会計監査人への内部通報(内部告発)と件外調査の重要性
日曜日(12月16日)夜の産経新聞ニュースなどを読んでおりますと、またまた日産前会長金商法事件に関連したエントリーを書きたくなるのですが、本日はひさしぶりに内部通報・内部告発関連の話題を備忘録として記しておきます(日経ビジネス12月17日号の恒例「謝罪の流儀」特集もなかなかおもしろいので、こちらも追って別エントリーでご紹介したいと思います)。
ホシザキさんの14日付けリリースなどを読みますと、グループ会社における不適切会計に関連した社内調査報告書が提出された後、親会社社員が会計監査人による四半期レビュー手続きを妨害した疑いがあるとして、更なる調査を行うことを決めたそうです。この妨害行為は会計監査人への社員による内部通報によって発覚したそうで、証拠書類を添付したうえで通報がなされた、とのこと。ホシザキさんは再度の四半期報告延期となり監理ポスト入りが見込まれます。
また、12月8日の日経朝刊では、RIZAPさんの不適切な循環取引疑惑に関する記事が掲載されておりまして、会計監査人(太陽監査法人さん)がRIZAPグループ上場会社に対して「債権取り立て益」を特別利益として計上することを中止させたそうです。こちらの記事では会計監査人に内部通報があったとは明確には記載されておりませんが、日経記者さんへの情報提供がRIZAP「関係者」からのものであること、この関係者の方は「こんな取引が複数あった」と証言していることから、(M&A路線の中止はRIZAPさんの「負ののれんの減損」に関する「松本ショック」によるものと言われていますが)こちらも会計監査人への内部通報の可能性が高いものと推測いたします。
四半期開示制度が存続する以上、私は会社と会計監査人の協働作業によって不正を見抜くことは不可能とまでは申しませんが至難の業だと思います。なぜなら、四半期開示に向けたルーチンワークで経理部や監査部、そして会計監査人は手一杯というのが上場企業の現状であり、すこしおかしな点に会計監査人(現場の監査担当者)が気づいたとしても、四半期レビューの手続きをこなすことが優先されてしまうからです。要は経理部と会計監査人との間で監査の深堀りを行う余裕はほとんどありません。したがって、社員による会計監査人への情報提供こそ、会計監査人が不正の端緒を知るためには重要となります。そのような中で、不正リスク対応基準の策定や国際倫理規則の改訂、CGコード、監査法人版ガバナンスコードの策定などにより、内部通報が監査人に届いた場合の対応はますます厳格になっているのが現状ではないでしょうか。私は上記のような事例は今後も増加することになると予想しています。
とりわけホシザキさんの例をみますと、社内調査は決して手を抜いたわけではないと思いますが、社内調査のスコープが狭い場合には、後日他の部門からも同様の不正が発覚することがあり、これが内部通報によって明るみになることも多いと思います(ホシザキの社員の方は、そのあたりを焦ってしまったのかもしれません・・・)。今年の企業不祥事の特徴として「件外調査の不十分性」が挙げられます(皆様がご存じの事例だけでも三菱マテリアル、日立化成、日産燃費偽装、スバル等)。このような後日再調査ということになりますと企業の信用が大きく毀損されることになります。したがいまして、内部通報制度の充実を図ることも大切ですが、(これだけ会計監査人の不正対応が厳格になっている以上)まず企業不祥事が発生した場合には、発覚した不正と同様の不正は他の部門でも発生していなかったのか、海外子会社も含めて十分な件外調査を(できるだけ公正中立な調査委員のもとで)行うことが肝要です。
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コメント
すみません、どうしても産経ニュースのほうに興味があります笑
「(有価証券報告書で決められた)他の代表取締役との協議を経ていないので報酬額の決定は無効だ」とも主張し強気の姿勢..
なるほどそうですよね。会社が決めた報酬決定手順を踏んでいない以上、役員報酬としては何ら決定されていない。
これでも確定しているというなら、検察自信が会社のガバナンスを否定するということです。
投稿: JFK | 2018年12月17日 (月) 11時16分
>四半期開示制度が存続する以上、私は会社と会計監査人の協働作業によって不正を見抜くことは不可能とまでは申しませんが至難の業だと思います。
おっしゃる通りですね。加えて、大手四大が完全にグローバルファームの参加に入ってしまい、通常の外資系企業やローファームと同じような、エンゲージメント毎の徹底した収益管理(しかも非現実的に高い粗利目標)、稼働率による管理の徹底、しかし一方でエンゲージメントの難易度や稼働率の違いを余り反映しない職能給的な人事評価制度の徹底(昔は適当でした)が致命的に深掘りを不可能にしているという事も指摘しておきます。
この為、日本の制度をどう弄っても、深掘りできるように変えるのは難しいでしょうね。
>米3大自動車メーカーCEO(最高経営責任者)の報酬平均値などを基に独自の基準で自身の報酬額を算定し、報酬契約条項に「総額」「支払額」「延期額」の3項目を記載
私も産経に目がいって申し訳ありませんが、会計的にはこれは将来ではなく、その期の役務提供に対する対価として費用計上必須で、真っ黒黒けですね。「延期額」を無視した有報の報酬の決定方法の記載も誤りがあると言わざるを得ません。
投稿: X | 2018年12月18日 (火) 01時09分
秘書室長とゴーンの合意文書なるものの存在が報道されてきましたが、検察はその文面も小出しにしてきましたね。
fixed remuneration(確定報酬)なる言葉と数字があったとのこと。署名者は秘書室長とゴーンのようです。
これも「確定」の言葉あそびの域を出ないとは思いますが、ゴーンとしては、秘書室長と何かを合意したからといって確定したことにならない、そもそも私にあるのは配分権であり株主総会で承認された総額を超えて報酬を配分することなどできない、といった反論をしていくのでしょうね。
裁判所としては、株主総会の報酬上限までに限って虚偽記載を認めるような気がしてきました。そのうえで重要性を認めるか否かですが、個別報酬開示制度が導入されたのは重要性の裏返し、とでも言って肯定するのでしょうね。
投稿: JFK | 2018年12月18日 (火) 08時09分
報酬用語としてのfixedというと、performance basedの対義語としての固定報酬部分を指すこともある(というかその方が多い)ので、ドキュメント全体を見ないとなんとも言えないと思います。専門用語としてのfixed remunerationの意味が複数ありえる可能性を考慮して欧米系の報酬の専門家に取材した上で記事が書かれているのであれば別ですが、そんな雰囲気はないですし。
このブログの話題とは関係のない話ですみません…
投稿: ty | 2018年12月20日 (木) 20時53分
tyさん、そこ、私も大事なポイントだと思っておりました。ただ、英文に弱い(?)私としてはエントリーに書けるだけの自信がありません(笑)。でも本当に重要なのでは?
投稿: toshi | 2018年12月20日 (木) 21時23分