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2018年11月12日 (月)

時宜に適ったMBO手続き指針の改訂に期待いたします。

先週11月7日、「攻めの企業法務」なるタイトルで、経産省の方(経済産業政策局)が大阪弁護士会で基調講演をされたので聴講してまいりました。競争法関連のお仕事をされているそうですが、経産省としては3年ほど前からGAFA規制の必要性については検討されていた、とのこと。お話は私自身の仕事についてもたいへん参考になりました。ただ、ここ10年、中国政府とガチでバトルを繰り広げてきたGAFAのリスクマネジメントをみておりますと、ヤワな日本政府の規制で委縮することは考えにくく、むしろ日本企業が規制の網にひっかかる間に「チャンス」とばかり攻勢に転じるのが米国の巨大IT企業の「攻めの企業法務」ではないか・・・と予想しております。

さて、経産省の企業規制といえば、GAFA対応だけでなく、国内上場企業向けのソフトロー対応にも注目すべきであります。現在進行形のCGS研究会におけるグループ・ガバナンスの実務指針のほかに、あらたに「公正なM&Aの在り方に関する研究会」が設置され、平成19年に策定された「MBO手続き指針」がひさしぶりに改訂されるそうであります。11月9日の日経朝刊が報じるところでは、MBOだけでなく、これに準じるような利益相反構造にある企業再編手続きも含めての指針作りや社外取締役の積極的なMBO手続きへの関与の是非あたりが検討されるようです。

MBO指針が策定されて11年、利益相反構造をもつ多くの企業再編が行われる中で、企業再編の手法に影響を及ぼす会社法の改正も行われ、また少数株主保護に関する裁判例なども出ておりますので、このタイミングでMBO手続き指針を改訂するのはまことにタイムリーなものだと思います。私も一昨年には社外取締役として少数株主保護を最優先に図る立場を務め(セブン&アイ・グループとニッセンHDとの三角株式交換による100%子会社化)、昨年には統合比率の公正性確保のための第三者委員会委員長を務めました(住友ゴムとダンロップスポーツによる合併手続)ので、MBO類似の利益相反構造における取締役行動のむずかしさは痛切に感じたところです。したがって、「健全なリスクテイク」を後押しするであろう、このたびの指針の改訂には大いに期待をいたします。

社外取締役の積極的関与といえば、金商法上の開示責任を問われた判決もさることながら、シャルレ株主代表訴訟判決(第一審神戸地裁平成26年10月16日、控訴審大阪高裁平成27年10月29日)あたりは(社外取締役の)行動規範を知るうえで理解しておくべきと考えます。たとえ(結果的に)少数株主に実質的な損害を与えなくても、支配株主の利益を優先した疑いのある手続きを進めてしまいますと「手続的公平性配慮義務違反」ということで善管注意義務違反の責任を問われる可能性がありますので要注意かと。また、統合される側の社外取締役さんは、(数か月間)ふだんの5倍から10倍程度の職務時間を求められますので、3社以上の社外役員を兼務されている方などは、本業や他社役員の仕事とのやりくりは覚悟しておく必要があります。さらに、昨年6月にこちらのエントリーでも書きましたが、ここ数年、MBOに関わる第三者委員会の性質にも変遷がみられますので、社外取締役自身が構成員となる第三者委員会がどのような性格でMBO手続きに関与すべきか、そのあたりの理解も必要になると思います。

なお、実際に自分がMBOに携わってみて思うところは、法律家やコンサルタント会社の指導を受けますと、どうしてもMBOのプロセスの公正性、つまり取締役の忠実義務や公正価値算定などに関心が向きます。しかし、本当に大事なのは「人間模様の上手な整理」という点です。インサイダー取引リスクを防止するために、ごく限られた範囲の人の間で隠密裏にコトが進みます。そんな中で、企業再編への社内の反応はマチマチです。カリスマ創業者でもいないかぎり、コトは予定調和的に進むわけではありません。統合に向けた様々な障害を、どう統合後の企業価値向上につなげていくかはMBOを進める当事者の力量や胆力、妥協力にかかってきます。親会社と子会社に至った経緯とか、子会社社員が今度どのように取り扱われるか・・・親会社にとってどの程度重要な会社とみてもらえるか、といったところを上手に整理していかなければ、それこそMBO手続きによって当事者の法的責任は回避できたとしても、M&A自体は失敗に終わってしまうと思います。

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コメント

事前警告型買収防衛策は、社外取締役の選任が進んでいない時代(当時の委員会設置会社以外はほぼゼロの会社ばかり)に外部の委員を指名して委員会という形を整えていましたが、このような在り方もこの機会に再考して、独立社外取締役がしっかり役割を果たす方向に舵を切ってほしいと願っています。そういった場面で、きちんと職責を果たすだけの覚悟とその時間がある社外取締役が、委員会を構成できるだけの適切な人数選任されておくことが求められるはずです。株主・投資家も、そういうスタンスで株主総会での賛否を表明すべきですよね。

投稿: 辰のお年ご | 2018年11月12日 (月) 12時29分

おひさしぶりです。コメントありがとうございます。買収防衛策も取締役会改革のなかで変容を迫られるものなのですね。最近、あまり劇場型の買収劇がないので触れませんでしたが、たしかに修正が必要ですね。私は経験はないのですが、この仕事も有事となると職務専念が必要になりますね。またご教示のほどよろしくお願いいたします。

投稿: toshi | 2018年11月13日 (火) 02時01分

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