務報告に向けたガバナンス問題をクリアして、形あるものにできるかどうか・・・、内部統制報告制度の形骸化問題と並んで、今後注目しておきたいところです。

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