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2018年11月26日 (月)

日産前会長金商法違反事件に思う-ジェネラルカウンセルの必要性

まだまだ続く日産前会長金商法違反事件への感想です。11月25日(日曜日)の各紙において、

前会長の金融商品取引法違反容疑の根拠とされている「虚偽記載」(報酬の不記載)とは、すでに決定されていた報酬額の半分を「後払い」とする合意が前会長と日産側との間で締結されていたものであり、当該後払い予定の報酬額を決定時に記載しなければならないにもかかわらずこれを未記載としていたもの

と報じられていました。ただし、報道されているところでは、この合意について何らかの(後払いに関する)条件が付いていたのかどうか、という点は明らかにされていません。ケリー氏が「ちゃんと法律や会計の専門家に相談しながら処理していた」と発言し、また前会長自身も違法性の認識を否定しているようなので、このあたりは「合意には受給条件が付されているので将来の支払いが確定していたわけではない」(だから虚偽記載にはあたらない)との抗弁もあるかもしれません。ちなみに日曜日夕方の日テレ「バンキシャ」では、ケリー氏が「将来支払われるかどうかわからない報酬なので合意時に開示する必要はない」と述べていることが紹介されていましたが、上記のような反論を示していることも考えられます(このあたりは会計専門職の方々の意見も参考にしているのではないかと)。

昨日のエントリーの続きになりますが、権限の集中した経営トップの不正に対して、本来ならば監視役になるべきナンバー2が(少なくとも)不正の疑いのある行動に出る、ということになりますと、なるほど日産のガバナンスの現状ではトップの暴走を止めることはできないのかもしれません。昨夜のNHKスペシャル(ゴーン・ショック)では、不正調査に関わった関係者が「取締役会に報告をせずに司法取引まで進めていた」と証言されていましたので、ルノー関係者が4名の取締役会には前会長やケリー氏の行動が報告されなかったとしてもやむをえなかった。ましてやナンバー2の方が弁護士資格を持ち、人事権を掌握しているような立場にあるので、他の役員は声を上げることさえなかなかできないのが実態だったようです。

昨日のエントリーで、私は日産のガバナンスの健全性には疑問ありと書きましたが、「日産は(ルノーとの株式保有関係やV字回復を実現させたカリスマトップの存在など)特殊な会社だからガバナンスの問題を指摘するのはかわいそうだ」といった有識者の意見も聞こえてきます。しかし、だからといって、組織の存亡につながりかねない不正が見逃されてもよいわけではありません。したがって今後は(報酬委員会を設置するなど)コーポレートガバナンスの抜本的改革がなされるものと思います。ただ、(委員を経験された方ならわかると思いますが)報酬委員会というのは、指名委員会が機能して初めて機能する性質の委員会です。日産のように強力な親会社が存在する中で、トップの選任・解任プロセスの透明化を図るため、もしくは後継者育成計画を実施するために、そもそも指名委員会が機能するのかどうか、かなり疑問が残ります。

私は先週のエントリーでも書きましたが、そろそろ日本の企業もジェネラルカウンセルやチーフリーガルオフィサー(CLO)なる役職を置くべき時期にきているのではないかと考えます。当初、前会長と一緒に逮捕されたケリー氏はジェネラルカウンセル的な立場にあったのではないか・・・と述べましたが、これまでの報道をみますとどうも(弁護士資格は保有しているようですが)そういった役割を担っていたわけでもなさそうです。今年4月、経産省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」が公表され、日本企業がグローバル競争に勝ち抜くために、法務の力を戦略に活かす必要性が高い、と説かれました。そのなかで、欧米諸国には置かれているにもかかわらず、日本企業には置かれていないジェネラルカウンセルの必要性にも焦点が当てられています。GCは、単に法務の最高責任者というのではなく、経営企画の最初から関わり、社長と一緒にリスクをとりながら執行責任を負います。計画立案の最初から関わり、またリスクを負うからこそ、社長は(法務リスクの面から)GCがNOと言えば執行を中止します。ギリギリまで社長のリスクテイクを応援しますが、社長と対立すれば退職しなければならない覚悟も必要です。グローバル企業である日産に必要なのは、まさにこのGCやCLOといった立場の人たちではないでしょうか。

本日のNスぺを視ておりますと、日産の監査役さんが3月以降始動した不正調査グループにおいて重要な役割を担っておられたようです。日本企業にGCやCLOのような役職が存在しない現時点では、日本企業に特有の「監査役」なる職務に従事している方が同様の役割を担うべきなのかもしれません。おそらく厳しい立ち位置におられたものと想像いたしますが、今回の事件がひと段落した段階で、日産の監査役の方々がどのような行動をとられたのか、可能な範囲で紹介されることを期待しています。

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コメント

「無駄に拡大しようとするバックオフィスをいかに抑制するか」という思想が経営学の定石である以上、ジェネラルカウンセルやチーフリーガルオフィサー(CLO)を置かずに、法務は管理部門や総務部に担わせるか、人事権を持つ管理部門や総務部のトップがジェネラルカウンセルやチーフリーガルオフィサー(CLO)を兼帯させる方向になる気もします。

平成26年の株主招集通知(2018年時点でEDINETでの有価証券報告書の代替書面として見れる)においてCEOオフィス、アライアンスCEOオフィス、グローバル人事、法務室、人事室、組織開発部、秘書室などを担当していると明記していたグレッグ・ケリー代表取締役がジェネラルカウンセル的な立場になかったというのは首をかしげざるをえないです。
(正直な所、こういう人事に関しては東芝に近い所がありますが)

法的には問題ないのかも知れませんが、代表取締役でありながら、担当部署を平成27年以降明記していないというのも今となっては「そうすると都合が悪い」ものがあったのではないかという疑いの目を向けられても致し方ないと思います。

昨今世界的に経営者の高額報酬が批難されていますが、株式連動報酬が「将来支払われるかどうかわからない報酬なので合意時に開示する必要はない」という言い分に使われる状況だと、世界的に高額報酬の抜け穴や算定などによる高額な手数料が欲しい専門機関の言い訳として株式連動報酬が世界的に使われている疑念を従業員や株主が持つような気がします。

GCやCLOを置いても、必要な設備投資をせずに支払われる社長の高額報酬を維持するための法的武装に走るようなガバナンスでは、バックオフィスが無駄に拡大して終わるだけの話になると思います。

投稿: unknown3 | 2018年11月26日 (月) 11時48分

報道において、検察情報にマスコミが思い思いの尾ひれを付ける流れが定着してきましたね笑
一流の日刊紙が「か?」とか「とのこと」のオンパレードでスポーツ新聞化してます。

わたしは完全にゴーン氏擁護派に徹することにしました。
SARについて監査法人の指摘を論破して不記載が通ったのであれば、その程度のあやふやな事実認定ではもはや犯罪を論じることが無理筋でしょう。
監査法人が犯罪を黙認したとでもいうのでしょうか。

監査法人はゴーンとケリーとしか話をしないのでしょうか?
そんなはずないですよね。
でしたら取締役会全体の責任です。
ゴーンとケリーだけをあげつらう日産も世論も頭がおかしいと思います。

投稿: JFK | 2018年11月26日 (月) 16時10分

金遣いの荒さからすると、金商法違反よりも特別背任のほうが筋がよいわけですが、それをしなかった(できなかった)ということは、事実認定上の障害があるということでしょう。
どこの会社もそうですが、役員の支出は個人的な使途との線引きが困難です。投資目的だの理屈を通して勝ったマンションであれば、特別背任も難しいでしょうね。
マンション以外に個人的なものがあったとしても、もはや、わざわざ特別背任を持ち出すべき事象か?という結果になる可能性大です。
そうすると、やはり犯罪ありきで事を進めようとしたことが問題であって、役員としての資質、会社のガバナンスといった民事的問題であったと皆気付くでしょう。

投稿: JFK | 2018年11月26日 (月) 18時27分

有力報道機関の偏向報道に歯止めがかかりませんね。
記事本文に中身がないため、見出しで一矢報いるべく必死のようです。
例えば、「ゴーン容疑者、将来の報酬認める」。これなどは悪意のかたまりです。将来の未確定報酬であって記載義務がないと反論しているのに、容疑を認めたかのような見出し。ほかには、「ゴーン元会長、違法性の認識否定」。これなどは、さも虚偽記載そのものは自白したかのような書き振りです。そもそも虚偽記載ではないと反論しているにもかかわらず。
もっとも、日経新聞は、今日の夕刊になってやっと論調が正常化してきました。やはり法律事務所や金融庁に照会していた可能性を考慮しての態度変更でしょう。適法意見を得ていたのであれば金商法の筋は完全に途絶えます。

いかんせん、SAR報酬の記載義務について、専門家による情報発信が無さすぎるように思います。日産の有報にあるとおり、付与時の公正価値に基づく費用計上額を記載する実務が正しいのであれば、日産がゼロと書いている以上ゼロなのでしょう。それを、素人感覚で、将来受けとることが確定した時点で開示義務がある、などと本気で考えているのでしょうか、検察は。退職慰労金にしても、引当金への繰入額を書けばよいのであり、会計処理を無視して虚偽記載を立件するのは無理だと思います。
ゴーンさんのSARがゼロなのは確かに疑問ですが、確定すると記載義務が生じるので付与に係る各種書類にあえてサインしていないのかもしれません。
彼らはそれくらい周到に適法対策をしていたと思います。

ゴーンさんとケリーさんには、もっと堂々と高額報酬を得る道がなかったか?という疑問はありますが、日本側役員と検察の謀略には負けないで頑張ってほしいと思います。

投稿: JFK | 2018年11月28日 (水) 16時23分

山口利昭先生

ご無沙汰しております、大杉です。
「そろそろ日本の企業もジェネラルカウンセルやチーフリーガルオフィサー(CLO)なる役職を置くべき時期にきているのではないかと考えます。」 → 今この問題について友人たちと議論しており、どうやってCEO他にこの点を理解してもらえるか知恵を絞っているところです。
 山口先生のお知恵・お力を借りる日が来るかもしれませんが、その節は何卒よろしくお願い申し上げます。

投稿: 大杉謙一 | 2018年12月 4日 (火) 09時52分

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