事業再編時の情報統制と取締役会の監督機能
昨日の廣済堂さんの「監査役の乱」の続編ですが、本日(2月19日)、会社側から「当社監査役のMBOに対する反対の意見表明について」と題するリリースが出ており、会社側が社外監査役さんの質問に回答しなかった理由として「創業家大株主と当該社外監査役さんの代理人が同じ弁護士(もしくは同じ法律事務所の弁護士)」ということが記されています。社内の機密情報が一部の株主に優先的に提供されることを回避したいため、とのこと。
もし、リリースにあるように、大株主さんと社外監査役さんの代理人が同じ・・・ということであれば、(私個人の意見ではありますが)これは監査役さんとしても善処すべきではないかと考えます。監査役さんの監査権限は(中長期的な)株主共同利益の向上のために行使されるべきであり、一部の有力株主のためではマズイと思います(たとえご本人が総株主のため、と考えていても、外見上はやはり一部株主の利益を図るように見えてしまいます)。他の株主からの賛同を得るためには、ここは大株主とは別の代理人を立てて会社側と対応する必要があるように思いました。
日経ビジネスの最新号(2月18日号 雑誌のほうです)の「有訓無訓」(5頁)では、元ペンタックス社長でいらっしゃる方が、2007年のHOYAとの経営統合(合併)を推進する際に、取締役会で突然動議を出されて解職された経験を語っておられます。事業再編はスピードが命・・・ということで「取締役にも大株主にも話すな」との法律事務所の意見を尊重して他の取締役には相談せずに統合作業を進めていた、とのこと。「なんらかの形で意思疎通をするやりようはあったのでは」とも述べておられます。スピード重視で情報統制を厳しくしなければならない、ということも理解できますが、一方で、重要な経営判断を取締役会を無視して決められてしまった他の取締役の気持ちもわかりますよね。
両事例をみていて、「俺は聞いてないよ」ということで役員の反発が生まれるのではなく、何かその前に伏線があるように感じます。情報統制によるボタンの掛け違いはあくまでも「引き金」にすぎないのかもしれません。スピード重視の経営のために、M&A案件などを一部の取締役だけで情報共有して進めることもありますが、それは何でも議論できる取締役会の雰囲気があるからこそ他の取締役の理解も得られるのではないでしょうか。普段から常務会や経営会議が実質審議の場となり、取締役会が「単なる承認の場」「事後報告の場」となってしまいますと、コミュニケーション不足が修正されないままにスピード経営なのか社長の独断経営なのかわからなくなります。会社ごとに取締役会の様子をよく観察しなければ、どこまでの情報統制が適切なのかは判断はつきかねるように思います。
余談になりますが、本日出た不貞行為の相手に対する(離婚時)慰謝料請求の最高裁判決について、メディアの紹介の仕方が少々心配です。それこそ事件の背景と法律論(消滅時効や慰謝料の性質)を併せて紹介しなければ、読者をミスリードしてしまう可能性大です。ビジネス法務の世界とはくらべものにならないほどの社会的影響力のある判決ですが、だいじょうぶでしょうか。。。こういった判決を社会にきちんと伝える役割を法務ブログが果たすべきでしょうね(すいません、私の力量ではちょっと無理ですが。。。)
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コメント
最後の部分についてひとことだけ。
最近のメディア(特にTV)は、受け手の食い付きにしか興味がねいのです。事実を正しく伝えるとか、論議の土台となる情報を伝えるとか、そういった民主主義の基礎を担っているという意識が稀薄になっているのでしょう。
プロや素人を問わず、発信力のある方々の気概にかかっていると思いますよ。
投稿: JFK | 2019年2月22日 (金) 01時17分