« 日産会長逮捕(金商法違反事件)に関する私的な感想 | トップページ | 日産会長金商法違反事件-司法取引は国民目線で考えよう »

2018年11月21日 (水)

日産会長金商法違反事件に想う「エンロン事件のデジャヴ」

(11月21日午前8時30分追記)今朝の産経新聞の一面トップ記事を読んで、なぜ会社法違反ではなく「金商法違反」で司法取引、逮捕となったのか、その理由が納得できました。(追記おわり)

昨日のエントリー「日産会長逮捕(金商法違反事件)に関する私的な感想」の続編でございます。昨日は各マスコミの第一報に脊髄反射的に反応して「大はずしのリスク」に怯えながらブログを書きました。そして本日の報道内容を確認して「なんとか大はずしだけはしなかった」と、とりあえずホッとしております。ということで、本日までに報じられた事実報道を参考に、私的な感想の第2弾を述べておきます。

1 ゴーン氏の逮捕劇ばかりが注目されてよいのか?

昨夜の記者会見で、日本人社長さんが「権力が会長ひとりに集中していたガバナンスに問題があった」と述べ、各マスコミもゴーンさんの不正事実の内容をさかんに報じておりますが、私は一緒に逮捕されたグレッグ・ケリー代表取締役の役割こそ、日産のガバナンスを機能不全にしていたのではないか・・・と考えております。

ここからは推測ですが、ケリー氏は弁護士であり、法務室担当だったこともあり、近時の職名はわかりませんが、実質的にはジェネラルカウンセルもしくはCLO(チーフ・リーガル・オフィサー)の立場にあったのではないかと。いわば日産におけるリスクマネジメントのトップであり、ゴーン氏もケリー氏のリスク判断は十分に尊重していたものと思います。こういった役職の人は、日本企業ではほとんど存在しないのでイメージが湧きにくいのですが、今年4月の経産省「国際競争力を高めるための戦略としての法務の在り方報告書」で一躍脚光を浴びています。有報への報酬金額の過小記載、投資資金の私的着服、経費の不正流用いずれについても、ケリー氏のお墨付きがあったからこそゴーン氏が不正に手を染めたのではないでしょうか。つまり、ビジネスのパートナーであり、ガーディアンでもあったケリー氏が不正に関与(もしくは主導)していれば、どんなに頑張ってコーポレートガバナンスの構築しても、経営トップの暴走を止めることは困難ではないかと思います。

2 日産は自浄作用を発揮したと評価できるか?

内部通報から始まった社内調査→経営トップ逮捕劇を、私的にはかなり前向きに評価をしていたのですが、本日の一部報道によりますと適用第2号の司法取引が行われており、しかも司法取引の当事者は外国人執行役員2名、しかも法務担当の方が含まれている、とのこと。司法取引については昨日も想定しておりましたが、日産という法人が当事者ではなく外国人執行役員(個人)だったとは・・・、これは想定外でした。外国人の部下が外国人の上司を司法取引で検察に差し出すといったことは、まるでエンロン事件をみているようです。個人的には日本人社員が内部通報や司法取引を主導した・・・と思いたかったのですが、外国人主導のクーデターということであれば「たしかに、そういったストーリーはよくあるわな・・・」ということで、このあたりは日産固有の事情が垣間見えました。しかしそうなりますと、日産としては受け身で検察に協力をしてきたのではないか、との疑問も生じるところでありまして、このたびの経営トップ逮捕劇において、日産は自浄作用を発揮したといえるのかどうか、少し検討しなければならないように思います。

3 なぜ今、内部通報なのか?なぜ今、司法取引なのか?

2015年12月、私は「日産・ルノー連合vs仏政府-相互保有株式の議決権行使をめぐる攻防」なるエントリーを書き、そこで日産とルノーとの統合を差し止める切り札としての相互保有株式(会社法308条による議決権行使の制限)に関する両社の合意について解説いたしました。当時はゴーン氏がフランス政府から日産を守る役割を見事にこなしていました。しかし、最近は雲行きが怪しくなり、ゴーン氏もフランス政府の方針を容認するかのような発言が目立ってきました。そのような状況における逮捕劇、22日の解任手続きという流れをみておりますと、なにか内部通報や司法取引の背後に動く政治的な力学が働いていたのではないかとの疑念を拭えません。企業風土の改革が進まないことにいらだつ社員の通報、役員間における報酬の不公平さに不満をもった執行役員の司法取引といった、社員の衝動的な行動が契機となった可能性も高く、上記は邪推の域を出ないかもしれませんが、もっと大きな三社連合のねじれのようなものが事件の背景にはあるのではないか・・・、そういった仮説を立てながら今後の事件の推移を検証する方もいらっしゃるかもしれませんね。

|

« 日産会長逮捕(金商法違反事件)に関する私的な感想 | トップページ | 日産会長金商法違反事件-司法取引は国民目線で考えよう »

コメント

先生お久しぶりです。
毎日興味深く拝見しております。

日産事件の報道であふれておりますが、実務家目線のニュースは乏しく物足りない気がしております。また、おもしろおかしく勝手なストーリーを作るマスコミは怖いなあと思います。

とりわけ酷いなと感じましたのはNHKの昨日のニュースです。
「他役員の報酬がゴーン会長に流れたか」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181120/k10011717161000.html

実務感覚からすれば、総会決議は報酬の上限枠であって、実際の支給額が決議額に満たないのは当たり前であり、他の役員分がゴーンに流れるという概念自体が間違いというか、素人感覚、先入観による間違った報道姿勢です。
上限を超過した会社法上の問題がある、というならわかりますが。

NHKがこのレベルでしたら、他もさることでしょうね。

投稿: JFK | 2018年11月21日 (水) 14時05分

EDINETで日産の有価証券報告書は見られて、その「コーポレート・ガバナンスの状況」に役員の報酬が書いてあります。
氏名、役員区分、会社区分、総報酬、金銭報酬、株価連動型インセンティブ受領権
カルロス ゴーン、取締役、当社、735、735、―(単位百万円)
しかし、4千社ほどある有価証券報告書提出会社で、フリンジベネフィットの評価額を書いているところは1社も無いようですが、会計慣行に従って作成しなければならない決算書を、誰もやってない方法で作るべきだって、検察は言うつもりですかね。長銀事件の二の舞ですね。

投稿: unknown1 | 2018年11月21日 (水) 23時59分

あとEDINETで見ると、11月12日に日産は「確認書」を提出していて、
>当社取締役社長西川廣人及び最高財務責任者軽部博は、当社の第120期第2四半期(自 平成30年7月1日 至 平成30年9月30日)の四半期報告書の記載内容が金融商品取引法令に基づき適正に記載されていることを確認した。
>確認に当たり、特記すべき事項はない。

これって、許されるの? 数か月間内偵をしたのなら、11月12日の時点では、特記すべきことを知っていたはずですよね。
普通、有価証券報告書虚偽記載を認知したら、適時開示をしますよね。その上で、第三者委員会などに調査してもらう。株主、投資家に開示せず、数カ月も内偵を行うというのは、許されないでしょう。

投稿: unknown1 | 2018年11月22日 (木) 00時19分

この事件が業務上横領や特別背任を問題とすることなく、金商法の虚偽記載で終わるならば、企業コンプラとガバナンス強化の(例によっての)教訓事件となり、時間とともに色褪せるのでしょうね。役員会、監査役、監査法人は意識を高め利害関係者の利益を守るべく・・と。しかし、企業犯罪の立件に金商法が常套的に使われ、使い勝手の良さ?から企業犯罪摘発に威力を発揮することになれば、それはそれで副作用が心配です。そもそもの「立法趣旨」は何だったのか!不正事件とアカウンタビリティーが同義化していないか!罪を犯した責任者は誰か、皆か!・・山口先生のご見解を(いずれ)ご教授下さい、宜しくお願いします。

投稿: 一老 | 2018年11月22日 (木) 16時14分

>フリンジベネフィットの評価額を書いているところは1社も無いようですが
ブログ本文(前日の記事)を読まないでコメントされてるのでしょうか?
株価連動型インセンティブ受領権40億円の未記載が金商法違反として問われているのですよ。

>これって、許されるの? 
ご自分でコピぺしている文章を読んでないのですか?
これは四半期報告書に関する確認書で、有報とも無関係ですし、役員報酬も開示対象ではありません。

>普通、有価証券報告書虚偽記載を認知したら、適時開示をしますよね。
普通、虚偽記載の可能性を認識する事と、虚偽記載を認知する事は別物だと分かりますよね。「虚偽記載かもしれないけど確証はない」なんて実務慣行に反した誰もやってない新たな方法で適時開示をしろとでも仰るのですか?内偵しないと、内部通報等の情報が正しいかどうかわからないでしょう。金額は確定していなくても虚偽記載である事くらいは確証が無いと、それは適時開示ではなく風説の流布です。

投稿: X | 2018年11月23日 (金) 01時25分

Xさまへ
2018年6月28日の日産の有報の「確認書」
>当社取締役社長西川廣人及び最高財務責任者軽部博は、当社の第119期(自 平成29年4月1日 至 平成30年3月31日)の有価証券報告書の記載内容が金融商品取引法令に基づき適正に記載されていることを確認しました。
>確認に当たり、特記すべき事項はない。

虚偽記載の主体は、ゴーン氏ではなく、西川社長ですね。
もちろん11月12日の四半期報告書の「確認書」にも「特記事項」として過去の有報の虚偽記載の疑いを記載する必要が有りますね。
こんな「確認書」を出しても罪に問われないのなら、鳴り物入りで導入されたJSOXの意味って何だったのでしょうかね。

また「虚偽記載の疑い」の段階で適時開示義務の対象で、そうしている上場会社の例はいくらでもあります。東証の適時開示のデータベースをご覧になったらどうでしょうか。1ヶ月分しか保存されていませんが、いまなら10月26日付の東京貴宝(株)の「不適切な取引の疑いの判明と調査委員会設置検討のお知らせ」が見られますね。適時開示後、第三者委員会に調査を依頼する、というのが普通の流れですね。
>株価連動型インセンティブ受領権40億円の未記載が金商法違反として問われている

これは初耳ですね。情報源はどこでしょうか。
株価連動型だったとしたら、株主総会の決議事項だったと記憶していますが、そうなら「有価証券報告書虚偽記載」ではなく「会社法違反」ですよね。

投稿: unknown1 | 2018年11月23日 (金) 06時02分

>2018年6月28日の日産の有報の「確認書」
>虚偽記載の主体は、ゴーン氏ではなく、西川社長ですね。

ころころ主張を変えないで下さい。「数か月間内偵をしたのなら、11月12日の時点では、特記すべきことを知っていたはずですよね。」と仰ってたので、四半期報告書は無関係だと事実を指摘したのです。11月の時点で云々と言っといて6月の有報を持ち出すのは詭弁です。

>四半期報告書の「確認書」にも「特記事項」として過去の有報の虚偽記載の疑いを記載する必要が有りますね。
ありません。四半期報告書の確認書は四半期報告書の記載事項に関するものだけなのは当然です。四半期報告書の確認書で四半期報告書の記載事項でないものを記載しろなどと、実務慣行に反した誰もやってない新たな方法をやれと仰るのでしょうか?

>「確認書」を出しても罪に問われないのなら、鳴り物入りで導入されたJSOXの意味って何だったのでしょうかね。
自分で報酬配分しながら、虚偽記載をしたゴーンさんも確認書にサインしてますので、現に罪を問われています。行為の当事者でない人間まで無理矢理拡大解釈して罪に落とすのがJSOXの意味の訳はありません。

>また「虚偽記載の疑い」の段階で適時開示義務の対象で、そうしている上場会社の例はいくらでも
ご自分で例示している適時開示を読まずに投稿されているようですね。その事例では、「調査を開始したところ、第三者を介在させた代表取締役社長のプライベ ートカンパニーとの取引などによる競業避止義務違反の疑いのある取引が存在することが認められるもの と判断致しました。」とあり、違反か否かを決めるのは司法なので疑いと記載していますが、該当の取引が確実に存在するところまで内部調査してから、開示していると言う意味ですよ。通報を受けてそのまま垂れ流しで適時開示しているわけではありません。日産のケースも全く同じでしょう。
他に当局に相談した時に、どのような指示をされるかと言う要素もありますから、なおさら無理な注文ですよ。

>これは初耳ですね。
ニュースを全く見られてないのですか?朝日などの全国紙を含む多数のマスコミで大々的に報じられていますが・・・。

>株価連動型だったとしたら、株主総会の決議事項だったと記憶していますが、そうなら「有価証券報告書虚偽記載」ではなく「会社法違反」ですよね。
株価連動報酬の上限株数と代表取締役(ゴーンさん)に配分権限を与える所までが株主総会決議事項で、その決議がされている旨は有報に開示されています。ゴーンさんの権限で配分した後の所で虚偽記載があったと言うのが、報道されている事です。確認書といい適時開示といい株主総会で決議済みの記載を見落としている件といい、文書の表題だけ見て、中身や根拠となるルールを確認されずに論評されているようですね。

投稿: X | 2018年11月24日 (土) 03時21分

Xさま、何を熱くなっているのでしょうか。
2018年6月28日に提出された有価証券報告書によれば、
>株価連動型インセンティブ受領権は、平成25年6月25日開催の第114回定時株主総会の決議により、年間付与総数の上限を当社普通株式600万株相当数としている。

>カルロス ゴーン
>総報酬735、金銭報酬735、株価連動型インセンティブ受領権 ―
>西川 廣人
>総報酬499、金銭報酬499、株価連動型インセンティブ受領権 ―
>(注) 株価連動型インセンティブ受領権の上記金額は平成30年3月31日時点の株価を用いて算定した公正価額に基づき、当事業年度に計上した会計上の費用を記載している。
>この公正価額で、支払いが確定されたものではない。

こういった記載になっているのに、「-」というのが「会計上の費用」と異なると言う事は考え難いでしょう。すると検察の主張は「会計上の費用」で記載したことが虚偽記載に当たるということなんでしょうかね。あと、ゴーン氏がアウトで西川氏がセーフというのは、どこに線引きがあるのでしょうかね。実務の問題として非常に興味が有ります。

投稿: unknown1 | 2018年11月24日 (土) 18時19分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 日産会長金商法違反事件に想う「エンロン事件のデジャヴ」:

« 日産会長逮捕(金商法違反事件)に関する私的な感想 | トップページ | 日産会長金商法違反事件-司法取引は国民目線で考えよう »