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2018年11月23日 (金)

日産会長金商法違反事件-司法取引は国民目線で考えよう

今週は火曜日から木曜日まで東京で仕事をしておりましたので、大阪の事務所には多くのテレビ・ラジオや新聞等の取材依頼がございましたが、すべてお断りさせていただきました。私はテレビ・ラジオの取材はお断りさせていただいておりますが、時間さえ合いましたら新聞、経済誌の取材には(できるかぎり)対応させていただくつもりでおりますので、またよろしくお願いいたします。<m(__)m>

さて、本日(11月22日)夜、日産の臨時取締役会でゴーン会長の解任決議がなされ、ゴーン氏は「元会長」と称されることになりました(ルノー社については留任が決定とのこと)。日産の幹部社員と検察との間で日本版司法取引の合意があったと報じられてから、さまざまなメディアで日本版司法取引(刑事訴訟法上の協議・合意制度)の解説がなされていますが、制度開始にあたって最高検が「国民の常識に沿う形で運用してまいりたい」と述べていたことを(少なくとも)私は信じたいです。

まず、MHPS社の適用第1号案件に関する11月7日のエントリーでも少し述べましたが、日本版司法取引は、そもそも日本の刑事司法の「取調べの可視化」を進め、人権侵害のおそれが高い「自白偏重主義」から脱することを目的として条文化されたはずです。そして、自白に頼らずとも重大犯罪の摘発が可能となるよう、他人の犯罪に関する情報提供に(自己の犯罪に対する)刑の減免を認めたものです。したがって、国民の常識に適うよう、(情報提供に基づいて積み上げた)客観証拠によって立件が可能となるような運用がなされるのが原則だと思います。22日の朝日新聞1面トップに「ゴーン氏が虚偽記載をメールで指示していた」と報じられていましたが、これなど客観証拠のひとつと考えます。

ところで11月21日の産経新聞朝刊一面に「不正な投資金支出 ゴーン容疑者、是正を拒否」との見出しで、興味深い記事が掲載されました。証券取引等監視委員会は、数年前に(証券会社の検査において)ゴーン氏による不正な投資金支出に関する疑惑に気づき、日産側に是正を求めたそうです。日産側は、再三にわたりゴーン会長に不正な投資金支出をやめるように説得したものの、ゴーン氏がこれに応じなかったとのこと。そして、21日の朝日新聞ニュースによれば、今年3月、投資金支出の不正に関する内部通報がなされたと報じられています。そして6月には検察にも内部告発があったようで、その後複数の幹部社員と司法取引の協議が行われるわけですが、その協議の経過は不明です。

この流れからしますと、検察は会社法違反でも(関係者との間で)司法取引ができたのではないか、とも思えるのですが、①会社法違反で司法取引を進めますと、ほかの取締役や監査役の方々の共犯(不作為のほう助)を調べる必要があるのではないか・・・との疑念が湧いてきます。また、②(後述の山口幹生先生のコメントでも触れられていますが)業績連動報酬や会社資金の私的流用、会社経費の流用についても、検察はどうも「報酬の一部」として取り扱っているようなので、そうなりますと会社の損害とはいえない可能性があります。これらの理由から、金融商品取引法違反(虚偽記載)を持ち出して司法取引の合意に至ったのではないかと推測いたします。たしかに金商法違反においても、ゴーン氏の過少な報酬額の開示については虚偽記載の認識(故意)が他の役員にも認められるのではないか・・・との疑問もあるかもしれません。しかし、ほとんどの上場会社において、個々の取締役の具体的な報酬額決定は社長に一任されているのが現状です。したがって、(ガバナンス上の問題を指摘することは可能だとしても)金商法違反で立件するのであれば、おそらく指示した者と実行した者だけで済む・・・という理屈が成り立つものと思います。

なお、本日あらためて山口幹生先生(大江橋法律事務所 元東京地検特捜部検事)からコメントをいただきましたが、私もまったく同感です。たとえ50億円の過少記載だとしても、それが投資家の投資判断に影響を及ぼすほどの「重要な虚偽記載に該当するのか」という点は疑問が出てくるはずです。一般の投資家が、代表取締役の報酬額をみて投資判断を決めているといえるかどうか。。。コメント欄で一老さんが指摘されているとおり、今回の件を金商法違反容疑で立件するとなりますと、またまた副作用がいろんなところで発生するおそれがありそうです。コメントをいただいたJFKさんやunknown1さんのご指摘も参考にしながら、私も国民目線に留意しつつも、実務感覚をもって本件の流れをもう一度見直したいと思います(皆様方の忌憚のないご意見、ご異論、お待ちしております)。

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コメント

法律的知識が稚拙な自分は頭が混乱するばかりです。本件は、組織上の地位を悪用して巨額の財産を私得したその結果が、会社のディスクロ文書に記載されていなかったのであって、虚偽開示することによって私得したのではないのでしょう。①虚偽開示を以て重大犯罪とするならば、被疑者の範囲は限りなく広がり、日産に関わる誰もかれもが司法取引を余儀なくされませんか?②開示さえしておけば罪に問われることはなかったのでしょうか?・・金商法の扱いは一つ間違えば企業人にとって結構「恐ろしい」法律と化すように思えて仕方ありません。監査役協会や公認会計士協会は何らかの見解を出すべきかと思います。(捜査中でありその国権に影響を及ぼす事は避けたいでしょうが・・)

投稿: 一老 | 2018年11月23日 (金) 11時00分

「代表取締役の報酬額をみて投資判断を決めているといえるかどうか」というと「会社がどうなろうが構わない」というデイトレーダーなどのような短期投資家以外の一般の投資家もユーシンの件を見れば以外に見ていると思いますし、見ていなければ高額報酬批判も起こらないものです。

営業利益率を役員がどの程度食いつぶしているかは投資家としては無視できない話です。高額配当しとけば許される話ではないです。

今回の上場廃止につながりかねない有価証券報告書虚偽記載の問題が浮上し、監査法人が指摘しないに関わらず数年も虚偽記載が起こっている状況は、有価証券報告書での売上や利益の虚偽についても疑念を持たざるをえないので、高額報酬に対する監視はガバナンスの赤信号として今後はより厳しく見られると思います。

投稿: unknown2 | 2018年11月23日 (金) 13時48分

「国民目線」の報道の例として【ウソ】の記載と表現があちこちに見られます。
どのくらいウソをついていたのかという数値表現(うん十億円という報道)がないと国民には何がどれだけ悪いのか分からないので、この点はマスコミも法律に関する補足をお願いしたいところです。

「ウソついたらハリ千本、呑~ます」ということなのかな。

投稿: 試行錯誤者 | 2018年11月23日 (金) 20時26分

カルロス・ゴーン氏は、どこかの時点で「裸の王様」になった、ということですかね。今のところ。仕立て屋とか、衣装をほめそやした取り巻きたち、とか。役者は違っても、どこの組織でも、起きうるドラマのように感じられますが。

投稿: コンプライ堂 | 2018年11月24日 (土) 12時44分

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