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2018年11月29日 (木)

日産・金商法違反事件-未確定報酬の後払いと違法性の認識

昨日(11月27日)の産経新聞「正論」では、早大の上村教授による「ゴーン事件は日本に何を問うか」と題する論稿が掲載されており、上村先生は冒頭「日産のゴーン会長については、さまざまな論評がなされているが、法的な問題を押さえない話が横行しているかに見える」と述べておられます。というわけで(?)、また少しばかり(拙いながらも)法的な問題に触れておきたいと思います。

本日(11月28日)の産経新聞朝刊では、前会長の金商法違反容疑事件で揺れる日産は企業統治改革の一環として「指名委員会等設置会社」への移行を検討している、と報じられています。指名委員会、報酬委員会、監査委員会を必須の機関とすることにより、代表取締役の業務執行の監督機能を強化することが狙いとのこと。ただ、移行のためには株主総会において定款変更(特別決議)が必要なので、ルノー社との協議次第、といったところでしょうね。なお、いつも拝読している梅本剛正教授(甲南大学)のブログで、日産事例と最近のオリンパス事例を比較して、両事件に対する機関投資家の関心について分析をされておられます。まさに正鵠を得た意見だと感じました。私も梅本先生と同じことを考えていたのですが、諸事情ございまして(笑)、オリンパスの件はコメントできない立場なので、ぜひとも梅本先生のブログをお読みいただければとcoldsweats01sweat01。日産の件も、ゴーン氏がどうのこうの・・・ということよりも「これからのアライアンス」にこそ、機関投資家の関心が向いているのですよね。

ところで(ここからが法的な問題になりますが)、各紙報じるところでは、ゴーン氏の刑事責任の追及にあたり、同氏が有価証券報告書の虚偽記載罪について、違法性に関する認識の成否(故意の立証)が争点になる、といった論調が目立ってきました。ゴーン氏の報酬の半分程度は後払いによって日産が支払う旨の合意書が存在していることは事実のようですが、当該合意書によって退任後報酬の金額は確定しているので報告書への記載義務があるのか、それとも未確定なので合意書締結の時点では後払い分を開示する必要はないと考えるべきなのか、といったところで検察と前会長らとの主張が対立しているそうです。この主張の対立は金商法違反行為の解釈に関するものですが、違法性の認識、という争点を考えるにあたっては、会社法に関連する論点も検討しておくべきではないでしょうか。

前にも述べた通り、報酬後払いに関する合意書の具体的な内容がわかりませんので確かなことは言えませんが、「支払方法だけが未確定」ということであれば、退任後報酬の金額は確定しているわけですから、これは報告書記載義務がすでに発生しているといえそうです。仮に(支払方法だけでなく)退任後の報酬金額自体が未確定、あるいは権利行使条件が付されているということであれば、たしかに記載義務はないようにも思えます。ちなみに本日の読売新聞などを読んでおりますと、後払い報酬の受け取り方法はまだ決まっておらず、日産所有の高額絵画で受け取る方法や顧問料の上乗せによって受け取るなどの取り決めが文書化されていた、といった新事実が報じられていました。

こういった記事では前会長の金商法違反に関する根拠事実が示されているわけですが、冒頭の産経「正論」にて上村先生が「ゴーン氏は企業法制をなめきっている」と強調されるとおり、会社法の視点からもいろいろと問題点を指摘できそうです。「ん?会社法のルールって、そんなに簡単に無視していいの?」といった問題です。

まずひとつめが未確定報酬ということであれば、別途株主総会の承認決議がとられているのだろうか--会社法361条1項との関係--という点です。金額の確定した報酬であれば、上限枠(本件では29億9000万円の限度内)の承認は得られておりますので、その範囲内で(取締役会の再一任がある以上)ゴーン氏の判断で具体的な報酬額を決定することもできます。しかし、後払い報酬の金額が未だ確定していないとなりますと、別途具体的な算定方法について(そのような算定方法を相当とする理由を説明したうえで)承認決議が必要ではないかと。しかし、そのような決議はインセンティブ受領権(SAR)による報酬分しか決議はとられていません。また現金以外の報酬(絵画)を受け取るのであれば、これも別途株主総会の承認が必要になります。ゴーン氏やケリー氏の主張を前提とするのであれば、このような会社法違反の点をどう評価すべきか・・・といった問題です。

ふたつめの問題として退職慰労金制度との関係です。退職慰労金も、取締役の職務執行上の対価(会社法361条1項柱書)と解されていますので、ゴーン氏への後払い報酬についてもこれに準じて考えてもよいのではないか、といった問題です。退職慰労金は株主総会において金額を明示せずとも「取締役会一任」で決議をしてもよいとされていますので、資金を積み立てず、後日金額を確定すれば足りるとも考えられそうです。ただ、判例の立場では、株主がどのような支給基準によって退職慰労金が支給されるのか、当該支給基準(社内ルール)が確認できる状況になければ包括委任決議は有効とはいえない、とされています。したがって、日産側とゴーン氏との合意だけでは社内ルールとは言えず、取締役会で決定した支給基準が必要なので、ゴーン氏は会社法のルールと矛盾する行動に出ているように思われます。

そして最後にゴーン氏と日産との「利益相反取引規制」に関する点です。20億という金額がすべて確定した報酬ということであれば、会社法356条の規制の問題は生じません。しかし、新聞報道にあるように、退任後に顧問契約を締結し、その顧問料の上乗せ分として報酬を支払うというものであれば、これは純粋な役員報酬ではなく、顧問料としての性格を有することになりますので、会社法が規制する「利益相反取引」に該当し、取締役会の承認が必要になるはずです。たとえ顧問契約を伴う合意ではなくても、報酬金額が未確定であり、何らかの権利行使条件をクリアしてはじめて報酬額が支払われるのであれば、これも利益相反取引に該当するものと思います。現金の代わりに絵画を受け取る・・・という合意も同様です。したがって、いずれにしても報酬額が未確定ということであれば、ゴーン氏はなぜ事前に取締役会の承認を得なかったのか・・・という点が問題になると考えます。

利益相反取引の問題は、後日、会社が合意書の無効(通説では相対的無効)を主張しうる・・・といったことも効果としては発生するのですが、そもそも報酬金額が確定していない、ということを主張するのであれば、後日確定させるためのプロセスをなぜとらなかったのか、といったところで合理的な説明が必要になり、前会長側において、そのあたりの説明がなされなければ違法性の認識に関する証拠のひとつにもなりそうな気もいたします。逆に、ゴーン氏側が無罪を主張するのであれば、あえて会社法のルールを遵守せずとも、後日に後払い報酬を受領できる根拠を示す必要があるのではないか・・・と考えます。

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コメント

山口先生の本エントリーの冒頭の文面拝読中にふと浮かんだイメージ。

下記の様な形/EV視点で・・・小説的飛躍し過ぎ?大変恐縮ですが、ご容赦下さい。

「You cannot see the wood for the trees・・・的:自省を含めて」

拝啓、カルロス・ゴーン様
貴殿がCEOという職務をケリー、西原両氏に譲り、主たる業務を後継者に移した姿は、天下布武…天下に七徳の武を布く…を唱えた日本史上の人物「NOBUNAGA」の晩年を思い起こさせます。側近に裏切られる流れに酷似した本件は、欧州で「ブルータス、お前もか」に例えられております。
ふと…貴殿は、もっと早くにNISSAN社を去りたかった?権限委譲をしたかった?けれどかつての副社長/志賀氏ほか日本人取締役は、貴殿の後継という重責を受け入れ難く感じ、「ゴーン体制継続」を望んだ面も?・・・故に、疑念諸事に代償を含め、「見て見ぬふり」的になったのでは…と、推測します。

逮捕に至る背景の一つ「日本版司法取引制度」を、個人的に良否を静観せざるを得ないのは、元キャリア官僚だった女史の著書「日本型組織の病を考える」の読者なら、本件が重なり、不安視すると思うからです。(ご家族ですら接見不可の下では、上記著書の差し入れなど叶いませんけれど…。)合法かつインテグリティな展開を願う者として、複雑な心境です。
別の推測・・・巷で「ゴーンチルドレン」と揶揄されている取締役諸氏は、ひょっとしたら、社外の誰かに「そそのかされた」のではないか?…と。あの方々だけで、謀反の様な計画/実行が出来たとは考えにくく、Tesla社の一件、そして本件と、EV推進企業が混迷する事で、誰が恩恵を受けるのでしょう?(資源エネルギー庁がスペシャルコンテンツ上でカントリーリスクとして懸念/提起中の、途上国レアメタル確保問題然り)それらの諸対策として、半ば強引に、アムステルダム等に拠点を置かれたのでしょうか(英・蘭社調整対策とか?)
(地理的な貢献…)中国との合弁事例=東風汽車社でのEV普及に更に拍車が掛かれば、日本に飛来するPM2.5等の大気汚染物質が著しく軽減する事に繋がるかと…この事が日本史上で評価されるのは、まだ少し先の話なのかも知れません。
経産省「自動車新時代戦略会議」が、2050年には全ての乗用車をEVに転換する(させる)という目標を掲げましたが、私の視点はもう一つ…近年国内で続発する大地震、そして津波起因の車体破損による発火で死傷者多発の観点からすれば、(原子力発電依存を軽減しつつ)カントリーリスク視点での、ガソリン・ディーゼル自動車→EVシフトを前倒ししてでも進めて欲しいと思ったりします。世論は、貴殿の金銭管理/罪の有無偏重と思わざるを得ない報道/アンバランス状態ですが、「他にも早急に課題に取り組み、準備対策を進める事柄」が軽視されているのではと、危惧します。
貴殿だったからこそ、中国、ロシアとの合弁企業設立や、メルセデスという高級車のパワートレインアライアンスも実現したと思います。前述チルドレン諸氏だけで今後も企業としての好況確保が出来るとは考えにくいと思うのは、私だけではない…かと。
フォーミュラEを率先して海外の主要都市で盛り上げる為に後方支援役に徹してきた事、ダイバーシティ面も兼ねて井原女史を取締役に置かれている(?)事も、貴殿が次世代型のモータースポーツビジネスの立役者と、私には映ります。日本及びNISSAN社への「数字貢献」と「ESG的環境貢献」が、(島国ゆえに)国内では過小評価されてきた…そこに「報酬イレギュラー」が発生したのが本件かと・・・。

(EVは誰の物か…)貴殿が先行決断/実行した『「葉」の量産化』は、光合成こそ生じませんが、走行中の直接的CO2発生は無く、先日のEEA(欧州環境機関/比較分析結果)でもEVの優位があらためて立証されました。「葉」の表面に付くのが「N」のマークで有ろうと無かろうと、重要なのは国境を越えた総合的アライアンスメリットの拡充であり、◇(ひし形)マークをはじめ、VWやF,GMそしてT(&L)やHマーク等が増える事・・・貴殿の考え/真骨頂は、そこに在るのではないでしょうか。「グローバル本社」と銘打った背景にも、そういう意味が含まれているかと…。多くの国の支援を得て決定した次の大阪万博が開催の頃には、渋滞しても排ガスの懸念は皆無…という国内交通インフラであって欲しいとも考えます。

未決拘禁者としての日々は、おそらく畳の部屋生活だと思われますが、椅子の国で生まれ育った貴殿には、日本人以上の苦痛がお有りかも知れません。その面での早期の保釈を願っています。過去のコストカットには叱咤激励の面もあり、それはある意味では、V字回復という数字評価以上の、日本国への慈愛の面もあったのではないでしょうか・・・。

最後になりますが、日本の国営放送局/NHKには「歴史秘話ヒストリア」という番組があります。仮に将来、本件が取り上げられるとしたら・・・「当時は誤解等が重なりギクシャクしたけれど、お互いの母国=それぞれの国民、クルマ業界、司法の面…等からも、結果的に良かった…」合法かつインテグリティの成功事例として、若者達に胸を張って紹介出来る様な本件の収束を…願っています。(たかが日本人、されど地球人の一人として…)

たわいない内容と思われる面も覚悟の上で記述連ねました。恐縮です。
貴殿にはどうぞお身体をご自愛され、ご家族と共に新年を迎えられる展開となる事を願っております・・・。   敬具

2018年11月 X’masを前に…にこらうす

投稿: にこらうす | 2018年11月29日 (木) 09時54分

ゴーン氏への追加報酬を財務諸表に反映すべきであったかどうかの会計判断で、有罪かどうかが問われる様子ですね。金商法で虚偽記載が争点になれば、最後は会計基準の解釈(・・極めて曖昧で千差万別?の解釈が可能)に行き着くことは自明でした。民法でいう債権は会計のそれとは異なります、会計ではかなり幅が広い解釈をします。(例えば、価格が契約などで明確に一取引毎決定されていない・・後決め、暫定価格でも売上は計上しなければなりません。)また、引当金の見積もり計上でも誰が何処までの金額と決定するのでしょう。不足が発生し損失が確定したた時点で、それは「虚偽記載」となるのでしょうか?こうした事件では、会計処理に関して適性意見を表明している監査人が「やっぱり間違っていました」と訂正報告書を提出するかしないかが、裁判に影響を与える大きな山場を形成するのではないかと・・恐れる次第です。世間の一部では「またしても、あの監査法人か」と、事件の背景や要因、何よりも会計判断の本質を真剣に議論しない風潮も見受けられますが、日常の経理判断は刑事事件に遭遇すれば、様々な方面からの批判や疑念に取り巻かれ、それは「其の時の判断です」では済まされない事になりましょう。・・・まあしかし、ゴーンさんは、法律論、会計論を別にすれば、清貧で無欲な人とは思えません、手を尽くし知恵を絞って隠す努力をせずに、そのまま記載しておれば問題は無かったのですが、それはそれで何か不都合だったのでしょうか?。

投稿: 一老 | 2018年11月29日 (木) 14時50分

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