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2018年11月29日 (木)

文春記事を読んでの感想-日産の「裏ガバナンス」の実効性

お昼にブログを書くことはほとんどありませんが、本日発売の週刊文春の記事を読みましたので、備忘録程度にひとことだけ感想を書かせていただきます。

これまで、当ブログで「素朴な疑問」として書き連ねていた多くの点が文春記事で解消されました。前会長追放のための1年におよぶ一部役員らの調査、日本版司法取引の施行という「偶然」の時代背景、そして、そこに関与する法律専門家(うーーん、またあの法律事務所 笑)、なるほど・・・。

やれ「指名委員会等設置会社への移行」だの「社外取締役を中心とした報酬委員会の機能」だのと、最近のガバナンス改革の目線で(お行儀よく?)物事を考えがちですが(私自身もそういった傾向にありますが)、やっぱり機能したのは「裏ガバナンス」だったと痛感いたしました。関係者の皆様(とりわけ日産で法務一筋でやってこられた専務執行役員および元副社長である監査役の方)には敬意を表します(ただ文春の記事が真実だとしても、私は有罪立証には、まだまだハードルが高いとみております)。

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日産・金商法違反事件-未確定報酬の後払いと違法性の認識

昨日(11月27日)の産経新聞「正論」では、早大の上村教授による「ゴーン事件は日本に何を問うか」と題する論稿が掲載されており、上村先生は冒頭「日産のゴーン会長については、さまざまな論評がなされているが、法的な問題を押さえない話が横行しているかに見える」と述べておられます。というわけで(?)、また少しばかり(拙いながらも)法的な問題に触れておきたいと思います。

本日(11月28日)の産経新聞朝刊では、前会長の金商法違反容疑事件で揺れる日産は企業統治改革の一環として「指名委員会等設置会社」への移行を検討している、と報じられています。指名委員会、報酬委員会、監査委員会を必須の機関とすることにより、代表取締役の業務執行の監督機能を強化することが狙いとのこと。ただ、移行のためには株主総会において定款変更(特別決議)が必要なので、ルノー社との協議次第、といったところでしょうね。なお、いつも拝読している梅本剛正教授(甲南大学)のブログで、日産事例と最近のオリンパス事例を比較して、両事件に対する機関投資家の関心について分析をされておられます。まさに正鵠を得た意見だと感じました。私も梅本先生と同じことを考えていたのですが、諸事情ございまして(笑)、オリンパスの件はコメントできない立場なので、ぜひとも梅本先生のブログをお読みいただければとcoldsweats01sweat01。日産の件も、ゴーン氏がどうのこうの・・・ということよりも「これからのアライアンス」にこそ、機関投資家の関心が向いているのですよね。

ところで(ここからが法的な問題になりますが)、各紙報じるところでは、ゴーン氏の刑事責任の追及にあたり、同氏が有価証券報告書の虚偽記載罪について、違法性に関する認識の成否(故意の立証)が争点になる、といった論調が目立ってきました。ゴーン氏の報酬の半分程度は後払いによって日産が支払う旨の合意書が存在していることは事実のようですが、当該合意書によって退任後報酬の金額は確定しているので報告書への記載義務があるのか、それとも未確定なので合意書締結の時点では後払い分を開示する必要はないと考えるべきなのか、といったところで検察と前会長らとの主張が対立しているそうです。この主張の対立は金商法違反行為の解釈に関するものですが、違法性の認識、という争点を考えるにあたっては、会社法に関連する論点も検討しておくべきではないでしょうか。

前にも述べた通り、報酬後払いに関する合意書の具体的な内容がわかりませんので確かなことは言えませんが、「支払方法だけが未確定」ということであれば、退任後報酬の金額は確定しているわけですから、これは報告書記載義務がすでに発生しているといえそうです。仮に(支払方法だけでなく)退任後の報酬金額自体が未確定、あるいは権利行使条件が付されているということであれば、たしかに記載義務はないようにも思えます。ちなみに本日の読売新聞などを読んでおりますと、後払い報酬の受け取り方法はまだ決まっておらず、日産所有の高額絵画で受け取る方法や顧問料の上乗せによって受け取るなどの取り決めが文書化されていた、といった新事実が報じられていました。

こういった記事では前会長の金商法違反に関する根拠事実が示されているわけですが、冒頭の産経「正論」にて上村先生が「ゴーン氏は企業法制をなめきっている」と強調されるとおり、会社法の視点からもいろいろと問題点を指摘できそうです。「ん?会社法のルールって、そんなに簡単に無視していいの?」といった問題です。

まずひとつめが未確定報酬ということであれば、別途株主総会の承認決議がとられているのだろうか--会社法361条1項との関係--という点です。金額の確定した報酬であれば、上限枠(本件では29億9000万円の限度内)の承認は得られておりますので、その範囲内で(取締役会の再一任がある以上)ゴーン氏の判断で具体的な報酬額を決定することもできます。しかし、後払い報酬の金額が未だ確定していないとなりますと、別途具体的な算定方法について(そのような算定方法を相当とする理由を説明したうえで)承認決議が必要ではないかと。しかし、そのような決議はインセンティブ受領権(SAR)による報酬分しか決議はとられていません。また現金以外の報酬(絵画)を受け取るのであれば、これも別途株主総会の承認が必要になります。ゴーン氏やケリー氏の主張を前提とするのであれば、このような会社法違反の点をどう評価すべきか・・・といった問題です。

ふたつめの問題として退職慰労金制度との関係です。退職慰労金も、取締役の職務執行上の対価(会社法361条1項柱書)と解されていますので、ゴーン氏への後払い報酬についてもこれに準じて考えてもよいのではないか、といった問題です。退職慰労金は株主総会において金額を明示せずとも「取締役会一任」で決議をしてもよいとされていますので、資金を積み立てず、後日金額を確定すれば足りるとも考えられそうです。ただ、判例の立場では、株主がどのような支給基準によって退職慰労金が支給されるのか、当該支給基準(社内ルール)が確認できる状況になければ包括委任決議は有効とはいえない、とされています。したがって、日産側とゴーン氏との合意だけでは社内ルールとは言えず、取締役会で決定した支給基準が必要なので、ゴーン氏は会社法のルールと矛盾する行動に出ているように思われます。

そして最後にゴーン氏と日産との「利益相反取引規制」に関する点です。20億という金額がすべて確定した報酬ということであれば、会社法356条の規制の問題は生じません。しかし、新聞報道にあるように、退任後に顧問契約を締結し、その顧問料の上乗せ分として報酬を支払うというものであれば、これは純粋な役員報酬ではなく、顧問料としての性格を有することになりますので、会社法が規制する「利益相反取引」に該当し、取締役会の承認が必要になるはずです。たとえ顧問契約を伴う合意ではなくても、報酬金額が未確定であり、何らかの権利行使条件をクリアしてはじめて報酬額が支払われるのであれば、これも利益相反取引に該当するものと思います。現金の代わりに絵画を受け取る・・・という合意も同様です。したがって、いずれにしても報酬額が未確定ということであれば、ゴーン氏はなぜ事前に取締役会の承認を得なかったのか・・・という点が問題になると考えます。

利益相反取引の問題は、後日、会社が合意書の無効(通説では相対的無効)を主張しうる・・・といったことも効果としては発生するのですが、そもそも報酬金額が確定していない、ということを主張するのであれば、後日確定させるためのプロセスをなぜとらなかったのか、といったところで合理的な説明が必要になり、前会長側において、そのあたりの説明がなされなければ違法性の認識に関する証拠のひとつにもなりそうな気もいたします。逆に、ゴーン氏側が無罪を主張するのであれば、あえて会社法のルールを遵守せずとも、後日に後払い報酬を受領できる根拠を示す必要があるのではないか・・・と考えます。

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2018年11月27日 (火)

ゴーン氏は自ら掲げた「日産リバイバルプラン」によって放擲された。

本件のエントリーを重ねるたびに、どうもミクロの視点になってしまって、普通のブログの読者の皆様にはわかりづらい話題ばかりに焦点をあててしまったようで反省をしております。ということで(?)、本日はもうすこしわかりやすい、といいますか、広い視野で今回の日産前会長金商法違反事件について眺めてみたいと思います。

昨年2月の当ブログのエントリー「日産自動車の次期社長は現社長ではなく取締役会が決めた?」におきまして、私は「カルロス・ゴーン経営論」(公益財団法人日産財団 監修)をご紹介し、ゴーン氏の経営論にとても感銘を受けた、と記しました。このたび同書を読み返してみて、私はゴーン氏が逮捕された今でも、その経営論については説得力のある内容と感じております。

ただ、いま読み返しますと、「有事にこそ問われる危機管理、レジリエンス(268頁以下)」におきまして、ゴーン氏が「有事にはレジリエントなリーダーでなければならない」と述べているところに関心が向きました。企業の再生にはターンアラウンドな戦略とリバイバルと呼ばれる戦略がある、これまで日産はターンアラウンドな戦略で危機を回避してきたが、自分はリバイバルプランを掲げた、ターンアラウンド戦略とは、資産を削減したり、従業員を削減したりして状況の悪化を食い止める縮小戦略であるが、その効果が続くのは2年か3年とのこと。

日産は1999年以降、リバイバル戦略をとり、V字回復を果たしたが、視野に入れているのは「元の日産に戻る」だけではなく「危機を経験してさらに強くなる(レジリエント)」ことであり、今(2017年)もその戦略の効果は及んでいる、とゴーン氏は語っています。2008年(リーマンショック)、2011年(東日本大震災)と、我々は厳しい時期を迎えたが、そこから脱却できたのも危機を経験して組織がさらに強くなったから、だそうです。

私はこのゴーン氏の危機管理、レジリエンスの考え方にはとても共感を覚えます。ゴーン氏の戦略は確実に日産に根付いた。つまり、日産が数度の危機に直面して、さらに強くなったからこそ、組織の有事において「変節したカリスマ経営者」を放擲することが可能になったのではないでしょうか。ゴーン氏が日産に根付かせたリバイバル戦略が、皮肉にも自身に退出を余儀なくさせるだけの組織に変えたのではないかと。上記「経営論」では、ゴーン氏はルノーと日産は統合してはいけない、と述べていたのですが、最近は(研究開発部門を統合するなど)言行一致とは言えない状況になっています。そもそもルノーと日産のCEOを兼務するあたりから、日産の幹部の方々が不信感を持つようになったのかもしれません。ゴーン氏を組織から放擲するためには、もはや「司法の力」を用いること以外には方法はない、といった判断に至ったのではないかと。

上記「経営論」では、ゴーン氏は「根っからのイエスマンはいない。それは企業が作り出しているのだ」(140頁)と力説しています。社員のモチベーションを高めて、企業改革を図る気持ちが社員に伝わり、今回の一連の流れを作り出したのかもしれません。また、志賀COO(当時)は、「ゴーン氏は本質と大義を重んじる」と評し、「燃費偽装のようなことは、企業の本質に反するもの」と考えていたことに言及されています(242頁)。にもかかわらず、このたびの燃費偽装事件でゴーン氏のコメントは出てこなかったことも社員の失望を生んだ可能性があります。もちろん、本事例をミクロの視点からすると数々の不正行為の疑惑があり、また、これを放置し続けていた取締役会のガバナンスの問題を指摘することも可能ではありますが、マクロの視点からしますと、「内部通報⇒不正調査チーム⇒司法取引の活用⇒ゴーン氏排除に向けた役員間の意思共有」といった一連の動きが、「ルノーと日産の統合間近」といった日産の一大事(有事)において自然発生したと評価できそうです。

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2018年11月26日 (月)

日産前会長金商法違反事件に思う-ジェネラルカウンセルの必要性

まだまだ続く日産前会長金商法違反事件への感想です。11月25日(日曜日)の各紙において、

前会長の金融商品取引法違反容疑の根拠とされている「虚偽記載」(報酬の不記載)とは、すでに決定されていた報酬額の半分を「後払い」とする合意が前会長と日産側との間で締結されていたものであり、当該後払い予定の報酬額を決定時に記載しなければならないにもかかわらずこれを未記載としていたもの

と報じられていました。ただし、報道されているところでは、この合意について何らかの(後払いに関する)条件が付いていたのかどうか、という点は明らかにされていません。ケリー氏が「ちゃんと法律や会計の専門家に相談しながら処理していた」と発言し、また前会長自身も違法性の認識を否定しているようなので、このあたりは「合意には受給条件が付されているので将来の支払いが確定していたわけではない」(だから虚偽記載にはあたらない)との抗弁もあるかもしれません。ちなみに日曜日夕方の日テレ「バンキシャ」では、ケリー氏が「将来支払われるかどうかわからない報酬なので合意時に開示する必要はない」と述べていることが紹介されていましたが、上記のような反論を示していることも考えられます(このあたりは会計専門職の方々の意見も参考にしているのではないかと)。

昨日のエントリーの続きになりますが、権限の集中した経営トップの不正に対して、本来ならば監視役になるべきナンバー2が(少なくとも)不正の疑いのある行動に出る、ということになりますと、なるほど日産のガバナンスの現状ではトップの暴走を止めることはできないのかもしれません。昨夜のNHKスペシャル(ゴーン・ショック)では、不正調査に関わった関係者が「取締役会に報告をせずに司法取引まで進めていた」と証言されていましたので、ルノー関係者が4名の取締役会には前会長やケリー氏の行動が報告されなかったとしてもやむをえなかった。ましてやナンバー2の方が弁護士資格を持ち、人事権を掌握しているような立場にあるので、他の役員は声を上げることさえなかなかできないのが実態だったようです。

昨日のエントリーで、私は日産のガバナンスの健全性には疑問ありと書きましたが、「日産は(ルノーとの株式保有関係やV字回復を実現させたカリスマトップの存在など)特殊な会社だからガバナンスの問題を指摘するのはかわいそうだ」といった有識者の意見も聞こえてきます。しかし、だからといって、組織の存亡につながりかねない不正が見逃されてもよいわけではありません。したがって今後は(報酬委員会を設置するなど)コーポレートガバナンスの抜本的改革がなされるものと思います。ただ、(委員を経験された方ならわかると思いますが)報酬委員会というのは、指名委員会が機能して初めて機能する性質の委員会です。日産のように強力な親会社が存在する中で、トップの選任・解任プロセスの透明化を図るため、もしくは後継者育成計画を実施するために、そもそも指名委員会が機能するのかどうか、かなり疑問が残ります。

私は先週のエントリーでも書きましたが、そろそろ日本の企業もジェネラルカウンセルやチーフリーガルオフィサー(CLO)なる役職を置くべき時期にきているのではないかと考えます。当初、前会長と一緒に逮捕されたケリー氏はジェネラルカウンセル的な立場にあったのではないか・・・と述べましたが、これまでの報道をみますとどうも(弁護士資格は保有しているようですが)そういった役割を担っていたわけでもなさそうです。今年4月、経産省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」が公表され、日本企業がグローバル競争に勝ち抜くために、法務の力を戦略に活かす必要性が高い、と説かれました。そのなかで、欧米諸国には置かれているにもかかわらず、日本企業には置かれていないジェネラルカウンセルの必要性にも焦点が当てられています。GCは、単に法務の最高責任者というのではなく、経営企画の最初から関わり、社長と一緒にリスクをとりながら執行責任を負います。計画立案の最初から関わり、またリスクを負うからこそ、社長は(法務リスクの面から)GCがNOと言えば執行を中止します。ギリギリまで社長のリスクテイクを応援しますが、社長と対立すれば退職しなければならない覚悟も必要です。グローバル企業である日産に必要なのは、まさにこのGCやCLOといった立場の人たちではないでしょうか。

本日のNスぺを視ておりますと、日産の監査役さんが3月以降始動した不正調査グループにおいて重要な役割を担っておられたようです。日本企業にGCやCLOのような役職が存在しない現時点では、日本企業に特有の「監査役」なる職務に従事している方が同様の役割を担うべきなのかもしれません。おそらく厳しい立ち位置におられたものと想像いたしますが、今回の事件がひと段落した段階で、日産の監査役の方々がどのような行動をとられたのか、可能な範囲で紹介されることを期待しています。

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2018年11月25日 (日)

日産前会長・金商法違反事件-日産取締役会のガバナンスに問題はなかったか?

昨日(11月23日)は「いいニッサンの日」ということで、全国の日産ディーラーさんには多くの方が詰めかけたそうですが、いったいどんな話題で盛り上がったのか・・・少し聴いてみたい気もいたします。

さて、11月21日のエントリー「日産会長金商法違反事件に想う『エンロン事件のデジャヴ』」におきまして、私は「ゴーン氏の逮捕劇ばかりが注目されてよいのか?」として、

ケリー氏のお墨付きがあったからこそゴーン氏が不正に手を染めたのではないでしょうか。つまり、ビジネスのパートナーであり、ガーディアンでもあったケリー氏が不正に関与(もしくは主導)していれば、どんなに頑張ってコーポレートガバナンスの構築しても、経営トップの暴走を止めることは困難ではないか

と書きました。また、11月20日のエントリー「日産会長逮捕(金商法違反事件)に関する私的な感想」においても、

開示された報酬金額が虚偽であったとしても、これだけ株主から高額報酬への批判が出ている世の中ですから、何らかの説明を果たし得るストーリーはあったのではないかと想像します。つまり、誰か株式報酬に詳しい社内もしくは社外の支援者が存在していた可能性もゼロとは言えないように思います。

と推察をしておりました。ケリー氏がジェネラルカウンセル的な役割を果たしていたのではないか・・・という予想は当たりませんでしたが、同氏がやはり重要な役割を果たしていることは間違いなさそうです(直近の毎日新聞ニュースでも、このような記事が掲載されております)。

本日、日経ニュースなどでケリー氏が(報酬過少記載や物件購入について)「担当者と相談し、外部の法律事務所や金融庁にも問い合わせをした」と説明、不正行為の認識はないと主張していると報じられています。このあたりは当ブログをお読みの皆様も「ほぼ想定の範囲内」だったのではないでしょうか。このクラスの方が関与する不正事実が「あれ、ばれちゃった?、ゴメンナサイ・・・」というものではなく、たとえ虚偽記載の疑惑があったとしても、それなりに説明責任が尽くせるようなプロセスは踏んでいるだろうと予想しておりました。ケリー氏の言い分が通るか通らないかはわかりませんが、検察はお金の流れはほぼ押さえていると思いますので、その「お金の流れ」が虚偽記載罪の主観的な認識や客観的な構成要件にぴったり収まるかどうかが問題と考えます。

ところで本日(11月24日)の産経新聞夕刊には、「株価連動報酬として前会長が受領した分については逮捕事実には含まれていない」とありましたので、日産の過去の定時株主総会の招集通知を確認しましたところ、なるほど、日産の株主総会では確定額金銭報酬と未確定額金銭報酬とでは別々に株主総会の承認決議をとっています。確定額金銭報酬は平成20年の定時株主総会の決議(限度額29憶9000万円)がいまも効力を有しており、未確定額金銭報酬である株価連動型インセンティブ受領権(いわゆる「SAR」というインセンティブ報酬)については上限額はなく、具体的な報酬算出方法(+相当な理由)のみで承認の決議を受けています(平成27年の定時株主総会にて直近の承認決議がなされています)。つまり、インセンティブ受領権による報酬については29憶9000万円という「上限枠」は関係ない、ということになります。この点、私は誤解をしておりました。(なお、東京新聞朝刊記事では、2018年3月度には14億程度の現金報酬分が隠ぺいされているので、そもそも「上限枠」すら超えているのではないか・・・と報じられていますが、そのあたりの真相はまだわかりません)。

この株価連動型インセンティブ受領権という未確定額金銭報酬は、ファントムストックなどと同様に(といいますか、ファントムストックの一種だと私は理解しておりますが)、行使条件の付いた株式(新株予約権)が付与されるものではなく、仮想の新株予約権を付与し、一定の条件の下で権利が行使されれば現金が支給される仕組みなので、外国に駐在している役員さんが多い会社などでは(有価証券を保有することによる証券規制や税務規制の負担を軽くするという意味で)よく使われています。また、役員に株式を付与しないので親会社の株式保有率を希薄化させない、という意味でも親子上場などでは活用のメリットがあります。したがって、「中長期的な企業価値向上を目指すインセンティブ報酬」として前会長さんが活用することにはなんら不自然な点はありません。費用計上の算定方法については、合理的に費用を見積もることができるのであれば受領権付与時に引当金相当額を計上することもできるでしょうし、合理的な見積もりが困難ということであれば権利行使時(現金支給時)に費用計上しても構わないものと思います。ということで、お金の流れを押さえる・・・といっても、いったいどのお金の流れがどのような根拠に基づくものか、ひいてはどのように開示すべきなのかは、かなり複雑ではないかと思います。かりにインセンティブ受領権ではなく、確定額金銭報酬のみの問題だとしますと、こちらの中日新聞ニュースの解説にあるようにスッキリとした構図となりますが、そんなに単純なものでもなさそうにも思えます。

日産の取締役会に報酬委員会が設置されていれば、こんなことにはならなかったとは思います。インセンティブ受領権は株価だけでなく、他のKPIの達成度にも連動する複雑な仕組みだったかもしれませんが、報酬委員会がプロセスだけでも監視することで不正の抑止にはなりえたと思います(こういった点からも、ガバナンスは「攻め」も「守り」も一体で考えるべきです)。残念ながら同社取締役会には任意の諮問委員会は設置されておらず、ほとんどの取締役の方々は寝耳に水だったそうです。昨日の取締役会では会長解任(代表取締役の解職)議案が全員賛成で決意されたそうで、出席者からは「そんなにもらっていたのか」「これはひどい!」との声も上がったと報じられています。しかし、このたび司法取引に合意をした執行役員や幹部社員の方々は別として、私には「本当に取締役の方々は前会長さんの不正について知らなかったのだろうか」との疑念が消えません。まず、朝日11月24日朝刊記事では、前会長さんと日産との間で50億円の報酬後払いの合意(退任後は顧問となって、その報酬として支払われる合意)がなされていたとあります(検察はこの合意書を押収済とのこと)。また、読売11月23日朝刊記事では、2012年から14年にかけて、監査法人は日産欧州子会社の活動内容に疑念を抱き、照会をかけたところ、日産側は「戦略的な投資活動を行っており問題なし」と回答されたそうです。そして前にも書いたとおり、数年前に証券取引等監視委員会は、証券検査において前会長の複数の不正行為の疑惑を発見し、日産側に是正を求めたが、前会長はこれを拒否した、とあります(産経11月21日朝刊)。

これらの新聞報道の内容が真実だとしますと、たとえケリー氏から「取締役には報告するな」と執行役員や幹部社員の方々が口止めされていたとしても、本当に役員の方々が前会長さんの不正については知らなかったというのも解せないところです。かりに「知らなかった」のが真実だとしますと、日産のガバナンスにはやはり重大な懸念を抱きます。そもそも今回逮捕された前代表取締役のおふたりは日本に駐在しているわけではないので(前記のような事情が発生すれば)、内部通報よりも前に日常のレポートラインで日本の取締役さんのところへ情報が上がるはずですよね。このあたりは無資格者による最終検査の問題とか、燃費データ偽装の問題とはまったく質が異なるものと思います。

本事件は、まだまだこれから新事実がたくさん出てくるとは思いますが、日産さんのコーポレートガバナンス上の問題点については(新事実が出れば出るほど)疑念が深まるばかりです。日産さんはガバナンス上の問題について外部の弁護士らによる第三者委員会を立ち上げて検証することを決めたそうですが、ぜひとも報道されている内容が真実かどうか明らかにしていただき、さらに「なぜ、多くの取締役の方々が内部通報に至るまで前会長の報酬問題や経費の不正使用問題などに気づかなかったのか」ぜひとも合理的な説明をしていただきたいところです(しかし検察の捜査が続く中で、本当に第三者委員会が実効性のある調査ができるのか・・・やや懐疑的ではありますが)。

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2018年11月24日 (土)

祝!大阪万博2025開催決定

さきほど、ロシアとの決選投票の末、大阪万博2025の開催が決定しました。expo'70を体験した者として、55年ぶりの万博は感慨ひとしおでございます。「三菱未来館」「東芝IHI館」に入館したときの感動はいまでも鮮明に憶えています。

これで社外役員を務める会社のビジネスモデルが一気に変わります。社内に活気があふれると思いますが、たいへんな重責を担うことになりました(まぁ、あと7年も役員を務めてはいないと思いますが・・・)。

愛知万博のときも(自動車部品会社の周辺で)ロボット開発に絡んだ大きな不祥事が起きましたが、IR誘致に万博となりますと・・・うーーん、また大きな不祥事が起きそうですね。

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2018年11月23日 (金)

日産会長金商法違反事件-司法取引は国民目線で考えよう

今週は火曜日から木曜日まで東京で仕事をしておりましたので、大阪の事務所には多くのテレビ・ラジオや新聞等の取材依頼がございましたが、すべてお断りさせていただきました。私はテレビ・ラジオの取材はお断りさせていただいておりますが、時間さえ合いましたら新聞、経済誌の取材には(できるかぎり)対応させていただくつもりでおりますので、またよろしくお願いいたします。<m(__)m>

さて、本日(11月22日)夜、日産の臨時取締役会でゴーン会長の解任決議がなされ、ゴーン氏は「元会長」と称されることになりました(ルノー社については留任が決定とのこと)。日産の幹部社員と検察との間で日本版司法取引の合意があったと報じられてから、さまざまなメディアで日本版司法取引(刑事訴訟法上の協議・合意制度)の解説がなされていますが、制度開始にあたって最高検が「国民の常識に沿う形で運用してまいりたい」と述べていたことを(少なくとも)私は信じたいです。

まず、MHPS社の適用第1号案件に関する11月7日のエントリーでも少し述べましたが、日本版司法取引は、そもそも日本の刑事司法の「取調べの可視化」を進め、人権侵害のおそれが高い「自白偏重主義」から脱することを目的として条文化されたはずです。そして、自白に頼らずとも重大犯罪の摘発が可能となるよう、他人の犯罪に関する情報提供に(自己の犯罪に対する)刑の減免を認めたものです。したがって、国民の常識に適うよう、(情報提供に基づいて積み上げた)客観証拠によって立件が可能となるような運用がなされるのが原則だと思います。22日の朝日新聞1面トップに「ゴーン氏が虚偽記載をメールで指示していた」と報じられていましたが、これなど客観証拠のひとつと考えます。

ところで11月21日の産経新聞朝刊一面に「不正な投資金支出 ゴーン容疑者、是正を拒否」との見出しで、興味深い記事が掲載されました。証券取引等監視委員会は、数年前に(証券会社の検査において)ゴーン氏による不正な投資金支出に関する疑惑に気づき、日産側に是正を求めたそうです。日産側は、再三にわたりゴーン会長に不正な投資金支出をやめるように説得したものの、ゴーン氏がこれに応じなかったとのこと。そして、21日の朝日新聞ニュースによれば、今年3月、投資金支出の不正に関する内部通報がなされたと報じられています。そして6月には検察にも内部告発があったようで、その後複数の幹部社員と司法取引の協議が行われるわけですが、その協議の経過は不明です。

この流れからしますと、検察は会社法違反でも(関係者との間で)司法取引ができたのではないか、とも思えるのですが、①会社法違反で司法取引を進めますと、ほかの取締役や監査役の方々の共犯(不作為のほう助)を調べる必要があるのではないか・・・との疑念が湧いてきます。また、②(後述の山口幹生先生のコメントでも触れられていますが)業績連動報酬や会社資金の私的流用、会社経費の流用についても、検察はどうも「報酬の一部」として取り扱っているようなので、そうなりますと会社の損害とはいえない可能性があります。これらの理由から、金融商品取引法違反(虚偽記載)を持ち出して司法取引の合意に至ったのではないかと推測いたします。たしかに金商法違反においても、ゴーン氏の過少な報酬額の開示については虚偽記載の認識(故意)が他の役員にも認められるのではないか・・・との疑問もあるかもしれません。しかし、ほとんどの上場会社において、個々の取締役の具体的な報酬額決定は社長に一任されているのが現状です。したがって、(ガバナンス上の問題を指摘することは可能だとしても)金商法違反で立件するのであれば、おそらく指示した者と実行した者だけで済む・・・という理屈が成り立つものと思います。

なお、本日あらためて山口幹生先生(大江橋法律事務所 元東京地検特捜部検事)からコメントをいただきましたが、私もまったく同感です。たとえ50億円の過少記載だとしても、それが投資家の投資判断に影響を及ぼすほどの「重要な虚偽記載に該当するのか」という点は疑問が出てくるはずです。一般の投資家が、代表取締役の報酬額をみて投資判断を決めているといえるかどうか。。。コメント欄で一老さんが指摘されているとおり、今回の件を金商法違反容疑で立件するとなりますと、またまた副作用がいろんなところで発生するおそれがありそうです。コメントをいただいたJFKさんやunknown1さんのご指摘も参考にしながら、私も国民目線に留意しつつも、実務感覚をもって本件の流れをもう一度見直したいと思います(皆様方の忌憚のないご意見、ご異論、お待ちしております)。

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2018年11月21日 (水)

日産会長金商法違反事件に想う「エンロン事件のデジャヴ」

(11月21日午前8時30分追記)今朝の産経新聞の一面トップ記事を読んで、なぜ会社法違反ではなく「金商法違反」で司法取引、逮捕となったのか、その理由が納得できました。(追記おわり)

昨日のエントリー「日産会長逮捕(金商法違反事件)に関する私的な感想」の続編でございます。昨日は各マスコミの第一報に脊髄反射的に反応して「大はずしのリスク」に怯えながらブログを書きました。そして本日の報道内容を確認して「なんとか大はずしだけはしなかった」と、とりあえずホッとしております。ということで、本日までに報じられた事実報道を参考に、私的な感想の第2弾を述べておきます。

1 ゴーン氏の逮捕劇ばかりが注目されてよいのか?

昨夜の記者会見で、日本人社長さんが「権力が会長ひとりに集中していたガバナンスに問題があった」と述べ、各マスコミもゴーンさんの不正事実の内容をさかんに報じておりますが、私は一緒に逮捕されたグレッグ・ケリー代表取締役の役割こそ、日産のガバナンスを機能不全にしていたのではないか・・・と考えております。

ここからは推測ですが、ケリー氏は弁護士であり、法務室担当だったこともあり、近時の職名はわかりませんが、実質的にはジェネラルカウンセルもしくはCLO(チーフ・リーガル・オフィサー)の立場にあったのではないかと。いわば日産におけるリスクマネジメントのトップであり、ゴーン氏もケリー氏のリスク判断は十分に尊重していたものと思います。こういった役職の人は、日本企業ではほとんど存在しないのでイメージが湧きにくいのですが、今年4月の経産省「国際競争力を高めるための戦略としての法務の在り方報告書」で一躍脚光を浴びています。有報への報酬金額の過小記載、投資資金の私的着服、経費の不正流用いずれについても、ケリー氏のお墨付きがあったからこそゴーン氏が不正に手を染めたのではないでしょうか。つまり、ビジネスのパートナーであり、ガーディアンでもあったケリー氏が不正に関与(もしくは主導)していれば、どんなに頑張ってコーポレートガバナンスの構築しても、経営トップの暴走を止めることは困難ではないかと思います。

2 日産は自浄作用を発揮したと評価できるか?

内部通報から始まった社内調査→経営トップ逮捕劇を、私的にはかなり前向きに評価をしていたのですが、本日の一部報道によりますと適用第2号の司法取引が行われており、しかも司法取引の当事者は外国人執行役員2名、しかも法務担当の方が含まれている、とのこと。司法取引については昨日も想定しておりましたが、日産という法人が当事者ではなく外国人執行役員(個人)だったとは・・・、これは想定外でした。外国人の部下が外国人の上司を司法取引で検察に差し出すといったことは、まるでエンロン事件をみているようです。個人的には日本人社員が内部通報や司法取引を主導した・・・と思いたかったのですが、外国人主導のクーデターということであれば「たしかに、そういったストーリーはよくあるわな・・・」ということで、このあたりは日産固有の事情が垣間見えました。しかしそうなりますと、日産としては受け身で検察に協力をしてきたのではないか、との疑問も生じるところでありまして、このたびの経営トップ逮捕劇において、日産は自浄作用を発揮したといえるのかどうか、少し検討しなければならないように思います。

3 なぜ今、内部通報なのか?なぜ今、司法取引なのか?

2015年12月、私は「日産・ルノー連合vs仏政府-相互保有株式の議決権行使をめぐる攻防」なるエントリーを書き、そこで日産とルノーとの統合を差し止める切り札としての相互保有株式(会社法308条による議決権行使の制限)に関する両社の合意について解説いたしました。当時はゴーン氏がフランス政府から日産を守る役割を見事にこなしていました。しかし、最近は雲行きが怪しくなり、ゴーン氏もフランス政府の方針を容認するかのような発言が目立ってきました。そのような状況における逮捕劇、22日の解任手続きという流れをみておりますと、なにか内部通報や司法取引の背後に動く政治的な力学が働いていたのではないかとの疑念を拭えません。企業風土の改革が進まないことにいらだつ社員の通報、役員間における報酬の不公平さに不満をもった執行役員の司法取引といった、社員の衝動的な行動が契機となった可能性も高く、上記は邪推の域を出ないかもしれませんが、もっと大きな三社連合のねじれのようなものが事件の背景にはあるのではないか・・・、そういった仮説を立てながら今後の事件の推移を検証する方もいらっしゃるかもしれませんね。

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2018年11月20日 (火)

日産会長逮捕(金商法違反事件)に関する私的な感想

日産の社長さんの記者会見もきちんとは聴いておりませんが、夕方以降、日経、朝日ほか、いろいろなメディアの取材を受けましたので、当ブログでも会長逮捕劇を受けての第一印象のみ、書かせていただきます。

1 内部通報を契機とした社内調査で経営陣が動いたという点。ヤマト運輸さん、KYBさんをはじめ、今年も多くの不祥事が内部通報をきっかけに不正が発覚しました。経営陣の不正を糾弾し、自浄能力を発揮するためには、やはり内部通報制度を機能させることが不可欠とあらためて認識いたしました。監査役からの問題提起があったようで、監査役制度も機能したのではないでしょうか。数か月前に内部通報があった、ということのようですが、無資格者検査事件や燃費データ偽装事件を起こしても企業風土が変わらなかったことへの日産社員の憤りが「通報」という形(ひょっとするとマスコミへの告発と同時だったのかもしれませんが)で表面化したのかもしれません。

2 ガバナンスという視点から。日産自動車のガバナンス報告書や有価証券報告書(2017年度)を読みますと、日産さんの取締役会には指名・報酬委員会は存在しないのですね。会長(取締役会議長)が、他の代表取締役と協議して役員報酬の金額を決定する仕組みになっています。ということは、インセンティブ報酬(日産さんの場合はインセンティブ受領権)の算定評価はブラックボックス状態で行われていた可能性があります。さらに、取締役会は、各取締役の報酬決定を会長に一任していると思いますので、ほかの取締役さんは(開示されるまで)、会長の年間報酬はいくらだったのかわからなかったと推測します(このたびの逮捕劇は「インセンティブ受領権」がポイントではないかと。。。はずしていたらゴメンナサイ!)。ちなみに、東証1部上場企業の4割で、すでに任意の報酬委員会を設置していますが、日産さんに委員会が設置されていればもっと早く不正を発見もしくは防止できたかもしれません。

ここは最近の企業統治改革の流れも影響していると考えています。ガバナンス改革においては役員報酬は高額化しており、そこには中長期の業績連動型の株式報酬制度がトレンドになってきました。ストックオプションが付与された場合には、そのオプションの時価が報酬として開示されますので、よほどインセンティブ報酬の算定評価に詳しい方でないと、役員の報酬額の算定はむずかしいはず。そこへきてガバナンス改革の流れの中で、どこの上場企業も取締役の人数を減らしています。つまり株主総会が監督している「報酬額の上限枠」にかなり余裕が出てきます。したがって、(取締役会の監督機能がききにくいために)同じような代表者の不正リスクはどこの会社でも存在すると思います。逆に、会長さんの報酬が超高額のため、上限枠を使い切ってしまって、はみ出した分を隠蔽していた可能性もありそうですが、そんな単純なことでもなさそうな。。。

3 事件の広がりについて。逮捕容疑は金融商品取引法違反ということですが、他の重大な不正行為も認められたとの日産リリースからみると、会社法違反(特別背任罪等)被疑事件などにも発展するのではないでしょうか。さらに、開示された報酬金額が虚偽であったとしても、これだけ株主から高額報酬への批判が出ている世の中ですから、何らかの説明を果たし得るストーリーはあったのではないかと想像します。つまり、誰か株式報酬に詳しい社内もしくは社外の支援者が存在していた可能性もゼロとは言えないように思います。なお、事件の広がり・・・という点では、今回の件は(金商法違反容疑・・・ということなので)法人としての日産が検察との間で協議・合意制度(日本版司法取引)を活用していることはないでしょうか?(追記・・・11月20日の朝日朝刊では司法取引があったと報じています)3日ほど前に、当ブログに(司法取引に詳しい)山口幹生先生からのコメントをいただきましたが、まさに山口先生の指摘された論点を「おさらい」したくなるような事例であります。

4 会社による損害賠償訴訟について。日産には40%以上の株を保有する親会社が存在するわけですが、日産の取締役会は会長に対して損害賠償に関する訴訟提起をするのでしょうか。親会社がどのような態度でも、上場会社であるかぎりは提訴に踏み切るべきではないかと(個人的には)思います。日産の被害額は全体からみれば微々たるもの、という意見もあるかもしれません。しかし、経営トップの不正は量的な面ではなく質的な面において悪質であり、業績に及ぼす影響も重大と考えておくべきです。

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2018年11月19日 (月)

パワハラ対策の法制化-カスハラ対策が隠ぺい不祥事を発覚させる

11月19日の労政審議会(雇用環境・均等文科会)に、いよいよパワハラ対策の指針案が示されるようですね。最近のマスコミ報道によりますと、ガイドライン案を強く推奨していた経済界の意見を押し切って、法制化に踏み切るとのこと。海外から「コーポレートガバナンス・コード」のような進んだ制度を取り入れて、それなりの効果が出ているのですから、すでに海外では常識とされている「パワハラ防止の法制化」を取り入れることも時代の流れと言えそうです。となりますと、2019年の内部統制関連のニュースとしては、一番注目されるテーマとなりそうですね。

ハラスメント全般に関連する法制化(具体的には労働安全衛生法の改正?)については別途検討するとして、今回の審議において私が関心を寄せておりますのがカスハラ(カスタマーハラスメント)への企業対策です。今回の審議では、法制化にまでは至ることはないと思いますが、ソフトローとしてガイドラインで指針を示すということにはなりそうです。取引先からのいじめ、嫌がらせ、顧客からの不合理なクレームといったことから企業がどのように社員を守るのか・・・、職場環境配慮義務の一環ではありますが、社内のパワハラ、セクハラとはかなり性質の違うものであり、線引きに苦労することが予想されます。

ただ、最近の企業不祥事は一社で完結しない点に共通点があります。つまりグループ全体やサプライチェーンを含めた対策をとらなければ実効的な再発防止策は機能しません。会計不正事件における「取引先との共謀」、品質偽装事件における「取引先からのプレッシャー」や「出荷先における偽装の認識」、電通事件における広告媒体の変化にともなう「取引先との力関係の変化」、スルガ銀行事件の「取引先の書類偽装への加担」、東芝事件における「米国電力会社との紛争解決」などが典型例です。最近の百十四銀行のトップ辞任問題も、やはり顧客によるセクハラ行為が契機となりました。

カスタマーハラスメントへの企業対策を講じることには原則として賛成ですが、上記労政審議会のメンバーのご発言にあるように、そもそも取引先、顧客がハラスメントに至る原因は、自社の側にもある(ことが多い)、と考えられます。したがって、カスタマーハラスメントを調査するにあたっては、これまで表に出てこなかった自社の不正、不祥事が(まれにではありますが)浮上してくる可能性もあります。以前、当ブログで「パワハラにおける不祥事隠ぺいリスク」を取り上げました。これは自社のパワハラの背後には大きな不祥事が存在する可能性がある、ということを述べたものですが、カスハラ対策を本格的に進めるのであれば、(良いか悪いかは別として)企業にとっては重大な問題を抱えることになるように思います。

財務省の官僚からセクハラを受けたとして、テレビ局社員が告発した事件がありましたが、当時、この社員から相談を受けたテレビ局内の対応に批判が集まりました。力の強い取引先に対して、カスハラ対策がどのような影響を及ぼすのか。社員のために毅然とした態度をとらなければ「セカンドセクハラ(セカンドパワハラ)」として社員から訴えられ、ブラック企業と呼ばれることになるかもしれまえんし、かといって毅然とした態度をとれば取引先から取引を打ち切られたり、(やぶへびで)自社の不正が明らかになったりするリスクが顕在化することにもなりかねません。コンプライアンス経営に関与する法律家としては、「カスハラ」への各社対応は、ぜひとも注目しておくべきテーマと考えております。

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週刊エコノミスト(11月27日号)に拙稿を掲載いただきました。

Dsc_0086_400本日(11月19日)発売の週刊エコノミスト(11/27号)におきまして、「スルガに『モノ申した』機関投資家 対話求められる社外役員」と題する論稿を掲載いただきました。

スルガ銀行の定時株主総会において、取締役選任議案(会社上程議案)に対する機関投資家の議決権行使結果が大きく分かれました。そのあたりをスチュワードシップ・コードとの関係で解説させていただきました。

また、最近は不祥事を発生させた企業、2期連続で業績が改善されない企業の代表取締役に対して70%、80%程度の賛成率で再任議案が成立するケースが目立ちます。そういった企業がガバナンス・コード補充原則1-1①にしたがって、どのような株主対応をとるべきか・・・、機関投資家の協働対話を支援する団体の活動なども紹介しながら、私なりの意見を書かせていただきました。

そういえば、本誌フラッシュ記事では、某社が中間決算の赤字発表を受け、米国の巨大アクティビストから質問状が寄せられていることが報じられています。当該企業も、今年の定時株主総会では社長さんの再任議案に対して20%の反対票が投じられています。もし補充原則1-1①をコンプライしているのであれば、社外取締役が中心となって、20%の反対票が出たことの原因をどう考えるべきか、そして後継者の選任についてどう考えるべきか、機関投資家への対話や提案といったことを検討しなければならないのではないでしょうか。

全国書店で発売中ですので、よろしければご一読くださいませ。

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2018年11月15日 (木)

企業統治改革が進む中でのソフトバンクGの親子上場

各紙で報じられているとおり、ソフトバンクグループさんの通信子会社が12月に上場するとのことで、超大型親子上場(の関係)が誕生することになります。ビッグな調達額や有利子負債額の話題が満載ですが、唯一、読売新聞(11月13日朝刊)だけが親子上場を審査した東証さんの苦悩について報じておりました。

7月の予備申請から4カ月、東証さんは通信子会社(ソフトバンク社)の独立性確保に関する判断に相当慎重だったそうです。最後は、親会社の会長兼社長の方が通信子会社の代表権を返上したことで「経営の独立性が高まった」との判断に至り、承認されたようです。親子上場は(いろいろと利点もあるものの)日本特有のもので、海外投資家からの批判なども考慮してうえでの慎重対応だったと思われます。

ただ、企業統治改革が進む中で、親子上場を選択するにあたっては、情報開示や行動規範の実践という面で気苦労は増えるのではないかと思います。たとえばコーポレートガバナンス・コードの原則1では、株主の権利・平等性が強く要請されており、構造的には親子上場はこの原則に違反するおそれを常に抱えています。通信子会社の経営判断において、他社以上に少数株主の利益に配慮している旨の情報開示を心掛けねばなりません。

また、当然のことながら機関投資家の議決権行使の姿勢も厳しくなるわけでして、たとえば三井住友信託銀行さんは、昨年12月、上場子会社の取締役会については3分の1以上を独立社外取締役とすることを求める旨、自社ガイドラインで明らかにしています。現に、新日鉄住金さんの上場子会社である日新製鋼さんの今年の総会では、同行は上記の条件を満たしていないとして取締役10名全員の再任議案に反対票を投じています。

さらに、現在経産省で審議されているグループ経営管理指針への対応です。来年春ごろに正式版がリリースされる予定だそうですが、攻めと守りの両面から、親子関係の適正化を図るためのガイドラインが示されるので、とりわけ親子上場のケースではどこまで指針に沿った経営管理ができるのか、注目される点かと思います(独立性が十分に確保されている上場子会社の経営とグループ・ガバナンスの発想は両立するのでしょうか)。いずれにしましても、上記読売新聞でも解説されているとおり、(企業統治改革が推進される中で)親子上場の数自体は今後も減少傾向にあるのかな・・・と推測いたします。

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2018年11月13日 (火)

会社と意見相違した会計監査人の判断理由開示について(3・完)

金融庁に新たに設置された「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」の開催資料を読み、思わず会計監査制度の将来について(素人ながら)自説を述べてまいりましたが、今回のエントリーが最終回となります(ちなみにご興味のある方は、エントリーその1エントリーその2はこちらでございますのでご参考まで)。経営財務の最新号には上記懇談会の第1回会議におけるメンバーの主な発言要旨が掲載されておりますね(メンバーのお名前も含め)。

前回のエントリーの最後におきまして、

「会計監査制度のあり方」の根本に関わる問題と思いますが、ではなぜ今「会計監査制度の社会資本としての価値」を語る実益があるのか

と書きました。今こそ「会計監査の社会資本性」について語る必要があると考えておりますが、その理由は私の5年前の著書「法の世界からみた会計監査」(同文館出版 2013年)でも少しばかり述べております。私は行動経済学、認知心理学の考え方が、そもそも会計監査の理解にとっては必要ではないかと考えています。

先日、こちらのエントリーの中で、ゴリラのバスケット実験をご紹介し、「人は(視野に入ったものであったとしても)自分が見たいものしか見ない(見えない)のではないだろうか」との感想を述べました(おかげさまで、このエントリーはたいへん多くの皆様にお読みいただきました)。このゴリラのバスケット実験は「注意の錯覚」を扱ったものですが、この実験を行った認知心理学者クリストファー&ダニエルらによる「錯覚の科学」(文春文庫)の中で、「自信の錯覚」に関する研究結果も紹介されています。人は自信なさげの説明よりも、自信たっぷりの説明ぶりの説明をつい信用してしまう、というもの。著者らは、この自信の錯覚を、医師と患者の関係から解説しています。

多くの臨床実験の結果から「患者は医師の(いいかげんな)説明でも、医師が自信たっぷりに説明すれば信用してしまう。しかし、医師が目の前で参考書を取り出してきて、いろいろと調べた末に処方の結論を出した場合には、たとえ正しい処置がみつかったとしても患者は不安を覚えてしまうそうです。「自信はアテにならない」ことは多くの実証研究でも証明されているのですが、どうしても「自信の錯覚」に患者は陥ってしまう。本書では、難病治療の世界で有名な米国医師の話が引用されています。同医師によると「医師にはある程度の自身は必要。だが最良の医師とは、患者の目のまえで『わかりません』と正直に言える人である」とのこと。

会計監査もこれと同様ではないでしょうか。「監査は神聖不可侵」と自信たっぷりに意見が述べられれば、投資家も会計監査人の意見を疑わないでしょうし、英国のように「俺が会計基準だ」と自信たっぷりに説明されれば、投資家は安心すると思います。ただ、このたびの東芝さんの会計不正事件における会社と二つの大きな監査法人の間で発生した監査意見の相違を目の前にしますと、監査を行う人によって「監査意見は絶対」というものではないのであり、(ひょっとすると)会計監査人の巧拙によって投資家が損失を被る可能性はあるということが示されたと思います。これまでのところ、〇〇監査法人の意見が正しく、〇〇監査法人の意見は稚拙で誤りだった、といった判定は市場関係者の間でなされていません。したがって、「会計監査の世界においても、やはりセカンドオピニオンは存在する」との結論をとらざるをえない。

そうであれば、少なくとも会計監査の利用者にとって、どっちの会計監査人の理由と結論を信用すべきか、その優劣を素人なりに判断する道は保証されるべきですし、そのための会計監査人の説明義務についても議論されてしかるべきです。会計の素人に「真の会計監査の品質などわかるはずがない」のであれば、せめて(自己責任を問いうるだけの)「品質に関する安心」だけでも提供できる制度があれば社会資本となりえると考えます。これが今求められる会計監査の「社会資本」としての価値だと考えます。よりよい会計監査の判断には被監査企業や投資家の協働が必要されるゆえんはそこにあると考えます。職業倫理をわきまえた会計プロフェッションである以上、会計監査人は自信たっぷりに監査意見を述べるべきと思います。しかし、「意見不表明」「不適正意見」についても堂々と述べるべきですし、最終的には投資家に会計監査の質を判定してもらうだけの気概を持つべきではないでしょうか。

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2018年11月12日 (月)

時宜に適ったMBO手続き指針の改訂に期待いたします。

先週11月7日、「攻めの企業法務」なるタイトルで、経産省の方(経済産業政策局)が大阪弁護士会で基調講演をされたので聴講してまいりました。競争法関連のお仕事をされているそうですが、経産省としては3年ほど前からGAFA規制の必要性については検討されていた、とのこと。お話は私自身の仕事についてもたいへん参考になりました。ただ、ここ10年、中国政府とガチでバトルを繰り広げてきたGAFAのリスクマネジメントをみておりますと、ヤワな日本政府の規制で委縮することは考えにくく、むしろ日本企業が規制の網にひっかかる間に「チャンス」とばかり攻勢に転じるのが米国の巨大IT企業の「攻めの企業法務」ではないか・・・と予想しております。

さて、経産省の企業規制といえば、GAFA対応だけでなく、国内上場企業向けのソフトロー対応にも注目すべきであります。現在進行形のCGS研究会におけるグループ・ガバナンスの実務指針のほかに、あらたに「公正なM&Aの在り方に関する研究会」が設置され、平成19年に策定された「MBO手続き指針」がひさしぶりに改訂されるそうであります。11月9日の日経朝刊が報じるところでは、MBOだけでなく、これに準じるような利益相反構造にある企業再編手続きも含めての指針作りや社外取締役の積極的なMBO手続きへの関与の是非あたりが検討されるようです。

MBO指針が策定されて11年、利益相反構造をもつ多くの企業再編が行われる中で、企業再編の手法に影響を及ぼす会社法の改正も行われ、また少数株主保護に関する裁判例なども出ておりますので、このタイミングでMBO手続き指針を改訂するのはまことにタイムリーなものだと思います。私も一昨年には社外取締役として少数株主保護を最優先に図る立場を務め(セブン&アイ・グループとニッセンHDとの三角株式交換による100%子会社化)、昨年には統合比率の公正性確保のための第三者委員会委員長を務めました(住友ゴムとダンロップスポーツによる合併手続)ので、MBO類似の利益相反構造における取締役行動のむずかしさは痛切に感じたところです。したがって、「健全なリスクテイク」を後押しするであろう、このたびの指針の改訂には大いに期待をいたします。

社外取締役の積極的関与といえば、金商法上の開示責任を問われた判決もさることながら、シャルレ株主代表訴訟判決(第一審神戸地裁平成26年10月16日、控訴審大阪高裁平成27年10月29日)あたりは(社外取締役の)行動規範を知るうえで理解しておくべきと考えます。たとえ(結果的に)少数株主に実質的な損害を与えなくても、支配株主の利益を優先した疑いのある手続きを進めてしまいますと「手続的公平性配慮義務違反」ということで善管注意義務違反の責任を問われる可能性がありますので要注意かと。また、統合される側の社外取締役さんは、(数か月間)ふだんの5倍から10倍程度の職務時間を求められますので、3社以上の社外役員を兼務されている方などは、本業や他社役員の仕事とのやりくりは覚悟しておく必要があります。さらに、昨年6月にこちらのエントリーでも書きましたが、ここ数年、MBOに関わる第三者委員会の性質にも変遷がみられますので、社外取締役自身が構成員となる第三者委員会がどのような性格でMBO手続きに関与すべきか、そのあたりの理解も必要になると思います。

なお、実際に自分がMBOに携わってみて思うところは、法律家やコンサルタント会社の指導を受けますと、どうしてもMBOのプロセスの公正性、つまり取締役の忠実義務や公正価値算定などに関心が向きます。しかし、本当に大事なのは「人間模様の上手な整理」という点です。インサイダー取引リスクを防止するために、ごく限られた範囲の人の間で隠密裏にコトが進みます。そんな中で、企業再編への社内の反応はマチマチです。カリスマ創業者でもいないかぎり、コトは予定調和的に進むわけではありません。統合に向けた様々な障害を、どう統合後の企業価値向上につなげていくかはMBOを進める当事者の力量や胆力、妥協力にかかってきます。親会社と子会社に至った経緯とか、子会社社員が今度どのように取り扱われるか・・・親会社にとってどの程度重要な会社とみてもらえるか、といったところを上手に整理していかなければ、それこそMBO手続きによって当事者の法的責任は回避できたとしても、M&A自体は失敗に終わってしまうと思います。

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2018年11月 9日 (金)

会社と意見相違した会計監査人の判断理由開示について(2)

さて、昨日のエントリーその(1)の続きでございます。改めて申し上げますが、私の意見はどこからか引用した考えではなく、あくまでも私の個人的な妄想(?)によるものでありますので、誤解なきようお願いいたします。

昨日は「なぜ(会社と意見相違した会計監査人の判断理由を開示する)制度が、市場の健全性の有効性・効率性の確保、会計監査の有効性・効率性の向上に資するものとなるのか」といった疑問を呈しました。企業側からも監査法人側からも、いろいろとご異論が予想されるにもかかわらず、このような制度を策定するにあたっては、その「社会資本」としての価値が必要ではないかと考える次第です。

まず、市場の有効性・効率性を向上させる・・・という点は、費用対効果を厳密に精査する行政規制手法の在り方との関係です。会計監査の有用性を高めるにあたり、できるだけ行政の資源を投下しないで高い効果をあげる方法を考えます。他の省庁でも同様の手法が採用されますが、競争原理の導入と利用者のリテラシーの向上の「合わせ技」に求められます。つまり利用者(ここでは投資者)のリテラシーを向上させつつ、会計監査の主体に競争原理を持ち込み、「信頼できる監査法人」と「そうでない監査法人」について投資者の目利き力による選別に期待をします。

「監査法人の適正意見ならどこも一緒」ではなく、「あの監査法人の適正意見なら信用できる(高い報酬も当然だ)」といった投資家の感覚が、ひいては企業による監査法人の選別につながるというもの。いわば「利用者志向の財務報告」を実現するプロセスであり、これに近い考え方は旬刊商事法務の最新号(2181号)スクランブル「KAM導入は利用者志向の財務報告をもたらすか」でも披露されています。ただ、このような考え方が成り立つためには「監査意見も間違えることがある」「監査意見は神聖不可侵ではない」ということが所与の前提であり、「監査意見にもセカンドオピニオンがある」ということを認めなければ出てこない考え方だと思います。

そして、会計監査の有効性・効率性を向上させる・・・という点ですが、これは「会計監査の信頼向上は会計監査人の努力だけではなしえず、市場の番人としての共助の精神が必要」というものです。たとえば自動車のリコールの要否については、日本では専門性の高い技術が必要なのでメーカーと国交省との協議で判断されますが、米国では一般市民の意見や情報も取り入れながら「みんなで決める」(だから不具合に関する情報提供義務違反には厳しい制裁が課されます)もの。これと同じように、会計監査の質を高めるためには利用者、被監査企業、他の監査人らを巻き込んで、よりよい「解」を求めるという考え方です。したがって、ここでは会計監査人の説明義務がクローズアップされますし、当然のことながら被監査企業に対する守秘義務解除のための「正当理由」との関係が問題となります。また「よりよい解を求める」というためには監査意見にはセカンドオピニオンもある・・ということを認めなければ前に進まないと思います。

おそらく「会計監査制度のあり方」の根本に関わる問題と思いますが、ではなぜ今「会計監査制度の社会資本としての価値」を語る実益があるのか・・・そのあたりは(その3)で述べたいと思います。

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2018年11月 8日 (木)

会社と意見相違した会計監査人の判断理由開示について(1)

(11月8日午前11時 最終更新)

今朝(11月7日)の日経朝刊において「『不適正決算』判断理由は?-金融庁、監査法人に説明求める」との見出しで、新たに金融庁内に設置された「会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会」が始動したことが報じられていました。第一回の懇談会資料もリリースされていますので、今後同懇談会で議論される予定の論点がわかります。いくつかの論点がありますが記事で紹介されているのは、会計監査において、会社と監査法人との意見が食い違った場合(たとえば会計監査人が財務諸表について「限定付適正意見」や「不適正意見」を付した場合など)、会計監査人はなぜ異論を唱えたのか、その判断理由を(会計監査人が)説明する(開示する)ような制度の是非を検討する、というものです。

このような制度は今のところ世界中探しても存在しないと思いますし(2020年3月期から早期適用が推奨されているKAM制度についてはすでに海外で先行していますが)、おそらく企業側からも監査法人からも様々な消極意見が出てきそうです。ただ、なぜこのような懇談会が立ち上げられ、監査法人の判断理由開示制度が真剣に議論されるに至ったのか、といったところは、(イ)東芝不正会計事件における二つの監査法人と東芝との監査意見を巡る不明瞭な問題が発生したことと、(ロ)この問題を受けて開催された経営財務3356号(2018年4月23日号)掲載の八田進二氏(青山学院大学名誉教授)と佐藤隆文氏(日本取引所自主規制法人理事長)との対談で、一定の問題整理が試みられたことが「きっかけ」になったのではないかと推測いたします(そこで議論されている論点が、審議資料2の論点表とピッタリ一致します)。キーワードを探すとするならば、数年前に国際的な倫理規則でも容認され、日本の倫理規則でも条件付きで容認されている「監査意見のセカンド・オピニオン」でしょうか。

私自身は、それほど違和感なく、この制度は経済的合理性あるものと考えておりますが、どのようなご意見が出てくるのか、今後の審議に注目したいと思っております。なぜなら、①市場の健全性確保の有効性・効率性を図ることは近時の会計不正事例の急増(昨年は不正開示事例が68件)という事態からみて当然ですし、また②会計監査の有効性・効率性の向上は、監査報酬がなかなか増えない日本の現状からみて、当然に実施していかなければ監査法人の経営維持は図れないからです。ではなぜこの制度が市場の健全性の有効性・効率性の確保、会計監査の有効性・効率性の向上に資するものとなるのか・・・、そこは「その2」以降で私なりの意見を述べたいと思います。

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2018年11月 7日 (水)

日本版司法取引の運用は本当に客観証拠中心主義か?

5日の日経法務面での記事に続き、6日は読売朝刊に日本版司法取引に関する詳細な記事が掲載されています。さすがMHPS事例を最初にスクープした読売だけあって、「初の司法取引 証拠80点 免責企業 贈賄工作資料提出」との見出しで、約束内容を書面化したMHPS(三菱日立パワーシステムズ)社と東京地検特捜部の「(6月28日付)合意内容書面」の中身までスクープしていて、たいへん参考になります(担当検事、弁護人、社長の署名があるそうです)。

この合意内容書面にしたがって、MHPS側は贈賄工作の資料を含む80点超の証拠を提出したそうで、その中には贈賄資金を捻出した際の資料も10点ほど含まれているようです。なお、上記読売記事によりますと、今回の捜査協力は、司法取引の運用で懸念されていた「無実の第三者を冤罪に巻き込む危険性を極力回避するため」、供述ではなく、客観的な資料の提出が中心だった、とのこと。なるほど、(日本版司法取引については)国民が納得できるような運用を目指す、というのが検察庁の考え方なので、そういった配慮もあったのかもしれません。

ただ、FACTA2018年10月号(36頁以下)の記事によりますと、そもそもMHPS社員による2015年2月の内部通報をきっかけとして、MHPS側は東京地検に経緯を報告、その後の地検の内偵捜査には(なんらかの情状酌量を期待して)全面的に協力をしてこられたそうです。しかし2017年12月に地検から(半年後に施行予定である)司法取引の適用をほのめかされ、司法取引を前提として捜査協力を続けてきた、とあります。

つまり、たしかに「合意内容書面」を作成する時点では客観的な証拠提供が中心だったのかもしれませんが、それまでの約2年半の間、MHPS役職員は、地検に様々な供述を行い、その供述をもとに検察側が客観的証拠の存否を確認し、合意内容書面を交わすかどうか、つまり司法取引を行うかどうかを判断したのではないでしょうか。そもそも合意内容書面の締結に至るまでの経緯をみれば、やはり供述に依存するところはあったのではないかとの疑念を抱きます。

最近の日本版司法取引に関する記事を眺めておりますと、「他人の犯罪」を申告する被疑者側がイニシアティブをとって検察と交渉できる制度、そしてその制度運用に関わるリスクが語られているように思われるのですが、そもそも今回のMHPSさんの事例は(FACTAの記事でも触れられているように)検察側の特殊な事情があって適用された可能性が高く、かなりレアな適用事例ではなかったか・・・と考えております。

つまり、司法取引と言いますが、被疑者側から持ち掛けて検察と容易に合意できるようなものではなく、まずは(供述等をもとに)検察側が十分に立件の可能性を判断し、その間は「アメ」もちらつかせず、取引することへの検察側のメリットが確認されて初めて取引が行われるというものであり、たとえば取引を持ち掛ける企業側としても、「持ち掛けて失敗する」デメリットも十分にあるということを認識しておくべきと考えます。上記FACTAの記事では、検察から司法取引を持ち掛けられたMHPS側が、「司法取引は自社のレピュテーションリスクを毀損する」としていったん断った・・・という点も、(おそらく弁護人候補者と相談して決めたとは思いますが)経営判断としては十分ありうるのでは・・・と。

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2018年11月 6日 (火)

スバル検査不正-なぜ社内不正終結宣言後に不正が続くのか?

スバルさんの一連の検査不正については、これまで当ブログでは取り上げておりませんでした。しかし、各紙で報じられているとおり、スバルさんは「一連の車の検査不正に関連し、規程を逸脱したブレーキの検査を今年10月まで続けていた」として「新たに約10万台のリコールを国交省に届け出る」そうです(東京新聞ニュースはこちら)。スバルさんの車のエンジンは縦置きではなく横置きということで、リコールは普通の販売店では対応できないため、これまでのリコールでもかなりの時間を要するそうですが、またまた対応がむずかしくなりそうです。

なお、上記東京新聞ニュースによると、スバルさんは一連の不正は昨年末に終結していたと説明していた、とのこと。昨年10月に最初の無資格者による検査不正が発覚してから、1年が経過した今年10月まで不正検査は続いていた、しかも今回は国交省による調査で発覚した、というのはどう理解したらよろしいのでしょうか?日産自動車、三菱マテリアルでも同様の事態がみられましたが、非常に理解に苦しむところです。素直に「まだまだ出てくるんじゃないの?」と想像してしまいますので、業績にも影響が出そうですね。

ところでスバルさんは今年4月27日、①完成検査工程における燃費・排出ガス測定業務の運用状況の実態、測定値の書き換えに関する事実関係、②上記事実関係等の原因・背景の分析、③再発防止策の検討を目的として、こちらの完成検査時の燃費・排出ガス測定に関する調査報告書 (社内調査報告書)を公表しておられますが、この後、9月には社外の弁護士による調査によってブレーキ検査の不正が明らかになっていました(毎日新聞ニュースはこちらです)。

4月の社内調査報告書によれば、測定数値書換えの原因について、適正値の範囲に収まらない結果が出た場合には上司からその原因究明を求められるが、その原因究明には時間を要するために安易な改ざんに至ってしまったとあります。おそらく忙しかったりしますと、検査の公益性に関する規範意識が薄れてしまい、不正が恒常化していったものと推測します。ただ、そのような原因だったとすれば、たとえば昨年10月の不正発覚や今年4月の調査報告書の公表、さらには9月の社外弁護士による調査結果をきっかけとして、社内でも「きっちりやらないとヤバいぞ」といった雰囲気が漂い、これまで発覚していなかった検査不正もピッタリやめてしまうのではないでしょうか。その後も不正が続いていたというのはなんとも不思議です。

やはり「不正は起こしてはいけない」という経営陣の思いが社内に蔓延していた、ということでしょうか。不正防止にリスク管理の重点が置かれ、「不正発見」「不正は起きる。起きた時にどうすべきか」といったリスク管理の思想は希薄だったと解釈すべきかもしれません。ぜひとも、このあたりの社風に関連する構造的な要因について、関係者の方々からお話を聞いてみたいものです。

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2018年11月 5日 (月)

企業統治改革が進むなかで「役員退職慰労金制度」も評価されるべきでは?

11月2日の日経夕刊「十字路」に、会社法に詳しい弁護士の方が「役員退職慰労金制度の是非」と題する小稿を書かれており、興味深く拝読いたしました。最近、同制度に関連する議案については、株主総会で最も反対票が集まるところでありまして、ご承知のとおり、役員退職慰労金制度自体を廃止する上場会社も増えています。しかし、この「役員退職慰労金制度」はそんなに悪い制度なのだろうか、使い方によっては株主にとっても有利ではないか・・・というのが上記「十字路」のご論稿の趣旨であり、私も同感です。

会社法上、取締役の退職慰労金は「役員報酬」に含まれるものと考えられていますので、株主総会決議によって金額等の決定をすべて取締役会に一任することは許されませんが、明示的もしくは黙示的にその支給基準を示し、具体的な金額・支払期日・支払方法等は基準によって定めるべきとして取締役会に一任することは許される、というのが最高裁判決の立場です。したがって、このような判例を前提として実務が運用されているとすれば、たしかに役員退職慰労金の具体的な決定プロセスの不透明性は否めないため、機関投資家から不評を買うことは理解できます。

ところで、機関投資家の方々から制度廃止の要請が強いといえば「相談役・顧問制度」も同様です。相談役・顧問制度については、(同制度にもそれなりに長所はあるので)私は一律廃止すべきではなく、指名委員会を構成する社外取締役が中心になって、実質的な支配権行使に出るような弊害をチェックすればよいという意見を何度も述べてきました。以前、当ブログのエントリー「社外取締役の活躍が期待されるトヨタの相談役廃止制度」でもご紹介しましたが、トヨタ自動車さんなども、このような制度運用を採用されているようです。

これと同様に、企業統治改革が進み、複数の社外取締役によって取締役会が構成されるようになった現在、「退職慰労金決定プロセスの不透明性」は、社外取締役の頑張りによって解消できるようになったのではないかと。上場企業を例にとりますと、今年6月のコーポレートガバナンス・コード改訂により、社外取締役が過半数に満たない取締役会では指名・報酬に関する任意の委員会の設置が要望されています。この報酬委員会に社外取締役が積極的に関与していれば、役員退職慰労金の具体的な支給決定プロセスはかなり公正なものとして担保されるはずです。

また、上記「十字路」に書かれているご意見のように、もし支給基準等が株主総会で明確に説明されていないのであれば、議案の中で開示させることによることでも足りるのではないでしょうか。攻めのガバナンスが政府主導で推奨されるなか、中期経営計画を策定し、その遂行を通じて企業価値を向上させる仕組みが求められているのであれば、むしろ退職慰労金制度は十分なインセンティブになりうるのではないかと思われます。制度の短所を社外役員等の活用で補完することができるようになった今、むしろ役員退職慰労金制度をもう一度見直すことも検討してみてはいかがでしょうか。

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2018年11月 2日 (金)

続・代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制

10月30日のエントリー「代表取締役の辞任を迫った百十四銀行のガバナンスと内部統制」(以下「前回エントリー」と表記します)の続編であります。10月30日時点では、百十四銀行さんのスキャンダルがどのような経緯で表面化したのかわかりませんでした。しかし昨日(11月2日)発売のZAITEN12月号の記事を読み、ようやく納得いたしました。この百十四銀行さんの事件がZAITENで表に出る前に、同行が自社の対応を公表することにした可能性が極めて高いと思われます。

しかし地銀トップのスキャンダルを調べ上げ、(推測にすぎませんが)社内処分をリリースさせたZAITENもなかなか、ですね。本エントリーをお読みの皆様の会社で同じことが起きた場合、ZAITENさんの記事が掲載される前に動きますか?それとも様子見ですかね?

会長および執行役員とともに、取引先との宴会に同席させた「女性社員」とは、20代の入社まもない行員だったそうです。前回エントリーでは「幹部候補であれば問題ないのでは」と書きましたが、このZAITENさんの記事が真実だとすればちょっと元会長さん、執行役員さんを弁護する余地(善解の余地)はなさそうです。しかし本当に取引先の要望で新入の女性行員を同伴させたというのは・・・・・ちょっと信じられないですね(ZAITEN誌によると、現実に取引先から「セクハラの範疇を超えた不適切行為」があったということですから)。

また、前回エントリーでは、百十四銀行さんの内部統制やガバナンスには一定の評価が与えられるのでは・・・と述べましたが、ZAITENさんと百十四銀行さんの広報とのやりとりを読みますと、あまり社内処分や公表には熱心ではなかったことが窺えます。このようにZAITENさんのスキャンダル記事が掲載される予定を知って処分を公にした・・・・ということであれば、ちょっとガバナンスや内部統制を前向きに捉えることには躊躇いたします(つまり前記エントリーの一部を訂正したいと思います)。さらに、内部通報が同行に届いた事実は間違いないようですが、しかし通報事実がZAITENのもとに届いている事実も間違いないわけですから、同行の通報受理後の調査に問題があったことが推測され、この点からも内部統制が有効に機能していたかどうか疑問が残ります。

なお、前回エントリーにおきまして、

①けっして経営トップが不適切行為に及んだわけではないものの、取引先の行為を制止できなかった点を問題視して社内調査に持ち込んだ経緯や、②穏便にすまそうとした社内の空気を社外取締役が一切読まずに正論で押し切った経緯、③そして会食が行われた2月から通報があった5月までの間、社内で本件はどう扱われていたのかなど、もう少し詳しく知りたいところです

と書きましたが、ZAITENの記事を読んでも、そのあたりは明らかにはなりませんでした。とくに社外取締役が、当初の社内処分に異を唱え、外部弁護士による調査に持ち込んだ経緯については、上記記事にも何ら掲載されていません。むしろこのZAITENさんの詳細な記事と百十四銀行さんの記者説明とのギャップから推測しますと、銀行自身が自浄作用を演出したような穿った見方も成り立ちます(おそらくそんなことはない、とは思いますが・・・)。会長さんは社外取締役も辞任されたそうなので、今後は「これで収束」ということになるのかもしれませんが、ZAITEN記事によって真相はさらに闇の中に埋まっていくような気がいたしました。百十四銀行さんの内部統制、ガバナンスが果たして評価できるものであったのか、それとも私の推測が間違っていたのか、どこかで第二報が出てくることを期待しております。

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2018年11月 1日 (木)

公取の新型武器(確約制度)でAmazonを狙い撃ち?

新聞報道のとおり、TPPの発効日が今年12月30日となりました。ということは独禁法の確約制度(確約手続)が12月30日から施行される、ということですね。

公正取引委員会から「確約手続に関する対応方針」(9月26日付け)が公表されておりますので日本企業はそちらでご準備いただくわけですが、本日の毎日新聞ニュースにあるとおり、来年早々からグーグルなどのプラットフォーマー向けに、公取委が実態調査に乗り出すそうです。

たしか今年3月、公取委はAmazonさんに独禁法違反の疑いで立ち入り調査をされていたようなので、まずは「日本企業の下請化」を阻止するためにも、Amazonさんを筆頭にGAFAあたりがターゲットになるのではないかと勝手に推測しております(あくまでも勝手な憶測です)。

これから独禁法に詳しい法律家の方々の需要が増えるかもしれませんね。また、内部通報制度の活用にもますます関心が寄せられるものと思います(ちなみに10月31日、和歌山地裁で「内部告発者への懲戒処分は無効」とした重要判決が出た模様です 朝日新聞ニュースはこちらです。追ってまた感想を述べたいと思います)。

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