昨日(11月23日)は「いいニッサンの日」ということで、全国の日産ディーラーさんには多くの方が詰めかけたそうですが、いったいどんな話題で盛り上がったのか・・・少し聴いてみたい気もいたします。
さて、11月21日のエントリー「日産会長金商法違反事件に想う『エンロン事件のデジャヴ』」におきまして、私は「ゴーン氏の逮捕劇ばかりが注目されてよいのか?」として、
ケリー氏のお墨付きがあったからこそゴーン氏が不正に手を染めたのではないでしょうか。つまり、ビジネスのパートナーであり、ガーディアンでもあったケリー氏が不正に関与(もしくは主導)していれば、どんなに頑張ってコーポレートガバナンスの構築しても、経営トップの暴走を止めることは困難ではないか
と書きました。また、11月20日のエントリー「日産会長逮捕(金商法違反事件)に関する私的な感想」においても、
開示された報酬金額が虚偽であったとしても、これだけ株主から高額報酬への批判が出ている世の中ですから、何らかの説明を果たし得るストーリーはあったのではないかと想像します。つまり、誰か株式報酬に詳しい社内もしくは社外の支援者が存在していた可能性もゼロとは言えないように思います。
と推察をしておりました。ケリー氏がジェネラルカウンセル的な役割を果たしていたのではないか・・・という予想は当たりませんでしたが、同氏がやはり重要な役割を果たしていることは間違いなさそうです(直近の毎日新聞ニュースでも、このような記事が掲載されております)。
本日、日経ニュースなどでケリー氏が(報酬過少記載や物件購入について)「担当者と相談し、外部の法律事務所や金融庁にも問い合わせをした」と説明、不正行為の認識はないと主張していると報じられています。このあたりは当ブログをお読みの皆様も「ほぼ想定の範囲内」だったのではないでしょうか。このクラスの方が関与する不正事実が「あれ、ばれちゃった?、ゴメンナサイ・・・」というものではなく、たとえ虚偽記載の疑惑があったとしても、それなりに説明責任が尽くせるようなプロセスは踏んでいるだろうと予想しておりました。ケリー氏の言い分が通るか通らないかはわかりませんが、検察はお金の流れはほぼ押さえていると思いますので、その「お金の流れ」が虚偽記載罪の主観的な認識や客観的な構成要件にぴったり収まるかどうかが問題と考えます。
ところで本日(11月24日)の産経新聞夕刊には、「株価連動報酬として前会長が受領した分については逮捕事実には含まれていない」とありましたので、日産の過去の定時株主総会の招集通知を確認しましたところ、なるほど、日産の株主総会では確定額金銭報酬と未確定額金銭報酬とでは別々に株主総会の承認決議をとっています。確定額金銭報酬は平成20年の定時株主総会の決議(限度額29憶9000万円)がいまも効力を有しており、未確定額金銭報酬である株価連動型インセンティブ受領権(いわゆる「SAR」というインセンティブ報酬)については上限額はなく、具体的な報酬算出方法(+相当な理由)のみで承認の決議を受けています(平成27年の定時株主総会にて直近の承認決議がなされています)。つまり、インセンティブ受領権による報酬については29憶9000万円という「上限枠」は関係ない、ということになります。この点、私は誤解をしておりました。(なお、東京新聞朝刊記事では、2018年3月度には14億程度の現金報酬分が隠ぺいされているので、そもそも「上限枠」すら超えているのではないか・・・と報じられていますが、そのあたりの真相はまだわかりません)。
この株価連動型インセンティブ受領権という未確定額金銭報酬は、ファントムストックなどと同様に(といいますか、ファントムストックの一種だと私は理解しておりますが)、行使条件の付いた株式(新株予約権)が付与されるものではなく、仮想の新株予約権を付与し、一定の条件の下で権利が行使されれば現金が支給される仕組みなので、外国に駐在している役員さんが多い会社などでは(有価証券を保有することによる証券規制や税務規制の負担を軽くするという意味で)よく使われています。また、役員に株式を付与しないので親会社の株式保有率を希薄化させない、という意味でも親子上場などでは活用のメリットがあります。したがって、「中長期的な企業価値向上を目指すインセンティブ報酬」として前会長さんが活用することにはなんら不自然な点はありません。費用計上の算定方法については、合理的に費用を見積もることができるのであれば受領権付与時に引当金相当額を計上することもできるでしょうし、合理的な見積もりが困難ということであれば権利行使時(現金支給時)に費用計上しても構わないものと思います。ということで、お金の流れを押さえる・・・といっても、いったいどのお金の流れがどのような根拠に基づくものか、ひいてはどのように開示すべきなのかは、かなり複雑ではないかと思います。かりにインセンティブ受領権ではなく、確定額金銭報酬のみの問題だとしますと、こちらの中日新聞ニュースの解説にあるようにスッキリとした構図となりますが、そんなに単純なものでもなさそうにも思えます。
日産の取締役会に報酬委員会が設置されていれば、こんなことにはならなかったとは思います。インセンティブ受領権は株価だけでなく、他のKPIの達成度にも連動する複雑な仕組みだったかもしれませんが、報酬委員会がプロセスだけでも監視することで不正の抑止にはなりえたと思います(こういった点からも、ガバナンスは「攻め」も「守り」も一体で考えるべきです)。残念ながら同社取締役会には任意の諮問委員会は設置されておらず、ほとんどの取締役の方々は寝耳に水だったそうです。昨日の取締役会では会長解任(代表取締役の解職)議案が全員賛成で決意されたそうで、出席者からは「そんなにもらっていたのか」「これはひどい!」との声も上がったと報じられています。しかし、このたび司法取引に合意をした執行役員や幹部社員の方々は別として、私には「本当に取締役の方々は前会長さんの不正について知らなかったのだろうか」との疑念が消えません。まず、朝日11月24日朝刊記事では、前会長さんと日産との間で50億円の報酬後払いの合意(退任後は顧問となって、その報酬として支払われる合意)がなされていたとあります(検察はこの合意書を押収済とのこと)。また、読売11月23日朝刊記事では、2012年から14年にかけて、監査法人は日産欧州子会社の活動内容に疑念を抱き、照会をかけたところ、日産側は「戦略的な投資活動を行っており問題なし」と回答されたそうです。そして前にも書いたとおり、数年前に証券取引等監視委員会は、証券検査において前会長の複数の不正行為の疑惑を発見し、日産側に是正を求めたが、前会長はこれを拒否した、とあります(産経11月21日朝刊)。
これらの新聞報道の内容が真実だとしますと、たとえケリー氏から「取締役には報告するな」と執行役員や幹部社員の方々が口止めされていたとしても、本当に役員の方々が前会長さんの不正については知らなかったというのも解せないところです。かりに「知らなかった」のが真実だとしますと、日産のガバナンスにはやはり重大な懸念を抱きます。そもそも今回逮捕された前代表取締役のおふたりは日本に駐在しているわけではないので(前記のような事情が発生すれば)、内部通報よりも前に日常のレポートラインで日本の取締役さんのところへ情報が上がるはずですよね。このあたりは無資格者による最終検査の問題とか、燃費データ偽装の問題とはまったく質が異なるものと思います。
本事件は、まだまだこれから新事実がたくさん出てくるとは思いますが、日産さんのコーポレートガバナンス上の問題点については(新事実が出れば出るほど)疑念が深まるばかりです。日産さんはガバナンス上の問題について外部の弁護士らによる第三者委員会を立ち上げて検証することを決めたそうですが、ぜひとも報道されている内容が真実かどうか明らかにしていただき、さらに「なぜ、多くの取締役の方々が内部通報に至るまで前会長の報酬問題や経費の不正使用問題などに気づかなかったのか」ぜひとも合理的な説明をしていただきたいところです(しかし検察の捜査が続く中で、本当に第三者委員会が実効性のある調査ができるのか・・・やや懐疑的ではありますが)。