« 企業不祥事のケーススタディ-実例と裁判例(新刊書のご紹介) | トップページ | ガバナンス・コードへの対応は「引き算」で考えたほうがうまくいく »

2018年10月23日 (火)

積水ハウス地面師事件-企業を騙すには「点と線」が有効である

積水ハウスさんの地面師事件については、犯人グループが逮捕されて以来、いろいろと新しい情報が出ています。昨日(21日)のニュースでは、取引を中止した買受希望者(不動産会社社長)の方が交渉の場を隠し動画で撮影していた事実が報じられ、当該データが公開されていました。所有者に扮した女性が「田舎はどこですか?」と買受希望者から聞かれてボロを出してしまった様子も、証言として紹介されていました。

そして本日(22日)の産経新聞朝刊に「積水側と数年前から面識-地面師、仲介役に勧誘か」と題する記事に、新たな情報がふんだんに掲載されています。さすが「事件モノの産経」だけあって、警察筋から得た(と思われる)情報は興味深い。平成25年ころから積水ハウスさんの社員とつきあいのある不動産業者を(実行犯グループが)仲間に引き入れ、積水ハウスさんをじっくり時間をかけて騙す様子が報じられています。

私は企業のリスク管理、内部統制システムの構築・・・という視点で、「どうすれば地面師に騙されないシステムを(企業側が)構築できるか」を考えながら、本事件の流れを辿ってきました。その流れにおいて、本人認証の公正証書、偽造パスポート、免許証の存在、売主側弁護士の存在、真正所有者からの度重なる内容証明郵便を受領していたこと、本人不在での異常な交渉経過、社長案件による関係者への事後決裁の事実などに関心を寄せていました。しかし、これらはいずれも「点」であり、時間軸の存在についてはほとんど想像しておりませんでした。つまり、実行犯グループの中に、5年ほど前から積水ハウスさんから信頼を得ている者が存在する、という「線」の存在には気づきませんでした。

なるほど、たしかに積水ハウスさんがなぜ騙されたのか・・・という疑問が、これで少しわかってきたように思います。「仲介者に間違いない人がいる」という安心感は、おそらくすべての懐疑心を骨抜きにしてしまいます。社内で不正が発生したとしても、なかなか不正を見つけられないのは「あの社員なら長年の仕事ぶりを知っているから間違いない」といったバイアスが監査の目をくもらせるからです。私が担当するパワハラの社内調査においても、調査担当者が「パワハラにはあたらない」「パワハラを受けた側にも問題があったのでは」といった結論に至りがちですが、やはり加害者(上司)の長年の仕事ぶりを評価している調査担当者に強いバイアスがはたらいているところを経験します。

犯人グループが、どういった経緯で積水ハウス側との付き合いのある不動産業者をとりこんだのかはわかりませんが、時間軸を活用して(つまり一定の時間をかけて)積水さんを騙すためのテクニックを弄したとすれば、やはり相当なワルだなぁと恐怖を感じますね。上記産経の記事では、暴力団関係者が「事前の面識の有無が犯行の成否を分けたのだろう」と証言していますが、私も同感です。

なお、先述の隠し動画では、交渉のテーブルの真ん中に弁護士の方が座っておられましたが、こういった事件では専門家もうまく利用されることが多いようです。地面師事件に利用された弁護士の法的責任につきましては、以前、弁護士側が勝訴(最高裁確定)した事例をご紹介しましたが、近時、弁護士側に極めて厳しい高裁判断が下されました。追って判例雑誌に掲載される予定と聞き及んでおりますが、自戒をこめて、不動産取引に関与するためには最大限の注意が必要と痛感する次第です。

|

« 企業不祥事のケーススタディ-実例と裁判例(新刊書のご紹介) | トップページ | ガバナンス・コードへの対応は「引き算」で考えたほうがうまくいく »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 積水ハウス地面師事件-企業を騙すには「点と線」が有効である:

« 企業不祥事のケーススタディ-実例と裁判例(新刊書のご紹介) | トップページ | ガバナンス・コードへの対応は「引き算」で考えたほうがうまくいく »