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2018年12月19日 (水)

日産・金商法違反事件-会計実務家の常識的判断を尊重せよ(その3)

逮捕から1か月が経過した日産前会長・金商法違反事件でありますが、当ブログでも関心が薄れるどころかますます高まりをみせておりまして興味が尽きません。ルノーが日産に対して臨時株主総会の開催を要求していることが報じられ、マスコミの関心は日産vsルノーの支配権争いのほうへ移りつつあるようですが、私的にはまだまだゴーン氏・ケリー氏の立件の可否に関心を抱いております。

ところで、マスコミから聞こえてくる被告人(弁護人)サイドの反論については、「後払い報酬」の確定を否定するところがメインのようです。覚書や合意書など、複数の後払い報酬を確約する書面が出てきたところで、「日産の内規では、(報酬額の)最終確定のためには3名の代表取締役の協議が必要とされているのであるから、3名の署名がない以上は未確定と言わざるを得ない」という点が強調されているようです。優秀な方々が弁護人としてお付きになっておられるので、検察への反論としてはもっとも効果的と思料されます。

ただ、「確定」か「未確定」かで勝負をする場合、どうも検察の作った舞台で踊らされているようで、法的手続きを経ていない点を強調して無罪を主張したとしても裁判所を説得するのはむずかしいような気もいたします。たとえばインサイダー取引規制の対象となる「重要事実」のひとつとして、企業の「決定事実」が挙げられますが、この決定事実というのは取締役会等の会社法上で決定権限のある機関で決議がなされたような場合(法的に決定があったとされる場合)だけでなく、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関によるものであれば足りる、というのが最高裁判例の立場です。金商法違反の世界に「確定」「不確定」という概念を持ち出すとすれば、たとえ法的手続きは未了であったとしても、実質的なワンマン経営者が「最終」として決めた文書がある以上は「確定した」といえるとの解釈が裁判所で通用するのではないでしょうか。

ここからは(私の個人的な意見であり、もちろん賛同者は少ないかもしれませんが)金商法違反で起訴している以上は(あらためて考えても)会計実務家の常識的な判断が尊重されるべき事案ではないか、と思います。以下、私の考えを図表に示したいと思います。

Houteisenryaku001基本的には(その2)のエントリーで示したところと変わりはありませんが、そもそも金商法の解釈に(会社法の条文にある)「確定」「未確定」なる概念を持ち出す必要はないわけで、素直に金商法および開示府令の解釈問題と捉えれば足りると考えます。

最も「確定」という概念を使いたくなるのは開示義務が発生する要件として(後払いといえどもすでに報酬が確定しているのであれば)「当事業年度に係る報酬等」に該当する、という開示府令の解釈です。しかし、前にも述べたとおり、この解釈は、存在が確認されている3文書の文言内容と矛盾します(報酬と言いながら、支払方法合意書では「競業避止承諾料」や「顧問料」とされている。現にケリー被告人はこの主張を貫いています)し、機関決定がまったくなされていない点を全く無視することも問題となります。

そこで、次に「確定している」と主張するメリットのある解釈としては「当事業年度において受ける見込額が明らかとなったもの」に該当する、というものです。この解釈であれば「カリスマ経営者の実質支配状況、および開示に消極的な姿勢を総合判断して」「将来的に受ける報酬見込額は明らかになっていた」といえそうな気もいたします。ただ、この解釈だと先のエントリーでも述べたように、金融庁の考え方としては開示府令の解釈に会計処理方法を参照にしながら考えてよいことになっています。したがって会計の実務慣行がどうなっているのか・・・というところを解釈の指針とすることも十分に考えられると思います。

なお、有価証券報告書の役員報酬欄は会計監査の対象ではないので、会計慣行は問題にはならないのでは?とのご意見もあると思います。しかし、ここで問題としているのは「監査」対象としての有報ではなく、会計の実務慣行であり、報告書を作成する側の問題です。報告書を作成するにあたって、金融庁は「会計処理方針を参考にしてもよい」と述べているのですから、これを活用して、「解釈はこれしかない」と言うのではなく「解釈としてはこれもあるよ」と被告人側は述べればよいと思います。

したがいまして、別に被告人側は検察の「確定」「未確定」なる(評価に関する)主張が正しいものでも間違いでも構わないわけで、被告人側の(金商法の解釈としての)主張立証を粛々と行い、「これも解釈としては間違いではない」という心証形成に努めれば構成要件該当性もしくは違法性の認識のいずれかの争点で戦うことができるのではないでしょうか。〇か×か・・という論争は検察の舞台(アウェイ)での戦いであり、どっちも〇という相対的真実の世界(ホーム)で戦うことが得策ではないのか・・・と考えます(これこそ10年前の長銀最高裁判決からの教訓と思うのですが・・・)。

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コメント

わたしも確定/非確定の議論は検察の誘導に乗せられた感があると思います。報道をもとに議論するといつの間にか言葉あそびに乗っかっているという仕組みですね。もう健全な裁判所に期待するしかないです。

この事件のことをあれこれ考えていると、罪刑法定主義はどこへいったのか?と思います。具体的事実を抜きには語れないとしても、色々な論評をみても、規範そのものが不確定といわざるを得ず、ゴーンに罪を負わせたいと思うか否かで有罪/無罪のどちらにでも判決が書けそうな事案になってしまっています。
もっとも、裁判所はたぶんバカじゃないので、虚偽記載罪の趣旨から規範を導き、最終的には会計慣行というモノサシを確保するでしょう。それが罪刑法定主義を確保する唯一の拠り所です。そのうえで、金融庁が示唆している退職慰労金等の引当額を基準にする方法が上場会社全般で採用されている実務であり最も明快、と判断されると予想します。ただ、長銀事件・日債銀事件などと違って直接には非財務情報の虚偽記載であり、裁判所がどのような言い方で規範を立てるのかたいへん興味があります。

しかし日産の立場も微妙ですよね。日産は本日時点において、引当を怠った旨のリリースも訂正開示もしておりません。検察に乗っかってとことんゴーンを追い詰めるつもりなら、即座に引当義務を認識して開示すべきところです。判断に必要な資料は全て日産自身が保有しています。にもかかわらず、もし日産の今の役員が、刑事事件の行方を見るまで引当判断ができないほどに微妙なのでしたら、それは現時点において引当義務はない(すなわちゴーンにも引当義務・記載義務はなかった)ことの証左でしょう。逆説的ではありますが。
ゴーンの有罪が確定すれば、雇用・コンサル契約の条項によっては受給権が消滅し支払い義務もなくなる可能性があるでしょうけれども、現時点では明らかに引当義務があるように思いますがいかがでしょうか。

なんとも難しい事件です。微妙な要素がたくさんあります。日本の司法が韓国や中国のように見られるような事態にはなってほしくありませんが、このまま有罪になれば、司法後進国として最高の国際PRになります。
健全な裁判所ならば、公判そのものは無罪とし、違法ではないが投資家を軽視した非常に問題のある行為であるとの意見を述べるにとどめるでしょう。

投稿: JFK | 2018年12月19日 (水) 16時17分

JFKさん、いつもありがとうございます。後半部分は私の次のネタにしようと思っていたところでして(笑)、非常に重要なポイントだと認識しております。会計士や同業者の方からも同じ指摘(なぜ早く修正しないのだろうか?)を受けておりまして、なにか事情があるのではないか・・・と考えております。また、裁判所の判断といいましても、ふつうに地裁と高裁で判断が分かれるような事案ではないかと思います。

投稿: toshi | 2018年12月19日 (水) 16時31分

各年度の役員報酬が、確定していたら未支払分は未払金計上しか会計処理はあり得ません。引当処理は論理矛盾しています。本件は見積りの世界の話では有りません。
即ち、先送り?または見送り?されたとされる金額を含めて法的に当該年度の役員報酬として確定しているのであれば、各年度で未払計上処理すべき。
何をもって確定していたのか?の判断を、金商法にもとめても根拠規定が無い。本件は役員報酬の配分の一任決議の解釈に尽きる。会社法の解釈判断無しに会計実務は動けなあのでは無いかと?

投稿: gone | 2018年12月20日 (木) 22時00分

横からすみません。
なるほど、未払金というのがありますね。
しかし、退職慰労金は金額が決まってますが引き当てしますよね。それとはどのように違うのでしょうか。
また、金額はだいたい決まっているとしても、何の報酬として支払うのかが現状誰にも断定できない、つまり、役員報酬の退任後払いなのか退任後(雇用移行後)の給料の決定なのかが判断できませんよね。このような場合、引き当て処理するのはあながちおかしくないと思うのですが。
あまり詳しくないため教えてください。

投稿: JFK | 2018年12月21日 (金) 16時32分

釈迦に説法かも知れませんが。
役員退職慰労引当金は、会社の内規即ち、各社が定めた一定の計算方式に従って在任期間を通じて要支給額を、毎期引当処理するもの。
前提として、①会社が役員退職慰労金を退任時に支払う慣行と内規ルールがある事②退任時の定時株主総会で退職慰労金を支給する決議が行われる事。なので未払金として法的に金額確定している性格のものでは無いと思料致します。しかし、通常は支払われる蓋然性が高いので会計処理としては内規がある場合、それに従い引当処理をする事が常識です。
本件は、各期の役員報酬が未払とされているものを含めて、法的に確定していたかどう判断されるのか?がポイントです。確定していたのであれば、退任後に支払われるとされた支払方法の名目の如何を問わず、役員報酬として未払分は未払金計上すべき。
未払とされる金額がその法的性格が判然としない状況で、金額が大体決まってるから、引当処理すべきとの考えは、やや乱暴。
引当金の要件は、通常、①支出の原因が各期に帰属しており、②金額が合理的に算定され、③支払われる蓋然性が高い 場合には処理すべきとされている。

やはり各期の役員報酬の配分を、一任決議させる場合の内容に関しての有効性の判断を会社法の先生方の求めざるを得ないと思料致します。

投稿: gone | 2018年12月22日 (土) 14時45分

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