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2018年12月 6日 (木)

日産元会長金商法違反事件-商工会議所会頭のご意見について

本日(12月5日)の各紙朝刊の記事から、日産元会長の金商法違反容疑での立件の方針がようやく見えてきたように思いますが、そのあたりはまた別エントリーで書かせていただきます。本日は日産元会長逮捕劇への印象を、日本商工会議所の三村会頭が定例会見で述べておられる内容に(毎日、産経、東京新聞等に記事あり)注目いたしました。三村氏は「経営者に必要な資質は大きく分けて2つあり、ひとつは経営理念、そしてもうひとつが倫理観、両方あってよい経営者であるが、ゴーン氏は倫理観を欠いていたのではないか」と、ゴーン氏に対して批判的なコメントを残されたそうです。とりわけ毎日新聞の記事を読みまして、私は以下のような3つの感想を持ちました。

ひとつめは「経営者のモラルの問題」です。皆様方にご異論をいただくかもしれませんが、今回のゴーン氏の件、もしオランダ子会社を舞台としたゴーン氏の不適切行為疑惑がなかったとしたら、報酬問題(有価証券報告書の虚偽記載罪の容疑事実)は表面化しなかったのではないか、誰も指摘しなかったのではないか、との疑問が湧きます。週刊文春12月6日号の記事によると、社内で極秘に動き出した3名の役員の方々は、元妻の告発(文春の過去記事)やオランダ子会社の投資資金の公私混同流用などを問題視したわけで、これらの私憤が先行していなければ高額報酬問題など全く問題にもされず、事件化されることもなかったのではと思います。たとえ高額報酬の非開示が犯罪を構成するものであったとしても、そもそも日産役員による司法取引に至ることもなかったわけでして、まさに犯罪よりも先に「倫理観の欠如」こそが、今回の事件のキメテになったように思います。

次にふたつめは「日産の企業統治の問題」です。三村氏は(上記定例会見において)「海外に別会社をつくるなど、相当多くの人が関わっていたと見ざるを得ない。表ざたになってこなかったことは組織の問題だ」との意見を述べておられます。経済団体のトップの方が「おそらく日産の多くの人が関わっていた(知っていた)」と公式に述べる意味はとても大きいわけですが、私もまったく同じ意見です。

ここからは私の推測ですが、新聞報道によりますと、2013年~14年頃に、監査法人からオランダ子会社の投資資金の使途に疑義があると日産は指摘されていたわけですが、おそらくその際に、監査法人は監査役会にも同事実を伝えていたと思います(監査法人と監査役会との連携は励行されていたはず。)。そして監査役は取締役の違法行為(法令定款違反行為)を見つけたときにはすみやかに取締役会に報告する義務がありますので(会社法382条)、すくなくともゴーン氏以外の取締役には報告をしていたものと思います。そのあたりから、かなり「会長はおかしなことに会社資金を流用しているのでは」との認識を抱く社員が増えていたものと推測します(なお、週刊文春の次号では金商法違反容疑とは別に、会社法違反についても地検特捜部の捜査が及んでいることが報じられるそうですが、そこに踏み込むことは事件関係者が増えることを意味するもののように思えます)

ただし、後出しジャンケンの議論は禁物です。たとえ「おかしい」と感じた社員がいたとしても、なんといっても「カリスマ経営者」の行動ですから刑事告訴や解任、損害賠償の追及といったドラスティックな行動まで考えることはなかったはずです。「会長の名誉に傷がつくかもしれないので、どうか行動を慎んでください」といった意見を述べることが関の山だったのではないでしょうか。日産のガバナンス不全を主張することはよいのですが、では健全なガバナンスが構築されていたとすれば、取締役会や監査役会はなにができたのか?ガバナンスを問題とするのであれば、そこをまずきちんと提言することが必要だと思います。

そして3つめに「ゴーン氏の功罪」です。三村氏は経営不振に陥っていた日産をV字回復させた点について、「ゴーン氏は本当によくやった。彼には否定できない大きな成果があった」と会見で述べておられます。つまりゴーン氏には経営者としての功罪両面があることを示しました。私もこのたび「カルロス・ゴーンの経営論」や「カルロス・ゴーン 経営を語る」(日経ビジネス文庫)などをあらためて読み返しましたが、経営者としての考え方に(これからも)学ぶべき点が多いと感じております。

ただ、だからこそコーポレートガバナンスの健全な運用が重要だと、これも再認識しました。ゴーン氏のように、経営者には功罪両面があると思います。しかし、ガバナンスによって「罪」のところを封印(カバー)するのがガバナンスの役割ではないでしょうか。行動経済学の研究者ダン・アリエリー氏の著書「ズル-ウソとごまかしの経済学」のなかで、「カギの効用」を語る場面があります。

どんなに立派なカギを家にかけていても、プロの泥棒にかかってはすぐに開けられてしまう。カギの本当の意味は「ふだんは誠実な人を、(なにかの拍子に)その気にさせない」ことにあるのです。

コーポレートガバナンスも「カギの効用」と同じだと思います。すぐれた経営者も、なにかの拍子に不誠実な行動に走ってしまうおそれがある。経営者が本気で悪いことをしようと決意して行動すれば、いくら立派なガバナンスを構築していてもこれを止めることはできません。ただ、経営者が不誠実な行動に走る気にさせないためにこそ、ガバナンスの健全な構築が求められているのではないでしょうか。このたびのゴーン氏の行動が違法と判断されるのであれば、けっして日産のガバナンス不全が直接の原因であったとまでは言いませんが、やはり多くの要因のひとつ程度には相関関係があるのではないかと考えます。

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コメント

 先週来報道されているゴーン事件、って。弁護士の先生にとって、よほど血湧き、肉躍る出来事なんですねえ。

投稿: コンプライ堂 | 2018年12月 6日 (木) 18時38分

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