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2019年1月 9日 (水)

日産前会長特別背任事件-デジタルフォレンジックの進展と「罪証隠めつのおそれ」

1月8日、日産前会長さんの特別背任に関する勾留理由が公開の法廷で示されました(憲法34条、刑事訴訟法82~86条)。前会長さんの意見陳述の全文も日経ニュースで報じられています(あまりブログを書いている時間がないので短めのエントリーで失礼します)。

勾留の理由(刑事訴訟法207条1項、同60条1項)は、①被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、かつ②住所不定、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由、逃亡すると疑うに足りる相当な理由のいずれかが認められる場合とされています。「理由開示」といいましても、裁判所は勾留状に示された理由を読む程度しか開示しませんが、これに対して前会長さんは「私は罪は犯していない。一点の曇りもない!」といった意見を述べたそうです。

しかし保釈実務だけでなく、勾留請求への判断実務にも大きな影響を与えたとされる(2003年に出された)松本論文(現役裁判官による論文)、勾留の必要性を厳格に判断して勾留を取り消した平成26年と27年の二つの最高裁決定の傾向からしますと、果たして前会長さんには勾留の必要性、とりわけ前会長さんが特別背任事実を裏付ける証拠を隠ぺいすることを疑う相当な理由はあるのでしょうか。松本判事は、先の論文で「たとえ否認事件であったとしても、予想される罪証隠滅行為の態様を考え、被告人がそのような行為に出る現実的具体的可能性があるか、そのような罪証隠滅行為に出たとして実効性(筆者注・・・実際に証拠隠滅行為に出たとして、実際に隠滅できるか)があるのかどうかを、具体的に検討すべきである」と述べています。「被告人」ではなく「被疑者」である前会長さんの事例にも、この意見はあてはまるものと考えます。

たしかに検察側は、未だ前会長さんの知人である中東の実業家の証言を得ていない模様であるため、証拠収集前の時点で前会長さんの身柄を解放してしまえば「アリバイ工作」とか「つじつま合わせ」の可能性があることは否めません。ただ、これだけデジタルフォレンジックやITを活用した捜査が発達した日本において、社会的身分のある人が罪証を隠滅する行動に出ることは可能でしょうか。さらに、たとえ罪証隠滅行為に出る可能性があるとしても、これを実行すれば、おそらく他人を証拠隠滅罪や犯人蔵匿罪に巻き込む可能性が高いわけですから、隠ぺい行為に「実効性」は認められるのでしょうか。そもそも現実的具体的可能性があるとすれば、いったいどんな可能性があるのでしょうか・・・・・かなり疑問です。本日の前会長さんの意見陳述は、弁護人側の戦略に沿って行われたものかもしれませんが、そもそもの刑事訴訟法上の勾留要件から考えると、罪証隠滅のおそれがないことが問題となるように思いました。

昨年12月、前会長さんが使っていた日産所有の高級マンションの保管物を巡り、ブラジルで法的紛争が発生しましたが(たとえばこちらの時事ニュースなど)、これも勾留事実と直接関係するものではないので、相当な理由にはならないように思います。先日、前会長さんらの勾留延長請求が却下された際には、裁判所は異例の理由説明を行いましたが、日本の刑事司法制度の運用が海外から注目される中で、捜査に支障が出ない範囲でもう少し勾留理由を示すべきではないかと(刑事司法の素人としては)考えるところです。

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