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2018年12月29日 (土)

皆様、良い年をお迎えください

1週間ほど前のエントリーで「今年の年末はゆっくりします」と書いておりましたが、結局、昨年末と同様の状況となりました。会社法や金商法(内閣府令)、公益通報者保護法等の改正の動向、景表法課徴金命令取消し、初の消費者裁判手続特例法事案、司法取引事案の刑事審理そして日産前会長事件など、コメントしたい案件が山積しておりますが、積み残しの状況で今年のブログ更新は終了でございます。

本日リリースされた細野先生のこちらの論稿には思わず反応したくなりますが、もはやコメントする時間的余裕もないので、ウォッチのみ・・・ということで。東電旧経営陣強制起訴事件と法人処罰の問題は、日産法人起訴事件と絡めてブログを書きたかったのですが、また来年時間がありましたらアップしたいと思います。

今年も1年、当ブログを御愛顧いただき、ありがとうございました。来年も今年以上に充実したエントリーをアップしてまいりますので、どうかよろしくお願いいたします。では皆様、良い年をお迎えください。

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2018年12月28日 (金)

第三者委員会委員長に就任いたしました。

本日(12月28日)午後4時に適時開示されましたコード8854社の取締役不正(疑惑)案件につきまして、第三者委員会委員長に就任いたしました。ヒアリング、フォレンジック等、年末年始を挟みますが、CFE資格者3名で構成されました委員会を中心に、鋭意調査活動に尽力してまいります。

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2018年12月27日 (木)

上場会社の社外取締役は本当に役員報酬に関与しているのだろうか?

日産前会長の金商法違反事件や産業革新投資機構の高額報酬問題など、近時は役員報酬が話題となっています。そんな中で、12月21日の日経朝刊において、「社外取締役の22パーセントが役員報酬決定に関与せず」なる民間調査の結果を報じています。

KPMGジャパンさんの調査(東証1部上場企業の社外取締役585名の回答)によりますと、2割強の社外取締役が「役員の報酬決定には関与していない」と回答されたそうです。上記記事では「こんなに多くの社外役員が関与していない」といった論調ですが、むしろ私の驚きは、逆に8割もの社外取締役さんが報酬決定に関与している、と回答されていることです(うーーーん、ホンマに?)。私が知る上場会社では、取締役会で「具体的な報酬配分は社長に再一任する」といった決議をするところが多いので、この回答結果についてはかなり意外でありました。たしか直近の東証調査では、1部上場企業の4割に任意の報酬委員会が設置されているそうなので、「まぁ5割くらいは関与しているのかな」といったイメージでした。

私なりにこの調査結果を解釈しますと、まずこういったアンケートに回答される社外取締役さんはかなり「前向きな」方であり、社外取締役全体を反映しているとはかならずしもいえないのではないか・・・と思われます。ガバナンス・コードに「コンプライ」している会社も多いことから、関与していないとは回答しにくい面もあるかもしれません。

一番の問題は、「関与」といいましても、いったいどのような関与をされているのか、という点です。独立公正な立場の社外取締役が報酬決定に関与するのは、そのプロセスの透明性を高めることに意味があります。そうだとすえれば①報酬基準の方針決定に関与する、②業績連動における報酬への業績反映の決定過程に関与する、③社内報酬決定方針に従って、個別取締役の具体的な報酬額を決定する、といったいくつかの関与方法があると考えられます。

しかし①~③の決定関与のレベルは相当に異なるわけでして、関与の方法次第で職務に要する時間も、社内取締役との軋轢が生じる可能性も大きく差が出ます。また、その差はハッキリと取締役会の実効性評価にも影響を及ぼすはずです。有価証券報告書において、役員報酬の決め方の開示が厳格化するそうですが(たとえば産経新聞ニュースはこちら)、社外取締役がどのような方法によって役員報酬の決定に関与しているのか、できるだけ詳しく開示することで、会社と株主との建設的な対話を実現する必要があると思います。

オムロンさんや資生堂さんのように、報酬決定方針を詳細に開示する企業も同様だと思うのですが、社外取締役が報酬決定に関与するためには、そもそも取締役の指名や業績評価にも関与していなければ困難です(監査等委員会の職責をみれば当然ではないかと)。当該会社がどれほどコーポレートガバナンスの構築に力を入れているか・・・というのを判断するにあたっては、当該会社の役員報酬決定への社外取締役の関与方法をみるのがポイントだと考えております。

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2018年12月25日 (火)

日産前会長・会社法違反事件-特別背任罪の成否と経営判断原則

会社法960条1項違反、つまり特別背任罪には有価証券報告書虚偽記載罪(金商法違反)のような法人処罰規定がありません。それは法人(会社)は加害者ではなく被害者(損害の発生は法人)だからです。しかし特別背任罪には未遂処罰規定がありますので、たとえ会社に損害が発生していなくても特別背任の実行行為の着手があれば処罰可能です。なお、過去の判例等を調べてみましたが、特別背任罪の未遂で処罰された人はいないようです。現実には、特別背任罪の立件というのは、マスコミでもさかんに報じられているとおり、法人に「損害」が発生したのかどうか・・・という点が明確に立証される必要がありそうです。

ところでこの週末三連休の間、(おなじみ「関係者によると・・・」なる記事ですが)マスコミでいろいろと日産前会長の会社法違反容疑に関する新事実が報じられています。そのうち目にとまったのは

①前会長の資産管理を委託されていた新生銀行の外国人幹部社員が日産への損失付け替えの提案を(前会長に)していた事実(22日産経夕刊)、②前会長と日産社との利益相反取引について、曖昧な表現をもって取締役会決議をとっていた事実(多数のマスコミ記事)、③実際に日産から数千万円、新生銀行に金銭が支払われていた事実(後日、前会長が自費で解消した 24日毎日朝刊)、④新生銀行から(利益相反取引なので)取締役会での承認要求があったが、「これは報酬の範囲内で処理できるからだいじょうぶだ」と前会長が述べた事実(24日朝日朝刊)⑤信用保証料30億円を前会長のために前会長の知人が支払ったという事実(24日読売朝刊等)、そして⑥ケリー氏の妻が「主人は25日に保釈され帰国する予定。関係者の皆様ありがとう!」と述べている事実(ブルームバーグ)

あたりでしょうか。②と④とはやや矛盾しているような気もいたしますが、ともかく(10年前とはいえ)前会長と新生銀行とのやりとりに基づき、外国人報酬の管理のために、日産の取締役会において何らかの審議事項が決議されたことは間違いないようです。

金商法違反事件では金融庁(SESC)による行政処分というクッションがあり、これまでも不公正取引等において課徴金処分が活用されてきました。刑事処罰は社会的に大きな影響を法人に及ぼすので、「クッション」を最大限活用することは、法人に自浄能力を発揮させるためにも望ましい運用です。しかし、業法違反的な規制を除き、会社法違反(とりわけ特別背任罪)には行政処分はありません。したがって、法人の事実上の告訴をまって刑事手続きが開始されるわけですが、その社会的な影響は極めて大きいだけに、事実上未遂処罰例はなく、また主観的要件である「図利目的」についても(判例は消極的動機説といわれますが)ほぼ積極的な自己もしくは第三者の利益目的が証拠上明らかな場合のみ立件される運用になっています。

では、特別背任罪による立件への「クッション」の役割は何かというと、ガバナンス、つまり法人の取締役会を中心とした自浄作用が発揮されていたかどうか・・・という点だと考えます。たとえば日産事件の場合ですと、前会長が絶大な権限によって取締役会の事前承認を経ず、また事後に何らの報告もなされずに利益相反取引を行ったのであれば、そもそもガバナンスが機能しえないので、いきなりの刑事手続(事後厳罰によるエンフォース)もやむをえないのかもしれません。

しかし、取締役会で何らかの意思決定がなされていたのであれば、取締役会における経営判断に是正が期待できるわけで、その経営判断の内容次第では「特別背任罪の成立に合理的な疑いをはさむ余地」が出てくると思います。また、そのような経営判断に問題があるとすれば監視義務違反や内部統制構築義務違反等に基づき、株主代表訴訟や第三者損害賠償請求なる会社法の規制によってクッションは機能するものと期待されています。

いままでのマスコミ報道を読むかぎり、いったい10年も前の日産の取締役会で何が決議されたのか、どういった審議がなされたのか、とても微妙です。日産前会長がどのような説明を行ったのかはわかりませんが、出席している取締役や監査役が意味もわからずに承認することはありえないと思います(日産のような日本を代表する企業の役員の方々が、意味も分からず議案に賛成した、といったことはおよそ考えられません)。しかし、この審議内容次第では、損失付け替えについて「損害」どころか前会長の違法性の意識(特別背任罪においては「会社に損害を及ぼすことの容認」)は否定されてしまいますし、また中東日産会社を通じて海外の知人に16億を払ったことも「損害」ではなく「費用」や「報酬」として適正に支払われたことになってしまう可能性もありそうです。

私も過去に何件か特別背任罪の告訴手続きを(会社側で)経験しましたが、会社と検察が一緒になって協働しなければ立件は困難ではないかと思います。司法取引を端緒とする立件ではありますが、日産自身が有価証券報告書の訂正を行う気配もなく、また、前会長さんに損害賠償請求訴訟を提起することを急がない状況をみるにつけ「会社はだいじょうぶなのだろうか・・・」と危惧いたします。有価証券報告書の虚偽記載罪以上に、特別背任罪による刑事立件には、コンプライアンス経営に関心を持つ者として目が離せません。

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2018年12月23日 (日)

会社法務A2Z(2019年1月号)に論稿を掲載いただきました。

P_20181223_102130_400今年もあとわずかとなりましたが、皆様、いかがお過ごしでしょうか。昨年末はM&A案件で証券会社さんといろいろと協議を重ねておりましたが、今年はそんな案件もなく、ボヘミアン・ラプソディを観たり、日産事件をじっくりとウォッチする時間的余裕もございます(事務所経営的に良いかどうかはさておき・・・)。

ただ、11月30日の日経朝刊でも紹介されましたが、私が社外取締役を務める会社では、今年から代表取締役の選解任プロセスの開示を始めました。年末から来年1月下旬まで、取締役間の相互評価、社外役員を中心としたガバナンス委員会による個別ヒアリング(社長を含む全社内取締役を対象)、ディレクター及びオフィサーとして、今後求められる役割に関する協議と「誰を取締役として残すか、誰が代表取締役としてふさわしいか」に関する審議が精力的に行われます。ということで、ここ数年、クリスマス、年末年始の時期はガバナンス関連のお務めもございます。

さて、今年も(ほぼ恒例となりましたが)第一法規さんからのご依頼により、会社法務A2Z新春企画号(2019年1月号)「企業法務2019年の展望」におきまして「危機管理・不祥事対策の展望」なる論稿を掲載していただきました。不祥事予防と不祥事対策(早期発見、危機対応)に分けて、経営陣や法務部門等の方々が留意すべき点を法改正の動向や不祥事のトレンドに配慮しながらまとめたものです。毎度のことながら、「不祥事は御社でもかならず起きる!」ということを前提として書いておりますので、機嫌よくお読みいただけるかどうかはわかりません(笑)。

なお、原稿の締め切り間際に日産前会長・金商法違反事件が報じられ、編集部の方から「日産の件は挿入しますか?」との打診(お気遣い?)を受けました。ただ、12月初めの時点で、この事件はどう転ぶかわからない、容疑者が増える可能性もあり、金商法違反容疑だけど会社法違反容疑に変わるかもしれない、との思いがありましたので挿入は断念いたしました(いまはホッと胸をなでおろしております)。ちなみに日産さんにかぎらず報酬ガバナンスについては来年はさらに議論が盛り上がりそうですが、そのあたりは浜辺陽一郎弁護士が「コーポレートガバナンス」のところで記述されていますので、そちらをご参照いただければと思います。

全国書店で連休明けころから発売されると思いますので、来年の法務・税務関連の話題を先取りしたいとお考えの方にはぜひお買い求めいただければと存じます。

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2018年12月21日 (金)

日産前会長の再逮捕劇-大事件化の予感(?)

仕事中なので一言だけですが・・・

いままでタイトルを「日産前会長・金商法違反事件・・・」と書いてきましたが、ついに「特別背任容疑で再逮捕」ということで会社法違反がテーマとなりました。

12月8日の東京新聞朝刊に、日産さんが社内調査報告書を公表する検討に入ったことを報じておられましたので「これはひょっとして会社法違反の立件もあるかも・・・」と思っておりました。本日(12月21日)の日経朝刊でも同様の記事が掲載されましたので、勾留請求却下が引き金になったとはいえ、法人としての日産を巻き込んで、検察の立件準備はすでに整っていたのかもしれません。

3回目の逮捕の容疑は二つあるようですが、二つ目は週刊文春12月13日号の記事にも、また11月27日の朝日新聞一面トップ記事にも掲載されていない「新事実」ですね(朝日新聞の記事は「関係者」の存在を匂わせていましたが・・・)。「関係者」にお金が流れっぱなし・・・ということのようです。

しかし、本件が会社法の世界で注目されるということは・・・、ガバナンスや内部統制に関する視点から、多くの関係者を様々な法的責任問題に巻き込むような大きな事件になる予感がいたします。2008年に金融庁が問題を最初に指摘した事件ですから、金商法違反でうまく立件できるのであれば検察も問題化したくなかったのではないでしょうか(背に腹は代えられない?)

とりあえず直近の関心は、日産さんが社内調査報告書をいつ公表するのか、という点と前会長の再逮捕の事実がケリー氏の保釈申請にどのような影響を及ぼすか・・・という点かと。

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日産・金商法違反事件-前会長らへの勾留請求却下と裁量保釈について

(12月21日午前 一部訂正しました)

日産の前会長らに対する(被疑者としての)勾留延長請求が却下され、前会長らには(追起訴予定分を含む被告人としての)裁量保釈が認められる可能性が出てきたと報じられています。20日の夜には検察の準抗告も棄却された、とのこと。これに対し、フランス政府がこの展開に驚いている、検察幹部が「そんなバカなことがあるか!」「裁判所は何を考えているんだ!信じられん!」との声が上がっている、「ほらみろ、これで無罪の可能性が濃厚だ!」といった有識者の声が出ているといった報道もみられます。大きな事件の動きではありますが、ちょっと冷静に考えたほうがよいと思います。

司法制度改革が始まった2000年以降、とりわけ令状部裁判官の論文(いわゆる「松本論文」)がジュリストに掲載された2006年ころから、検察官による勾留請求の裁判所における却下率はきわめて高くなっています(たとえば2003年と2016年を比較しますと、勾留請求の却下率はなんと8.6倍も増加!)ましてや今回は勾留延長請求ということなので、却下される可能性が(そこそこ)高いことは検察も前会長らの弁護人の方々もご存じのはず。裁判員裁判は事前の争点整理が必須であり、早期に被疑者・被告人と弁護人との意思疎通が確保される必要性が高まったため、従来の勾留や保釈の運用を見直そうという機運が裁判所で高まったわけです。

この流れは裁判員裁判だけの問題ではありません。平成26年、27年と、最高裁は痴漢事件や横領事件の被疑者勾留(刑事訴訟法60条1項、同207条1項)についても、勾留請求を認めない決定を立て続けに出しています。その理由としては、逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれについて、被疑者に具体的な危険性が認められなければ勾留の必要性(ひいては勾留理由)は認められないから、というものです。つまり、それまでの実務運用は「証拠を隠すようなことをする抽象的な危険性が認められれば勾留する」というものでしたが、もっと具体的な危険性が必要になりました。たとえば検察側で「この被疑者は●●の事実があるので証拠の隠滅の具体的な危険性が高い」ということを令状裁判官に示してナットクしてもらわなければ勾留は認められないのです。このような事情も、特捜部検察官や前会長らの弁護人の方々は当然認識されているはずです。

そして(なんといっても)今回の刑事事件は、今年6月に施行された日本版司法取引(改正刑事訴訟法上の協議・合意制度)を検察が活用している、という点です。この改正の根拠である「刑事訴訟法の一部を改正する法律」(平成28年6月3日法律第54号)では、刑事審理における証拠開示の拡充を図り、それとともに裁量保釈(刑事訴訟法90条)の判断にあたって斟酌すべき事情を明確化する改正がなされています。同法には国会の附帯決議もなされ(たとえば参議院附帯決議四)、保釈の判断にあたっては被告人が否認していることや、証拠価値を認めないことをもって不当に不利益を与えるような運用がないように(政府および最高裁は)努めよ、と立法府が政府や司法に要請しています(これは重い!)。

もちろん、この点は裁量保釈に関する論点ですが、日本版司法取引の運用において(先に述べた裁判員裁判の争点整理と同様に)、「他人の犯罪」(本事件では前会長らの犯罪)に関与する弁護人は、日本版司法取引による「他人を不当に犯罪へ巻き込むことを防止するため」に、早期に迅速な防御権行使が要請されています。したがって、日本版司法取引が制度として開始された以上、弁護人と被疑者との十分な意思疎通を可能とするため(たとえば合意内容書面に基づく証拠の信用性を吟味するため)、早期に被疑者や被告人の身柄を解放する必要性が高いことは、裁量保釈に関する運用だけでなく被疑者勾留の運用についても同じだと考えられます。そこで、勾留請求に関する裁判官実務の運用にも変化が生じて当然ではないでしょうか(これも関係者の皆様には釈迦に説法のようなお話かとは思いますが・・・)。

このような事情から、一般事件でも保釈率は極めて高くなっており(こちらも勾留請求却下と同様、平成26年、27年に「罪証隠滅のおそれが高い」として保釈を却下した高裁決定をひっくり返す最高裁決定が出ています)、そこに平成28年の刑訴法90条改正(保釈の運用)、同350条の2以下の改正(日本版司法取引)の施行開始という事情が重なるわけですから、(外国人が被告人であるため、一定の条件が付されることは当然としても)特別背任や横領といった別理由による身柄拘束がなされない限り、追起訴後の裁量保釈が認められる可能性は高いと思料いたします。すべては中立・公正な刑事審理のため、ということだと思います。

このように考えますと、(特捜部による)勾留延長請求が却下されるのは異例とか、日本の刑事手続制度に諸外国が驚愕とか、裁判所の予想外の判断に検察幹部が憤っているといった報道は「ちょっと違うのでは・・・」と思いますし、むしろ司法制度改革の下での最高裁の判断の明確化や刑事訴訟法の改正といった流れの中で、普通に勾留請求が却下され、裁量保釈が容認されやすい環境が整った、というだけのことかと。また逆に、上記のような流れなので、起訴された有価証券報告書の虚偽記載罪が認められにくくなったとか、裁判所の心証が伺い知れた、といった判断もちょっと違うような気がいたします。本事件への私の関心は、もっぱら有罪か無罪か・・・という点にありますが、刑事手続に関する世間の関心が高まりましたので(刑事法には素人ながら)コメントさせていただきました。

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2018年12月20日 (木)

見えてきた公益通報者保護法改正の方向性と企業の体制整備の責任

本日は内部通報関連のエントリーです。ひとつめの話題ですが、本日(12月19日)、内部通報制度の自己適合宣言登録制度に関する取扱いの概要が公表されました(消費者庁のHPはこちらです)。指定登録機関は商事法務研究会さんに決まったようですね。また商事法務研究会さんのこちらのHPに、制度概要説明会の開催要領が掲載されています。申込受付は来年の2月から、とのこと(私も大阪の説明会に行ってみようかな・・・)。

そしてふたつめの話題ですが、試行錯誤者さん、たかさんがすでにコメントされているとおり、昨日(12月18日)、内閣府消費者委員会 公益通報者保護専門調査会の審議において、最終報告書(案)が部会資料として公開されました(すでに同調査会HPにアップされております)。今後の公益通報者保護法改正の方針を示す報告書でして、さっと一覧しましたが、報告書の内容につきましては(7月に出された中間整理案と比較したうえで)また詳細に別途エントリーしたいと思います。

たかさんをはじめ、これまで長年にわたって公益通報者保護法の実効性確保に向けて尽力されてこられた方々から、こちらのニュースにもあるとおり「改正の方向に失望した」「経済界や労働組合の意見が大きく反映された内容」との意見が多く出されています。実務が積み重なったうえで、施行から13年が経過した初めての改正ということなのに、これだけかよ!っというところがご批判の趣旨でしょうか。なんといっても通報者に不利益処分を行った企業に刑事罰や行政罰が課されることにならなかった点を上記ニュースでも大きく報じています。

多くの弁護士委員の皆様とは意見が異なりますが、企業コンプライアンスや内部統制を推進するために改正を要請してきた私からしますと、まずは公益通報者保護法と内部通報制度が(内部通報制度の整備義務の履行確保の手段を通じて)初めてつながることになる「改正の方向性」については歓迎いたします(ただし体制整備義務が課されるのは従業員300名以上の事業者であり、300名未満の事業者は努力義務とのこと)。企業の自浄能力など期待できない、期待できるのは刑事罰のみ・・・といったご意見もありますが、私はこれからも企業の自浄作用を発揮できるような通報制度の運用に尽力していきたいと思っております。

なお、消費者庁の公益通報者保護実効性検討会の一員として一言申し上げるならば、公益通報者保護のためには法改正もひとつの方法ですが、民間事業者向けガイドラインや行政機関向けガイドラインの実施を促し、冒頭に述べたような認証制度を充実させることで、企業の自浄能力を高める施策も(法改正と同じくらいに)重要と認識しております。すべてが公益通報者のさらなる保護と企業コンプライアンスの実現に向けた施策であることを多くの方にご理解いただきたい。

昨日の読売新聞では、ある自治体が公益通報者保護法の趣旨に反した内規を定めていたことが明るみになりました。また、本日のニュースでは森永乳業さんがグループ会社の社員からパワハラ通報を受理していたにもかかわらず、同社員がグループ会社から報復(不利益処分)を受けたとして(グループ会社とともに)損害賠償を求める訴えを提起されたことが報じられています。法改正への期待が高まる中、上記ニュースによりますと、来年(2019年)の通常国会に改正法案を提出する見込み、とあります。ただ、この報告書を読みますと、かなり法技術上の最終整理が要請されていますので、法案作りは急を要するところかと。

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2018年12月19日 (水)

日産・金商法違反事件-会計実務家の常識的判断を尊重せよ(その3)

逮捕から1か月が経過した日産前会長・金商法違反事件でありますが、当ブログでも関心が薄れるどころかますます高まりをみせておりまして興味が尽きません。ルノーが日産に対して臨時株主総会の開催を要求していることが報じられ、マスコミの関心は日産vsルノーの支配権争いのほうへ移りつつあるようですが、私的にはまだまだゴーン氏・ケリー氏の立件の可否に関心を抱いております。

ところで、マスコミから聞こえてくる被告人(弁護人)サイドの反論については、「後払い報酬」の確定を否定するところがメインのようです。覚書や合意書など、複数の後払い報酬を確約する書面が出てきたところで、「日産の内規では、(報酬額の)最終確定のためには3名の代表取締役の協議が必要とされているのであるから、3名の署名がない以上は未確定と言わざるを得ない」という点が強調されているようです。優秀な方々が弁護人としてお付きになっておられるので、検察への反論としてはもっとも効果的と思料されます。

ただ、「確定」か「未確定」かで勝負をする場合、どうも検察の作った舞台で踊らされているようで、法的手続きを経ていない点を強調して無罪を主張したとしても裁判所を説得するのはむずかしいような気もいたします。たとえばインサイダー取引規制の対象となる「重要事実」のひとつとして、企業の「決定事実」が挙げられますが、この決定事実というのは取締役会等の会社法上で決定権限のある機関で決議がなされたような場合(法的に決定があったとされる場合)だけでなく、実質的に会社の意思決定と同視されるような意思決定を行うことのできる機関によるものであれば足りる、というのが最高裁判例の立場です。金商法違反の世界に「確定」「不確定」という概念を持ち出すとすれば、たとえ法的手続きは未了であったとしても、実質的なワンマン経営者が「最終」として決めた文書がある以上は「確定した」といえるとの解釈が裁判所で通用するのではないでしょうか。

ここからは(私の個人的な意見であり、もちろん賛同者は少ないかもしれませんが)金商法違反で起訴している以上は(あらためて考えても)会計実務家の常識的な判断が尊重されるべき事案ではないか、と思います。以下、私の考えを図表に示したいと思います。

Houteisenryaku001基本的には(その2)のエントリーで示したところと変わりはありませんが、そもそも金商法の解釈に(会社法の条文にある)「確定」「未確定」なる概念を持ち出す必要はないわけで、素直に金商法および開示府令の解釈問題と捉えれば足りると考えます。

最も「確定」という概念を使いたくなるのは開示義務が発生する要件として(後払いといえどもすでに報酬が確定しているのであれば)「当事業年度に係る報酬等」に該当する、という開示府令の解釈です。しかし、前にも述べたとおり、この解釈は、存在が確認されている3文書の文言内容と矛盾します(報酬と言いながら、支払方法合意書では「競業避止承諾料」や「顧問料」とされている。現にケリー被告人はこの主張を貫いています)し、機関決定がまったくなされていない点を全く無視することも問題となります。

そこで、次に「確定している」と主張するメリットのある解釈としては「当事業年度において受ける見込額が明らかとなったもの」に該当する、というものです。この解釈であれば「カリスマ経営者の実質支配状況、および開示に消極的な姿勢を総合判断して」「将来的に受ける報酬見込額は明らかになっていた」といえそうな気もいたします。ただ、この解釈だと先のエントリーでも述べたように、金融庁の考え方としては開示府令の解釈に会計処理方法を参照にしながら考えてよいことになっています。したがって会計の実務慣行がどうなっているのか・・・というところを解釈の指針とすることも十分に考えられると思います。

なお、有価証券報告書の役員報酬欄は会計監査の対象ではないので、会計慣行は問題にはならないのでは?とのご意見もあると思います。しかし、ここで問題としているのは「監査」対象としての有報ではなく、会計の実務慣行であり、報告書を作成する側の問題です。報告書を作成するにあたって、金融庁は「会計処理方針を参考にしてもよい」と述べているのですから、これを活用して、「解釈はこれしかない」と言うのではなく「解釈としてはこれもあるよ」と被告人側は述べればよいと思います。

したがいまして、別に被告人側は検察の「確定」「未確定」なる(評価に関する)主張が正しいものでも間違いでも構わないわけで、被告人側の(金商法の解釈としての)主張立証を粛々と行い、「これも解釈としては間違いではない」という心証形成に努めれば構成要件該当性もしくは違法性の認識のいずれかの争点で戦うことができるのではないでしょうか。〇か×か・・という論争は検察の舞台(アウェイ)での戦いであり、どっちも〇という相対的真実の世界(ホーム)で戦うことが得策ではないのか・・・と考えます(これこそ10年前の長銀最高裁判決からの教訓と思うのですが・・・)。

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2018年12月18日 (火)

日経「企業が選ぶ弁護士ランキング2018・危機管理部門」にて3位に選ばれました。

日経新聞の年末恒例「企業が選ぶ『今年活躍した』弁護士ランキング」におきまして、危機管理部門の第3位に選出いただきました(12月17日日経朝刊掲載。どうもありがとうございます)。2014年にも第6位に選出いただいたのですが、今回は電子版だけでなく新聞にも名前が掲載されたため、多くの方からメールやラインをいただきました。

今年前半は上場会社の調査委員会の委員長を2つほど務めましたが、後半は企業の有事対応の仕事で大忙しでした。川崎重工さんの品質管理委員会は時間的に忙しい仕事ではありませんでしたが、技術系の大学の先生方の審議において適切な判断を行う難しさがありました。

なお、(講演等では申し上げておりますが)情報漏えい事件において公表の要否を判断するための意見書などを3つほど書きました。本日の日経ニュースによりますと、(個人情報保護委員会が)企業が個人情報の漏えいに至った場合には原則として報告義務を課す方向で個人情報保護法の改正を検討していると報じられておりましたが、妥当な判断だと思います(なお、報告と公表とは異なりますので、念のため)。

忘年会シーズンでして、なかなか更新する時間がとれませんが、明日こそ(?)、日産前会長金商法違反事件の続編を書きたいと思います。

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2018年12月17日 (月)

会計監査人への内部通報(内部告発)と件外調査の重要性

日曜日(12月16日)夜の産経新聞ニュースなどを読んでおりますと、またまた日産前会長金商法事件に関連したエントリーを書きたくなるのですが、本日はひさしぶりに内部通報・内部告発関連の話題を備忘録として記しておきます(日経ビジネス12月17日号の恒例「謝罪の流儀」特集もなかなかおもしろいので、こちらも追って別エントリーでご紹介したいと思います)。

ホシザキさんの14日付けリリースなどを読みますと、グループ会社における不適切会計に関連した社内調査報告書が提出された後、親会社社員が会計監査人による四半期レビュー手続きを妨害した疑いがあるとして、更なる調査を行うことを決めたそうです。この妨害行為は会計監査人への社員による内部通報によって発覚したそうで、証拠書類を添付したうえで通報がなされた、とのこと。ホシザキさんは再度の四半期報告延期となり監理ポスト入りが見込まれます。

また、12月8日の日経朝刊では、RIZAPさんの不適切な循環取引疑惑に関する記事が掲載されておりまして、会計監査人(太陽監査法人さん)がRIZAPグループ上場会社に対して「債権取り立て益」を特別利益として計上することを中止させたそうです。こちらの記事では会計監査人に内部通報があったとは明確には記載されておりませんが、日経記者さんへの情報提供がRIZAP「関係者」からのものであること、この関係者の方は「こんな取引が複数あった」と証言していることから、(M&A路線の中止はRIZAPさんの「負ののれんの減損」に関する「松本ショック」によるものと言われていますが)こちらも会計監査人への内部通報の可能性が高いものと推測いたします。

四半期開示制度が存続する以上、私は会社と会計監査人の協働作業によって不正を見抜くことは不可能とまでは申しませんが至難の業だと思います。なぜなら、四半期開示に向けたルーチンワークで経理部や監査部、そして会計監査人は手一杯というのが上場企業の現状であり、すこしおかしな点に会計監査人(現場の監査担当者)が気づいたとしても、四半期レビューの手続きをこなすことが優先されてしまうからです。要は経理部と会計監査人との間で監査の深堀りを行う余裕はほとんどありません。したがって、社員による会計監査人への情報提供こそ、会計監査人が不正の端緒を知るためには重要となります。そのような中で、不正リスク対応基準の策定や国際倫理規則の改訂、CGコード、監査法人版ガバナンスコードの策定などにより、内部通報が監査人に届いた場合の対応はますます厳格になっているのが現状ではないでしょうか。私は上記のような事例は今後も増加することになると予想しています。

とりわけホシザキさんの例をみますと、社内調査は決して手を抜いたわけではないと思いますが、社内調査のスコープが狭い場合には、後日他の部門からも同様の不正が発覚することがあり、これが内部通報によって明るみになることも多いと思います(ホシザキの社員の方は、そのあたりを焦ってしまったのかもしれません・・・)。今年の企業不祥事の特徴として「件外調査の不十分性」が挙げられます(皆様がご存じの事例だけでも三菱マテリアル、日立化成、日産燃費偽装、スバル等)。このような後日再調査ということになりますと企業の信用が大きく毀損されることになります。したがいまして、内部通報制度の充実を図ることも大切ですが、(これだけ会計監査人の不正対応が厳格になっている以上)まず企業不祥事が発生した場合には、発覚した不正と同様の不正は他の部門でも発生していなかったのか、海外子会社も含めて十分な件外調査を(できるだけ公正中立な調査委員のもとで)行うことが肝要です。

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2018年12月13日 (木)

日産・金商法違反事件-会計実務家の常識的判断を尊重せよ(その2)

昨日のエントリー「日産前会長金商法違反事件-会計実務家の常識的判断を尊重せよ」にはたくさんのコメントをいただき、どうもありがとうございました。本日は続編として、いただいた会計専門家の皆様(私の存じ上げている方もいらっしゃいますが)のご意見を紹介させていただきます。もちろん、事件関係者の方ではありませんので、新聞等の公開された情報のみに基づいたご意見ばかりであることを念のため申し添えておきます。(なお、メールでも公認会計士の方からいくつかご意見を頂戴しましたが、コメント欄にお書きいただいた方以外は紹介を控えさせていただきます)。

(Xさんのご意見)ゴーンさんのようなケースであれば(現在までの報道を見る限り)費用計上して開示するのが、実務に携わる一会計士としては常識的判断だと思います。法的な意味で確定している必要はありませんし、probable であれば会計的には費用&債務です。従業員の退職給付債務も確率論で推定されたものに過ぎず、確定しているものではありません。有価証券の評価損も受注工事損失引当も、法的な意味で確定してはいないので、法的に確定していなければ処理不要という理屈が通れば、オリンパスも東芝も不適切会計では無くなってしまいます。有価証券や長期請負工事の損失も、売却や完了までは評価・見積に過ぎず確定したものではありません。重要な記載事項かどうかも、監査対象ではありませんが重要であると言うのが一般的な認識かと思います。重要なので導入されたわけですし、導入時の経緯を見ても、当初から重要視されていました。また虚偽記載があった場合の心証としては、利益におけるそれよりもさらに悪いと言えます。会計は膨大な作業と時間の積み重ねなので、間違える事や間違いに気づかない事はあります。東芝のケースも、金額的には大半が原発工事ですが、ああいった海外の大規模工事になると経営者も正確な数字を掴めなくなる事は、まだ理解できます。しかし、役員報酬は自分自身の報酬ですから、掴めていないはずがなく、100%故意で悪質です。・・・(中略)中途退職したらほぼ0円になるような退職給付でも債務認識と費用認識はされますし、デリバティブなんてトリガーが引かれなかったら0になるものばかりでしょう。現在の会計基準は必ずしも確定未確定を問題にしません。一老さんが費用収益対応という言い方で言及されていますが、この報酬が実態として何の対価なのかという事の方が決定的要因でしょう。実質的な報酬の後払いなのか、本当に顧問料相談役料なのかです。それは私のような外野ではなく裁判所が判断することなのでしょうけど。

どうもありがとうございます。おっしゃるとおり、最後は裁判所が判断することになります。ちなみに、2017年に青林書院から出された「法律家のための企業会計と法の基礎知識」の中で、長銀事件最高裁審理を担当された裁判官でいらっしゃった古田祐紀先生(検察出身)が「法的な観点から会計処理を見る場合の留意点」をお書きになっておられます(同書31頁以下)。今回のようなケースでは、やはり退職慰労金の会計処理が参考になるものと私的には判断いたしました。

(会計士さんのご意見)「報道」情報が、媒体で違うのだろうし、「事実」かどうかわからないので、推測含みですが。退任後報酬なら、費用計上しない。大企業トップに対して、退任後2年間顧問あるいは相談役で年3000万払うなんていうのは、よくありますが、これは、払った年の費用です。その年に執務して、その年の報酬ですから。現役時に費用計上することはないし、確定債務ではありません。わかりやすく言うと、この方が退任直後病気で亡くなったケース。その場合、払いませんね。よって、費用計上しないのです。仮に亡くなった場合も遺族に払うのだとしたら、それは確定債務で事前の費用計上が必要です。・・・(中略)確たるスキームや金額を既知としているわけではないので。小出しにいろいろ出ているどの情報が正なのかがわからず、そこはおいておいて。退任時に、お亡くなりになったというような前提で。その際には相続人に払われないものだとしたら、費用計上されていないことは正しいと思うのです。何らかスキームに「インチキ」あって、「実質を仮装」している事実があるとすれば、それは別の論点で。退任後に顧問で年10億なり払って、今後のCG報告書で会社が開示していくような流れであれば、それはそれで「会計」側では問題がないと思います。

どうもありがとうございます。上記の「企業会計と法の基礎知識」の中で、東京大学の佐伯教授(刑法学)が「評価的要素と会計基準違反(刑事関係)」を担当執筆されています(拙著も一部引用していただいております)。会計士さんご指摘のとおり、会計処理の問題とは別に、たとえば会計処理は正しくても、実質的に見れば「おかしいじゃん!」という場合に虚偽記載で刑事処罰を与えてしまおう・・という流れもありえます。米国のGAAP遵守⇒有罪という例も紹介されています。企業会計法の大家でいらっしゃる弥永教授の「片面的実質主義」(ここでは説明しませんが)に、佐伯先生も賛同されているようですが、やはり課徴金処分が使えるところではまず課徴金でいくべきとのことで、刑事処分に実質主義を用いることには謙抑的であるべきとのご指摘があります。

(一老さんのご意見)会社は「一般に公正妥当と認められる会計の基準」に準拠した会計処理を行うべしという点に関して、会社法と金融商品取引法で異なる解釈は有りません。また、法的に確定していないから会計処理されていないが、会計的には会計処理すべきであったという、「法解釈」と「会計解釈」のダブルスタンダードは何処にも存在しません。日産ゴーン事件は虚偽記載を争う展開ならば、そういう意味において、初の「会計裁判」となるのでしょうか。会計的に「簿外未払金」または「簿外引当金」が存在したかどうかが争点です。ゴーン氏に支払われるべき報酬が(隠されていたかどうかに関係なく)客観的に存在していたか、その報酬が支払われる蓋然性が高く認められるか、その金額は(ゼロサムではなくて)概ね確定していたか、さらに、その費用(金額)は過去該当各期の会計期間に費用化(反映)されるべきであったか等の全ての点が明確に立証されるかどうか議論されなければなりません。報道情報から考えるに(ゴーン氏らは、手の込んだテクニックを駆使して事実の表面化を避け、会計的な「未確定取引」を殊更に強調できるスキームを構築してきたようですが、であれば、尚の事)会計事実として会計処理の対象とすべき要件(の一部)を具備していると思います。・・が、しかし、その金額はいったいいつの決算に費用化されるべきだったのでしょうか?「収益費用対応の原則」は会計原則の基本の基本です、これを適当に判断する事はできません。ここに関しては今の自分に結論が出ません。「ライブドア事件」では会社が金銭を授受したその科目が収益ではない事が虚偽記載とされたものですが、日産事件では未払の金額ですから、これとは決定的に異なります。これほど難しい「会計判断」の領域に今回“特捜部”が踏み込み、「会計処理を糺す」として大上段に構えたのでしょうか?・・・(中略)このコメント欄に投稿して直ぐに日経新聞朝刊に目を通しましたが、「某月某日?において、後日支払いされるべき(支払い予定である)報酬の金額が決定していた・・」とする内容記事が掲載されています。会計の専門家ならば常識的に理解するのですが、報酬の金額が決定していたことと未払債務(もしくは引当金)が「確定していた事」は同義ではありません。収益費用対応原則と発生主義原則という会計の大原則に照らせば、その費用(未払金計上費用もしくは引当金繰入額)はそれに対応する期間の収益獲得のために用されたものかどうか、ゴーン氏が受け取る報酬に見合う「役務の提供」がいったい、いつ行われたのかが重要なキーとなります。ゴーン氏が、報酬を<貰うつもり>であり、<間違いなく貰える環境>にあり<その額も決定していた>としても、それだけでは、報酬として『確定』していた事にはならないのです。

一老さんがおっしゃるように、収益費用対応原則、発生主義原則というところは、金商法違反を問うわけですから「法律上の記載義務」を考えるにあたっては避けて通れない論点だと考えております。「報酬」と言われていますが、実は「顧問料」だったり「競業避止承諾料」の可能性があり、東京新聞が関係者の取材から描いた3文書(12月11日朝刊に掲載)から読み取りますと、どうも開示規制施行前は純粋な20億の確定報酬だったものが、施行後は10億の確定報酬と10億相当の顧問料、承諾料として支払われるストーリーになっていたようです。そうなりますと、収益に見合う職務執行はゴーン氏退任後ということになり、費用計上も退任後ということになるような気がいたします。なお、純粋に20億の報酬が確定したとしても、通常は取締役会で決算書の承認決議が必要で、会計的にはこれを確認したうえで費用計上されるのではないかと思うのですが、そのあたりがやや疑問です。

ところで役員報酬の開示制度を導入した責任者でいらっしゃる亀井静香さんがAERAでこのようなことをおっしゃっています(AERAニュースはこちらです)。経済界の反対を押し切って制度を導入された方がこのようなことをおっしゃるということは、本当に役員報酬の重要性(つまり役員報酬の虚偽開示が当然に金商法違反になるということ)を感じておられるようには思えないのですが。。。昨日のエントリーで書いたように、企業統治改革が進むなかで重要性が増してきた、ということも言えそうな気がいたします(ただし、それは罪刑法定主義に反する考え方と認識しております)。

本日(12月12日)の日経朝刊に、青山学院大学大学院の町田教授のご意見も掲載されていましたが、取り上げておられる論点こそ異なるものの、同大学院名誉教授である八田進二先生とは立件の成否に関する見立てが違っておりました。重要性の論点、収益費用対応原則の論点など、会計専門家の方々の意見が反映された刑事訴訟手続きが進まなければ、またまた会計・監査業界に大きな波紋を投げかけることになりかねないと思います。

(これは本日の論点とは関係ありませんが)東京新聞12日付け朝刊「ゴーン事件の底流(2)」はなかなか読み応えがありました。事件関係者の実名がボンボン出てきます(今回の日産金商法違反事件について、東京新聞の取材姿勢はなかなか迫力ありますね)。この記事と12月6日付けの週刊文春の記事、そして今月号の文藝春秋論稿を重ね合わせますと、やはり前会長逮捕・立件の背景に、大きなうねりのようなものがあったことがわかります。米国の新聞(WSJ)では「事情に詳しい関係者」の話として、前会長が逮捕前、経営不振を理由に西川社長の更迭を計画していた、米国市場の不振や日本で相次ぐ品質検査不正問題で西川社長の手腕に疑問を感じていて、11月下旬の取締役会で解任の提案をするつもりだったとも報じられていました。ミクロの論点だけでなく、マクロの視点も把握しておかなければ、本事件の真相には迫れないと感じた次第であります。

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2018年12月12日 (水)

日産前会長金商法違反事件-会計実務家の常識的判断を尊重せよ

12月11日、日産の前会長さんの起訴・再逮捕が大きく報じられていますが、新事実を報じる記事よりも、今後の法廷闘争に向けた争点整理に関する記事が目立ちました。とりわけ興味深い記事として、12月11日付け東京新聞朝刊「退任後報酬示す3文書」は、検察が金商法違反で前会長さんを立件するにあたり重要なカギを握るであろう3つの文書の詳細を紹介していました。この3文書に、司法取引を行った2名の役職員の証言がプラスされれば、検察側の立証方法としてもかなり有力なものが集まったように思えます。

ただ、私は依然として金商法違反容疑で前会長らを有罪に持ち込むには(まだまだ)壁があるのではないか・・・と考えています。多くの報道において「前会長が退任後に受領する予定の報酬は『確定報酬』と言えるかどうか」といった問題提起がなされていますが、以前のブログエントリーでも述べたように、金融庁の定めたルールの解釈が問題となるはずでして、

現行の会計基準や同じ建付けの会社法を踏まえた実務動向等に照らせば、基本的に、最近事業年度に係る役員退職慰労金繰入額及びストックオプションの費用計上額は最近事業年度に係る報酬等に該当することが考えられます。

なる金融庁の考え方に沿って「受ける見込みの額が明らかとなったもの」に、退任後報酬(そもそもこれが「報酬」といえるかどうかも問題です)が含まれるかどうかを考える必要があります。

役員退職慰労金のように引当金を負債として積み、また慰労金繰入額のように一部費用化しているからこそ「明らかとなったもの」に該当するわけで、そのあたりは法律家ではなく、公認会計士の方々の常識的判断による解釈が尊重されるべきです。そうでないと10年前の長銀事件最高裁無罪判決の二の舞になりかねません(そもそも会計士の皆様の常識的判断として「退任後報酬が確定している」といった概念は普通に受け入れられるのでしょうか?確定・不確定というのは会社法の世界の話ですが、金商法の世界でも使うのでしょうかね?)。開示規制の世界の話ですから「相対的真実」が妥当する場面も多いと思います。「確定している」というのも正解だが「確定していない」というのも正解・・・といったことにならないでしょうか?

そしてもうひとつ、多くの新聞記事において、前会長の報酬過少記載が「有価証券報告書の重要事項に関する虚偽記載」にあたるかどうか、という論点を取り上げています。重要事項か否かという点は、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす項目にあたるかどうか・・・といった判断基準で考えるべきことはもちろんですが、「現在ではガバナンス改革のもと、経営トップの報酬に重大な関心が向けられるようになった」という「社会常識の変遷」を根拠にしてしまっては罪刑法定主義に反する可能性が高まります。

要は役員報酬が有価証券報告書に開示させるようになった2010年3月度の時点から、すでに役員報酬の過少記載は重要事項に関する虚偽記載に該当していたことが必要です。これまで役員報酬の虚偽記載で課徴金処分が一度も下されたことはないのですが、2010年当時から役員報酬は重要な記載事項としての共通認識は持たれていたのでしょうか。(監査対象となる)財務諸表の一部ではありませんが、有価証券報告書とふだんから接しておられる会計士の方々にこそ、実務上の常識的な判断をお聞きしたいところです。

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2018年12月11日 (火)

JICの取締役辞任問題-「ファンド」の仕事はアートである。

本日(12月10日)の日経夕刊トップ記事によりますと、産業革新投資機構(JIC)の社長ら9名の取締役の皆様が辞任をされるそうです。高額報酬の件、経営への行政関与の件などが端緒となって経産省とJIC経営陣との信頼関係が毀損されたものと報じられています。辞任を決意された社外取締役の方々のコメントがこちらに掲載されておりますが、約束を守らなかった経産省へのご批判が強く、なかなか厳しいご意見ばかりです。

私も今年6月まで約4年間、官民ファンド(大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社)の社外役員を務めていましたので、経産省とJICの対立について、守秘義務に反しない範囲で(私の個人的な)感想だけを述べたいと思います。

私も自分が官民ファンドの仕事をしていなければ「役員の基本報酬5,500万円は高いなぁ」と感じたと思います。ただ、ファンドの仕事は「引き受け仕事」ではなく、「モノを作る仕事」なのです。決して「モノ作りのお手伝いをする仕事」ではありません。それは伊藤忠ご出身の阪大ベンチャー初代社長の仕事ぶりをみていて痛感しました(恥ずかしながら、私の認識不足で関係者にご迷惑をかけたこともありました)。投資ファンドの仕事は、過去の経歴やスキルによって「国策を引き受ける」仕事ではなく、過去の経歴やスキルを参考にしながら「自ら仕事を作ることによって有望企業を世に生み出す」仕事だと認識しています。

ハンズオンによって人間関係を調整し、シーズから現実世界における利用可能性を発見し、その汎用性や流通可能なコスト低減の手法を生み出すという、総合力が必要とされる仕事だと思います。運がよければそこから上場を目指すことのできる(つまり投資回収を図ることができる)ビジネスが誕生するわけで、損を承知で試行錯誤を繰り返すことは不可欠です。また、結果にコミットしなければならない人たちが集まっていますので、職員の離合集散は激しく、これを束ねるプレイングマネージャーとしての中間幹部の人たちは激務です。ファンドのガバナンスということが言われますが、実際にはその運用はむずかしい。

経産省とJICは「投資事業という金融機能を活用し、将来の産業競争力を強化し、新事業を創出する」という理念を共有するとことでは一致していたものの、ファンドという仕事が「引き受ける仕事」なのか「作る仕事」なのか、という点において認識に不一致があったのではないでしょうか。アートに近い仕事なので、そもそも代替できる人を探すことは困難ですから高額報酬は当たり前ですし、アートに行政が関与するということであればファンド関係者が拒絶反応を示すことも当然ではないかと思います。また、アートであるがゆえに関係者の「情熱」が失われれば仕事は頓挫すると思います。今回の一件は、官民ファンドの性格を一定の枠に閉じ込めてしまうものであり、ファンドの「モノ作り」としての仕事を否定することにつながりかねないものと危惧します。

私は、経産省の上記理念自体を否定するつもりは全くありません。ただ、それであれば(ファンドによる投資事業にこだわることなく)企業が仮想通貨建てでお金を集めるような、いわゆるICOなどの最新資金調達方法のインフラを整備して、その普及を図るような政策を推進すべきではないかと。もしくは、今後も官民ファンドを産業競争力強化のために活用するのであれば、「国民の納得が得られない」などと言い訳をするのではなく、ファンドの仕事を国民に理解してもらえるように広く説明をすることから始めるべきではないでしょうか。

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2018年12月10日 (月)

日産前会長・金商法違反事件-あらためて考える「法人起訴の重み」

(12月10日午後4時 最終更新)

12月7日の日経朝刊は、東京地検が有価証券報告書の虚偽記載(過少記載)立件にあたり、前会長を再逮捕する方針であること及び法人としての日産も金商法の両罰規定によって起訴する方針であることを報じました(8日の各紙も同様に報じています)。法人起訴の理由については「前会長の報酬隠しが悪質であることに鑑みて」とのことですが、前会長の再逮捕(直近3年度の報酬隠しに関する虚偽記載)も前提に法人を起訴するとなりますと、今後の本事件の展開を予測するにあたって様々な疑問が湧いてまいります。

まず東証の対応です。有価証券報告書の虚偽記載によって法人が起訴される事態となりますと、日産の株式は監理ポスト入りするのではないか・・・との疑問が湧きます。カネボウ、西武鉄道、オリンパス、ライブドアなど、虚偽記載もしくは不公正取引によって法人が起訴された場合には(1999年のヤクルト本社事件を除き)、すべて東証は当該法人の株式銘柄を監理ポストに移しています。

過去の「虚偽記載」を根拠とする法人起訴の案件では、いずれも虚偽記載が重要であると判断されたことから「上場廃止基準に抵触するおそれあり」として監理ポストへ移されたものと推測します。ということからしますと、検察が「重要事項に関する虚偽記載」と判断した以上、日産についても同様に取り扱うことが妥当であるように思えます。そこで、日産が上場廃止基準に抵触するおそれあり、として監理ポスト入りとするのかどうか、もし移さないのであればなぜしないのか、いずれにしても東証には合理的な説明が求められることになると思います。そもそも本件は課徴金処分の権限を持つ金融庁を飛び越えて、一気に刑事処分の起訴権限を持つ検察庁が動いたので、東証に影響を持つ金融庁が(開示規制違反による法人処罰という点について)どのように考えているのか、とても興味を抱くところです。

※更新・・・本日の日経ニュースによりますと、金融庁(証券取引等監視委員会)は日産の前会長ら2名と法人である日産を告訴した模様です。なお、前会長ら2名の再逮捕も伝えらえています。

つぎに監査法人の対応です。日産は12月下旬までに四半期報告書を提出することが予定されています。日産は正しい財務諸表が提出しなければならないわけですから、計上されていない未払い報酬を計上する(もしくは、どこかに紛れ込んでいた別項目の費用を修正する)ことになる可能性は高いと思います。そして、四半期報告書の提出と同時に過去の有価証券報告書に関する訂正報告書を提出することになります。これらの報告書に対して、EY監査法人さんは無限定結論(適正意見)を述べることになるはずです。

しかし、虚偽記載に関するルノーと日産との考え方が異なる場合、フランスのEY監査法人さんは日本のEY監査法人さんの意見をどのように評価するのでしょうか(そもそも日仏のEY監査法人間でなんらかの協議はなされているのでしょうか?)ルノーが日産の会計処理を認めない場合、同じグローバル監査ファームにおいて異なる意見が出されるような事態となるのでしょうか?東芝事件の際、日本のPwC監査法人さんと米国のPwC監査法人さんとの間で、意見の擦り合わせが非常にむずかしく、大きな課題を残しました(そのあたりから、有事における監査法人の情報提供の在り方が議論されるようになったのは、皆様ご承知のとおりです)。

そして最後に法人としての日産の対応です。金商法の両罰責任規定は、法人の代表者の行為が有罪とされた場合、(法人が立件されれば)法人自身も罰金刑を課されることになるのですが、法人に無過失の刑事責任を課すわけではない・・・というのが最高裁判決の立場です。つまり、両罰規定においては「法人の過失が推定されている」ので、法人側が金商法違反の開示を行うにあたり、法人自身に過失がないことを立証できれば責任を免れることができる、というのが理屈です(ただし実際には立証はなかなかむずかしいと思います)。日産は事件発覚後、有価証券報告書を訂正しておらず、またゴーン氏の代表取締役解職を決めた取締役会でも、虚偽記載の点には触れずに、その他の不適切な行為の存在を解職理由としていたようです。したがって、法人としての日産は、起訴を争う姿勢を貫くことも考えられます。

ところで、虚偽記載を法人としての日産が否認するとなりますと、おそらく検察側から日産の内部統制やガバナンスの不備を指摘する多くの事実や証拠が公開裁判で開示されることになりますが、役員のリーガルリスクを考えた場合に、これは望ましいものではありません。しかしながら安易に前会長らの行動について虚偽記載を認めるとなりますと、今度は「認めたこと」自体が「役員が安易に日産の信用を低下させたもの」として、善管注意義務を尽くしたかどうかに問題が残りそうです(このあたりは不当な利益を戻すことを前提とする課徴金処分と、過去の不正の制裁として罰金が科される刑事処分とは「認める」ことの意味は異なります)。8日の東京新聞朝刊では、日産が社内調査報告書の公表に踏み切る方針であることが報じられておりましたが、法人起訴への対応がどのようなものであるにしても、日産が十分な調査資料と十分な議論を踏まえて経営判断に至ったことが、対外的に説明できるような準備が必要になるものと思われます。

 

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2018年12月 9日 (日)

日産VSルノー-世界は日仏どちらの思想に共感するだろうか

休日ということで、少し法律論を離れて、マクロの視点で日産前会長逮捕事件について私的な感想を述べたいと思います。

文藝春秋2019年1月号(新年特別号)「日産ゴーン追放全真相」なる論稿を読みました。元朝日新聞経済記者でフリージャーナリストの方がお書きになったもので、1999年から今年4月ころまで、ゴーン氏の取材を継続されてきた方の論稿です。前半部分はフィリップ・リエス氏(ジャーナリスト)によるゴーン氏への取材を基に書かれた「カルロス・ゴーン 経営を語る」(2005年 日経ビジネス文庫)の記述と重複したところが多いようでしたが、後半部分は(長年ゴーン氏の取材をされてこられた方だけあって)社内経営陣の人間模様が生々しく描かれており、読み応えがありました。

最近は前会長の立件に関する記事とは別に、今後のルノー・日産・三菱のアライアンスの行方を展望する記事も報じられています。ステイクホルダーの皆様にとってはこちらの記事のほうが関心が高いものと思いますが、この文藝春秋の論稿や近時の新聞記事、そして「カルロス・ゴーン 経営を語る」(同上)、「カルロス・ゴーン 私の履歴書」(日経新聞出版社2018年3月)、「カルロス・ゴーンの経営論」(日経新聞出版社 2017年)といった書籍を読みますと、日本とフランスにおいて、本事件への感想が少々異なることに、なんとなく合点がいきます。

本事件は「クーデター」としての意味合いを持つ…という点は日仏ともほぼ共通した認識を持ち、倒産寸前だった日産に対して、1999年のルノーから出資金(7000億円)が払われ、そしてこれを上回る配当収益を日産がルノーにもたらしたことへの事実認識もほぼ同様なのですが、ただゴーン氏を解任することへの感じ方が全く異なる点は興味深い。日本人は「もうルノーには過去の借りを返した」という意識が強く、だからこそ日産リバイバルの功労者であるゴーン氏を告訴したり、解任することは「もはや恩義知らずではない」と思っています。

一方のフランス国民(フランス政府を含む)は、「あれだけ窮地を救ってあげたのに、恩を仇で返すとはなにごとだ!」「そろそろ統合のメリットを享受できると思っていた矢先に、ゴーン排除のクーデターではないか」との趣旨の発言が目立ち、今後もオランダのアライアンス本部の会長をゴーン氏が続けることを熱望しているかのように見えてきます(今は反政府デモの騒ぎでそれどころではない・・・との声も聞かれますが)。

一読した程度ではありますが、上記のような論稿・書籍に目を通し、1999年から2018年までのゴーン氏の日産における「歩み」を知りますと、たしかに日仏両国で視点が異なるのもやむをえないように感じます。日本人はデット(間接金融)の思想に慣れてきましたから、「人からモノを借りたら返すのが仁義。しかし、金利も含めて返してしまったら双方は対等であり、だからこそゴーン氏にもモノを言い、アライアンスも対等の精神で臨むべきである」と考えるのが筋ではないでしょうか。しかし、フランスはエクイティ(直接金融)の思想にも影響を受けているので、「1999年、政府が株主という立場にあるにもかかわらず、歴史上まれにみるリスクを負担して日産に出資をした。日産が大きな収益を上げている以上、リスクに見合うだけの収益を上げる立場にあるのは当然であり、そろそろアライアンスを見直す(つまり、オプションを行使して統合する)ことで、さらに大きな利益を上げるべき時期に来ている」と考えるのが筋ではないかと。

おそらく、今後の企業間もしくは政府間での交渉においても思想の違いが出てくるのではないかと思いますが、海外の関係者の皆様は、いったい日仏どちらの思想に共感を抱くのでしょうか。日本国内ではマスコミ報道に接することも多いので、かなり事実を詳細に把握できるかもしれませんが、外国の関係者の皆様は、それほど細かい事実関係を知ることもなく、「どっちが正しい」「どっちがけしからん」と評価することになるはずです。アライアンスの主導権をどこが握るのか、今後を予想するためには、20年に及ぶルノーと日産との連携の歴史を知ることも大切ではないかと思いました。

ところで(少し話は変わりますが)、「20世紀最高の経営者」と称されるジャック・ウェルチも、経営者の高額報酬はできるだけ開示すべきではない、との格言を残しています。この格言は「ジャック・ウェルチの『私なら、こうする!-ビジネス必勝のアドバイス』」(ジャック・ウェルチ著 日経新聞出版社 2007年)128頁~129頁に掲載されています(1週間ほど、いろいろと調べて、ようやく出典を探し当てました)。以下、若干引用しますと、

財務情報を開示することは、さまざまな危険がついてまわる。いちばん大きな問題は、財務情報は小出しにするのが難しいという点だ。もしコストを「開示」しだせば、売上も利益も開示しないと意味をなさない。あなたは、どのくらい利益を上げているかを社員に知られても気にならないか?当然、彼らはその数字を自分達の手取りの給料の金額と比べ、やがてはあなたがどれだけの分け前をとって、自分たちがいかにわずかな分け前しかもらっていないか、を推測するようになる。

その差をあなたは喜んで、あるいはプライドをもって説明できるかもしれない。もしそうであれば、詳細な財務情報を社員のみんなと共有することにたぶんリスクはないだろう。だが、企業の規模にかかわらず、社員というものは、常に自分の給料レベルを頭においていて、働きぶりや成果から同僚がどのくらい稼いでいるかを計算しているものだ。もし、あなたの開示する情報が、彼らの想定している給料レベルに衝撃を与えそうなものだと考えるなら、この善行はとりあえず見送ったほうがいい。あなたと同じように社員みんなが仕事に関心持つ、もっと危険が少ない方法を考えたほうがいい。

なお、ジャック・ウェルチは、別の箇所でも「経営者の高額退職金は許されるか」というテーマで、他からプロの経営者を招聘した場合には、(会社が「後継者の育成」という大切な仕事で失敗してしまったのだから)高額退職金は当然に許容されるものと述べています。金商法違反に該当するかどうかは法律・会計の専門的な見地からの意見が求められますが、「後払い報酬」や「謙抑的な開示姿勢」という点をとらえて違法性の認識に関する根拠とできるかどうか、という点では(プロ経営者の行為規範、という視点からみると)やや疑問が残るように思います。

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2018年12月 6日 (木)

日産元会長金商法違反事件-商工会議所会頭のご意見について

本日(12月5日)の各紙朝刊の記事から、日産元会長の金商法違反容疑での立件の方針がようやく見えてきたように思いますが、そのあたりはまた別エントリーで書かせていただきます。本日は日産元会長逮捕劇への印象を、日本商工会議所の三村会頭が定例会見で述べておられる内容に(毎日、産経、東京新聞等に記事あり)注目いたしました。三村氏は「経営者に必要な資質は大きく分けて2つあり、ひとつは経営理念、そしてもうひとつが倫理観、両方あってよい経営者であるが、ゴーン氏は倫理観を欠いていたのではないか」と、ゴーン氏に対して批判的なコメントを残されたそうです。とりわけ毎日新聞の記事を読みまして、私は以下のような3つの感想を持ちました。

ひとつめは「経営者のモラルの問題」です。皆様方にご異論をいただくかもしれませんが、今回のゴーン氏の件、もしオランダ子会社を舞台としたゴーン氏の不適切行為疑惑がなかったとしたら、報酬問題(有価証券報告書の虚偽記載罪の容疑事実)は表面化しなかったのではないか、誰も指摘しなかったのではないか、との疑問が湧きます。週刊文春12月6日号の記事によると、社内で極秘に動き出した3名の役員の方々は、元妻の告発(文春の過去記事)やオランダ子会社の投資資金の公私混同流用などを問題視したわけで、これらの私憤が先行していなければ高額報酬問題など全く問題にもされず、事件化されることもなかったのではと思います。たとえ高額報酬の非開示が犯罪を構成するものであったとしても、そもそも日産役員による司法取引に至ることもなかったわけでして、まさに犯罪よりも先に「倫理観の欠如」こそが、今回の事件のキメテになったように思います。

次にふたつめは「日産の企業統治の問題」です。三村氏は(上記定例会見において)「海外に別会社をつくるなど、相当多くの人が関わっていたと見ざるを得ない。表ざたになってこなかったことは組織の問題だ」との意見を述べておられます。経済団体のトップの方が「おそらく日産の多くの人が関わっていた(知っていた)」と公式に述べる意味はとても大きいわけですが、私もまったく同じ意見です。

ここからは私の推測ですが、新聞報道によりますと、2013年~14年頃に、監査法人からオランダ子会社の投資資金の使途に疑義があると日産は指摘されていたわけですが、おそらくその際に、監査法人は監査役会にも同事実を伝えていたと思います(監査法人と監査役会との連携は励行されていたはず。)。そして監査役は取締役の違法行為(法令定款違反行為)を見つけたときにはすみやかに取締役会に報告する義務がありますので(会社法382条)、すくなくともゴーン氏以外の取締役には報告をしていたものと思います。そのあたりから、かなり「会長はおかしなことに会社資金を流用しているのでは」との認識を抱く社員が増えていたものと推測します(なお、週刊文春の次号では金商法違反容疑とは別に、会社法違反についても地検特捜部の捜査が及んでいることが報じられるそうですが、そこに踏み込むことは事件関係者が増えることを意味するもののように思えます)

ただし、後出しジャンケンの議論は禁物です。たとえ「おかしい」と感じた社員がいたとしても、なんといっても「カリスマ経営者」の行動ですから刑事告訴や解任、損害賠償の追及といったドラスティックな行動まで考えることはなかったはずです。「会長の名誉に傷がつくかもしれないので、どうか行動を慎んでください」といった意見を述べることが関の山だったのではないでしょうか。日産のガバナンス不全を主張することはよいのですが、では健全なガバナンスが構築されていたとすれば、取締役会や監査役会はなにができたのか?ガバナンスを問題とするのであれば、そこをまずきちんと提言することが必要だと思います。

そして3つめに「ゴーン氏の功罪」です。三村氏は経営不振に陥っていた日産をV字回復させた点について、「ゴーン氏は本当によくやった。彼には否定できない大きな成果があった」と会見で述べておられます。つまりゴーン氏には経営者としての功罪両面があることを示しました。私もこのたび「カルロス・ゴーンの経営論」や「カルロス・ゴーン 経営を語る」(日経ビジネス文庫)などをあらためて読み返しましたが、経営者としての考え方に(これからも)学ぶべき点が多いと感じております。

ただ、だからこそコーポレートガバナンスの健全な運用が重要だと、これも再認識しました。ゴーン氏のように、経営者には功罪両面があると思います。しかし、ガバナンスによって「罪」のところを封印(カバー)するのがガバナンスの役割ではないでしょうか。行動経済学の研究者ダン・アリエリー氏の著書「ズル-ウソとごまかしの経済学」のなかで、「カギの効用」を語る場面があります。

どんなに立派なカギを家にかけていても、プロの泥棒にかかってはすぐに開けられてしまう。カギの本当の意味は「ふだんは誠実な人を、(なにかの拍子に)その気にさせない」ことにあるのです。

コーポレートガバナンスも「カギの効用」と同じだと思います。すぐれた経営者も、なにかの拍子に不誠実な行動に走ってしまうおそれがある。経営者が本気で悪いことをしようと決意して行動すれば、いくら立派なガバナンスを構築していてもこれを止めることはできません。ただ、経営者が不誠実な行動に走る気にさせないためにこそ、ガバナンスの健全な構築が求められているのではないでしょうか。このたびのゴーン氏の行動が違法と判断されるのであれば、けっして日産のガバナンス不全が直接の原因であったとまでは言いませんが、やはり多くの要因のひとつ程度には相関関係があるのではないかと考えます。

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2018年12月 4日 (火)

ゴーンショックが今後の法制度に及ぼす影響について(個人的意見)

日産の前会長が逮捕されて2週間が経過し、検察の立件に向けての動きとともに、ルノー・日産・三菱の三社連合の「経営の舵取り」に関心が寄せられるようになりました。このような状況において時期尚早ではありますが、今回の逮捕劇が(ひょっとすると)日本の法制度に大きな影響(変化?)を及ぼすのではないか・・・といった将来予想が法律家の間で交わされるようになりましたので、個人的な意見として述べておきたいと思います。

ひとつはなんといっても「報酬ガバナンス」の進展ですね。日曜日(12月1日)の日経一面トップに「役員報酬 きしむ日本流-「ゴーン問題」で注目 水準・透明性に課題」との見出しで報じられている問題です。企業統治改革は5年目となり、改革が「形式から実質へ」と深化していることは事実です。ただ、その中でもっとも「実質へ」と深化していないのがCEOの選解任プロセスの透明化以上に役員報酬改革です。ガバナンス・コードの施行によって「報酬委員会」を設置した企業は増加していますが、ではその報酬委員会が何をやっているのか・・・、コードが要請する趣旨を実現している報酬委員会を運用している上場会社は、おそらくコンプライしている会社の1割にも満たないはずです。

また、会社法改正審議の中でも議論の対象となった「株主総会で取締役報酬の上限枠だけ決めておけば(つまりお手盛り防止の趣旨さえ満たせば)、報酬に関する株主のコントロールは及ぶのか・・・という点についても深化した議論が期待できるのではないでしょうか。最近、有力な学者の方々から「取締役会から代表取締役への個別報酬額決定の再一任は(利益相反行為の防止という観点から)おかしいのではないか」「もし再一任するのであれば、どのような算定基準による一任なのか開示すべきではないか」との意見が出るようになりました。しかし実務はほとんど「再一任→社長に包括的委任」で動いています。今回のゴーンショックによって、まさに「再一任」はガバナンス改革に逆行したものであることが露呈されたのでありまして、会社法改正の流れにも影響が出るのではないかと。

そしてもうひとつの課題が日本の刑事司法制度の在り方です。先週のエントリーで日本版司法取引は「証拠の客観化」「取調べ偏重の捜査防止」に資するものとの個人的意見を書きましたが、それでも現実には「(日本版司法取引は)供述誘導の恐れを顕在化させる」といった(もともと懸念されていた)デメリットを強調する報道が増えています。海外からも日本の「人質司法」への批判が高まる中、近畿弁護士連合会では(11月30日)、弁護士の取調べ立会の早期実現を目指すシンポジウムが開催されました(近弁連は弁護士立会制度の確立を求める決議を採択)。いわば外圧を受けて刑事訴訟における人権保障の風が吹きつつあるのが現状です(正直に申し上げて、この流れを私はまったく想定しておりませんでした)。

一老さんがコメント欄で書いておられるように、今後の立件・公判の流れの中で、会計の世界における「相対的真実」と法律の世界における(フィクションとしての)「絶対的真実」とのブレが(長銀事件・日債銀事件や三洋電機事件のときと同じように)顕在化し、金商法実務に混乱を生じさせる可能性もありそうです。日産前会長・金商法違反事件は、今後の立件に関連する関心とは別に、本件から派生する影響がどこにどれだけ及ぶのか、といったことへの関心も高まってきたように感じます。

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日産前会長・金商法違反事件-たくさんのコメントへの御礼

ここ2週間ほど、日産前会長・金商法違反事件に関するエントリーを書きましたが、これに対して多くの皆様からコメントをいただきました。本来ならばひとつひとつお返事を書きたいのですが失礼をしております。私が存じ上げている方、そうでない方も含め、たいへん参考になるご意見が多いので、よろしければコメント欄もお読みいただければ幸いでございます。コメントがたいへん多いので、各エントリーの下にあります「コメント」のリンク部分をクリックしていただいたほうが読みやすいと思います。

コメントをいただきますと、自分では気づいていない論点が多いことや、「木を見て森を見ていない」自分に恥ずかしくなったりします。また、ときどきですがコメント欄に(事件関係者と思われる方から)「真相はこうです」といったブロガー冥利に尽きるような情報も頂戴いたしますが、当ブログは開示・公表された事実と私自身の意見のみで書くのがエチケットと思ってやってきましたので、そのあたりはどこかで報道されることを願いながら、公表は控えさせていただいております。あしからずご了承ください。

ほんの一例として、本日、MAXさんから以下のようなコメントをいただきましたのでご紹介します(どうもありがとうございました)。

大手金融機関の中には、不祥事等の場合、すでに支払った役員報酬の返却を定めるところも出ているようですね。こういった会社場合、いつ、報酬額が確定したと言えるかという、議論もあるのでしょうか?
某社の有価証券報告書から…
自己都合での退職、財務諸表の重大な修正、グループの規程に対する重大な違反、グループの事業やレピュテーションに対する重大な損害、あるいはグループの業績が大幅に悪化した場合やリスク管理に重大な欠陥が発生した場合には、繰延報酬は減額、没収または支給後の返還を求めることが定められております。

本件は、このような報酬実務にも影響を及ぼすものなのでしょうね。ちなみに、「報酬額が確定しているかどうか」という点は評価を含むものなので、上記のような場合は法律上は「解除条件付きの報酬」ということになり、報酬額は確定している、と評価してもよいと考えますが、いかがでしょうか(「こういった条件をクリアすれば支払う・・・といった停止条件付の報酬のケースでは確定していないと評価される場合が多いと考えます)。

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防衛省にて講演をさせていただきました。

12月3日午後、防衛省市ヶ谷本部ホールにて、防衛省幹部、自衛隊幹部の皆様(約600名)に向けて「事例問題を中心に『実践論で考える公務員倫理』」と題する講演をさせていただきました。開始前には高橋事務次官ともお話ができ、終了後は大臣官房広報課のご厚意にて80分程度(念願だった)市ヶ谷記念館(自衛隊旧1号館)を見学させていただきました。

東京裁判の法廷として使われた1階大講堂、天皇陛下の「玉座」、そして三島由紀夫が自決した2階旧陸軍大臣室も案内いただきました(三島が演説したバルコニーに立つことはできませんでしたが)。壁には、三島が日本刀を振りかざして付けた傷が、いまだに3か所残っていました。昭和45年の朝日新聞の(小学生には凄惨すぎる)写真は、いまだに印象深く記憶に残っていますが、なぜあの場所に朝日新聞の記者がいたのか・・・、そういった理由も防衛省の方からお聞きしました。

防衛省内には「託児所」があり、小さな子供達の声が聞こえてきます。女性隊員がたくさんいらっしゃることを感じました。他にもいくつかの公式行事を拝見しましたが、情報管理に厳格な組織ということで、内容については控えさせていただきます。関係者の皆様にあらためてお礼申し上げます。

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2018年12月 3日 (月)

日産前会長・金商法違反事件-退任後報酬の記載義務等について

今週は武田薬品さんとアルパインさんで注目すべき臨時株主総会が開催されますが、もうすこしだけ日産さんの話題についてコメントさせていただきます。今週末は全国紙のほとんどで「ゴーン容疑者 退任後の報酬記載義務で検察、容疑者対立」なる見出しの記事が掲載されていました。論点についても、有価証券報告書虚偽記載罪の構成要件の解釈と故意(違法性の認識)に絞られてきたようです。

構成要件の解釈にあたっては、平成22年3月31日金融庁公表資料「『企業内容等の開示に関する内閣府令(案)』に対するパブリックコメントに対する金融庁の考え方」が参考とされているものと思います。以下、一部抜粋しますと、

役員がその職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益であって、最近事業年度に係るもの及び最近事情年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとなったものは、最近事業年度前のいずれかの事業年度に係る有価証券報告書で開示された場合を除き、最近事業年度に係る有価証券報告書に開示するべき報酬等に該当します。この点、現行の会計基準や同じ建付けの会社法を踏まえた実務動向等に照らせば、基本的に、最近事業年度に係る役員退職慰労金繰入額及びストックオプションの費用計上額は最近事業年度に係る報酬等に該当することが考えられます。

とあり、この金融庁の考え方からしますと、「報酬等として受ける見込みの額が明らかとなった」かどうかが、解釈に関する対立の論点とされているようです。毎年記載されていなかった10億円程度の報酬額(もしくは以前の報酬相当額)については、本日(12月2日)の日経、朝日の記事によりますとコンサルタント料や競業回避承諾料の名目で覚書が交わされていた、とのこと。このような事情から、金商法上の構成要件は充足していると検察側は認識しているそうです(あくまでも日経の記事を前提とした内容です)。

ただ、昨年来いろいろとコーポレートガバナンス上の話題になっております「相談役・顧問制度」でも明らかになりましたが、企業が社長退任後に相談役や顧問に就任してもらう理由のひとつとして「他社への移籍を一定期間防止するため」というのがありますので、ゴーン氏やケリー氏側の言い訳としては、とくに違和感はありません。また、「社員に高額な報酬であることは開示したくなかった」とゴーン氏が証言しているようですが、これも元GE社長で「20世紀最高の経営者」と称される方も「名言・格言」として「社員が働く気をなくしてもらっては困るので、できるだけ経営者の報酬は開示しないほうがよい」と述べておられるようで(ただしネット上での確認であり、現在出典を確認中です)、その方も退任後の報酬額が後日明るみなって社会的な批判を受けておられるようなので、ゴーン氏の事例に特有の事情でもないようです。したがって、これらの事情から「報酬等として受ける見込みの額が明らか」な状況にあったといえるかどうか・・・。判断がむずかしいところです。

むしろ、ケリー氏が「金融庁に相談したら問題なし、と言われていた」という点が(どのように相談を持ち掛けていたかにもよりますが)真実だとすると、そもそも構成要件該当性が否定されてしまう可能性もありそうですね。東芝事件のときも、東芝の元経営者の方々の立件をめぐり、検察庁VS金融庁のバトルがありましたが、今回もひょっとすると解釈の相違が問題となるかもしれません。

なお、ゴーン氏は、開示義務が発生する以前は20億円をもらっていたのに、開示義務が規定された後は10億円と記載するに至ったことも報じられていますが、この点はいわゆる違法性の認識の有無(故意)に関する論点として整理すべきです。この点は先週も詳細に書きましたが、顧問料にせよ、条件付きの後払い報酬にせよ、あるいは報酬限度額を超えた報酬にせよ、会社法上は(具体的な報酬請求権が確定するためには)取締役会の承認(ゴーン氏は特別利害関係人として議決権なし)や株主総会の承認など、社内における手続が必要なので、このあたりをどう評価するのかが立件にあたっての大きな課題かと思います。ゴーン氏は事実上のカリスマ経営者であり、実質的には「ひとりで決めることができる」と言えばそれまでですが、それでクリアできるのは構成要件該当性の問題だと思います。ゴーン氏自身が「自分で報酬はいくらでも決められる。会社法上の制約など、なんら関係ない」と証言しないかぎり、違法性の認識までクリアできるかどうかは微妙なところではないかと。ちなみに東京新聞ニュースによりますと、「覚書」には他の役員の署名もあったと報じられていますので、「ひとりで決めることができた」とは言えないような・・・・。

「私はケリー取締役にすべて任せていた(だから違法性の認識はない)」とのゴーン氏の反論はまったく通らないと思います。経営者自身の報酬に関する合意内容なので、ケリー氏任せていたとしても、なぜ違法ではないのか、きちんと合理的な説明を受けていないかぎりは違法性の認識が否定されることはないと思います。

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