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2018年11月20日 (火)

日産会長逮捕(金商法違反事件)に関する私的な感想

日産の社長さんの記者会見もきちんとは聴いておりませんが、夕方以降、日経、朝日ほか、いろいろなメディアの取材を受けましたので、当ブログでも会長逮捕劇を受けての第一印象のみ、書かせていただきます。

1 内部通報を契機とした社内調査で経営陣が動いたという点。ヤマト運輸さん、KYBさんをはじめ、今年も多くの不祥事が内部通報をきっかけに不正が発覚しました。経営陣の不正を糾弾し、自浄能力を発揮するためには、やはり内部通報制度を機能させることが不可欠とあらためて認識いたしました。監査役からの問題提起があったようで、監査役制度も機能したのではないでしょうか。数か月前に内部通報があった、ということのようですが、無資格者検査事件や燃費データ偽装事件を起こしても企業風土が変わらなかったことへの日産社員の憤りが「通報」という形(ひょっとするとマスコミへの告発と同時だったのかもしれませんが)で表面化したのかもしれません。

2 ガバナンスという視点から。日産自動車のガバナンス報告書や有価証券報告書(2017年度)を読みますと、日産さんの取締役会には指名・報酬委員会は存在しないのですね。会長(取締役会議長)が、他の代表取締役と協議して役員報酬の金額を決定する仕組みになっています。ということは、インセンティブ報酬(日産さんの場合はインセンティブ受領権)の算定評価はブラックボックス状態で行われていた可能性があります。さらに、取締役会は、各取締役の報酬決定を会長に一任していると思いますので、ほかの取締役さんは(開示されるまで)、会長の年間報酬はいくらだったのかわからなかったと推測します(このたびの逮捕劇は「インセンティブ受領権」がポイントではないかと。。。はずしていたらゴメンナサイ!)。ちなみに、東証1部上場企業の4割で、すでに任意の報酬委員会を設置していますが、日産さんに委員会が設置されていればもっと早く不正を発見もしくは防止できたかもしれません。

ここは最近の企業統治改革の流れも影響していると考えています。ガバナンス改革においては役員報酬は高額化しており、そこには中長期の業績連動型の株式報酬制度がトレンドになってきました。ストックオプションが付与された場合には、そのオプションの時価が報酬として開示されますので、よほどインセンティブ報酬の算定評価に詳しい方でないと、役員の報酬額の算定はむずかしいはず。そこへきてガバナンス改革の流れの中で、どこの上場企業も取締役の人数を減らしています。つまり株主総会が監督している「報酬額の上限枠」にかなり余裕が出てきます。したがって、(取締役会の監督機能がききにくいために)同じような代表者の不正リスクはどこの会社でも存在すると思います。逆に、会長さんの報酬が超高額のため、上限枠を使い切ってしまって、はみ出した分を隠蔽していた可能性もありそうですが、そんな単純なことでもなさそうな。。。

3 事件の広がりについて。逮捕容疑は金融商品取引法違反ということですが、他の重大な不正行為も認められたとの日産リリースからみると、会社法違反(特別背任罪等)被疑事件などにも発展するのではないでしょうか。さらに、開示された報酬金額が虚偽であったとしても、これだけ株主から高額報酬への批判が出ている世の中ですから、何らかの説明を果たし得るストーリーはあったのではないかと想像します。つまり、誰か株式報酬に詳しい社内もしくは社外の支援者が存在していた可能性もゼロとは言えないように思います。なお、事件の広がり・・・という点では、今回の件は(金商法違反容疑・・・ということなので)法人としての日産が検察との間で協議・合意制度(日本版司法取引)を活用していることはないでしょうか?(追記・・・11月20日の朝日朝刊では司法取引があったと報じています)3日ほど前に、当ブログに(司法取引に詳しい)山口幹生先生からのコメントをいただきましたが、まさに山口先生の指摘された論点を「おさらい」したくなるような事例であります。

4 会社による損害賠償訴訟について。日産には40%以上の株を保有する親会社が存在するわけですが、日産の取締役会は会長に対して損害賠償に関する訴訟提起をするのでしょうか。親会社がどのような態度でも、上場会社であるかぎりは提訴に踏み切るべきではないかと(個人的には)思います。日産の被害額は全体からみれば微々たるもの、という意見もあるかもしれません。しかし、経営トップの不正は量的な面ではなく質的な面において悪質であり、業績に及ぼす影響も重大と考えておくべきです。

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コメント

山口先生 おはようございます。 カリスマなどは世間にはやはりおらず、普通のおっちゃんと一緒だなあと思います。 前回での不祥事では、広告宣伝を自粛することができないこの企業は一体何をしているのかと思っていました。 そろそろ、不祥事を起こしたテレビ番組のスポンサー企業のCMの垂れ流しも、その枠は自粛するのも大人の嗜みではないのかと思ってしまいます。差し替えられた15秒または30秒の告知CMには、(公益な)通報で世の中の不正を排除しましょう的なものでもいいのではないでしょうか? ゴウヨク イズ ゴーン。

投稿: サンダース | 2018年11月20日 (火) 06時41分

「司法取引」制度が機能した事案として歴史に残るのではないでしょうか。
部下の社員が経営トップの立件のために情報提供するという行為が、「水面下の見えにくい不正」の解明において如何に大切か。。。という司法取引制度の目的に沿ったものだと思います。

「氷山の一角」を崩した意義は莫大です。

投稿: 試行錯誤者 | 2018年11月20日 (火) 12時34分

山口利昭先生
 正におっしゃるとおりですね。検査不正等の件でも、社長さんの会見含め一連の事後対応が何となく上から目線というか謙虚さが感じられず、大分違和感を感じておりました。
 ちなみに、今回の被疑事実の有価証券報告書の虚偽記載は重要な事項についてと言えるのかどうか。会社の規模からして金額的には重要と言えないかも…!?もっとも重要性は質的な面も関係してくるので、結局のところ、投資家の投資判断に重要な影響を与えた否かですけど。
 それと、今回の一連の事件は全体として背任っぽい事案ですが、逮捕事実だけを見ると、実質報酬という評価がされているわけで背任には当たらないと(両者はトレードオフの関係かな)。そのほか、投資資金の私的流用と経費の不正支出については、今後、特別背任での立件が予想されるとか。これは実質報酬には当たらないということなのでしょうかね。そういうすみ分けができる事実関係があるのでしょう(か)。
 それにしても、常識的に考えて、こうしためちゃくちゃなことを取締役会、監査役が長年知らなかったとは思えません(当然これらの人たちの善管注意義務違反も問題になりそうです)。内部通報があったから調査が開始されたというのも解せない話です。背景にパワーバランスの軋みというか、クーデター的な動きがあったのではないかと愚考するところです。
 なお、仮に取締役会、監査役などが黙認していたとすれば、果たして背任(任務違背)に当たるといえるのかという素朴な疑問もあります。以上いずれにしても今後の推移を見守るしかありません(元の職場のやることに異論を述べるわけじゃありませんので)。
 追伸)「司法取引」の二例目であり、制度の想定からすれば典型とも言えますが、こんな公私混同は異例のことですので(事案自体も大雑把に見ると単純!?)、他社さんに余り参考になるようなケースではないのかなと。ただ、会社としての動き方や会社の責任をめぐる展開などは一つの目安になるとは思います。すみません、勝手なことをダラダラと。
  山口(幹)拝

投稿: 山口幹生 | 2018年11月22日 (木) 11時11分

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