ファーストリテイリング社の社内取締役復活-指名委員会は機能したのだろうか?
ファーストリテイリング社の2018年8月期の決算短信が公表されましたが、「その他」項目においてCEOの長男、次男の方々が同社の取締役に選任されることも発表されました(もちろん11月末に予定されている定時株主総会での承認が条件です)。おふたりとも、これまでグループ会社の業務執行に携わっておられたので同社では(CEO以外に)ひさびさに社内取締役が復活することになります。
日経ニュースによりますと、CEOは記者会見で「もし私がいない場合でもガバナンス(企業統治)がきくという意味。決して2人が経営者になるということではない」と述べられたそうです。また、別の日経ニュースでも
――CEOの長男氏と次男氏が取締役に就任する人事を発表しました。経営体制の未来像を教えて下さい。
CEO「(自身の)退任は考えていない。必要とされるうちは社長をしたい。OやG、その他の執行役員も成長している。自分がいなくても十分に経営できる。取締役に2人の息子を選任するが、勘違いしないでもらいたいのは、決してこの2人が経営者になるという意味ではないということだ」
と語っておられます。社外取締役中心の取締役会がモニタリング機能を発揮する、ということで、長男、次男の方々は会長や副会長となって監督する役割を果たしていく、それがガバナンスの在り方だ・・・といった趣旨のご発言と理解いたしました。これはオーナー家の存在する上場会社としては大塚製薬グループさんの経営形態にかなり近いものですし、大株主創業家が存在する上場企業のガバナンスとしては決しておかしなものではないと思います。
なお、ファーストリテイリングさんの場合、社外役員が中心となって構成されている人事委員会(指名委員会)が組織体制や人事体制について審議・提言する立場のようですから、そもそも創業家から経営者を出すかどうかは人事委員会の意向が強く働くことが筋だと考えます。しかし、上記のCEOのご発言からしますと「うーーーん、やっぱり創業者が取締役や後継CEOをひとりで決めるのだなあ」と感じてしまいます。そして、これだけタレントぞろいの社外取締役さん方は、(人事委員会を通じて)後継者計画について何も発言する権限と責任はないのだろうか、とも「勘違い」してしまいそうになります。ぜひとも人事委員会がどのような活動をされたのか、どこかのタイミングで明らかなればいいですね。
とくに今年はガバナンス・コードが改訂され、上場企業はどこも「後継者計画の策定」「社長解任手続の透明化」「任意の委員会の設置と役割の明記」あたりのテーマで悩んでおられます。オールコンプライされているファーストリテイリングさんが、ガバナンス・コードへの対応という意味において、「世襲ではないか」と(少なくとも外からは)思われる取締役選任状況について、どのような説明をされるのかは注目しておきたいところです。
以前、NEWSPICKSのインタビューにサントリーHD副社長のNTさん(次期社長となるであろう創業家の方)が「創業家は経営の狂気と理性とのバランスを図ることが理想的ではないか」と回答されていたのが印象的でした。社長が暴走するときには創業家が理性となってこれを止め、官僚的なムードで社内が沈滞したときには狂気となって会社を活性化する、ということをお話されていたように記憶しています。もちろん大株主として外から発破をかけるということもありえますが、創業家が取締役という立場で経営に参画する以上は、やはり会社の状況次第では経営者として会社をひっぱることも(会社のためには)十分にありうるのではないでしょうか。大きな企業の長期にわたる成長を維持する場合には、経営を引き継ぐという意味で「創業家の世襲」もあってよいと思います。
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