監査法人のビジネスは監査からコンサルタント業務へシフト?
内部通報制度の自己適合宣言登録申請の受付が、2月12日に開始されましたね(関心のある方は、商事法務研究会さんの関連ページをご覧ください)。果たしてどれくらいの企業さんが申請し、また認証されるのか、そして認証マークはどのように活用されるのか、今後の運用が楽しみです。
さて(ここからが本論ですが)、毎年恒例の週刊エコノミスト「弁護士・会計士・弁理士」特集記事(2月19日号)をさっそく読みました(結構楽しみにしております)。今年は「進化する弁護士・会計士」ということで、起業する弁護士・会計士や組織内弁護士・会計士に光があたり、私の知らない世界も垣間見えて面白い内容です。
そのような中、「弁護士が日本版司法取引の施行でコンプラ特需!」などという記事もありますが(ホンマかいな?(*´Д`)?)、一番興味を惹いたのは「監査報酬が上昇、目立つ『新日本離れ』」なる特集記事。伊藤歩記者お得意の(?)詳細な調査・分析に基づく記事でして、読み応えがあります。最近、新日本監査法人さんから別の大手監査法人・準大手監査法人に会計監査人が代わった上場企業が多いことが読み取れます。
「新日本離れ」の原因としては、記者の指摘する「東芝の会計不正事件の影響」ということもたしかにあるかもしれませんが、最近の会計不正事件への会計監査人の厳しい対応、頻繁な監査人交代をみておりまして、他の大手監査法人も含めて「できればリスクの高い企業の監査は避けたい、もしくは続けるとしても、厳しい監査基準に見合う監査報酬に増額したい」といった気持ちの表れ、ともいえそうです。
つまり、新日本さんは、どこよりも早く決断し、ビジネスモデルの転換に舵を切ったのでは、というのが私の見立てです。1月22日に東証さんが適時開示ガイドブックを改訂され、監査人交代時における理由開示の詳細化を要請していますので、今後はこのあたりも明らかになってくるかもしれません。そこにもし東芝事件の影響があるとすれば、「監査意見にもセカンドオピニオンはありうる」という認識が、監査業界において共有されてきた、という現実ではないかと(だからこそ会計監査における情報提供の充実が求められるわけですが・・・)。
監査報酬を上昇させることも経営面では大切ですが、もっと効率的なのがアドバイザー、コンサルタント事業にシフトすることです。これだけ監査業務のリスクが高まり、監査自体も厳格になっているわけですから、企業としては監査に耐えうるガバナンス、内部統制に力を入れるのが当然であり、そこに監査法人のアドバイザリー業務の需要が高まります。最近は不正発見、予兆発見のためのAIソフトも稼働しており、監査スキルを持った人的資源の不足を補う道筋も見えてきました。そこで、たとえ会計不正が発生したとしても、決算修正に至る前の重要性に乏しい不正で見つかれば、企業にとっても費用対効果という面でも合理的です。
なんといっても、独占業務である監査実務を経験されてきた方々がアドバイザーとして会社を支援するわけですから、これは監査法人さんの強みだと思います。上記週刊エコノミストの特集記事「組織内弁護士のトレンド」では、企業内弁護士も実務経験のある法律家への需要が高まっているそうで、このあたりは弁護士も会計士も同様かもしれません。おそらく大手監査法人は監査収益よりもアドバイザーとしての収益のほうが(現状でも)上回っているものと推測いたしますが、その傾向は(監査の厳格化が増すにしたがって)さらに強まるものと思います。
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コメント
新日本も他の大手監査法人も、リーマンショック前も同じような事を言ってアドバイザリーにシフトしていましたが、実態はただの派遣業です。景気が良く企業の業績が好調なので人手不足な上に、会計や内部統制、監査ができる社員は一朝一夕には育たないので、手っ取り早く監査法人から派遣してもらうわけです。
形態は業務委託ですが、実態は偽装派遣です。どんなブラック派遣会社でもあり得ないような、企業にチャージした金額の8割9割中抜きできるので、手っ取り早く監査法人は稼げます。監査法人は職務給でも成果報酬でもなく、伝統的職能給なので、どんなに優秀でクライアントに高額チャージできても、本人の給料は増えないためです。この辺が弁護士さんの想像のつきにくいところで、大手弁護士事務所などとは別世界です。
結果、優秀な人は残らず、高度な専門サービスのスキルは蓄積しませんが、短期的利益に目を奪われて監査法人はこのスキームを止めることができません。そのため、新人を大量採用して偽装請負業務にさらに投下するというサイクルが止まらず、ますます監査からアドバイザリーにシフトしていくのです。無論、パートナーはパートナーでEYやKPMGと言った「本社」から降りてくる営業ノルマがあるので、これまたそういう安易な受注と職能給制度による安い人件費のもたらす高収益に走るので、サイクルが加速していきます。
投稿: X | 2019年2月15日 (金) 02時41分
エコノミスト読みました。久保利弁護士がある部門でランキング入りしています。流石だな~。
山口先生も「場末の弁護士」などと御謙遜せず、頂上目指してください。
投稿: 試行錯誤者 | 2019年2月15日 (金) 15時20分
山口さん、試行錯誤者さん、Xさん
初めまして。T社の粉飾事件をきっかけに記事をいつも拝読しているものです。
たしかに、高級?高給?人材派遣?的な案件や出向は今も昔も変わらずありますよね。本質的にはクライアントのためになってはいないと思いますが…
投稿: 場末の会計士 | 2019年2月16日 (土) 09時52分