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2018年12月12日 (水)

日産前会長金商法違反事件-会計実務家の常識的判断を尊重せよ

12月11日、日産の前会長さんの起訴・再逮捕が大きく報じられていますが、新事実を報じる記事よりも、今後の法廷闘争に向けた争点整理に関する記事が目立ちました。とりわけ興味深い記事として、12月11日付け東京新聞朝刊「退任後報酬示す3文書」は、検察が金商法違反で前会長さんを立件するにあたり重要なカギを握るであろう3つの文書の詳細を紹介していました。この3文書に、司法取引を行った2名の役職員の証言がプラスされれば、検察側の立証方法としてもかなり有力なものが集まったように思えます。

ただ、私は依然として金商法違反容疑で前会長らを有罪に持ち込むには(まだまだ)壁があるのではないか・・・と考えています。多くの報道において「前会長が退任後に受領する予定の報酬は『確定報酬』と言えるかどうか」といった問題提起がなされていますが、以前のブログエントリーでも述べたように、金融庁の定めたルールの解釈が問題となるはずでして、

現行の会計基準や同じ建付けの会社法を踏まえた実務動向等に照らせば、基本的に、最近事業年度に係る役員退職慰労金繰入額及びストックオプションの費用計上額は最近事業年度に係る報酬等に該当することが考えられます。

なる金融庁の考え方に沿って「受ける見込みの額が明らかとなったもの」に、退任後報酬(そもそもこれが「報酬」といえるかどうかも問題です)が含まれるかどうかを考える必要があります。

役員退職慰労金のように引当金を負債として積み、また慰労金繰入額のように一部費用化しているからこそ「明らかとなったもの」に該当するわけで、そのあたりは法律家ではなく、公認会計士の方々の常識的判断による解釈が尊重されるべきです。そうでないと10年前の長銀事件最高裁無罪判決の二の舞になりかねません(そもそも会計士の皆様の常識的判断として「退任後報酬が確定している」といった概念は普通に受け入れられるのでしょうか?確定・不確定というのは会社法の世界の話ですが、金商法の世界でも使うのでしょうかね?)。開示規制の世界の話ですから「相対的真実」が妥当する場面も多いと思います。「確定している」というのも正解だが「確定していない」というのも正解・・・といったことにならないでしょうか?

そしてもうひとつ、多くの新聞記事において、前会長の報酬過少記載が「有価証券報告書の重要事項に関する虚偽記載」にあたるかどうか、という論点を取り上げています。重要事項か否かという点は、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす項目にあたるかどうか・・・といった判断基準で考えるべきことはもちろんですが、「現在ではガバナンス改革のもと、経営トップの報酬に重大な関心が向けられるようになった」という「社会常識の変遷」を根拠にしてしまっては罪刑法定主義に反する可能性が高まります。

要は役員報酬が有価証券報告書に開示させるようになった2010年3月度の時点から、すでに役員報酬の過少記載は重要事項に関する虚偽記載に該当していたことが必要です。これまで役員報酬の虚偽記載で課徴金処分が一度も下されたことはないのですが、2010年当時から役員報酬は重要な記載事項としての共通認識は持たれていたのでしょうか。(監査対象となる)財務諸表の一部ではありませんが、有価証券報告書とふだんから接しておられる会計士の方々にこそ、実務上の常識的な判断をお聞きしたいところです。

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コメント

ゴーンさんのようなケースであれば(現在までの報道を見る限り)費用計上して開示するのが、実務に携わる一会計士としては常識的判断だと思います。法的な意味で確定している必要はありませんし、probable であれば会計的には費用&債務です。従業員の退職給付債務も確率論で推定されたものに過ぎず、確定しているものではありません。
有価証券の評価損も受注工事損失引当も、法的な意味で確定してはいないので、法的に確定していなければ処理不要という理屈が通れば、オリンパスも東芝も不適切会計では無くなってしまいます。有価証券や長期請負工事の損失も、売却や完了までは評価・見積に過ぎず確定したものではありません。
重要な記載事項かどうかも、監査対象ではありませんが重要であると言うのが一般的な認識かと思います。重要なので導入されたわけですし、導入時の経緯を見ても、当初から重要視されていました。また虚偽記載があった場合の心証としては、利益におけるそれよりもさらに悪いと言えます。会計は膨大な作業と時間の積み重ねなので、間違える事や間違いに気づかない事はあります。東芝のケースも、金額的には大半が原発工事ですが、ああいった海外の大規模工事になると経営者も正確な数字を掴めなくなる事は、まだ理解できます。しかし、役員報酬は自分自身の報酬ですから、掴めていないはずがなく、100%故意で悪質です。この件に関して、会社の責任とか他の取締役の責任云々言われる方もいますが、全く理解できませんね。東芝のケースの方が、会社として作る有価証券報告書だから社長会長の責任では無いという言い訳はまだ理解できますが。

投稿: X | 2018年12月12日 (水) 08時20分

「報道」情報が、媒体で違うのだろうし、「事実」かどうかわからないので、推測含みですが。
退任後報酬なら、費用計上しない。大企業トップに対して、退任後2年間顧問あるいは相談役で年3000万払うなんていうのは、よくありますが、これは、払った年の費用です。その年に執務して、その年の報酬ですから。現役時に費用計上することはないし、確定債務ではありません。わかりやすく言うと、この方が退任直後病気で亡くなったケース。その場合、払いませんね。よって、費用計上しないのです。仮に亡くなった場合も遺族に払うのだとしたら、それは確定債務で事前の費用計上が必要です。

投稿: 会計士 | 2018年12月12日 (水) 09時57分

>退任後2年間顧問あるいは相談役で年3000万払うなんていうのは、よくありますが
それは良くありますが、顧問や相談役で計80億とかは、欧米でもついぞ聞いたことがありません。
監査/会計上は名目ではなく実質で判断する必要がありますので、顧問や相談役として実際に行う具体的職務とその公正価値を超える分は退任前の報酬の後払いと判断され、取締役の時に費用計上される分という事になるのではないでしょうか。何でも名目通りに処理することを認めていたら、これまたオリンパスも東芝も不適切会計ではなくなります。実態を反映しない名目を押し通そうとすることが、不正による虚偽記載の一般的な原因ですから。
日産では役員報酬の決定にコンサルを使っていたようですので、80億超の顧問や相談役料を正当化するようなレポートがあったのかどうか気になりますね。

投稿: X | 2018年12月12日 (水) 10時51分

会社は「一般に公正妥当と認められる会計の基準」に準拠した会計処理を行うべしという点に関して、会社法と金融商品取引法で異なる解釈は有りません。また、法的に確定していないから会計処理されていないが、会計的には会計処理すべきであったという、「法解釈」と「会計解釈」のダブルスタンダードは何処にも存在しません。日産ゴーン事件は虚偽記載を争う展開ならば、そういう意味において、初の「会計裁判」となるのでしょうか。会計的に「簿外未払金」または「簿外引当金」が存在したかどうかが争点です。ゴーン氏に支払われるべき報酬が(隠されていたかどうかに関係なく)客観的に存在していたか、その報酬が支払われる蓋然性が高く認められるか、その金額は(ゼロサムではなくて)概ね確定していたか、さらに、その費用(金額)は過去該当各期の会計期間に費用化(反映)されるべきであったか等の全ての点が明確に立証されるかどうか議論されなければなりません。報道情報から考えるに(ゴーン氏らは、手の込んだテクニックを駆使して事実の表面化を避け、会計的な「未確定取引」を殊更に強調できるスキームを構築してきたようですが、であれば、尚の事)会計事実として会計処理の対象とすべき要件(の一部)を具備していると思います。・・が、しかし、その金額はいったいいつの決算に費用化されるべきだったのでしょうか?「収益費用対応の原則」は会計原則の基本の基本です、これを適当に判断する事はできません。ここに関しては今の自分に結論が出ません。「ライブドア事件」では会社が金銭を授受したその科目が収益ではない事が虚偽記載とされたものですが、日産事件では未払の金額ですから、これとは決定的に異なります。これほど難しい「会計判断」の領域に今回“特捜部”が踏み込み、「会計処理を糺す」として大上段に構えたのでしょうか?・・・(庶民感覚として、また、企業人としても、今後の企業ガバナンスに厳格性を求める切欠になった事件として、当局に頑張って欲しいとは思うのですが・・)

投稿: 一老 | 2018年12月12日 (水) 11時36分

 確たるスキームや金額を既知としているわけではないので。小出しにいろいろ出ているどの情報が正なのかがわからず、そこはおいておいて。
 退任時に、お亡くなりになったというような前提で。その際には相続人に払われないものだとしたら、費用計上されていないことは正しいと思うのです。
 何らかスキームに「インチキ」あって、「実質を仮装」している事実があるとすれば、それは別の論点で。
 退任後に顧問で年10億なり払って、今後のCG報告書で会社が開示していくような流れであれば、それはそれで「会計」側では問題がないと思います。
 報道もいろいろで、そもそも前提が大幅に異なっているかもしれないので、外部者感想レベルはこのくらいでとどめます。

投稿: 会計士 | 2018年12月12日 (水) 12時51分

>お亡くなりになったというような前提で。その際には相続人に払われないものだとしたら、費用計上されていないことは正しいと思うのです
中途退職したらほぼ0円になるような退職給付でも債務認識と費用認識はされますし、デリバティブなんてトリガーが引かれなかったら0になるものばかりでしょう。現在の会計基準は必ずしも確定未確定を問題にしません。
一老さんが費用収益対応という言い方で言及されていますが、この報酬が実態として何の対価なのかという事の方が決定的要因でしょう。実質的な報酬の後払いなのか、本当に顧問料相談役料なのかです。それは私のような外野ではなく裁判所が判断することなのでしょうけど。

投稿: X | 2018年12月12日 (水) 14時54分

このコメント欄に投稿して直ぐに日経新聞朝刊に目を通しましたが、「某月某日?において、後日支払いされるべき(支払い予定である)報酬の金額が決定していた・・」とする内容記事が掲載されています。会計の専門家ならば常識的に理解するのですが、報酬の金額が決定していたことと未払債務(もしくは引当金)が「確定していた事」は同義ではありません。収益費用対応原則と発生主義原則という会計の大原則に照らせば、その費用(未払金計上費用もしくは引当金繰入額)はそれに対応する期間の収益獲得のために用されたものかどうか、ゴーン氏が受け取る報酬に見合う「役務の提供」がいったい、いつ行われたのかが重要なキーとなります。ゴーン氏が、報酬を<貰うつもり>であり、<間違いなく貰える環境>にあり<その額も決定していた>としても、それだけでは、報酬として『確定』していた事にはならないのです。なお、以上は浅学非才の小生でも思いつく知識ですから、当局はとっくにこのポイントは押さえて起訴しているはずです。

投稿: 一老 | 2018年12月12日 (水) 15時19分

逮捕当初からこの論点が扱われるべきであったと思います。マンションが実質報酬だとか、株価連動報酬が数十億円にのぼる、とか言っていた報道はいったいどこへ行ってしまったのでしょうね。会社法も会計もわからない人間がゴーン報道の筆をとるべきではなかったと思います。
それはさておき。
確定性が高ければ引き当てしなければならなず、そんな簡単なことはゴーンもケリーも知っています。引き当てしないこととした、つまり、報酬獲得の確実性を犠牲にしてでも記載を回避したかったのです。
考えていくと堂々廻りになりますが、会計の理屈に従った方策であり、これを金商法違反で断罪するのはかわいそうです。
役員としての資質の悪さ、ガバナンスの低さなどは民事で解決されるべきものです。金額が大きいとか、正義に反するとかいって刑事罰を乱用するのはおかしいですね。

投稿: JFK | 2018年12月13日 (木) 02時37分

ゴーンさんの立場になって一度考えてみるべきかと思います。
ゴーンさんは20億円程度の報酬をもらってしかるべしと考えており、はたからみても相応の重責と実績が伴っている。しかし、株主総会では実績や能力を無視して金額の多さばかり質問され、実に辟易としていたに違いありません。株主が無理解でうるさいので、忸怩たる思いで報酬の半分の確実性を諦めたのです。

投稿: JFK | 2018年12月13日 (木) 09時42分

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