指名委員会委員である取締役の善管注意義務について
大手スーパーのいなげやさん(東証1部)の自浄作用が半端ないです。内部通報に基づいて社内規則違反に及んだ3名の従業員の不正が発覚したのですが、当該3名に対する懲戒処分、そして監督責任として専務取締役さんに対する解職決議(→取締役辞任)だそうです。そしてこの不正を公表した理由は「公正な調査を実施するため、および関係者の隠蔽を防止するため」とのこと。うーん、なかなか厳しい・・・。(ここから本題)
昨日に引き続き、独立社外取締役に関する話題です。株式会社LIXILグループさんが2月25日に開示した「当社代表執行役の異動における一連の経緯・手続の調査・検証結果について」を読みました。すでに多くのメディアが取り上げているLIXILグループさんの経営権に関する話題なので、事例はご紹介するまでもないと思います(なお、この会社は指名委員会等設置会社です)。
機関投資家などのステイクホルダーから「CEO交代の経緯が不透明である」との指摘を受けて、監査委員会が主導して調査を行い、その結果を開示した姿勢は評価できます。おそらく社内では開示するにあたっては相当に葛藤があったと思いますが、一連の事実経過は、かなり詳細に記述されているようです。元CEOの退任の意思表示には(まちがった情報に基づく錯誤があるため)瑕疵が認められ、意思表示は無効ではないか・・・との疑問が呈されていました。しかし、この調査では、認定した事実をもとに「無効と言えるほどの瑕疵はない」と判断しています。
元CEOの方の意思表示の有効性、その意思表示を前提とした取締役会の決議の有効性といった論点は、先例などを参考とした法律的判断を伴うものなので、ここでは私的な意見を述べることは控えます。ただ、この調査結果が正しいとしますと、指名委員会を構成する5名の取締役さんが(当時)何をしなければならなかったのか・・・という点が次にクローズアップされることになると思います。この「一連の経緯・手続の調査」は、事実経過と機関決定の有効性に焦点を当てておりますが、指名委員会や取締役会に出席していた取締役が善管注意義務・忠実義務を尽くしていたかどうか・・・という点は調査範囲外のようです。
(審査の対象となる)CEOの方が、本当に自分から退任する意向を示しているのかどうか・・・、これをどうやって確かめようとしたのか、たとえば確かめるにあたっては指名委員会の誰が代表でヒアリングするつもりだったのか、取締役会当日、当のCEOは退任に反対の意思を表明しているにもかかわらず、「あれ?話が違うんじゃないの?」ということで、指名委員会による再協議を誰も申し出なかったのか(ちなみに指名委員会は執行役の選解任を拘束しないのが会社法のルールですが、LIXILさんでは事実上の慣行として執行役の選解任の決議も拘束していたそうです)、時間を巻き戻して考えてみると、いろいろと疑問が生じてきます。
CEO交代を決する取締役会の決議の前に、(やむをえない事情があったそうですが)指名委員会委員であるお二人の社外取締役さんが帰ってしまったという生々しい事情も記述されていますが(*´Д`)、もしこのような会社の有事に直面した場合に、指名委員である取締役に求められる善管注意義務とは果たしてどのような行動なのか・・・、とても考えさせられる事案だと感じました。このたびのコーポレートガバナンス・コードの改訂は、まさにこのような場面を想定して取締役会の監督機能の強化、経営トップの選解任手続の透明化を求めているはずです。見方によっては「やっぱり社外取締役なんてお飾りだよね」と言われてしまいそうで心配です。さて、このリリースを前提として、機関投資家の方々は今後どのような対応をされるのか、興味は尽きません。
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