« 不正防止の要となる監査役監査を-日本監査役協会会長声明 | トップページ | 続・KYBの不祥事公表の姿勢-私は(やっぱり?)評価したい »

2018年10月18日 (木)

KYBの不祥事公表の姿勢-私は(条件付きで)評価したい

(18日午前 更新)

すでに報じられているとおり、部品メーカー大手のKYB社(及び同子会社)が、建物用免震装置の検査データ偽装を公表し、大きな騒ぎになっております。19日には該当建物名の公表が予定されているそうですが、改ざんは20年近く続いていたこともあり、同社が大きな社会的批判を浴びることも当然のことと思料します。国交省認定基準に反するデータ偽装であったこと、大手ゼネコンをはじめ、関係先に「先に知らせなかった」こと、補償が求められる可能性が高いこと、そして公表時に全容が判明していないことからも、株価が急落して当然なほどに重大な不祥事です(国交省のリリースはこちら)。

グループ経営管理は企業統治改革の中でもホットな課題ですが、KYBグループ全体のわずか2%程度の売上にすぎない免震装置事業がグループの信用を失墜させるとなれば、今後ますますグループ・ガバナンスに関心が向けられることになりそうです。

ただ、不正を知った社員が上司に報告をしたことによって社内調査が先行したものである、つまり、同社が自浄作用を発揮して不正公表に至った当社の姿勢については(被害者の皆様からのご異論は承知のうえで)一定の評価をしたい。不正に手を染めていた人が申告をした・・・というわけではなく、不正に関する会話を聞いていた社員が上司に報告をした、ということのようなので、偶然といえば偶然に発覚したということですが、それでも経営トップは正直に国交省へ報告したわけですから有事対応としては「ステイクホルダーを重視した」と言えるようにも思えます。

(18日午前 追記)なお、18日朝にテレビニュースで紹介された「社員と上司とのやり取りを録取したデータ」を聴いたかぎりでは、会社側が「このままだと社員が内部告発に至るかもしれない」と感じたことが公表の原因かもしれません。

最近、海外の機関投資家から「この会社は不祥事が起きた時、止める力はあるのか、誠実に不祥事に向き合う姿勢はあるのか、そのように言える理由はどこにあるのか」と質問を受けることがあります。もちろん不正はないことが望ましいわけですが、そうはいっても競争している以上はかならず不正(もしくはコンプライアンス上の問題行為)は起きます。そういった意味では、起きたことへの向き合い方は大切です。

なお、評価にあたっては一つ条件があります。「組織として不正隠しを行ったものではない」という点が明らかになることです。神戸製鋼さんの事件発覚のときにも同じことを申し上げましたが(そして、残念ながら予想が当たってしまいましたが)、20年近くもデータ改ざんが続いていたということは、本当に経営陣は知らなかったのだろうか・・・という点について、合理的な理由によって疑念が払しょくされることが条件です。今後は第三者委員会による調査が進むはずですが、この「組織的関与」という点がステイクホルダーにとっても最大の関心事ではないかと。

たとえば①品質管理、品質保証部門の責任者の方が、その後に親会社役員に就任していた場合、②世間でデータ偽装が問題となり始めた2年ほど前から今回の発覚に至るまで、データ改ざんの有無に関する独自調査を行っていた場合、③親会社と子会社で同時期に同種のデータ改ざんが行われていた場合、④改ざん方法が歴代の担当者間で類似している場合などは、組織ぐるみの改ざんと評価されるような事情はなかったのかどうか、慎重な調査が必要です。リスク認識が甘かったことも問題ですが、それは内部統制の不備と評価されます。リスク管理は十分にできていて、内部統制も整備されていたにもかかわらず、なぜ内部統制を無視、無効化したのか・・・、こういったことを裏付ける事実が明らかになった場合には、「組織ぐるみ」「経営者関与」といった評価につながりますので要注意です。

追記

今朝のテレビ報道で、社員と上司とのやり取りを録音したデータが公開されていました。「もうこんな不正にかかわるのは嫌だ」と上司に訴える社員、「まあ、不正と言われれば不正かもしれない」と回答する上司のやりとりはぜひ多くの人に聴いていただきたいと感じました。

|

« 不正防止の要となる監査役監査を-日本監査役協会会長声明 | トップページ | 続・KYBの不祥事公表の姿勢-私は(やっぱり?)評価したい »

コメント

 KYBといえば、3年前に自動車部品カルテルで、米国司法省にそのコンプライアンスプログラムの有効性を信用されて、罰金が7割くらい減額になった日本企業ではありませんか。
 売り上げの6割強は、自動車向けAC(オートモーティブコンポーネンツ)事業。3割強は、建設機械などの油圧機器HC(ハイドロリックコンポーネンツ)事業。売上・利益共に、この二つの主力事業で、90%強を稼いでいます。有価証券報告書の報告セグメントに入らない「その他」事業は、祖業である航空機の離着陸装置など15品目。「免制振装置」は、その14番目に。
 主力事業出身の経営トップからすれば、子会社の片隅で行われている不正に気付かないのも無理はありません。また日陰の花のような商品に携わって、不正に気付いていた人が、会社の幹部になっている可能性は限りなく少ないと思います。日産自動車やSUBARUでは、主力の乗用車でありながら、完成検査に従事している現場と、経営者との間に気の遠くなるような距離があったわけですし。子会社の、数人しかいない限界集落で、代々の秘儀として伝えられてきたデータ偽装に、トップは気付かなかった。組織ぐるみではないように、思います。
 限界集落の伝承秘儀という意味では、東洋ゴムの免震ゴムと同様ですが、東洋ゴムの場合はそもそも開発段階からインチキでした。東洋ゴムであれだけ騒ぎになったのに、しかも国土交通大臣認証の商品なのに、自社は大丈夫かと、懐疑心をもって徹底調査しなかったのは、経営者の失敗でしょう。
 自動車向けAC事業では、株主がトヨタ自動車でもあり、検査でこんな不正は考えられないでしょう。基準値から外れたら、時間がかかってもばらして組み直せ。そしてなぜ基準値に入らなかったのか、どうやって基準値に入る製品がコンスタントに作れるか、を組織の目標にするはず。失敗から学んで改善する、というマインドセット。トヨタと言わず、生産現場で当然もつべきこのマインドセットが、免制振という限界集落では、無くなっていたということでしょう。いやまあ、ここに限らないかもしれませんが。
 DOJに認められたコンプライアンスプログラムは、カルテル限定だったかもしれませんが、所謂コンプライアンス意識を高める行動は、限界集落まで少しは届いていたのかもしれませんね。社員と上司とのこうした会話から、今回の件が発覚したのは。そういえば東洋ゴムも、自動車部品のカルテル絡みで当時はコンプライアンスプログラムを実施したでしょうし、新たに検査担当になった方の指摘で、発覚したのでした。ただ、経営者の大迷走がひどすぎましたが。
 不運なことに、東洋ゴムの免震ゴムと、KYBのオイルダンパーが組み合わせて設置されている建物もあるようで。ただ免震ゴム交換の難しさに比べれば、オイルダンパーの交換は、まだましなのが救いでしょう。本数は多いですけど。
 これを機に、日陰の花となっている非主力事業は、リスク評価をしっかりやって、リソース投入して抱えるか、他社に譲渡するか、判断しなければならないでしょうね。
 

投稿: コンプライ堂 | 2018年10月18日 (木) 12時49分

東洋ゴムさんの時にKYBさんの監査役は「ウチの会社は大丈夫か」って言わなかったんでしょうかね。執行部にとって後ろ向き案件の優先度は低いですから、これこそ監査役の出番だと思うのですが。

投稿: skydog | 2018年10月18日 (木) 19時23分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: KYBの不祥事公表の姿勢-私は(条件付きで)評価したい:

« 不正防止の要となる監査役監査を-日本監査役協会会長声明 | トップページ | 続・KYBの不祥事公表の姿勢-私は(やっぱり?)評価したい »