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2018年12月 9日 (日)

日産VSルノー-世界は日仏どちらの思想に共感するだろうか

休日ということで、少し法律論を離れて、マクロの視点で日産前会長逮捕事件について私的な感想を述べたいと思います。

文藝春秋2019年1月号(新年特別号)「日産ゴーン追放全真相」なる論稿を読みました。元朝日新聞経済記者でフリージャーナリストの方がお書きになったもので、1999年から今年4月ころまで、ゴーン氏の取材を継続されてきた方の論稿です。前半部分はフィリップ・リエス氏(ジャーナリスト)によるゴーン氏への取材を基に書かれた「カルロス・ゴーン 経営を語る」(2005年 日経ビジネス文庫)の記述と重複したところが多いようでしたが、後半部分は(長年ゴーン氏の取材をされてこられた方だけあって)社内経営陣の人間模様が生々しく描かれており、読み応えがありました。

最近は前会長の立件に関する記事とは別に、今後のルノー・日産・三菱のアライアンスの行方を展望する記事も報じられています。ステイクホルダーの皆様にとってはこちらの記事のほうが関心が高いものと思いますが、この文藝春秋の論稿や近時の新聞記事、そして「カルロス・ゴーン 経営を語る」(同上)、「カルロス・ゴーン 私の履歴書」(日経新聞出版社2018年3月)、「カルロス・ゴーンの経営論」(日経新聞出版社 2017年)といった書籍を読みますと、日本とフランスにおいて、本事件への感想が少々異なることに、なんとなく合点がいきます。

本事件は「クーデター」としての意味合いを持つ…という点は日仏ともほぼ共通した認識を持ち、倒産寸前だった日産に対して、1999年のルノーから出資金(7000億円)が払われ、そしてこれを上回る配当収益を日産がルノーにもたらしたことへの事実認識もほぼ同様なのですが、ただゴーン氏を解任することへの感じ方が全く異なる点は興味深い。日本人は「もうルノーには過去の借りを返した」という意識が強く、だからこそ日産リバイバルの功労者であるゴーン氏を告訴したり、解任することは「もはや恩義知らずではない」と思っています。

一方のフランス国民(フランス政府を含む)は、「あれだけ窮地を救ってあげたのに、恩を仇で返すとはなにごとだ!」「そろそろ統合のメリットを享受できると思っていた矢先に、ゴーン排除のクーデターではないか」との趣旨の発言が目立ち、今後もオランダのアライアンス本部の会長をゴーン氏が続けることを熱望しているかのように見えてきます(今は反政府デモの騒ぎでそれどころではない・・・との声も聞かれますが)。

一読した程度ではありますが、上記のような論稿・書籍に目を通し、1999年から2018年までのゴーン氏の日産における「歩み」を知りますと、たしかに日仏両国で視点が異なるのもやむをえないように感じます。日本人はデット(間接金融)の思想に慣れてきましたから、「人からモノを借りたら返すのが仁義。しかし、金利も含めて返してしまったら双方は対等であり、だからこそゴーン氏にもモノを言い、アライアンスも対等の精神で臨むべきである」と考えるのが筋ではないでしょうか。しかし、フランスはエクイティ(直接金融)の思想にも影響を受けているので、「1999年、政府が株主という立場にあるにもかかわらず、歴史上まれにみるリスクを負担して日産に出資をした。日産が大きな収益を上げている以上、リスクに見合うだけの収益を上げる立場にあるのは当然であり、そろそろアライアンスを見直す(つまり、オプションを行使して統合する)ことで、さらに大きな利益を上げるべき時期に来ている」と考えるのが筋ではないかと。

おそらく、今後の企業間もしくは政府間での交渉においても思想の違いが出てくるのではないかと思いますが、海外の関係者の皆様は、いったい日仏どちらの思想に共感を抱くのでしょうか。日本国内ではマスコミ報道に接することも多いので、かなり事実を詳細に把握できるかもしれませんが、外国の関係者の皆様は、それほど細かい事実関係を知ることもなく、「どっちが正しい」「どっちがけしからん」と評価することになるはずです。アライアンスの主導権をどこが握るのか、今後を予想するためには、20年に及ぶルノーと日産との連携の歴史を知ることも大切ではないかと思いました。

ところで(少し話は変わりますが)、「20世紀最高の経営者」と称されるジャック・ウェルチも、経営者の高額報酬はできるだけ開示すべきではない、との格言を残しています。この格言は「ジャック・ウェルチの『私なら、こうする!-ビジネス必勝のアドバイス』」(ジャック・ウェルチ著 日経新聞出版社 2007年)128頁~129頁に掲載されています(1週間ほど、いろいろと調べて、ようやく出典を探し当てました)。以下、若干引用しますと、

財務情報を開示することは、さまざまな危険がついてまわる。いちばん大きな問題は、財務情報は小出しにするのが難しいという点だ。もしコストを「開示」しだせば、売上も利益も開示しないと意味をなさない。あなたは、どのくらい利益を上げているかを社員に知られても気にならないか?当然、彼らはその数字を自分達の手取りの給料の金額と比べ、やがてはあなたがどれだけの分け前をとって、自分たちがいかにわずかな分け前しかもらっていないか、を推測するようになる。

その差をあなたは喜んで、あるいはプライドをもって説明できるかもしれない。もしそうであれば、詳細な財務情報を社員のみんなと共有することにたぶんリスクはないだろう。だが、企業の規模にかかわらず、社員というものは、常に自分の給料レベルを頭においていて、働きぶりや成果から同僚がどのくらい稼いでいるかを計算しているものだ。もし、あなたの開示する情報が、彼らの想定している給料レベルに衝撃を与えそうなものだと考えるなら、この善行はとりあえず見送ったほうがいい。あなたと同じように社員みんなが仕事に関心持つ、もっと危険が少ない方法を考えたほうがいい。

なお、ジャック・ウェルチは、別の箇所でも「経営者の高額退職金は許されるか」というテーマで、他からプロの経営者を招聘した場合には、(会社が「後継者の育成」という大切な仕事で失敗してしまったのだから)高額退職金は当然に許容されるものと述べています。金商法違反に該当するかどうかは法律・会計の専門的な見地からの意見が求められますが、「後払い報酬」や「謙抑的な開示姿勢」という点をとらえて違法性の認識に関する根拠とできるかどうか、という点では(プロ経営者の行為規範、という視点からみると)やや疑問が残るように思います。

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コメント

山口先生の別エントリー「防衛省にて講演をさせていただきました。(12/4)」
へのコメントの続き・・・という面も含め…恐縮です。

あらためて興味深い…近日緊急出版(?)「日産自動車極秘ファイル2,300枚―「絶対的権力者」と戦ったある課長の死闘7年間(プレジデント社)」と前述別著「日産 その栄光と屈辱(文藝春秋)」との内容比較をと、思考する日々です。

12月18日(火曜日)深夜現在「ゴーン前会長逮捕関連の収束」には、まだまだ先行き不透明。
そもそも…ゴーン氏が、伝統ある(あった?)日産自動車という会社に「助っ人外人」としてフランスの企業から派遣された、その主たる背景は何だったのか…過去の経緯/原因は正しく検証されて、後世に継承されているのでしょうか…別のコメントにも前述させて頂いた、元日経新聞キャップ氏の著書「日産 その栄光と屈辱(文藝春秋)」を読めば読むほど、(旧ソ連の秘密警察に倣った)「石原ゲーペーウー」と社内で恐れられた謀略部隊が存在した事、結果的に連結ベースで4兆円超の有利子負債/会社更生法:申請カウントダウンに至った「負の社史」…にあらためて関心を持ちました。
はたして、それらが引き金となり、今年のゴーン元会長逮捕事件への流れに至る…のでしょうか。
ただ上記/文藝春秋社発行の著書とは真逆の1冊(?)と思ってしまう、近日発売予定の「日産自動車極秘ファイル2,300枚―「絶対的権力者」と戦ったある課長の死闘7年間 (プレジデント社)」…ではどのように記述されているのか…。 昨今のゴーン元会長逮捕に至った諸事、ひょっとしたら今も続く社内展開(?)とが重ね映るほど「日産 その栄光と屈辱」の記述/当時の模様が生々しく描写されていると感じ、憶測が膨らみます。 当時の石原社長〜会長の頃は、社長室、広報、労務、人事部署が「謀略部隊」と化し、写真週刊誌と共謀して労組トップを追放…。 これに一部の新聞・雑誌だけでなく、学者や作家までが与して…(P182)との記述が存在するからです。
ただ、それらがどこまで真実で、当時どんな結末だったのか…詳しく知ろうと思えば、例えば当時の新聞を国立国会図書館等で縮刷版を辿るのも一考かと思ったりしています。
また同書の中で、日産/中興の祖と言われた川又克二会長/相談役(当時)に「盗撮の手引きをした張本人…」との指摘記述(P252)も印象深く、その皮肉られた行動の張本人が「日産自動車極秘ファイル2,300枚―・・・」の著者とのこと。発売後の動向に注目…です。

(昭和生まれ:中高年世代の一人ですが…)
平成30年の現在まで、私達の生まれ育った日本の発展の基礎は、先人の努力と良識的な功績の賜物…とされてきましたが、多くの日本人の生計の源となってきた/基幹産業としての誇りの一つ:日本の自動車産業における、過去の側面/真実は…?
かつて「シーマ現象」という流行語が派生した程の勢いが有りながら、自滅的凋落〜外国資本に救済され激変した会社の過去の側面/真実は…?
当時の世論とメディア、そして「法務」はどの様な役割/社会的責任を担ったのでしょうか・・・。
2018年の今、財務諸表等の上では一定の回復したと思われた、外国資本企業:NISSANの出来事に、ESG視点含め、世論の真価があらためて問われる事になるのでしょうか。
そんな折での発売間近「日産自動車極秘ファイル2,300枚―・・・」という本/内容に対しても、色々な事を考えてしまう日々…です。
(緊急出版らしいのですが、NISSAN社の筆頭株主:ルノー社/フランス政府の母国語や英語等に翻訳される…かどうかは未知数?)
真偽の程はさておき、内輪もめ/再燃のNISSAN社。現時点でゴーン氏の後継者は未定の様ですが、仮に日本人から選出されたとしても、HBR誌の「世界のCEOベスト100」の上位に名を連ねるのは当分先…でしょうか。
今回一連の疑惑が「企業不祥事事典 Ⅱ ケーススタディ2007-2017」の次回発行=「同/Ⅲ 2018-」の様な記録保存的書物の世界でどの様に掲載されるのか?と、想像を膨らましつつ、前月コメントの繰り返し的になりますが、「次世代への良質な糧」になる収束を…と想い願っています…。

長文が連なり、恐縮です/ご容赦下さい。

投稿: にこらうす | 2018年12月19日 (水) 00時45分

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