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2019年1月12日 (土)

日産前会長特別背任事件-適時開示の訂正と法人の「損害」

1月11日、東京地検特捜部が日産の前会長さんを会社法違反(特別背任)で追起訴した、とメディアで報じられています。また、併せて処分保留とされていた金商法違反(有価証券報告書の虚偽記載)についても、法人としての日産とともに追起訴したそうです。日産は、前会長さんを告訴したこと及び法人としての日産が追起訴されたことを受けて、同日、適時開示のリリースを出しました。

しかしながら、どういうわけか日産は午後4時30分のリリースを、わずか40分後である5時10分に訂正しています。この訂正について、同日の日経新聞ニュースは

「有価証券報告書に虚偽の内容を記載したことは証券市場における開示情報の信用性を大きく損なう」「事案の背景に存在するガバナンスの不全を重大な問題ととらえている」などの記載を削除した

と報じています。この報道から、私は日産自らの民事賠償責任の追及を容易にするような記載は好ましくないとして慌てて訂正されたのではないか、と推測いたしました。

しかし、ある金融関係の方から、当ブログにコメントをいただきました。その方は、別の箇所が訂正されていることに着目して、この告訴内容(≒起訴事実)では、そもそも新生銀行との契約上の地位を(前会長資産管理会社から日産へ)移転したとしても、日産には損害が発生する余地はないので前会長さんは無罪である、との意見をいただきました。意見を頂戴した方が特定されないように配慮して、やや長いのですが、以下にご紹介いたします。

日産自動車が東証の適時開示サイトに、2019年1月11日付で「本日の起訴について」というリリースを行っています。内容は起訴と同日付で刑事告発を行ったというものです。16:30にリリースを行い、17:10にその「訂正」を行っていますが、見比べると「訂正」というより「情報隠ぺい」と言うべき内容になっています。16:30版では何について刑事告発を行ったかが記載されていますが、17:10版では刑事告発の詳しい内容が全て削除されています。株式市場では情報で相場が乱高下するので、情報を流す会社には重い責任があるのですが、これでは、訂正前と訂正後のどちらが本当なのか分からない状況です。是非見比べていただきたいと思います。

さて「訂正前」によれば、特別背任の対象となるデリバティブ取引は「クーポンスワップ契約」とありますが、これでは「日産に損失は発生しなかった」ばかりでなく、「どう転んでも日産に損失が発生する余地はなかった」ということになります。

「クーポンスワップ契約」とは「毎月一定額の円を一定額のドルに固定レートで交換することを一定期間(12か月とか24ヶ月とか)行う契約」で、ゴーン氏が言っていた通り「給料をドルで受け取るため」であって、投機のためではなかったことを裏付ける内容となっています。そしてクーポンスワップ契約の「評価損」とは、「円高になった場合、もっと少ない円で同額のドルを買うことができたのに、それができず儲けそこねた金額」のことを言い、「儲けそこねた金額」ですので、単なる「評価上」「観念上」の金額です。1ドル=100円のスワップを組んだ後、相場が1ドル=80円になった場合、「80円でドルを買えるのに、100円で買うことになって20円損したね」というのが「評価損」です。「評価損」を支払う必要はなく、満期まで毎月の交換を行えばそれで終わりです。もちろん「1ドル=100円で満足しているので、20円損したとは思わない」と言えばそれまでの話で、クーポンスッワップの「評価損」というのは「気もちの問題」「評価上の問題」です。

では、銀行がなぜ「評価損」を問題にするのかというと、「中途解約」をされた場合、銀行に損失が発生するためです。1ドル=80円のときに、ゴーン氏に1ドル=100円でドルを売れるなら、銀行としては20円儲かっているのですが、中途解約されると20円が消えてしまいます。このため「中途解約」は禁止になっていて、解約した場合「違約金」として1ドル当たり20円を払わせることになっています。つまり「違約金」が「評価損」と同額になっているのです。銀行としては「中途解約しないこと」の保障が欲しかったのであって、そのために日産の名前が使われたのです。

日産から見れば、「中途解約がなければ、違約金=評価損の支払い義務はない」「ゴーン氏が中途解約しないことを知っている」ので、「何のリスクもない取引」「どう転んでも損が出ない取引」となります。検察が「中途解約すれば日産に損が出る可能性があった」と主張したところで、ゴーン氏が「給料をドルに変える取引なので、中途解約するつもりは一切なかった」と証言すれば、無罪判決になるとしか思えません。

いままで、日産前会長さんの事件で、新生銀行さんと締結していた契約が「クーポンスワップ契約」と特定されていた報道記事をグーグルで検索しましたが見当たりませんでした。たしかに日産の訂正リリースでは、この告訴事実に関する文言は削除されています。私は金融実務に精通しているわけではありませんが、上記に解説されている内容や契約の経済的合理性は理解いたしました。前会長さんが日本円で受け取る報酬をドルに換える契約ということなので、そもそも前会長さんが中途解約を申し出る動機はないかもしれません。また、損害の発生する余地がないのであれば、①当時の日産の取締役会において利益相反取引に関する承認決議がなされなかったこと、②日産への契約切り替えについて、新生銀行が悪意なく契約上の地位変更手続きを進めたことも納得がいきます。

もちろん、特別背任に関する二つ目の起訴事実(中東の知人への16億円の拠出)については別の議論が必要だと思いますが、一つ目の起訴事実について損害の発生可能性さえないとなりますと、特別背任の実行行為の面でも、また主観的要件の面でも検察側の立証のハードルは(予想どおり?)相当に高いように思えるのですが、いかがでしょうか。

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コメント

「日産に損失が発生していないのでは」という推論を読者の方が例を挙げて述べられているのですが、説明内容的には腑に落ちない点があります。先ず、ゴーン氏会社が単純に円をその時の相場でドルに交換する<為替予約>ならば、レートが@100円から@80円になったとしても、「もう少し待っておけばよかった」と割り切るだけでしょう。確かにその場合は、機会損失に過ぎず、実損失ではありません。しかし、為替予約料が為替リスクを反映したものと為らざるを得ない為、為替相場次第では極めて高い予約料の負担となるため、<為替予約>ではなく、銀行を相手方とする為替デリバを組んだのでしょう。ならば通常、銀行は大きな為替変動リスクに対処して、ノックアウト条項やノックダウン条項を付して契約します。毎年10万ドルを@100円換算で取得できる契約だったとしても為替が@90円を切ればノックダウンされる条項であり、かつ、これが(仮に)5年契約で、残りの期間の含み損(ノックダウンによる確定損?)に対しても保証金を積まねばならないという内容ならば、銀行側からゴーン氏への「矢の催促」も有り得る話です。・・デリバの詳細内容は定型的ではなく、個々当事者の相対取引としての決め事であり、如何様にも定められる?ので、契約書を具に見なければどうにも判断はつかないのです。また、保証金を積めば、「ノックダウン」(為替確定)されず、含み損を抱えていても決済日まで契約がそのまま延長できるのかどうかについても、今ここでは判断できません。・・なお、蛇足ですが、「評価損」は単に時価による換算差異であり決済の時にそれが実現して初めて「損失」として認識されるものであるやの「まやかし的俗論」を他所で目にすることがありますが、読んで字のごとく含み損は会計的(会社法的)に評価「損失」であり、これをそのままに受け入れた側は損害を被った事に他ならないでしょう。・・ゴーン氏は有りの儘に事実を開示し、自分個人の会社で行った銀行取引をその儘に決済しておけば、日産の英雄であり続けられ、(大金を投じて?)苦しい?言い訳に終始することは無かったと小生は思っています。

投稿: 一老 | 2019年1月13日 (日) 18時03分

報道によるとスワップ契約はH20夏頃、H20.10で評価損18.5億とありますが、当時9億円程のゴーン氏の円建ての報酬を取締役の任期期間中(20.7-H21.6)にドルへ換算する単純なクーポンスワップではその評価損は発生しえないのではないかと考えます

クーポンスワップで18.5億の評価損が出ていたとすると、交換金額がもっと大きいか、スワップ期間がもっと長い、もしくは単純なクーポンスワップではなくさらなる条件が付け加えられている取引だったと考えられます

交換金額がゴーン氏の日産からの報酬を超えて大きい場合少なくとも超えた部分は報酬のドル換算とは言えないでしょうし、スワップ期間が1年を超えて長い場合は取締役の任期を超えてしまいますので、次の株主総会以降の期間については取締役であるかどうかやその報酬は未確定であるため当該期間を報酬のドル換算と言うことは難しいのではないかと感じます。また取引にさらなる条件が付けくわえられていた場合はその部分を報酬のドル換算のためと言えるかどうかは内容次第ですが、損失額をみるに厳しい話ではないかと感じます。

いずれにしても、評価損がゴーン氏の報酬を上回っていた時点で、「どう転んでも損が出ない取引」とは言い難いのではないでしょうか
じゃあなぜ日産の発表がコロコロしているのかというのは確かに釈然としないのですが

投稿: unknown1 | 2019年1月14日 (月) 17時40分

ここで議論されている本論についてはコメントできるような知識は持ち合わせていませんが、開示実務として気になることが…

このタイミングで追起訴されることは予定されていたわけで、適時開示の内容は事前に時間をかけて準備・各所との調整もできたはずです。これだけ注目されている案件なので、内容も開示タイミングも練りに練って法務リスクも十分検討し関係各所とも十二分に調整してあるのが当然だと思うのですが。
であるにも関わらず開示してから(おそらく何らかの関係者が訂正を主張して)40分後に訂正を出す事態ってのは「新興企業ならともかく…」というのが正直な感想です。(文書自体は開示後20分未満で書き換えたようですし…)

ゴーン氏の有罪無罪や経営者倫理の問題とは全く別の次元で、日産の現経営陣やこの件を担当している事務方がこの一連の件をきちんとハンドリングできているのか不安にさせられる一件だと感じました。

投稿: ty | 2019年1月14日 (月) 20時04分

一老さま
今回の話は、日産が「クーポンスワップ契約」とリリース(訂正前)したから問題となっているのであって、それを「ノックアウトだ、ノックダウンだ」と想像力をたくましくされるのは、どうかと思います。また金融機関の名誉の為に申し上げますが、銀行は「ノックアウトやノックダウン」といった顧客に不利な契約を、当たり前のようにする事はありません。特に「給料をドルに変えたい」というような「実需客」にはそういうことはしません。するとすれば「投機客」で「リスクが大きくても良いから、元手が少なくても相場を張れるようにしたい」という客に勧める程度です。また、評価損については、どういう場合に日産に損失が発生するか、ご自身で考えられてはいかがでしょうか。
unknown1さま
検察からリークされる被害額と、実際の被害額は大きくかけ離れていることは普通です。本件でも、海外不動産の使用便益が数十億円と報道されていましたが、どうなったでしょうか。「評価損が18億円だからクーポンスワップはありえない」という推察は良くわかりますが、「クーポンスワップ契約」とリリースされたことと、どちらが正しいかという話しでしょう。
tyさま
日産の適時開示に対する姿勢は、金融の人間として腹立たしい限りです。そもそも「虚偽記載」と言うのなら、即座に「正しい報酬額」を訂正開示すべきものですが、いまだにするようすがありません。重要な数字だから刑事告訴したはずなのに、その重要な数字を訂正せずに放置するというのは、投資家を馬鹿にしているとしか思えません。加えて今回の訂正騒ぎ。上場廃止が適当だと思います。

投稿: 金融 | 2019年1月15日 (火) 02時34分

日本円で受け取る報酬をドルで受け取れるように「クーポンスワップ契約」を行ったということは、将来円で受け取る報酬が存在しているということになりませんか。即ち、有価証券報告書に記載すべき報酬だったのではないでしょうか。
以上が疑問点です。

投稿: 高橋 庸夫 | 2019年1月15日 (火) 09時12分

会計上資産計上するためには、企業がその資産の「経済的資源を支配」している必要があります。「経済的資源の支配」とは資産から生じる利益・損失がその企業に帰属するという意味です。

ゴーンの弁護士が会見で説明していたように、クーポンスワップ契約から生じる利益・損失が日産に帰属しないのであれば、経済的資源を支配していないため、日産は会計上このスワップ債券を資産計上できません。したがって、評価損は生じません。

また、デリバティブの時価評価は決算整理で行われますが、日産は3月決算であり当該契約は1月にゴーンの資産管理会社に移転されているので、評価損は計上されません(四半期決算で計上される可能性はあったでしょうが、会社法では四半期報告は要求されていません)。

デリバティブの詳細については金融実務の知見が参考になりますが、損失が出るか否かは制度会計の知識が必要になるので、両者を合わせて判断するべきだと思います。

投稿: unknown2 | 2019年1月17日 (木) 00時17分

先に送信しました内容の前段(資産計上~と書かれている部分)については当方の記載誤りです。失礼致しました。

リーマンショック後の記事を見るとクーポンスワップのことが書かれていますね。
https://blogos.com/article/13389/

投稿: | 2019年1月17日 (木) 05時37分

素人考えで申し訳ないのですが、当該契約において、リーマンショックで円高に振れていたから銀行側あるいは前会長側には有利であった(利益が出ていた)と一律に考えられるものなのかと疑問も沸くのですが。なぜなら、 普通に考えれば、逆に円安に振れた場合のリスクのヘッジもしているはずであって、このため、契約時の想定以上に円安あるいは円高のいずれかに為替レートが振れた場合には損失が発生するという仕組みになっているということはないのでしょうか? そして、仮にそうであった場合、そうした損失を解消するための唯一の方法としては、為替レートが契約時の想定内に戻るまで必要な証拠金を追加なりなんりしながら5年でも10年でも待つしかなく、日産側としては、前会長の肩代わりとしてそうした債務を負う立場に置かれていたということはないのでしょうか? ならば、こうした内容で中途解約しなければ損失は発生しないとの主張は、企業が今後10年、20年あるいはそれ以上予定している本業の輸出入事業を対象に適用されるならともかく、1年後、2年後にどうなるか分からないような個人の年俸に適用されるとすればどうなのかと

投稿: 素人考えなのですが | 2019年1月17日 (木) 08時23分

独裁者的な代表取締役が、将来の報酬で返す契約を会社と結ぶからと言って博打の損を肩代わりさせたら、まあ背任でしょう。これが肩代わりではなく、胴元にツケにしておいて、ツケの信用保証を会社にさせても同じことです。
ゴーンさんのドルが欲しいというのも私的なことに過ぎないから、やはり会社にヘッジさせたら問題でしょう。特定個人の報酬を会社がヘッジしたという処理は見たことがないので断言はできませんが、ヘッジ会計を適用するための予定取引の要件(将来のキャッシュフロー=報酬の確実性)も満たさず、ヘッジ会計を適用することもできないはずです。なので、デリバティブを会社が持っていれば、そのまま時価評価されて損益に跳ねます。デリバティブに関する信用保証であれば、必ずしも損益には跳ねませんが、取締役への保証なので有価証券報告書で開示対象になるでしょう。
金融庁が背任の恐れがあると指摘するだけのことはあると思います。

投稿: X | 2019年1月18日 (金) 02時11分

金融関係の方のご説明のように、クーポンスワップ契約はそれ自体で会社に金銭的な損失が出るようなものではありません。「もっと高いレートでもらえたのに」という意味での損失です。ゴーン側の説明の通りだったとすれば、日産に金銭的な支出が生じる恐れはなかっただろうと思います。

私も最初ゴーンの弁護士の会見を聞いた際にこの取引はデリバティブに対する信用保証だと思っていました。なので、日産に直接的な会計処理は必要なく、帳簿上で保証債務の計上がある程度だろうという認識でした。ただ、代表取締役個人の負債に対して会社が保証人になることは利益相反取引の間接取引にあたるので取締役会の承認が必要になります。この点、取締役会議事録に"No cost for the company"の文言が記載されていたことから、承認は得られており実際に報酬を受け取る時にはゴーンが利益も損失も負担するのであれば日産に損害は生じないということなのだろうと理解していました。

"No cost for the company"の意味が金融関係の方が仰るような意味だったとすれば、保証人としての立場ではなく、日産がひとまず資産計上はしていたのかな?と思います。その場合、上場企業ではデリバティブの期末時価評価が必要になるため、その際に評価損は計上されてしまいます。ただ、保有していたのは09年1月までの4か月程度であり、3月決算期末を迎える前にクーポンスワップをゴーンの管理会社に移転しているため結局損失は計上されませんでした。

投稿: unknown3 | 2019年1月19日 (土) 00時13分

「素人考えなのですが」様
評価損と言っても、2通りあります。デリバティブのアメリカでの発祥は、農作物の先渡取引(フォワード)ですが、大豆農家が収穫予定の大豆を先渡で売却した後、大豆相場が上昇した場合、先渡契約に評価損が発生します。しかし農家にとってその評価損は「儲け損ねた」額であって、収穫した大豆を先渡の値段で売るだけで、損として実現する事はありません。これに対し、大豆を持っていない人が先渡契約で大豆を売った後に大豆価格が上がった場合、大豆を調達しなければならないので、先渡契約の評価損は、そのまま損失になる可能性が高いといえます。株式相場で例えれば、(現物)「売り」と「空売り」の差になります。株を売った翌日に株価が上昇した場合と、空売りした翌日に株価が上昇した場合と、「評価損」の意味が違う訳です。ゴーン氏のケースは、現物「売り」のケースですから、「為替レートが契約時の想定内に戻るまで」「5年でも10年でも待つ」必要は全くありません。
高橋さま
代表取締役の任期は2年でしょうから、2年分の固定給部分は、就任時に確定していると思います。
Xさま
「(将来のキャッシュフロー=報酬の確実性)も満たさず」という部分はどうしてでしょうか。会社の役員は、給料についての取り決めもないままに働いているということでしょうか。

投稿: 金融 | 2019年1月20日 (日) 13時29分

>「(将来のキャッシュフロー=報酬の確実性)も満たさず」という部分はどうしてでしょうか。会社の役員は、給料についての取り決めもないままに働いているということでしょうか。
国際会計基準でも日本基準でも、ヘッジ対象の予定取引は「極めて」確実なことが求められます。日産の場合は役員の報酬の取り決めが、コンサルが最新の同業他社の役員報酬を調べたレポートとその期の業績を勘案して、ですからまず要件を満たさないでしょう。実際に日産の役員報酬は毎期かなり変動していますし。
また前回のコメントをした後で気づきましたが、日産はそもそも有価証券報告書の表示通貨が円で、ゴーンさんへの報酬も円です。なので、そもそも円ドルのクーポンスワップではどうやってもヘッジ会計を適用できません。

投稿: X | 2019年1月23日 (水) 22時14分

現在、大半の(大口)デリバティブ契約は証拠金をやり取りする必要があります。評価損が出れば証拠金(担保)を預ける必要があり、評価益が出れば証拠金(担保)を預かります。それは評価が実現した時にとりっぱぐれる可能性があるからだけではなく、金融商品を時価評価しているからですし、一方が倒産などすればその時点で期限の利益がなくなり実現してしまうからです。
当時は必須ではありませんでしたが、恐らく本件も閾値が設定され閾値を超えれば、証拠金を預ける必要があるものだったと推測されます。
本件は、証拠金を払えず、契約を日産に振り替えただけではなく証拠金も日産に立替てもらったものと思われます。
このデリバティブ契約は新生銀行と日産との2者間契約なので、ゴーン氏が「損失がでたら補填する」ようなことを言っていても時価評価の対象であることには変わりないので、その時点で期末を迎えていれば、会計上評価損が出てしまいます。つまり、損をさせています。これを損をさせていないというとしたら、プロ経営者として失格かと。
また、もし本当に「損失がでたら補填する」ようなことをするのであれば、日産とゴーン氏の2者間の契約書があるべきです。あったとしたらそれを公表すべきと考えます。

投稿: ルナパパ | 2019年1月26日 (土) 01時40分

Xさま
契約を付け替えると言った場合、銀行と日産の間だけにスワップ契約を結ぶのではなく、日産とゴーン氏の間にも同じ内容のスワップ契約を結ぶ事になります。そうしなければ、ドルがゴーン氏に渡らないでしょう。給料日に日産からゴーン氏に円が渡されると、その円はゴーン氏日産間のスワップ契約で日産に渡り、さらに日産銀行間のスワップ契約で銀行に渡り、銀行から対価のドルが日産に渡され、そのドルが日産ゴーン氏間のスワップ契約でゴーン氏に渡されます。この一連の取引は、日産がゴーン氏に給料を支払えば、滞りなく行われますので、日産にとってはリスクのない契約となります。また評価損益についても、日産銀行間のスワップの評価損益は、日産ゴーン氏間の評価損益と常に打ち消し合いますので、問題になりません。「そもそも円ドルのクーポンスワップではどうやってもヘッジ会計を適用できません」というのは誤りで、日産にとってはゴーン氏とのスワップを、銀行とのスワップで打ち消しているのですから、当然ヘッジ会計が使えることになります。
ルナパパさま
上と同じ話であり、日産としては2つのスワップの間に入るだけなので、片方で出た評価損は、反対側の評価益と同じになり、問題ありません。ヘッジ会計を使って、「評価損益」を考えないことも可能です。「プロとして失格」などとはならないでしょう。また、ゴーン氏にとっては、「評価損」などは、そもそも儲けそこなった金額でしかありませんから、日産に損を押し付けるような話でもありません。

投稿: 金融 | 2019年1月29日 (火) 01時37分

元経済ヤクザの猫組長さんが解説しているように本件はマネーロンダリングという金融犯罪が本質で、大王製紙会長さんが会社の金をカジノで使ったような常識外れのことを行えるガバナンスが皆無な日産だったということではないでしょうか。
たとえ損害がでなくても会社の金をカジノで使った時点で特別背任でしょう!

ゴーン事件を「壮大なマネーロンダリング」ではないかと疑う理由
https://diamond.jp/articles/-/192375
カルロス・ゴーンで学ぶ資金洗浄術
https://togetter.com/li/1308711

投稿: unknown1 | 2019年2月 2日 (土) 23時38分

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