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2018年10月31日 (水)

KYB免震偽装事例と公益通報者保護法の改正に向けた立法事実

連日の内部通報制度関連のネタでございます。本日(10月30日)、国交省大臣は、免震装置の偽装の有無について、徹底した社内調査を免震ゴム事業者85社に要請しておりましたところ、調査が遅れている1社を除き、すべてにおいて「不正はなかった」と発表しました。

KYBさんの事例では内部通報(その後の内部告発?)によって不正が発覚し、その直後の川金HDさんの事例では、KYBさんの事例をきっかけとした社内調査の中で、不正に関与していた社員の自主申告が端緒となって発覚に至りました。ちなみに3年前の東洋ゴム工業さん(グループ会社)の事例では、内部通報や告発は機能せず、グループ会社の技術社員が最初に不正疑惑を上司に申告してから親会社のトップが公表するまで2年を要したことが明らかになっています。

つまり、これらの事情及び(本日公開された)国交省による調査要請の結果を前提とするならば、免震ゴム偽装という不祥事は「どこでもやっている不正であり、たまたまKYBさんは運が悪かった」という性質のものではなく、ほとんどの事業者は誠実に作っているけれども、「異常値」としてKYBさんと川金さんだけで発生していた、その異常値は内部通報制度や公益通報でなければ明るみにならなかった、といえそうです。私は技術者ではありませんので「内部通報制度が国民の安全には不可欠」とまでは申し上げる勇気はありませんが、せめて「内部通報制度は国民の安心には不可欠」ということを示す立法事実はこれで示せるのではないかと考えます(「安心」といえば先日、事務所近くの中央公会堂前にブリヂストンさんの「免震ゴム体験バス」が公開され、一般の方々が振動体験をされていました)。今回と同等の効果(企業不祥事という「異常値」をもれなくすみやかにピックアップして、行政処分を通じて国民の安全・安心に資する)を、内部通報や内部告発とは別の代替的手法によって可能とするものがあれば「立法事実」とまでは申しませんが、いまのところなかなか思いつきません。

今回、KYBの社員の方は退職覚悟で(すでに退職された?)内部通報をされたわけですが、退職しなければ通報ができないという事態は現行の公益通報者保護法の欠陥であり、今後は(国民の安全確保のためにも)絶対に改善しなければなりません。そのためにも、通報者保護、不利益処分禁止を徹底した公益通報者保護法の大幅な改正は(国民の生命、身体、財産の安全確保のためにも)不可欠ですし、このような立法事実が明らかになった以上は内部通報制度の構築義務を改正条項に盛り込むことも不可欠と考えます。

また、内部統制構築義務の「レベル感」というものが議論されますが、少なくとも法令遵守体制の整備義務のレベルとして、民間事業者向けガイドラインを標準とした取締役の内部通報構築義務は会社法で議論されるべきものではないでしょうか。中小の事業者にそこまで問うのはむずかしい・・・とのご意見もありますが、今後は労働時間の規制、有給休暇の強制取得、パワハラ規制の法制化など、事業者内における支配服従関連の歪み自体が通報対象となるケースが増えてきます。そうであれば、どんなに社長さんが「すべてを見渡せる規模の事業所だから不要」と考えたとしても、不正事実が社長さんに届かないリスクは高まるものと思います。したがって、たとえ包括的な努力義務としての性質でもよいので内部通報制度の構築義務は公益通報者保護法の中で条文化すべきと考えます。

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コメント

 「安全・安心」と内部通報、といえば。セントラル硝子さんが、強化ガラスをOEMで製造委託していた大阪の富士ハードウェアーを事業買収(正式には子会社のセントラル硝子プラントサービスが買収)したところ、富士ハードウェアー社の社員の内部通報で、偽装が発覚したというのもありました。(セントラル硝子さんの10月26日付ニュースリリース)
 
 強化ガラスの自然破損(突然粉々に! 割れてしまう)の可能性を低減するために、契約上行うことになっていた「ヒートソーク処理」を実施していないにもかかわらず、処理済として出荷していたというもの。設備の処理能力が追い付かず、経営者の指示で15年間続けていたようです。JIS規格上の強度は問題ないそうですし、この処理をしなくても自然破壊する確率は低い(10万枚に3枚)そうですが。それに、割れても普通の板ガラスのように尖った破片でななく、細かい粒状になるそうで、大きな人身事故にはならないとか。


 こうした事実が明るみに出て、安全性が高まるのは、セントラル硝子さんの内部通報制度が機能したということか、と。それにしても15年間でどれだけの未処理品が出荷されたか分かりませんが、処理済みのマークを信用して施工したゼネコンや、そのゼネコンに発注した施主の立場はどうなるのでしょうかね。

投稿: コンプライ堂 | 2018年10月31日 (水) 08時19分

ウィキペディアによると、KYB社の従業員数は14,354人(グループ連結)とあります。
果たしてこの中の一体何人が不正に染まり、何人が異常への問題提起を考え、是正に努めたのでしょう。
高層ビルや省庁、マンション等での免震ダンパー納入における不正は、ある意味で国土強靭化を推進する国の施策に逆行している様に映ります。現時点では大きな被害は無さそうですが、広義の国土安全管理と、人命尊重に対する冒涜と記すると大袈裟かも…恐縮です。
先日報道で、オセロゲームの世界選手権に若干11歳の少年がチャンピオンになったと知りましたが、KYB社の従業員諸氏を、その駒に例えると…今は「◯」と「◉(黒マル」のどちらが多いのでしょう?かつては「◯」が圧倒的多数、しかし、どこかの時期から「◉」に挟まれ、変移していった?・・・(日本の労働人口比率でも同様かも?)
仮に国家の権限で、免震ダンパー部門だけKYB社から切り離し、コーポレート・ガバナンスが正常機能している企業に引き継がせる…という法令でも作らないと、安心出来ない人も多いのでは?と思ったりします。
今のKYB社からの「正しい納入を待つ…」なんて悠長な事を続けても、南海トラフの様な大地震は待ってくれないと、危惧します。
私は、巷のアイドルグループには疎いですけど、スイスの「レファレンダム」や住民投票の如く…「KYB14354」に対する「国民総選挙」を実施し、
不正慣行に「待った!!」をかけたい心境です。
10月下旬は震度1〜2ながらMg(マグニチュード)3.5〜4.5の地震が連続しています。また新たな未曾有の大地震が発生しない事を、願って止みません・・・。

投稿: にこらうす | 2018年10月31日 (水) 09時49分

「退職しなければ通報ができないという事態は現行の公益通報者保護法の欠陥」という山口先生のご意見は、まさしく本法の大いなる矛盾・問題点であろうと思います。
国民の生命、身体、財産の安全(と【安心】の)確保のため、内閣府消費者委員会「第21回公益通報者保護専門調査会」(11月6日)で議論されれば。。。と祈っています。

通報したがために組織の中で孤立化すること、急に異動や出向命令がなされるなど有形無形の不利益を受けるのは本当に辛いことです。

財務省コンプライアンス推進会議も頑張って下さい。

投稿: 試行錯誤者 | 2018年11月 1日 (木) 22時19分

『通報者保護、不利益処分禁止を徹底した公益通報者保護法の大幅な改正は(国民の生命、身体、財産の安全確保のためにも)不可欠』、まったくその通りだと思います。
実行性のある改正が望まれます。

TVドラマハゲタカのセリフで「どんな業種でも、大なり小なりやましいことや、自己嫌悪で胸の奥がひりひりすることはある。その胸のうずきを場末の居酒屋の生ビールで流し込んで忘れたフリするのが、働くってことなんじゃないのか」という言葉がありました。

テレビ報道の、「もうこんな不正にかかわるのは嫌だ」と上司に訴える社員、「まあ、不正と言われれば不正かもしれない」と回答する上司のやりとりの報道を見てハゲタカのセリフを思い出しましたが、
ドラマよりも遥かに深刻な不正・不祥事が企業の現場で蔓延していると言わざるを得ません。

公益通報者を保護できない現行法の不備を改善しなければ、法の不備の足元をみた取締役等が知らなかったフリをして責任を逃れて跋扈する昨今の状況が改善することは無いでしょう。

今般、本気で公益通報者を保護できる法制度が整備されなければ、日本の企業経営者の不正へのチャレンジは増加の一途でしょう。これだけの事実を見ぬふりをして本気の改正が行えなければ日本のものづくりの劣化スピードは加速するでしょう。

投稿: たか | 2018年11月 4日 (日) 18時02分

皆様、ご意見ありがとうございます。たかさん、試行錯誤者さんのご意見、重く受け止めて、これからも公益通報者保護法の改善に向けて尽力したいと思います。

また、コンプライ堂さんは本日のコメントもそうですが、いろいろなことをご存知ですね。気になったことについてはこちらでも調べたいと思います。

投稿: toshi | 2018年11月 7日 (水) 11時30分

にこらうすさんのオセロの例は本当にあると思います。日本企業の文化がそうさせるのであり、そうでないと仕事がはかどらない、和を保つことができない・・というのがホンネのところではないでしょうか。

投稿: toshi | 2018年11月 7日 (水) 11時34分

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