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2018年12月 3日 (月)

日産前会長・金商法違反事件-退任後報酬の記載義務等について

今週は武田薬品さんとアルパインさんで注目すべき臨時株主総会が開催されますが、もうすこしだけ日産さんの話題についてコメントさせていただきます。今週末は全国紙のほとんどで「ゴーン容疑者 退任後の報酬記載義務で検察、容疑者対立」なる見出しの記事が掲載されていました。論点についても、有価証券報告書虚偽記載罪の構成要件の解釈と故意(違法性の認識)に絞られてきたようです。

構成要件の解釈にあたっては、平成22年3月31日金融庁公表資料「『企業内容等の開示に関する内閣府令(案)』に対するパブリックコメントに対する金融庁の考え方」が参考とされているものと思います。以下、一部抜粋しますと、

役員がその職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益であって、最近事業年度に係るもの及び最近事情年度において受け、又は受ける見込みの額が明らかとなったものは、最近事業年度前のいずれかの事業年度に係る有価証券報告書で開示された場合を除き、最近事業年度に係る有価証券報告書に開示するべき報酬等に該当します。この点、現行の会計基準や同じ建付けの会社法を踏まえた実務動向等に照らせば、基本的に、最近事業年度に係る役員退職慰労金繰入額及びストックオプションの費用計上額は最近事業年度に係る報酬等に該当することが考えられます。

とあり、この金融庁の考え方からしますと、「報酬等として受ける見込みの額が明らかとなった」かどうかが、解釈に関する対立の論点とされているようです。毎年記載されていなかった10億円程度の報酬額(もしくは以前の報酬相当額)については、本日(12月2日)の日経、朝日の記事によりますとコンサルタント料や競業回避承諾料の名目で覚書が交わされていた、とのこと。このような事情から、金商法上の構成要件は充足していると検察側は認識しているそうです(あくまでも日経の記事を前提とした内容です)。

ただ、昨年来いろいろとコーポレートガバナンス上の話題になっております「相談役・顧問制度」でも明らかになりましたが、企業が社長退任後に相談役や顧問に就任してもらう理由のひとつとして「他社への移籍を一定期間防止するため」というのがありますので、ゴーン氏やケリー氏側の言い訳としては、とくに違和感はありません。また、「社員に高額な報酬であることは開示したくなかった」とゴーン氏が証言しているようですが、これも元GE社長で「20世紀最高の経営者」と称される方も「名言・格言」として「社員が働く気をなくしてもらっては困るので、できるだけ経営者の報酬は開示しないほうがよい」と述べておられるようで(ただしネット上での確認であり、現在出典を確認中です)、その方も退任後の報酬額が後日明るみなって社会的な批判を受けておられるようなので、ゴーン氏の事例に特有の事情でもないようです。したがって、これらの事情から「報酬等として受ける見込みの額が明らか」な状況にあったといえるかどうか・・・。判断がむずかしいところです。

むしろ、ケリー氏が「金融庁に相談したら問題なし、と言われていた」という点が(どのように相談を持ち掛けていたかにもよりますが)真実だとすると、そもそも構成要件該当性が否定されてしまう可能性もありそうですね。東芝事件のときも、東芝の元経営者の方々の立件をめぐり、検察庁VS金融庁のバトルがありましたが、今回もひょっとすると解釈の相違が問題となるかもしれません。

なお、ゴーン氏は、開示義務が発生する以前は20億円をもらっていたのに、開示義務が規定された後は10億円と記載するに至ったことも報じられていますが、この点はいわゆる違法性の認識の有無(故意)に関する論点として整理すべきです。この点は先週も詳細に書きましたが、顧問料にせよ、条件付きの後払い報酬にせよ、あるいは報酬限度額を超えた報酬にせよ、会社法上は(具体的な報酬請求権が確定するためには)取締役会の承認(ゴーン氏は特別利害関係人として議決権なし)や株主総会の承認など、社内における手続が必要なので、このあたりをどう評価するのかが立件にあたっての大きな課題かと思います。ゴーン氏は事実上のカリスマ経営者であり、実質的には「ひとりで決めることができる」と言えばそれまでですが、それでクリアできるのは構成要件該当性の問題だと思います。ゴーン氏自身が「自分で報酬はいくらでも決められる。会社法上の制約など、なんら関係ない」と証言しないかぎり、違法性の認識までクリアできるかどうかは微妙なところではないかと。ちなみに東京新聞ニュースによりますと、「覚書」には他の役員の署名もあったと報じられていますので、「ひとりで決めることができた」とは言えないような・・・・。

「私はケリー取締役にすべて任せていた(だから違法性の認識はない)」とのゴーン氏の反論はまったく通らないと思います。経営者自身の報酬に関する合意内容なので、ケリー氏任せていたとしても、なぜ違法ではないのか、きちんと合理的な説明を受けていないかぎりは違法性の認識が否定されることはないと思います。

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コメント

有価証券報告書虚偽記載について、「違法性の認識」という言葉が簡単に使われ過ぎではないでしょうか?
ゴーン氏は「虚偽記載をしていない」、つまり、将来の未確定報酬分は「記載義務がない」と主張しているのだと思います。故意ではない、という防衛ラインはかなり予備的なものと推察します。

ところで、検察が問題視している未記載報酬がどの部分でどの金額なのか、よくわからなくなってきました。
さすがに現金で支払い済みのものは無いでしょうから、候補としては下記4分類。
投資資金流用分
私費流用分
将来の未確定報酬分
SAR
このうちSARが将来の未確定報酬分に入れられているのかは定かでありませんが、重要なことです。
SARは会計処理がされており、監査法人も個別開示義務以外の計上部分は監査済みだからです。
この点、日経ビジネス最新号によると、PLの販管費にはゴーン氏の分を含むSARが計上されていたとのこと。個別開示部分と連動していないのは何故か?という疑問が生じますが、これは日産が取り扱いを別にしたことによるそうです。つまり、PLには権利行使時、個別開示部分には付与時の数字を書いたからです。日産は、行使時には社外の人間になっている可能性を考慮し、個人情報保護の観点から二重基準を採用したと説明し、監査法人はそれ以上追求しなかったそうです。監査法人の複数の関係者からの話として紹介されており興味深いです。
これを読んだうえで、最近の報道内容を考え合わせると、SARの線は消えており、将来の未確定報酬分が検察の狙いだろうと思います。
姑息な手段ではありますが、将来の労務の対価としておけば、反対給付の履行が未確定である以上、報酬は単なる期待権にすぎないとみるべきでしょう。これを、形式にすぎず実質は確定報酬だと言って有罪するのは大層たいへんなことです。

投稿: JFK | 2018年12月 3日 (月) 13時25分

「社員が働く気をなくしてもらっては困るので、できるだけ経営者の報酬は開示しないほうがよい」「社員に高額な報酬であることは開示したくなかった」という言い訳は、報酬上限上げのための株主総会をケチり、必要な投資をせずに検査不正に追いやるガバナンス・法令軽視の要因になる考え方でしかない気もします。
GEも2009年には不正会計問題でSECに罰金支払うようなことになっていますし。

そもそも、必要な設備投資などもせずに従業員に納得されず、株主総会に報酬上限上げ議案出して過半数確保の自身がないようなレベルの高額報酬をもらうなという話です。

一時期赤字企業役員への退職慰労金支給に批判が出ていた時期もあって、退職慰労金打ち切り支給が流行った時期もありますが、かえって役員報酬の後払い支給がブラックボックス化している印象が今回の件で持たざるを得ないです。

ガバナンスや株主の役員選任議案への情報提供を考えれば、顧問料などの名目で貰っている分も含めた事実上の役員報酬や非連結子会社・関係会社を含めたグループ全体の役員報酬や役員報酬に関する契約の開示や退職慰労金の根拠になる内規資料の名称開示を義務付けた方が良いのかも知れません。

プジョー大株主の中国国有企業との合弁である日産子会社・東風汽車有限公司取締役の取締役を兼任するのが西川社長だったり、今年6月の株主総会で退任した中村・松元両取締役が東風汽車有限公司の役員経験者だったり、

5月に辞めた前CFOの出身であるGMが同じく中国国営企業でフォルクスワーゲンとも組んでる上海汽車と合弁会社作っていることも考えると中国による日産合弁会社奪取および国営企業への吸収という落ちも今後起こる可能性はあるかも知れません。

投稿: unknown4 | 2018年12月 3日 (月) 20時13分

大手金融機関の中には、不祥事等の場合、すでに支払った役員報酬の返却を定めるところも出ているようですね。こういった会社場合、いつ、報酬額が確定したと言えるかという、議論もあるのでしょうか?

某社の有価証券報告書から…

自己都合での退職、財務諸表の重大な修正、グループの規程に対する重大な違反、グループの事業やレピュテーションに対する重大な損害、あるいはグループの業績が大幅に悪化した場合やリスク管理に重大な欠陥が発生した場合には、繰延報酬は減額、没収または支給後の返還を求めることが定められており
ます。

投稿: MAX | 2018年12月 3日 (月) 22時01分

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