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2019年1月24日 (木)

第三者委員会を設置する上場会社が急増しているようで・・・

ある同業者の方が2018年の(上場企業によって公表されている)第三者委員会報告書の数を調べたところ、なんと2017年の1.5倍(40件→61件)に増加しているそうです。ここで「第三者委員会」と述べているところは「特別調査委員会」や「外部調査委員会」など、名称は様々ですが、ほぼ全委員が社外の専門家等によって構成された委員会を指します。

会計監査人の監査の品質が厳しく問われたり、東証さんが裁判で民事賠償責任を追及される中で、市場の番人とされる方々の姿勢の変化が影響しているのでしょうか。私も会計不正事件に関する委員会活動の真っ最中でして、書きたいネタは山ほどあるのですが、ほとんどブログを更新する時間もございません。あと1週間~10日くらいは第三者委員会に没頭しますので、更新が滞りがちになりますが、どうかご容赦ください<(_ _)>

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2019年1月21日 (月)

内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)が2月以降実施予定

最近は「内部通報制度」といえば公益通報者保護法改正の話題が多いのですが、同法改正法案はおろか(上場会社等に社外取締役を義務付ける)会社法改正法案すら今年の通常国会では提出されない見込みとなってきましたので、本日は制度認証に関する話題です。旬刊商事法務の新春合併号(2187号)に掲載されておりますが、内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)の登録申請が、いよいよ2月以降に開始されるそうです(同誌121頁以下)。昨年12月、商事法務研究会さんが制度運用を統括する指定登録機関に選定されましたので、告知の意味も含めて「トピック」として掲載されたのかもしれません。

なお、内部通報制度認証の登録への流れは商事法務研究会さんのこちらのHPで解説されています。認証登録の有効期間はどのくらいなのか、同一の法人に複数のヘルプラインが存在する場合には個別で登録しなければならないのか、親会社と子会社は別々に認証を得る必要があるのか、第三者認証制度は自己適合宣言登録を経なくても申請できるのか・・・など、かなり有益な情報がQ&Aに掲載されています。

先週、消費者庁に伺った際に職員の方からお聴きしましたが、商事法務研究会さん主催の登録申請説明会(東京会場)は午前も午後も満員札止めの盛況だったようで、やはり企業の関心の高さが窺えます。大規模、中規模、小規模の区分で認定レベルも異なるようですし、また会社だけでなくNPOや学校法人なども登録申請ができますので小さな組織にも普及してほしいですね。幸い大阪会場の説明会はまだ空きがありましたので、なんとか時間を作って説明会に参加してこようと思います。

私のコメントも掲載されましたが、1月14日の朝日新聞朝刊(東京版)記事によりますと、内部通報制度を強化した日産さんでは、1年間に全世界で1000件以上の内部通報が社員から寄せられたそうです(2017年ベース)。このたびの前会長さんの件では内部通報が届いて社内調査に至ったそうですが、たしか無資格検査事件では一件も内部通報が届いていなかったようです。つまり、日産社内で長年にわたって続いていた重大な不祥事については通報制度がタイムリーには機能していなかったといえます。ガバナンスを補完するための内部通報制度の必要性を感じます。

このように、件数だけをみれば内部通報制度が機能しているようにはみえますが、その運用をみると機能不全に陥っていたとも評価できそうで、内部通報制度の評価というのはなかなか難しいですね。実効性という意味からすれば「不正の早期発見」のために有効かどうか・・・というところばかりに目がいきがちですが、実は「不正の予防」に活かすための組織風土の醸成に有効という見方、「有事対応」における信用回復に有効(たとえばリニエンシーや司法取引、連邦量刑ガイドライン等)という見方、そしてマネジメントのためのレポートラインの実効性確保の視点こそ評価すべき、という意見もあり、実効性の評価にも様々な視点があります。

改正独禁法の確約手続(事前相談制度)や、働き方改革関連法施行後の罰則付き違法行為への是正勧告など、内部通報制度が機能したことで命拾いする企業が今後たくさん出てくると思いますし、だからこそ制度構築における実力の差は大きく開くことと思います。非財務情報の開示が推奨される時代において「不正が発生したときの企業対応」という、目に見えない企業価値(組織風土)をステイクホルダーに「見える化」する意義は大きいです。認証のための審査は内部統制や内部通報制度に精通した有識者の方々が行う・・・と上記HPでは説明されていますが、どういったところにポイントを置いて評価するのか・・・、今後いろいろな試行錯誤の中で運用が向上することに期待をしています。

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2019年1月17日 (木)

東証・市場区分の見直しと社外取締役の複数化

日産の前会長の保釈許可申請が却下され、身柄拘束は長期化するのではないかと予想されています。ただ、このたび保釈が認められなかったのは、追起訴されるべき「余罪」(候補?)がいろいろと報じられているので、そこから未だ証拠隠滅のおそれありと判断されたものと思います。そこで、公判に向けて起訴されるべき事実も固まっていけば保釈は認容されるものと予想しています。したがって今後は弁護人らが頻繁に保釈申請を行うのではないかと。

(ここからが本論ですが)すでに各紙で報じられていますが、今年の通常国会に提出が予定されている会社法改正の要綱案が公表されましたね。日経新聞ニュースでは「社外取締役を義務化」との見出しで、主に上場会社を中心に、大規模な会社では社外取締役1名以上の選任が義務化されることになりそうです。

ただ、すでにほとんどの上場会社に社外取締役さんはいらっしゃいますので、「1名以上の社外取締役の選任義務化」といっても(機関投資家の皆様には)それほどのインパクトはないかもしれません。むしろ、本気で取締役会の性質をオフィサーの集合体から社長の選解任を果たせるマネジメントチームに変えるためには「何名の社外役員が必要か・・・」といった議論が必要な時期にきていると思います。

1月10日の読売新聞では、野村総研の大崎フェローが「東証市場の再編、特色作りが必要」との見出しで、東証による市場区分の見直しへの要望を出されており、なかでも「プレミアム市場」として日本を代表する400社ほどを選定してはどうか、その選定にあたっては時価総額だけで選ぶのではなく、ガバナンス評価なども含めて選出すべきではないか、との意見を述べておられます。JPX400との関係でどれだけ存在価値があるのか・・・といった意見もあるかもしれませんが、基本的には賛成です。

さらに、せっかく会社法も改正されて社外取締役の義務化が施行されるわけですから、私は市場区分の見直しとともに、そこに複数の社外取締役の選任義務(東証ルールに基づく)を盛り込むべきではないかと考えます。大規模な会社であるほど、指名や報酬、監査などに機能する社外取締役が要請されるわけですから、たとえば「プレミアム市場」に区分された上場会社には少なくとも3名以上の社外取締役を選任すべきだと考えます。また、単なる社外取締役ではなく、独立した非常勤の取締役の要件を明確にすべきです。

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2019年1月15日 (火)

代表取締役の報酬決定過程への関与は甘くない!(と思う)

代表取締役の報酬決定過程の在り方について、個別事件でも会社法改正審議の中でも話題になっています。またグループガバナンスの一環として、グループ企業の役員報酬の決め方についても経産省「ガバナンスシステム研究会」で議論されているようですね。本気で企業統治改革を進める(深化させる)ためには、代表者の選解任過程とともに役員報酬の決定過程を公正なものにすることが求められています。

ということで、日産前会長さんの高額報酬とガバナンス・・・という点も問題となるわけですが、以前どなたかがコメント欄で紹介されていた(代表取締役の再一任決議に基づく高額報酬が問題となった)平成30年9月26日東京高裁判決を(全文)読みました(金融・商事判例2019年1月1日号)。自動車部品メーカーであるY社の会長さん(当時)が14億円の報酬を受領していたのは、会社の低迷した業績の中で株主の委任の趣旨を超えている、そもそも取締役会が再一任したこと自体、他の取締役にも善管注意義務違反が認められる、として株主代表訴訟を提起した事件の控訴審判決です(地裁判決も平成30年4月に出ています)。

結論からいえば

・取締役の報酬総額の限度額を定め、その具体的配分を取締役会に一任する旨の株主総会決議と各取締役が受けるべき報酬額の決定を代表取締役に再一任する旨の取締役会決議により、その報酬額の再一任された代表取締役は、具体的な報酬額を決定するにあたり善管注意義務及び忠実義務を尽くす必要があり、これに違反すれば損害賠償責任を負う。ただし報酬決定に至る判断過程や判断内容に明らかに不合理な点がある場合を除き、そのような義務違反は認められない。

・報酬決定が、株主総会への提案理由などに照らして、株主の合理的な意思に反するものとは認められない。

というものであり、まあまあ妥当な結論ではないか・・・とも言えそうです。ただこの判決文を読む前は「創業家会長さんの報酬なんて誰も咎めることはできないよね」と思っていたのですが、意外と他の取締役さんたちが頑張っていたことがわかります。取締役報酬枠が10億から30億に定時株主総会で増枠されたのですが、最初は50億に増枠する方針を、かなり強い反対意見で否決し、増枠自体にも最後まで反対意見が取締役会で出ていたようです(最後は30億に落ち着いたようです)。また、会長さんは報酬素案段階では28億円程度の報酬決定に至る予定だったのですが、これも多くの取締役の反対で14億円に決まりました(法務部門も強い反対意見を述べています)。いったん14億に落ち着いたものの、また会長の気持ちが変わらないかどうか気をもんでいる役員の行動も、判決文に如実に示されています。みなさん「覚悟」をもって会長さんの報酬決定に真正面から向き合っていたのであり、本当に役員報酬に取締役会が関与する、というのは厳しい職務であることがわかります。

日産の利益は当時、Y社の40倍であるにもかかわらず、Y社の会長さんはゴーンさん以上に報酬をとっていたとしていろいろと批判の対象にはなったようですが、内情はかなりガバナンスが機能していたものと思われます。今回の日産の事例においても高額報酬に目が奪われがちですが、このY社のように、高額ながらも日産による一定のコントロールが効いていたのかどうか・・・私はそこにとても関心がありますね。

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2019年1月12日 (土)

日産前会長特別背任事件-適時開示の訂正と法人の「損害」

1月11日、東京地検特捜部が日産の前会長さんを会社法違反(特別背任)で追起訴した、とメディアで報じられています。また、併せて処分保留とされていた金商法違反(有価証券報告書の虚偽記載)についても、法人としての日産とともに追起訴したそうです。日産は、前会長さんを告訴したこと及び法人としての日産が追起訴されたことを受けて、同日、適時開示のリリースを出しました。

しかしながら、どういうわけか日産は午後4時30分のリリースを、わずか40分後である5時10分に訂正しています。この訂正について、同日の日経新聞ニュースは

「有価証券報告書に虚偽の内容を記載したことは証券市場における開示情報の信用性を大きく損なう」「事案の背景に存在するガバナンスの不全を重大な問題ととらえている」などの記載を削除した

と報じています。この報道から、私は日産自らの民事賠償責任の追及を容易にするような記載は好ましくないとして慌てて訂正されたのではないか、と推測いたしました。

しかし、ある金融関係の方から、当ブログにコメントをいただきました。その方は、別の箇所が訂正されていることに着目して、この告訴内容(≒起訴事実)では、そもそも新生銀行との契約上の地位を(前会長資産管理会社から日産へ)移転したとしても、日産には損害が発生する余地はないので前会長さんは無罪である、との意見をいただきました。意見を頂戴した方が特定されないように配慮して、やや長いのですが、以下にご紹介いたします。

日産自動車が東証の適時開示サイトに、2019年1月11日付で「本日の起訴について」というリリースを行っています。内容は起訴と同日付で刑事告発を行ったというものです。16:30にリリースを行い、17:10にその「訂正」を行っていますが、見比べると「訂正」というより「情報隠ぺい」と言うべき内容になっています。16:30版では何について刑事告発を行ったかが記載されていますが、17:10版では刑事告発の詳しい内容が全て削除されています。株式市場では情報で相場が乱高下するので、情報を流す会社には重い責任があるのですが、これでは、訂正前と訂正後のどちらが本当なのか分からない状況です。是非見比べていただきたいと思います。

さて「訂正前」によれば、特別背任の対象となるデリバティブ取引は「クーポンスワップ契約」とありますが、これでは「日産に損失は発生しなかった」ばかりでなく、「どう転んでも日産に損失が発生する余地はなかった」ということになります。

「クーポンスワップ契約」とは「毎月一定額の円を一定額のドルに固定レートで交換することを一定期間(12か月とか24ヶ月とか)行う契約」で、ゴーン氏が言っていた通り「給料をドルで受け取るため」であって、投機のためではなかったことを裏付ける内容となっています。そしてクーポンスワップ契約の「評価損」とは、「円高になった場合、もっと少ない円で同額のドルを買うことができたのに、それができず儲けそこねた金額」のことを言い、「儲けそこねた金額」ですので、単なる「評価上」「観念上」の金額です。1ドル=100円のスワップを組んだ後、相場が1ドル=80円になった場合、「80円でドルを買えるのに、100円で買うことになって20円損したね」というのが「評価損」です。「評価損」を支払う必要はなく、満期まで毎月の交換を行えばそれで終わりです。もちろん「1ドル=100円で満足しているので、20円損したとは思わない」と言えばそれまでの話で、クーポンスッワップの「評価損」というのは「気もちの問題」「評価上の問題」です。

では、銀行がなぜ「評価損」を問題にするのかというと、「中途解約」をされた場合、銀行に損失が発生するためです。1ドル=80円のときに、ゴーン氏に1ドル=100円でドルを売れるなら、銀行としては20円儲かっているのですが、中途解約されると20円が消えてしまいます。このため「中途解約」は禁止になっていて、解約した場合「違約金」として1ドル当たり20円を払わせることになっています。つまり「違約金」が「評価損」と同額になっているのです。銀行としては「中途解約しないこと」の保障が欲しかったのであって、そのために日産の名前が使われたのです。

日産から見れば、「中途解約がなければ、違約金=評価損の支払い義務はない」「ゴーン氏が中途解約しないことを知っている」ので、「何のリスクもない取引」「どう転んでも損が出ない取引」となります。検察が「中途解約すれば日産に損が出る可能性があった」と主張したところで、ゴーン氏が「給料をドルに変える取引なので、中途解約するつもりは一切なかった」と証言すれば、無罪判決になるとしか思えません。

いままで、日産前会長さんの事件で、新生銀行さんと締結していた契約が「クーポンスワップ契約」と特定されていた報道記事をグーグルで検索しましたが見当たりませんでした。たしかに日産の訂正リリースでは、この告訴事実に関する文言は削除されています。私は金融実務に精通しているわけではありませんが、上記に解説されている内容や契約の経済的合理性は理解いたしました。前会長さんが日本円で受け取る報酬をドルに換える契約ということなので、そもそも前会長さんが中途解約を申し出る動機はないかもしれません。また、損害の発生する余地がないのであれば、①当時の日産の取締役会において利益相反取引に関する承認決議がなされなかったこと、②日産への契約切り替えについて、新生銀行が悪意なく契約上の地位変更手続きを進めたことも納得がいきます。

もちろん、特別背任に関する二つ目の起訴事実(中東の知人への16億円の拠出)については別の議論が必要だと思いますが、一つ目の起訴事実について損害の発生可能性さえないとなりますと、特別背任の実行行為の面でも、また主観的要件の面でも検察側の立証のハードルは(予想どおり?)相当に高いように思えるのですが、いかがでしょうか。

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2019年1月 9日 (水)

日産前会長特別背任事件-デジタルフォレンジックの進展と「罪証隠めつのおそれ」

1月8日、日産前会長さんの特別背任に関する勾留理由が公開の法廷で示されました(憲法34条、刑事訴訟法82~86条)。前会長さんの意見陳述の全文も日経ニュースで報じられています(あまりブログを書いている時間がないので短めのエントリーで失礼します)。

勾留の理由(刑事訴訟法207条1項、同60条1項)は、①被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、かつ②住所不定、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由、逃亡すると疑うに足りる相当な理由のいずれかが認められる場合とされています。「理由開示」といいましても、裁判所は勾留状に示された理由を読む程度しか開示しませんが、これに対して前会長さんは「私は罪は犯していない。一点の曇りもない!」といった意見を述べたそうです。

しかし保釈実務だけでなく、勾留請求への判断実務にも大きな影響を与えたとされる(2003年に出された)松本論文(現役裁判官による論文)、勾留の必要性を厳格に判断して勾留を取り消した平成26年と27年の二つの最高裁決定の傾向からしますと、果たして前会長さんには勾留の必要性、とりわけ前会長さんが特別背任事実を裏付ける証拠を隠ぺいすることを疑う相当な理由はあるのでしょうか。松本判事は、先の論文で「たとえ否認事件であったとしても、予想される罪証隠滅行為の態様を考え、被告人がそのような行為に出る現実的具体的可能性があるか、そのような罪証隠滅行為に出たとして実効性(筆者注・・・実際に証拠隠滅行為に出たとして、実際に隠滅できるか)があるのかどうかを、具体的に検討すべきである」と述べています。「被告人」ではなく「被疑者」である前会長さんの事例にも、この意見はあてはまるものと考えます。

たしかに検察側は、未だ前会長さんの知人である中東の実業家の証言を得ていない模様であるため、証拠収集前の時点で前会長さんの身柄を解放してしまえば「アリバイ工作」とか「つじつま合わせ」の可能性があることは否めません。ただ、これだけデジタルフォレンジックやITを活用した捜査が発達した日本において、社会的身分のある人が罪証を隠滅する行動に出ることは可能でしょうか。さらに、たとえ罪証隠滅行為に出る可能性があるとしても、これを実行すれば、おそらく他人を証拠隠滅罪や犯人蔵匿罪に巻き込む可能性が高いわけですから、隠ぺい行為に「実効性」は認められるのでしょうか。そもそも現実的具体的可能性があるとすれば、いったいどんな可能性があるのでしょうか・・・・・かなり疑問です。本日の前会長さんの意見陳述は、弁護人側の戦略に沿って行われたものかもしれませんが、そもそもの刑事訴訟法上の勾留要件から考えると、罪証隠滅のおそれがないことが問題となるように思いました。

昨年12月、前会長さんが使っていた日産所有の高級マンションの保管物を巡り、ブラジルで法的紛争が発生しましたが(たとえばこちらの時事ニュースなど)、これも勾留事実と直接関係するものではないので、相当な理由にはならないように思います。先日、前会長さんらの勾留延長請求が却下された際には、裁判所は異例の理由説明を行いましたが、日本の刑事司法制度の運用が海外から注目される中で、捜査に支障が出ない範囲でもう少し勾留理由を示すべきではないかと(刑事司法の素人としては)考えるところです。

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2019年1月 7日 (月)

日産前会長特別背任事件-焦点となる三越事件高裁判決の判断基準

(7日午前 追記あり)

1月8日は日産前会長さんの勾留理由開示が予定されていますので、前会長さんの特別背任事件はまたまた大きな話題となりそうです。ということで(?)、今年もこの事件についての私的な意見を述べておきます。

1月5日の日経朝刊、6日の朝日朝刊などでは、前会長さんが私利目的で日産子会社から知人の経営する企業に約16億円ものお金を送金したことを問題視しています。上記朝日の記事では、子会社幹部社員の証言として「16億円の送金の必要性は認められなかった」と証言していることが報じられています。これに対して前会長さん側は、会社のために使ったものであって、私利目的の送金ではないと反論していますので、とりわけ日経の記事では「私的流用かビジネスか」との見出しが付されています。

繰り返しになりますが、特別背任事件の立件はとてもハードルが高いのです。そもそも(JFKさんもコメント欄で述べておられるように)取締役の任務違背行為については、経営判断を過度に委縮させることがないように、一次的にはガバナンスや民事ルールによってコントロールされるべきものです。刑事制裁が期待されるのは、法人の財産保護や事業活動の秩序維持のための最終局面なので、ハードルの高さはやむをえないものと考えております。したがって、裁判官の心証として、ビジネスのために支払ったとの疑いを払しょくできなければ任務違背行為を認定できず、「私的流用かビジネスか」といったレベルの心証であれば当然のことながら前会長さんは無罪です。

たとえば三越の元会長だったO氏、その愛人T氏の(三越を食い物にしたと言われる)特別背任が問われた平成5年11月29日東京高裁判決を読みますと、O氏は検察官面前調書で第三者への図利目的をほぼ認めていたにもかかわらず、一部有罪、一部無罪の判決が出されています(上記東京高裁判決はネット上に公開されています。追記:こちらからご覧になれると思います。たいへん長いですが参考になります)。海外ブランドと三越の取引が開始されるにあたり、愛人とされたTが経営する会社の貢献があったのか、三越の信用力が全てだったのか、非常に微妙なところではありますが、裁判所は「Tが経営する会社の影響がまったくなかったとまではいえない」として、三越から支払われた裏コミッションの正当性を認め、O氏、T氏の任務違背を否定しています。

上記三越事件の東京高裁判決で、今回の日産事件の参考になると思われるのが「任務違背」の判断基準です。裁判所は、まず容疑の対象となっている三越から相手方への支払いの「有用性」を審査します。その支払いは三越のためになっているのかどうか・・・という点です。そして、この「有用性」をクリアした場合、次に問題となるのが「対価の相当性」です。つまり、有用性が認められるとしても、その支払い金額は三越の業績向上への有用性とつりあったものかどうか・・・という点です。三越事件では、上記の有用性と対価相当性のいずれにおいても、裁判所は「(T氏もしくはT氏の経営する会社の貢献が)まったくないとはいいきれない」「コミッション料程度の対価が相当ではないといいきれない」といった心証をもって特別背任は無罪との結論に至っています。

ところで今回の日産前会長の件では、前会長は三越事件のO氏とは異なり、図利目的は完全に否認しています。また海外案件であり、しかも10年も前の事実ということですから、裁判官の心証形成に及ぼす証拠についてはよほど司法取引で有力なものが出てこないかぎりはむずかしいのではないかと(ちなみに司法取引による証拠は金商法違反容疑に関するものだけであり、会社法違反容疑に関するものは存在しない、といった報道がありました)。加えて、中東諸国の王室へのロビー活動の対価の相当性について、「安い、高い」などといった議論を尽くすこと自体、裁判所ができるようには思えません。ということで、「CEO予備費」からの16億円、35億円(オマーンの知人経営会社)、18億円(レバノンの知人経営会社)の「有用性」がまったく否定されるかどうか・・・といったところが最大の争点ではないでしょうか。もちろん「損害論」も争点になりうると思いますが、近時の判例・通説は損害に関する抽象的危険説が主流となっておりますので、前会長さん側がここで戦うのはかなりしんどいような気もしております。

ただ「CEO予備費」からの支出となりますと、過去の税務調査の結果などが気になります。70億円もの子会社からの使途不明金となりますと、当局から贈与認定を受けるはずです。日産と税務当局との過去の交渉経過はどうなっていたのでしょうか(これまで新聞報道では明らかになっていないと思います)。また、紛争の解決金として数十億円を要したのであれば、子会社からの支出という「支払方法」も含めて(親会社の)取締役会で議論をしているはずです。その議論の経過はどうなっているのでしょうか。会社法違反(特別背任罪)を問う事件では、いったい何が取締役会で議論され、決議もしくは報告されたのか、という点が明らかにならなければ刑事事件の結論は見えてこないと思います。日産前会長さんの任務違背行為について、なぜ刑事処分で対応しなければならないのか、ガバナンスや民事ルールは機能しえなかったというプロセスが明らかにされなければ裁判官の有罪心証は得られないと思うところです。日産さんの10年前のガバナンスがどのようなものであったのか、今後報道等で明らかにされることを希望します。

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2019年1月 4日 (金)

年頭所感(たいした所感ではございませんが・・・)

みなさま、明けましておめでとうございます。本年も当ブログをよろしくお願いいたします。昨年末にお知らせしましたように、緊急の業務のため、年末ギリギリまでヒアリングなどをしておりまして、本年も3日から仕事をしております。2月上旬くらいまではブログ更新も滞りがちになりますが、どうかご容赦くださいませ。

さて、元旦、2日と年頭所感というほどのことではありませんが、ボーっと考えていたのが、まず日産前会長問題(1月11日まで勾留延長が決定したそうです)。今年は日産の無資格者検査問題と前会長刑事事件がどこかで結びつくのではないか・・・などと考えております。たとえば無資格者検査問題を振り返ってみますと、経営陣の責任として社長さんの報酬返上は公表されていましたが、最後まで前会長さんの報酬返上は公表されませんでした。(報酬返上問題は)謝罪会見後になお不正が続いたことへの責任の取り方だったのかもしれませんが、いずれにしても経営陣が前会長さんの報酬について触れるのはタブーなのは間違いないと思います。いま、前会長個人から日産への「損失付け替え」契約が問題になっていますが、こういった状況からしますと、そもそも利益相反問題の認識があったとしても、実質的な審議などできなかったのではないかと。また、無資格者検査問題が発覚した時期に、ルノーが前会長を解任するのでは、といった記事が海外で報じられていたことも気になります。

つぎにGAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)規制問題。昨年はこの規制問題を題材に、講演等で法務戦略の重要性を解説させていただきましたが、いよいよ今年はGAFA対日本政府の攻防が本格化するのではないか・・・と思っております。なんといってもGAFAは国民の生活に密着した企業ばかり。政府が規制を強めれば強めるほど、日本の国民を味方につける戦略に出ることは間違いないわけで、政府と国民を分断すべく「どうやって(国民の生活に不便を強いる)政府を悪者に仕立て上げるか・・・」というところは法務部門の腕の見せ所ではないかと。間接金融の時代の法務の考え方から、早く直接金融の時代の法務の考え方に脱却しなければ、当局による「グローバル規制」が進む経営環境のもとで割を食うのは日本企業になってしまうと思います。

最後に「働き方改革」関連法の施行ですね。ハラスメント系や品質偽装系、独禁法・不正競争防止法などの経済法系など、今年は昨年以上に不正が「起きる」だけではなく「発覚する」年になると思います。(私ももちろんそうですが)人間というものは、自分の能力とか報酬とか経験によって、どうしても届きそうにない「幸せそうな他人の生き方」には嫉妬(羨望?)してしまいます。でもうまくできていて、そういった嫉妬を「あの夫婦は理想のカップルと言われているけど、近所の評判は悪いらしいよ」とか「彼は弁護士としての能力は高いけど、●●だって噂だよ。ホントはかわいそうな男だよね」と言いながら「昇化」させて(自分なりに納得して)心のバランスをとろうとします。「嫉妬心」はなかなか消し去ることはできないわけで、この昇化作用はまさに生きていく知恵だと思います。ただ、働き方改革が進み、機会の平等が徹底されるようになりますと「嫉妬心」が高まることが多くなり、心のバランスがとりにくくなるのではないか。昇化できない場合には、内部通報や告発が増え、また不正に手を染めるための正当化根拠も増えるのではないでしょうか。

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