企業実務に大きな影響を及ぼすパワハラ防止体制の法制化
2月15日(金)の日経朝刊記事にもありましたが、厚労相が提出した女性活躍推進法等の一部改正に関する法律要綱案が労政審議会で承認され、3月の通常国会に法案が提出されるようです。注目のパワハラ防止義務の法制化ですが、「労働施策推進法(以前の雇用対策法)の一部改正」として導入されることになりました。パワーハラスメントの定義としては「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と、要綱案では示されています。
かなり小さな事業主(たとえば小売業であれば資本金5000万円、継続雇用の従業員50名以下等)については、パワハラ体制整備義務は(公布日から3年間)努力義務とされていますが、全事業主に対してパワハラ通報をした従業員、パワハラ調査に協力した従業員への不利益処分の禁止を定めています。日経の見出しにあるように、大企業は違反に対する行政処分付きでパワハラ防止体制の整備が義務化されるようです。では「どこまで体制を整備すればいいのか」という点は、今後政省令にて指針を策定するとのこと。
今年はいろいろな働き方改革関連法が施行されますが、もっとも企業実務に影響を及ぼすのは来年施行予定のパワハラ防止法でしょうね。そもそもセクハラの「グレーゾーン」はグレーゾーンごと禁止してしまえばよいのでしょうが、パワハラの「グレーゾーン」は(適切な指揮監督関係を委縮させてしまいかねないので)事業主が白黒をはっきりとさせなければなりません。その「はっきりとさせる」ことに失敗すれば「ブラック企業」との烙印を押されたり、判断者が「セカンドパワハラ」として被告にされてしまうリスクは極めて大きいはずです。
審議の中で論点とされていた「労働者に対するパワハラ禁止規定」は盛り込まれませんでしたが、事業主や労働者のパワハラ配慮義務(努力義務)は盛り込まれています。したがいまして、今後、各事業主において自主的に策定されるパワハラ防止に向けた自主ルールにおいて、従業員へのパワハラ禁止規定が盛り込まれることが予想されます。いずれにしても、きわめて忙しい厚労省管轄の対策となりますので、パワハラ対策には事業主による自主解決を期待するものとして、自主解決が期待できない状況に至って、厚労省が厳しい事後規制に臨む・・・という建付けにて運用されることになりそうです。
会社法上の(役員の)内部統制構築義務や内部通報制度の在り方にも関連する大きな法改正なので、今後の労働施策推進法の改正作業に注目しておきたいと思います。
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コメント
年頭にも申しましたが、過度なハラスメント問題視に歯止めをかけないと、日本経済に未来はないと思います。
パワハラについていえば、「業務の(必要かつ)適正な範囲」という定義はもちろん必要ですし、さらに実務的に考えると、被行為者側にもある程度の絞りをかけないといけません。例えば、事務職において、大きな声で叱る必要がある場面があるか?といえば、無いです。静かに理路整然と問題を指摘すれば足ります。ならば直ちにパワハラなのか?ということです。必要かつ適正な範囲を越えたとしても、直ちに問題行為とするべきではありません。
これを要件論に移せば、「受忍限度」という概念を持ってくるべき、という主張になります。
なんでもかんでもパワハラに成りうるような定義は、法律家がきちんと阻止または是正すべきと思います。
投稿: JFK | 2019年2月18日 (月) 18時06分
パワハラの定義が広くなりすぎると、懲戒規定を見直す企業も出てくるでしょう。例えば、「パワハラ行為を繰り返し行い、厳重注意によっても改善が見込まれないこと(以下、懲戒対象パワーハラスメントという)」といった感じに限定していく必要が生じます。実務はすでに言葉遊びに翻弄されています。法律を作るなら責任をもって厳格なパワハラの定義を検討してほしいものです。
真剣に検討していけば、パワハラを定義することなど無理かつ無駄だということが分かるものですが。
投稿: JFK | 2019年2月19日 (火) 01時11分