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2018年12月13日 (木)

日産・金商法違反事件-会計実務家の常識的判断を尊重せよ(その2)

昨日のエントリー「日産前会長金商法違反事件-会計実務家の常識的判断を尊重せよ」にはたくさんのコメントをいただき、どうもありがとうございました。本日は続編として、いただいた会計専門家の皆様(私の存じ上げている方もいらっしゃいますが)のご意見を紹介させていただきます。もちろん、事件関係者の方ではありませんので、新聞等の公開された情報のみに基づいたご意見ばかりであることを念のため申し添えておきます。(なお、メールでも公認会計士の方からいくつかご意見を頂戴しましたが、コメント欄にお書きいただいた方以外は紹介を控えさせていただきます)。

(Xさんのご意見)ゴーンさんのようなケースであれば(現在までの報道を見る限り)費用計上して開示するのが、実務に携わる一会計士としては常識的判断だと思います。法的な意味で確定している必要はありませんし、probable であれば会計的には費用&債務です。従業員の退職給付債務も確率論で推定されたものに過ぎず、確定しているものではありません。有価証券の評価損も受注工事損失引当も、法的な意味で確定してはいないので、法的に確定していなければ処理不要という理屈が通れば、オリンパスも東芝も不適切会計では無くなってしまいます。有価証券や長期請負工事の損失も、売却や完了までは評価・見積に過ぎず確定したものではありません。重要な記載事項かどうかも、監査対象ではありませんが重要であると言うのが一般的な認識かと思います。重要なので導入されたわけですし、導入時の経緯を見ても、当初から重要視されていました。また虚偽記載があった場合の心証としては、利益におけるそれよりもさらに悪いと言えます。会計は膨大な作業と時間の積み重ねなので、間違える事や間違いに気づかない事はあります。東芝のケースも、金額的には大半が原発工事ですが、ああいった海外の大規模工事になると経営者も正確な数字を掴めなくなる事は、まだ理解できます。しかし、役員報酬は自分自身の報酬ですから、掴めていないはずがなく、100%故意で悪質です。・・・(中略)中途退職したらほぼ0円になるような退職給付でも債務認識と費用認識はされますし、デリバティブなんてトリガーが引かれなかったら0になるものばかりでしょう。現在の会計基準は必ずしも確定未確定を問題にしません。一老さんが費用収益対応という言い方で言及されていますが、この報酬が実態として何の対価なのかという事の方が決定的要因でしょう。実質的な報酬の後払いなのか、本当に顧問料相談役料なのかです。それは私のような外野ではなく裁判所が判断することなのでしょうけど。

どうもありがとうございます。おっしゃるとおり、最後は裁判所が判断することになります。ちなみに、2017年に青林書院から出された「法律家のための企業会計と法の基礎知識」の中で、長銀事件最高裁審理を担当された裁判官でいらっしゃった古田祐紀先生(検察出身)が「法的な観点から会計処理を見る場合の留意点」をお書きになっておられます(同書31頁以下)。今回のようなケースでは、やはり退職慰労金の会計処理が参考になるものと私的には判断いたしました。

(会計士さんのご意見)「報道」情報が、媒体で違うのだろうし、「事実」かどうかわからないので、推測含みですが。退任後報酬なら、費用計上しない。大企業トップに対して、退任後2年間顧問あるいは相談役で年3000万払うなんていうのは、よくありますが、これは、払った年の費用です。その年に執務して、その年の報酬ですから。現役時に費用計上することはないし、確定債務ではありません。わかりやすく言うと、この方が退任直後病気で亡くなったケース。その場合、払いませんね。よって、費用計上しないのです。仮に亡くなった場合も遺族に払うのだとしたら、それは確定債務で事前の費用計上が必要です。・・・(中略)確たるスキームや金額を既知としているわけではないので。小出しにいろいろ出ているどの情報が正なのかがわからず、そこはおいておいて。退任時に、お亡くなりになったというような前提で。その際には相続人に払われないものだとしたら、費用計上されていないことは正しいと思うのです。何らかスキームに「インチキ」あって、「実質を仮装」している事実があるとすれば、それは別の論点で。退任後に顧問で年10億なり払って、今後のCG報告書で会社が開示していくような流れであれば、それはそれで「会計」側では問題がないと思います。

どうもありがとうございます。上記の「企業会計と法の基礎知識」の中で、東京大学の佐伯教授(刑法学)が「評価的要素と会計基準違反(刑事関係)」を担当執筆されています(拙著も一部引用していただいております)。会計士さんご指摘のとおり、会計処理の問題とは別に、たとえば会計処理は正しくても、実質的に見れば「おかしいじゃん!」という場合に虚偽記載で刑事処罰を与えてしまおう・・という流れもありえます。米国のGAAP遵守⇒有罪という例も紹介されています。企業会計法の大家でいらっしゃる弥永教授の「片面的実質主義」(ここでは説明しませんが)に、佐伯先生も賛同されているようですが、やはり課徴金処分が使えるところではまず課徴金でいくべきとのことで、刑事処分に実質主義を用いることには謙抑的であるべきとのご指摘があります。

(一老さんのご意見)会社は「一般に公正妥当と認められる会計の基準」に準拠した会計処理を行うべしという点に関して、会社法と金融商品取引法で異なる解釈は有りません。また、法的に確定していないから会計処理されていないが、会計的には会計処理すべきであったという、「法解釈」と「会計解釈」のダブルスタンダードは何処にも存在しません。日産ゴーン事件は虚偽記載を争う展開ならば、そういう意味において、初の「会計裁判」となるのでしょうか。会計的に「簿外未払金」または「簿外引当金」が存在したかどうかが争点です。ゴーン氏に支払われるべき報酬が(隠されていたかどうかに関係なく)客観的に存在していたか、その報酬が支払われる蓋然性が高く認められるか、その金額は(ゼロサムではなくて)概ね確定していたか、さらに、その費用(金額)は過去該当各期の会計期間に費用化(反映)されるべきであったか等の全ての点が明確に立証されるかどうか議論されなければなりません。報道情報から考えるに(ゴーン氏らは、手の込んだテクニックを駆使して事実の表面化を避け、会計的な「未確定取引」を殊更に強調できるスキームを構築してきたようですが、であれば、尚の事)会計事実として会計処理の対象とすべき要件(の一部)を具備していると思います。・・が、しかし、その金額はいったいいつの決算に費用化されるべきだったのでしょうか?「収益費用対応の原則」は会計原則の基本の基本です、これを適当に判断する事はできません。ここに関しては今の自分に結論が出ません。「ライブドア事件」では会社が金銭を授受したその科目が収益ではない事が虚偽記載とされたものですが、日産事件では未払の金額ですから、これとは決定的に異なります。これほど難しい「会計判断」の領域に今回“特捜部”が踏み込み、「会計処理を糺す」として大上段に構えたのでしょうか?・・・(中略)このコメント欄に投稿して直ぐに日経新聞朝刊に目を通しましたが、「某月某日?において、後日支払いされるべき(支払い予定である)報酬の金額が決定していた・・」とする内容記事が掲載されています。会計の専門家ならば常識的に理解するのですが、報酬の金額が決定していたことと未払債務(もしくは引当金)が「確定していた事」は同義ではありません。収益費用対応原則と発生主義原則という会計の大原則に照らせば、その費用(未払金計上費用もしくは引当金繰入額)はそれに対応する期間の収益獲得のために用されたものかどうか、ゴーン氏が受け取る報酬に見合う「役務の提供」がいったい、いつ行われたのかが重要なキーとなります。ゴーン氏が、報酬を<貰うつもり>であり、<間違いなく貰える環境>にあり<その額も決定していた>としても、それだけでは、報酬として『確定』していた事にはならないのです。

一老さんがおっしゃるように、収益費用対応原則、発生主義原則というところは、金商法違反を問うわけですから「法律上の記載義務」を考えるにあたっては避けて通れない論点だと考えております。「報酬」と言われていますが、実は「顧問料」だったり「競業避止承諾料」の可能性があり、東京新聞が関係者の取材から描いた3文書(12月11日朝刊に掲載)から読み取りますと、どうも開示規制施行前は純粋な20億の確定報酬だったものが、施行後は10億の確定報酬と10億相当の顧問料、承諾料として支払われるストーリーになっていたようです。そうなりますと、収益に見合う職務執行はゴーン氏退任後ということになり、費用計上も退任後ということになるような気がいたします。なお、純粋に20億の報酬が確定したとしても、通常は取締役会で決算書の承認決議が必要で、会計的にはこれを確認したうえで費用計上されるのではないかと思うのですが、そのあたりがやや疑問です。

ところで役員報酬の開示制度を導入した責任者でいらっしゃる亀井静香さんがAERAでこのようなことをおっしゃっています(AERAニュースはこちらです)。経済界の反対を押し切って制度を導入された方がこのようなことをおっしゃるということは、本当に役員報酬の重要性(つまり役員報酬の虚偽開示が当然に金商法違反になるということ)を感じておられるようには思えないのですが。。。昨日のエントリーで書いたように、企業統治改革が進むなかで重要性が増してきた、ということも言えそうな気がいたします(ただし、それは罪刑法定主義に反する考え方と認識しております)。

本日(12月12日)の日経朝刊に、青山学院大学大学院の町田教授のご意見も掲載されていましたが、取り上げておられる論点こそ異なるものの、同大学院名誉教授である八田進二先生とは立件の成否に関する見立てが違っておりました。重要性の論点、収益費用対応原則の論点など、会計専門家の方々の意見が反映された刑事訴訟手続きが進まなければ、またまた会計・監査業界に大きな波紋を投げかけることになりかねないと思います。

(これは本日の論点とは関係ありませんが)東京新聞12日付け朝刊「ゴーン事件の底流(2)」はなかなか読み応えがありました。事件関係者の実名がボンボン出てきます(今回の日産金商法違反事件について、東京新聞の取材姿勢はなかなか迫力ありますね)。この記事と12月6日付けの週刊文春の記事、そして今月号の文藝春秋論稿を重ね合わせますと、やはり前会長逮捕・立件の背景に、大きなうねりのようなものがあったことがわかります。米国の新聞(WSJ)では「事情に詳しい関係者」の話として、前会長が逮捕前、経営不振を理由に西川社長の更迭を計画していた、米国市場の不振や日本で相次ぐ品質検査不正問題で西川社長の手腕に疑問を感じていて、11月下旬の取締役会で解任の提案をするつもりだったとも報じられていました。ミクロの論点だけでなく、マクロの視点も把握しておかなければ、本事件の真相には迫れないと感じた次第であります。

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2018年12月12日 (水)

日産前会長金商法違反事件-会計実務家の常識的判断を尊重せよ

12月11日、日産の前会長さんの起訴・再逮捕が大きく報じられていますが、新事実を報じる記事よりも、今後の法廷闘争に向けた争点整理に関する記事が目立ちました。とりわけ興味深い記事として、12月11日付け東京新聞朝刊「退任後報酬示す3文書」は、検察が金商法違反で前会長さんを立件するにあたり重要なカギを握るであろう3つの文書の詳細を紹介していました。この3文書に、司法取引を行った2名の役職員の証言がプラスされれば、検察側の立証方法としてもかなり有力なものが集まったように思えます。

ただ、私は依然として金商法違反容疑で前会長らを有罪に持ち込むには(まだまだ)壁があるのではないか・・・と考えています。多くの報道において「前会長が退任後に受領する予定の報酬は『確定報酬』と言えるかどうか」といった問題提起がなされていますが、以前のブログエントリーでも述べたように、金融庁の定めたルールの解釈が問題となるはずでして、

現行の会計基準や同じ建付けの会社法を踏まえた実務動向等に照らせば、基本的に、最近事業年度に係る役員退職慰労金繰入額及びストックオプションの費用計上額は最近事業年度に係る報酬等に該当することが考えられます。

なる金融庁の考え方に沿って「受ける見込みの額が明らかとなったもの」に、退任後報酬(そもそもこれが「報酬」といえるかどうかも問題です)が含まれるかどうかを考える必要があります。

役員退職慰労金のように引当金を負債として積み、また慰労金繰入額のように一部費用化しているからこそ「明らかとなったもの」に該当するわけで、そのあたりは法律家ではなく、公認会計士の方々の常識的判断による解釈が尊重されるべきです。そうでないと10年前の長銀事件最高裁無罪判決の二の舞になりかねません(そもそも会計士の皆様の常識的判断として「退任後報酬が確定している」といった概念は普通に受け入れられるのでしょうか?確定・不確定というのは会社法の世界の話ですが、金商法の世界でも使うのでしょうかね?)。開示規制の世界の話ですから「相対的真実」が妥当する場面も多いと思います。「確定している」というのも正解だが「確定していない」というのも正解・・・といったことにならないでしょうか?

そしてもうひとつ、多くの新聞記事において、前会長の報酬過少記載が「有価証券報告書の重要事項に関する虚偽記載」にあたるかどうか、という論点を取り上げています。重要事項か否かという点は、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす項目にあたるかどうか・・・といった判断基準で考えるべきことはもちろんですが、「現在ではガバナンス改革のもと、経営トップの報酬に重大な関心が向けられるようになった」という「社会常識の変遷」を根拠にしてしまっては罪刑法定主義に反する可能性が高まります。

要は役員報酬が有価証券報告書に開示させるようになった2010年3月度の時点から、すでに役員報酬の過少記載は重要事項に関する虚偽記載に該当していたことが必要です。これまで役員報酬の虚偽記載で課徴金処分が一度も下されたことはないのですが、2010年当時から役員報酬は重要な記載事項としての共通認識は持たれていたのでしょうか。(監査対象となる)財務諸表の一部ではありませんが、有価証券報告書とふだんから接しておられる会計士の方々にこそ、実務上の常識的な判断をお聞きしたいところです。

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2018年12月11日 (火)

JICの取締役辞任問題-「ファンド」の仕事はアートである。

本日(12月10日)の日経夕刊トップ記事によりますと、産業革新投資機構(JIC)の社長ら9名の取締役の皆様が辞任をされるそうです。高額報酬の件、経営への行政関与の件などが端緒となって経産省とJIC経営陣との信頼関係が毀損されたものと報じられています。辞任を決意された社外取締役の方々のコメントがこちらに掲載されておりますが、約束を守らなかった経産省へのご批判が強く、なかなか厳しいご意見ばかりです。

私も今年6月まで約4年間、官民ファンド(大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社)の社外役員を務めていましたので、経産省とJICの対立について、守秘義務に反しない範囲で(私の個人的な)感想だけを述べたいと思います。

私も自分が官民ファンドの仕事をしていなければ「役員の基本報酬5,500万円は高いなぁ」と感じたと思います。ただ、ファンドの仕事は「引き受け仕事」ではなく、「モノを作る仕事」なのです。決して「モノ作りのお手伝いをする仕事」ではありません。それは伊藤忠ご出身の阪大ベンチャー初代社長の仕事ぶりをみていて痛感しました(恥ずかしながら、私の認識不足で関係者にご迷惑をかけたこともありました)。投資ファンドの仕事は、過去の経歴やスキルによって「国策を引き受ける」仕事ではなく、過去の経歴やスキルを参考にしながら「自ら仕事を作ることによって有望企業を世に生み出す」仕事だと認識しています。

ハンズオンによって人間関係を調整し、シーズから現実世界における利用可能性を発見し、その汎用性や流通可能なコスト低減の手法を生み出すという、総合力が必要とされる仕事だと思います。運がよければそこから上場を目指すことのできる(つまり投資回収を図ることができる)ビジネスが誕生するわけで、損を承知で試行錯誤を繰り返すことは不可欠です。また、結果にコミットしなければならない人たちが集まっていますので、職員の離合集散は激しく、これを束ねるプレイングマネージャーとしての中間幹部の人たちは激務です。ファンドのガバナンスということが言われますが、実際にはその運用はむずかしい。

経産省とJICは「投資事業という金融機能を活用し、将来の産業競争力を強化し、新事業を創出する」という理念を共有するとことでは一致していたものの、ファンドという仕事が「引き受ける仕事」なのか「作る仕事」なのか、という点において認識に不一致があったのではないでしょうか。アートに近い仕事なので、そもそも代替できる人を探すことは困難ですから高額報酬は当たり前ですし、アートに行政が関与するということであればファンド関係者が拒絶反応を示すことも当然ではないかと思います。また、アートであるがゆえに関係者の「情熱」が失われれば仕事は頓挫すると思います。今回の一件は、官民ファンドの性格を一定の枠に閉じ込めてしまうものであり、ファンドの「モノ作り」としての仕事を否定することにつながりかねないものと危惧します。

私は、経産省の上記理念自体を否定するつもりは全くありません。ただ、それであれば(ファンドによる投資事業にこだわることなく)企業が仮想通貨建てでお金を集めるような、いわゆるICOなどの最新資金調達方法のインフラを整備して、その普及を図るような政策を推進すべきではないかと。もしくは、今後も官民ファンドを産業競争力強化のために活用するのであれば、「国民の納得が得られない」などと言い訳をするのではなく、ファンドの仕事を国民に理解してもらえるように広く説明をすることから始めるべきではないでしょうか。

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2018年12月10日 (月)

日産前会長・金商法違反事件-あらためて考える「法人起訴の重み」

(12月10日午後4時 最終更新)

12月7日の日経朝刊は、東京地検が有価証券報告書の虚偽記載(過少記載)立件にあたり、前会長を再逮捕する方針であること及び法人としての日産も金商法の両罰規定によって起訴する方針であることを報じました(8日の各紙も同様に報じています)。法人起訴の理由については「前会長の報酬隠しが悪質であることに鑑みて」とのことですが、前会長の再逮捕(直近3年度の報酬隠しに関する虚偽記載)も前提に法人を起訴するとなりますと、今後の本事件の展開を予測するにあたって様々な疑問が湧いてまいります。

まず東証の対応です。有価証券報告書の虚偽記載によって法人が起訴される事態となりますと、日産の株式は監理ポスト入りするのではないか・・・との疑問が湧きます。カネボウ、西武鉄道、オリンパス、ライブドアなど、虚偽記載もしくは不公正取引によって法人が起訴された場合には(1999年のヤクルト本社事件を除き)、すべて東証は当該法人の株式銘柄を監理ポストに移しています。

過去の「虚偽記載」を根拠とする法人起訴の案件では、いずれも虚偽記載が重要であると判断されたことから「上場廃止基準に抵触するおそれあり」として監理ポストへ移されたものと推測します。ということからしますと、検察が「重要事項に関する虚偽記載」と判断した以上、日産についても同様に取り扱うことが妥当であるように思えます。そこで、日産が上場廃止基準に抵触するおそれあり、として監理ポスト入りとするのかどうか、もし移さないのであればなぜしないのか、いずれにしても東証には合理的な説明が求められることになると思います。そもそも本件は課徴金処分の権限を持つ金融庁を飛び越えて、一気に刑事処分の起訴権限を持つ検察庁が動いたので、東証に影響を持つ金融庁が(開示規制違反による法人処罰という点について)どのように考えているのか、とても興味を抱くところです。

※更新・・・本日の日経ニュースによりますと、金融庁(証券取引等監視委員会)は日産の前会長ら2名と法人である日産を告訴した模様です。なお、前会長ら2名の再逮捕も伝えらえています。

つぎに監査法人の対応です。日産は12月下旬までに四半期報告書を提出することが予定されています。日産は正しい財務諸表が提出しなければならないわけですから、計上されていない未払い報酬を計上する(もしくは、どこかに紛れ込んでいた別項目の費用を修正する)ことになる可能性は高いと思います。そして、四半期報告書の提出と同時に過去の有価証券報告書に関する訂正報告書を提出することになります。これらの報告書に対して、EY監査法人さんは無限定結論(適正意見)を述べることになるはずです。

しかし、虚偽記載に関するルノーと日産との考え方が異なる場合、フランスのEY監査法人さんは日本のEY監査法人さんの意見をどのように評価するのでしょうか(そもそも日仏のEY監査法人間でなんらかの協議はなされているのでしょうか?)ルノーが日産の会計処理を認めない場合、同じグローバル監査ファームにおいて異なる意見が出されるような事態となるのでしょうか?東芝事件の際、日本のPwC監査法人さんと米国のPwC監査法人さんとの間で、意見の擦り合わせが非常にむずかしく、大きな課題を残しました(そのあたりから、有事における監査法人の情報提供の在り方が議論されるようになったのは、皆様ご承知のとおりです)。

そして最後に法人としての日産の対応です。金商法の両罰責任規定は、法人の代表者の行為が有罪とされた場合、(法人が立件されれば)法人自身も罰金刑を課されることになるのですが、法人に無過失の刑事責任を課すわけではない・・・というのが最高裁判決の立場です。つまり、両罰規定においては「法人の過失が推定されている」ので、法人側が金商法違反の開示を行うにあたり、法人自身に過失がないことを立証できれば責任を免れることができる、というのが理屈です(ただし実際には立証はなかなかむずかしいと思います)。日産は事件発覚後、有価証券報告書を訂正しておらず、またゴーン氏の代表取締役解職を決めた取締役会でも、虚偽記載の点には触れずに、その他の不適切な行為の存在を解職理由としていたようです。したがって、法人としての日産は、起訴を争う姿勢を貫くことも考えられます。

ところで、虚偽記載を法人としての日産が否認するとなりますと、おそらく検察側から日産の内部統制やガバナンスの不備を指摘する多くの事実や証拠が公開裁判で開示されることになりますが、役員のリーガルリスクを考えた場合に、これは望ましいものではありません。しかしながら安易に前会長らの行動について虚偽記載を認めるとなりますと、今度は「認めたこと」自体が「役員が安易に日産の信用を低下させたもの」として、善管注意義務を尽くしたかどうかに問題が残りそうです(このあたりは不当な利益を戻すことを前提とする課徴金処分と、過去の不正の制裁として罰金が科される刑事処分とは「認める」ことの意味は異なります)。8日の東京新聞朝刊では、日産が社内調査報告書の公表に踏み切る方針であることが報じられておりましたが、法人起訴への対応がどのようなものであるにしても、日産が十分な調査資料と十分な議論を踏まえて経営判断に至ったことが、対外的に説明できるような準備が必要になるものと思われます。

 

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2018年12月 9日 (日)

日産VSルノー-世界は日仏どちらの思想に共感するだろうか

休日ということで、少し法律論を離れて、マクロの視点で日産前会長逮捕事件について私的な感想を述べたいと思います。

文藝春秋2019年1月号(新年特別号)「日産ゴーン追放全真相」なる論稿を読みました。元朝日新聞経済記者でフリージャーナリストの方がお書きになったもので、1999年から今年4月ころまで、ゴーン氏の取材を継続されてきた方の論稿です。前半部分はフィリップ・リエス氏(ジャーナリスト)によるゴーン氏への取材を基に書かれた「カルロス・ゴーン 経営を語る」(2005年 日経ビジネス文庫)の記述と重複したところが多いようでしたが、後半部分は(長年ゴーン氏の取材をされてこられた方だけあって)社内経営陣の人間模様が生々しく描かれており、読み応えがありました。

最近は前会長の立件に関する記事とは別に、今後のルノー・日産・三菱のアライアンスの行方を展望する記事も報じられています。ステイクホルダーの皆様にとってはこちらの記事のほうが関心が高いものと思いますが、この文藝春秋の論稿や近時の新聞記事、そして「カルロス・ゴーン 経営を語る」(同上)、「カルロス・ゴーン 私の履歴書」(日経新聞出版社2018年3月)、「カルロス・ゴーンの経営論」(日経新聞出版社 2017年)といった書籍を読みますと、日本とフランスにおいて、本事件への感想が少々異なることに、なんとなく合点がいきます。

本事件は「クーデター」としての意味合いを持つ…という点は日仏ともほぼ共通した認識を持ち、倒産寸前だった日産に対して、1999年のルノーから出資金(7000億円)が払われ、そしてこれを上回る配当収益を日産がルノーにもたらしたことへの事実認識もほぼ同様なのですが、ただゴーン氏を解任することへの感じ方が全く異なる点は興味深い。日本人は「もうルノーには過去の借りを返した」という意識が強く、だからこそ日産リバイバルの功労者であるゴーン氏を告訴したり、解任することは「もはや恩義知らずではない」と思っています。

一方のフランス国民(フランス政府を含む)は、「あれだけ窮地を救ってあげたのに、恩を仇で返すとはなにごとだ!」「そろそろ統合のメリットを享受できると思っていた矢先に、ゴーン排除のクーデターではないか」との趣旨の発言が目立ち、今後もオランダのアライアンス本部の会長をゴーン氏が続けることを熱望しているかのように見えてきます(今は反政府デモの騒ぎでそれどころではない・・・との声も聞かれますが)。

一読した程度ではありますが、上記のような論稿・書籍に目を通し、1999年から2018年までのゴーン氏の日産における「歩み」を知りますと、たしかに日仏両国で視点が異なるのもやむをえないように感じます。日本人はデット(間接金融)の思想に慣れてきましたから、「人からモノを借りたら返すのが仁義。しかし、金利も含めて返してしまったら双方は対等であり、だからこそゴーン氏にもモノを言い、アライアンスも対等の精神で臨むべきである」と考えるのが筋ではないでしょうか。しかし、フランスはエクイティ(直接金融)の思想にも影響を受けているので、「1999年、政府が株主という立場にあるにもかかわらず、歴史上まれにみるリスクを負担して日産に出資をした。日産が大きな収益を上げている以上、リスクに見合うだけの収益を上げる立場にあるのは当然であり、そろそろアライアンスを見直す(つまり、オプションを行使して統合する)ことで、さらに大きな利益を上げるべき時期に来ている」と考えるのが筋ではないかと。

おそらく、今後の企業間もしくは政府間での交渉においても思想の違いが出てくるのではないかと思いますが、海外の関係者の皆様は、いったい日仏どちらの思想に共感を抱くのでしょうか。日本国内ではマスコミ報道に接することも多いので、かなり事実を詳細に把握できるかもしれませんが、外国の関係者の皆様は、それほど細かい事実関係を知ることもなく、「どっちが正しい」「どっちがけしからん」と評価することになるはずです。アライアンスの主導権をどこが握るのか、今後を予想するためには、20年に及ぶルノーと日産との連携の歴史を知ることも大切ではないかと思いました。

ところで(少し話は変わりますが)、「20世紀最高の経営者」と称されるジャック・ウェルチも、経営者の高額報酬はできるだけ開示すべきではない、との格言を残しています。この格言は「ジャック・ウェルチの『私なら、こうする!-ビジネス必勝のアドバイス』」(ジャック・ウェルチ著 日経新聞出版社 2007年)128頁~129頁に掲載されています(1週間ほど、いろいろと調べて、ようやく出典を探し当てました)。以下、若干引用しますと、

財務情報を開示することは、さまざまな危険がついてまわる。いちばん大きな問題は、財務情報は小出しにするのが難しいという点だ。もしコストを「開示」しだせば、売上も利益も開示しないと意味をなさない。あなたは、どのくらい利益を上げているかを社員に知られても気にならないか?当然、彼らはその数字を自分達の手取りの給料の金額と比べ、やがてはあなたがどれだけの分け前をとって、自分たちがいかにわずかな分け前しかもらっていないか、を推測するようになる。

その差をあなたは喜んで、あるいはプライドをもって説明できるかもしれない。もしそうであれば、詳細な財務情報を社員のみんなと共有することにたぶんリスクはないだろう。だが、企業の規模にかかわらず、社員というものは、常に自分の給料レベルを頭においていて、働きぶりや成果から同僚がどのくらい稼いでいるかを計算しているものだ。もし、あなたの開示する情報が、彼らの想定している給料レベルに衝撃を与えそうなものだと考えるなら、この善行はとりあえず見送ったほうがいい。あなたと同じように社員みんなが仕事に関心持つ、もっと危険が少ない方法を考えたほうがいい。

なお、ジャック・ウェルチは、別の箇所でも「経営者の高額退職金は許されるか」というテーマで、他からプロの経営者を招聘した場合には、(会社が「後継者の育成」という大切な仕事で失敗してしまったのだから)高額退職金は当然に許容されるものと述べています。金商法違反に該当するかどうかは法律・会計の専門的な見地からの意見が求められますが、「後払い報酬」や「謙抑的な開示姿勢」という点をとらえて違法性の認識に関する根拠とできるかどうか、という点では(プロ経営者の行為規範、という視点からみると)やや疑問が残るように思います。

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2018年12月 6日 (木)

日産元会長金商法違反事件-商工会議所会頭のご意見について

本日(12月5日)の各紙朝刊の記事から、日産元会長の金商法違反容疑での立件の方針がようやく見えてきたように思いますが、そのあたりはまた別エントリーで書かせていただきます。本日は日産元会長逮捕劇への印象を、日本商工会議所の三村会頭が定例会見で述べておられる内容に(毎日、産経、東京新聞等に記事あり)注目いたしました。三村氏は「経営者に必要な資質は大きく分けて2つあり、ひとつは経営理念、そしてもうひとつが倫理観、両方あってよい経営者であるが、ゴーン氏は倫理観を欠いていたのではないか」と、ゴーン氏に対して批判的なコメントを残されたそうです。とりわけ毎日新聞の記事を読みまして、私は以下のような3つの感想を持ちました。

ひとつめは「経営者のモラルの問題」です。皆様方にご異論をいただくかもしれませんが、今回のゴーン氏の件、もしオランダ子会社を舞台としたゴーン氏の不適切行為疑惑がなかったとしたら、報酬問題(有価証券報告書の虚偽記載罪の容疑事実)は表面化しなかったのではないか、誰も指摘しなかったのではないか、との疑問が湧きます。週刊文春12月6日号の記事によると、社内で極秘に動き出した3名の役員の方々は、元妻の告発(文春の過去記事)やオランダ子会社の投資資金の公私混同流用などを問題視したわけで、これらの私憤が先行していなければ高額報酬問題など全く問題にもされず、事件化されることもなかったのではと思います。たとえ高額報酬の非開示が犯罪を構成するものであったとしても、そもそも日産役員による司法取引に至ることもなかったわけでして、まさに犯罪よりも先に「倫理観の欠如」こそが、今回の事件のキメテになったように思います。

次にふたつめは「日産の企業統治の問題」です。三村氏は(上記定例会見において)「海外に別会社をつくるなど、相当多くの人が関わっていたと見ざるを得ない。表ざたになってこなかったことは組織の問題だ」との意見を述べておられます。経済団体のトップの方が「おそらく日産の多くの人が関わっていた(知っていた)」と公式に述べる意味はとても大きいわけですが、私もまったく同じ意見です。

ここからは私の推測ですが、新聞報道によりますと、2013年~14年頃に、監査法人からオランダ子会社の投資資金の使途に疑義があると日産は指摘されていたわけですが、おそらくその際に、監査法人は監査役会にも同事実を伝えていたと思います(監査法人と監査役会との連携は励行されていたはず。)。そして監査役は取締役の違法行為(法令定款違反行為)を見つけたときにはすみやかに取締役会に報告する義務がありますので(会社法382条)、すくなくともゴーン氏以外の取締役には報告をしていたものと思います。そのあたりから、かなり「会長はおかしなことに会社資金を流用しているのでは」との認識を抱く社員が増えていたものと推測します(なお、週刊文春の次号では金商法違反容疑とは別に、会社法違反についても地検特捜部の捜査が及んでいることが報じられるそうですが、そこに踏み込むことは事件関係者が増えることを意味するもののように思えます)

ただし、後出しジャンケンの議論は禁物です。たとえ「おかしい」と感じた社員がいたとしても、なんといっても「カリスマ経営者」の行動ですから刑事告訴や解任、損害賠償の追及といったドラスティックな行動まで考えることはなかったはずです。「会長の名誉に傷がつくかもしれないので、どうか行動を慎んでください」といった意見を述べることが関の山だったのではないでしょうか。日産のガバナンス不全を主張することはよいのですが、では健全なガバナンスが構築されていたとすれば、取締役会や監査役会はなにができたのか?ガバナンスを問題とするのであれば、そこをまずきちんと提言することが必要だと思います。

そして3つめに「ゴーン氏の功罪」です。三村氏は経営不振に陥っていた日産をV字回復させた点について、「ゴーン氏は本当によくやった。彼には否定できない大きな成果があった」と会見で述べておられます。つまりゴーン氏には経営者としての功罪両面があることを示しました。私もこのたび「カルロス・ゴーンの経営論」や「カルロス・ゴーン 経営を語る」(日経ビジネス文庫)などをあらためて読み返しましたが、経営者としての考え方に(これからも)学ぶべき点が多いと感じております。

ただ、だからこそコーポレートガバナンスの健全な運用が重要だと、これも再認識しました。ゴーン氏のように、経営者には功罪両面があると思います。しかし、ガバナンスによって「罪」のところを封印(カバー)するのがガバナンスの役割ではないでしょうか。行動経済学の研究者ダン・アリエリー氏の著書「ズル-ウソとごまかしの経済学」のなかで、「カギの効用」を語る場面があります。

どんなに立派なカギを家にかけていても、プロの泥棒にかかってはすぐに開けられてしまう。カギの本当の意味は「ふだんは誠実な人を、(なにかの拍子に)その気にさせない」ことにあるのです。

コーポレートガバナンスも「カギの効用」と同じだと思います。すぐれた経営者も、なにかの拍子に不誠実な行動に走ってしまうおそれがある。経営者が本気で悪いことをしようと決意して行動すれば、いくら立派なガバナンスを構築していてもこれを止めることはできません。ただ、経営者が不誠実な行動に走る気にさせないためにこそ、ガバナンスの健全な構築が求められているのではないでしょうか。このたびのゴーン氏の行動が違法と判断されるのであれば、けっして日産のガバナンス不全が直接の原因であったとまでは言いませんが、やはり多くの要因のひとつ程度には相関関係があるのではないかと考えます。

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2018年12月 4日 (火)

ゴーンショックが今後の法制度に及ぼす影響について(個人的意見)

日産の前会長が逮捕されて2週間が経過し、検察の立件に向けての動きとともに、ルノー・日産・三菱の三社連合の「経営の舵取り」に関心が寄せられるようになりました。このような状況において時期尚早ではありますが、今回の逮捕劇が(ひょっとすると)日本の法制度に大きな影響(変化?)を及ぼすのではないか・・・といった将来予想が法律家の間で交わされるようになりましたので、個人的な意見として述べておきたいと思います。

ひとつはなんといっても「報酬ガバナンス」の進展ですね。日曜日(12月1日)の日経一面トップに「役員報酬 きしむ日本流-「ゴーン問題」で注目 水準・透明性に課題」との見出しで報じられている問題です。企業統治改革は5年目となり、改革が「形式から実質へ」と深化していることは事実です。ただ、その中でもっとも「実質へ」と深化していないのがCEOの選解任プロセスの透明化以上に役員報酬改革です。ガバナンス・コードの施行によって「報酬委員会」を設置した企業は増加していますが、ではその報酬委員会が何をやっているのか・・・、コードが要請する趣旨を実現している報酬委員会を運用している上場会社は、おそらくコンプライしている会社の1割にも満たないはずです。

また、会社法改正審議の中でも議論の対象となった「株主総会で取締役報酬の上限枠だけ決めておけば(つまりお手盛り防止の趣旨さえ満たせば)、報酬に関する株主のコントロールは及ぶのか・・・という点についても深化した議論が期待できるのではないでしょうか。最近、有力な学者の方々から「取締役会から代表取締役への個別報酬額決定の再一任は(利益相反行為の防止という観点から)おかしいのではないか」「もし再一任するのであれば、どのような算定基準による一任なのか開示すべきではないか」との意見が出るようになりました。しかし実務はほとんど「再一任→社長に包括的委任」で動いています。今回のゴーンショックによって、まさに「再一任」はガバナンス改革に逆行したものであることが露呈されたのでありまして、会社法改正の流れにも影響が出るのではないかと。

そしてもうひとつの課題が日本の刑事司法制度の在り方です。先週のエントリーで日本版司法取引は「証拠の客観化」「取調べ偏重の捜査防止」に資するものとの個人的意見を書きましたが、それでも現実には「(日本版司法取引は)供述誘導の恐れを顕在化させる」といった(もともと懸念されていた)デメリットを強調する報道が増えています。海外からも日本の「人質司法」への批判が高まる中、近畿弁護士連合会では(11月30日)、弁護士の取調べ立会の早期実現を目指すシンポジウムが開催されました(近弁連は弁護士立会制度の確立を求める決議を採択)。いわば外圧を受けて刑事訴訟における人権保障の風が吹きつつあるのが現状です(正直に申し上げて、この流れを私はまったく想定しておりませんでした)。

一老さんがコメント欄で書いておられるように、今後の立件・公判の流れの中で、会計の世界における「相対的真実」と法律の世界における(フィクションとしての)「絶対的真実」とのブレが(長銀事件・日債銀事件や三洋電機事件のときと同じように)顕在化し、金商法実務に混乱を生じさせる可能性もありそうです。日産前会長・金商法違反事件は、今後の立件に関連する関心とは別に、本件から派生する影響がどこにどれだけ及ぶのか、といったことへの関心も高まってきたように感じます。

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日産前会長・金商法違反事件-たくさんのコメントへの御礼

ここ2週間ほど、日産前会長・金商法違反事件に関するエントリーを書きましたが、これに対して多くの皆様からコメントをいただきました。本来ならばひとつひとつお返事を書きたいのですが失礼をしております。私が存じ上げている方、そうでない方も含め、たいへん参考になるご意見が多いので、よろしければコメント欄もお読みいただければ幸いでございます。コメントがたいへん多いので、各エントリーの下にあります「コメント」のリンク部分をクリックしていただいたほうが読みやすいと思います。

コメントをいただきますと、自分では気づいていない論点が多いことや、「木を見て森を見ていない」自分に恥ずかしくなったりします。また、ときどきですがコメント欄に(事件関係者と思われる方から)「真相はこうです」といったブロガー冥利に尽きるような情報も頂戴いたしますが、当ブログは開示・公表された事実と私自身の意見のみで書くのがエチケットと思ってやってきましたので、そのあたりはどこかで報道されることを願いながら、公表は控えさせていただいております。あしからずご了承ください。

ほんの一例として、本日、MAXさんから以下のようなコメントをいただきましたのでご紹介します(どうもありがとうございました)。

大手金融機関の中には、不祥事等の場合、すでに支払った役員報酬の返却を定めるところも出ているようですね。こういった会社場合、いつ、報酬額が確定したと言えるかという、議論もあるのでしょうか?
某社の有価証券報告書から…
自己都合での退職、財務諸表の重大な修正、グループの規程に対する重大な違反、グループの事業やレピュテーションに対する重大な損害、あるいはグループの業績が大幅に悪化した場合やリスク管理に重大な欠陥が発生した場合には、繰延報酬は減額、没収または支給後の返還を求めることが定められております。

本件は、このような報酬実務にも影響を及ぼすものなのでしょうね。ちなみに、「報酬額が確定しているかどうか」という点は評価を含むものなので、上記のような場合は法律上は「解除条件付きの報酬」ということになり、報酬額は確定している、と評価してもよいと考えますが、いかがでしょうか(「こういった条件をクリアすれば支払う・・・といった停止条件付の報酬のケースでは確定していないと評価される場合が多いと考えます)。

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防衛省にて講演をさせていただきました。

12月3日午後、防衛省市ヶ谷本部ホールにて、防衛省幹部、自衛隊幹部の皆様(約600名)に向けて「事例問題を中心に『実践論で考える公務員倫理』」と題する講演をさせていただきました。開始前には高橋事務次官ともお話ができ、終了後は大臣官房広報課のご厚意にて80分程度(念願だった)市ヶ谷記念館(自衛隊旧1号館)を見学させていただきました。

東京裁判の法廷として使われた1階大講堂、天皇陛下の「玉座」、そして三島由紀夫が自決した2階旧陸軍大臣室も案内いただきました(三島が演説したバルコニーに立つことはできませんでしたが)。壁には、三島が日本刀を振りかざして付けた傷が、いまだに3か所残っていました。昭和45年の朝日新聞の(小学生には凄惨すぎる)写真は、いまだに印象深く記憶に残っていますが、なぜあの場所に朝日新聞の記者がいたのか・・・、そういった理由も防衛省の方からお聞きしました。

防衛省内には「託児所」があり、小さな子供達の声が聞こえてきます。女性隊員がたくさんいらっしゃることを感じました。他にもいくつかの公式行事を拝見しましたが、情報管理に厳格な組織ということで、内容については控えさせていただきます。関係者の皆様にあらためてお礼申し上げます。

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2018年12月 3日 (月)

日産前会長・金商法違反事件-退任後報酬の記載義務等について

今週は武田薬品さんとアルパインさんで注目すべき臨時株主総会が開催されますが、もうすこしだけ日産さんの話題についてコメントさせていただきます。今週末は全国紙のほとんどで「ゴーン容疑者 退任後の報酬記載義務で検察、容疑者対立」なる見出しの記事が掲載されていました。論点についても、有価証券報告書虚偽記載罪の構成要件の解釈と故意(違法性の認識)に絞られてきたようです。

構成要件の解釈にあたっては、平成22年3月31日金融庁公表資料「『企業内容等の開示に関する内閣府令(案)』に対するパブリックコメントに対する金融庁の考え方」が参考とされているものと思います。以下、一部抜粋しますと、

役員がその職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益であって、最近事業年度に係るもの及び最近事情年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとなったものは、最近事業年度前のいずれかの事業年度に係る有価証券報告書で開示された場合を除き、最近事業年度に係る有価証券報告書に開示するべき報酬等に該当します。この点、現行の会計基準や同じ建付けの会社法を踏まえた実務動向等に照らせば、基本的に、最近事業年度に係る役員退職慰労金繰入額及びストックオプションの費用計上額は最近事業年度に係る報酬等に該当することが考えられます。

とあり、この金融庁の考え方からしますと、「報酬等として受ける見込みの額が明らかとなった」かどうかが、解釈に関する対立の論点とされているようです。毎年記載されていなかった10億円程度の報酬額(もしくは以前の報酬相当額)については、本日(12月2日)の日経、朝日の記事によりますとコンサルタント料や競業回避承諾料の名目で覚書が交わされていた、とのこと。このような事情から、金商法上の構成要件は充足していると検察側は認識しているそうです(あくまでも日経の記事を前提とした内容です)。

ただ、昨年来いろいろとコーポレートガバナンス上の話題になっております「相談役・顧問制度」でも明らかになりましたが、企業が社長退任後に相談役や顧問に就任してもらう理由のひとつとして「他社への移籍を一定期間防止するため」というのがありますので、ゴーン氏やケリー氏側の言い訳としては、とくに違和感はありません。また、「社員に高額な報酬であることは開示したくなかった」とゴーン氏が証言しているようですが、これも元GE社長で「20世紀最高の経営者」と称される方も「名言・格言」として「社員が働く気をなくしてもらっては困るので、できるだけ経営者の報酬は開示しないほうがよい」と述べておられるようで(ただしネット上での確認であり、現在出典を確認中です)、その方も退任後の報酬額が後日明るみなって社会的な批判を受けておられるようなので、ゴーン氏の事例に特有の事情でもないようです。したがって、これらの事情から「報酬等として受ける見込みの額が明らか」な状況にあったといえるかどうか・・・。判断がむずかしいところです。

むしろ、ケリー氏が「金融庁に相談したら問題なし、と言われていた」という点が(どのように相談を持ち掛けていたかにもよりますが)真実だとすると、そもそも構成要件該当性が否定されてしまう可能性もありそうですね。東芝事件のときも、東芝の元経営者の方々の立件をめぐり、検察庁VS金融庁のバトルがありましたが、今回もひょっとすると解釈の相違が問題となるかもしれません。

なお、ゴーン氏は、開示義務が発生する以前は20億円をもらっていたのに、開示義務が規定された後は10億円と記載するに至ったことも報じられていますが、この点はいわゆる違法性の認識の有無(故意)に関する論点として整理すべきです。この点は先週も詳細に書きましたが、顧問料にせよ、条件付きの後払い報酬にせよ、あるいは報酬限度額を超えた報酬にせよ、会社法上は(具体的な報酬請求権が確定するためには)取締役会の承認(ゴーン氏は特別利害関係人として議決権なし)や株主総会の承認など、社内における手続が必要なので、このあたりをどう評価するのかが立件にあたっての大きな課題かと思います。ゴーン氏は事実上のカリスマ経営者であり、実質的には「ひとりで決めることができる」と言えばそれまでですが、それでクリアできるのは構成要件該当性の問題だと思います。ゴーン氏自身が「自分で報酬はいくらでも決められる。会社法上の制約など、なんら関係ない」と証言しないかぎり、違法性の認識までクリアできるかどうかは微妙なところではないかと。ちなみに東京新聞ニュースによりますと、「覚書」には他の役員の署名もあったと報じられていますので、「ひとりで決めることができた」とは言えないような・・・・。

「私はケリー取締役にすべて任せていた(だから違法性の認識はない)」とのゴーン氏の反論はまったく通らないと思います。経営者自身の報酬に関する合意内容なので、ケリー氏任せていたとしても、なぜ違法ではないのか、きちんと合理的な説明を受けていないかぎりは違法性の認識が否定されることはないと思います。

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