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2019年2月27日 (水)

上場子会社の独立取締役は厳しい仕事ですよ!(ホンネです)

本日(2月26日)の日経朝刊に、「上場子会社に独立取締役-政府、未来投資会議で新指針、少数株主の利益保護」なるタイトルの記事が掲載されていました。政府が株式市場に親子上場している企業グループの利益相反を抑える仕組みを新たに作る、として、経産省の企業統治実務指針の整備(予定)を紹介しています。2年ほど、上場子会社の独立社外取締役(セブン&アイグループ⇒ニッセンHD 50.6%→100%)を経験した者としてひとこと。

まず、なんといっても上記記事にあるとおり「少数株主保護」という明確な目標のもとで経営戦略に参画します。とくに「100%子会社になることよりも、51%を大株主が保有している状況で上場を維持するほうがシナジー効果が高い」ということが説明できるかどうか、常に考えておりました。100%子会社化したほうが機動性、効率性の面で高いパフォーマンスを発揮できるのであれば子会社上場している意味はないわけでして、従業員の意欲や取引先との関係、親子間の業種の差異など総合的に判断して「少数株主にも株式を保有するメリットがあります」と確信してもらえるかどうか、つねに独立社外取締役としては配慮する必要があります(なお、これは業務資本提携によって子会社化された場合の話でありまして、もともと親会社の一部だった事業を諸事情によって分社化した場合には状況がやや異なりますので念のため)。

つぎに親子間の利益相反の排除ですが、これは上場している子会社だけでなく、非上場で少数株主が存在する会社でも同様の問題が生じます。当然のことながら、親会社は子会社に対して利益相反的な注文をつけてきますので、少数株主の利益が不当に阻害されないかどうか、慎重な配慮が必要です。子会社が育てたビジネスの芽が伸びてきたときに、いきなり親会社にとられてしまうようなことは典型例です。以前であれば「うーーーん、まぁ、短期的にみたら子会社に損失が出るけど、中長期的にみればグループ全体の利益向上には資するのだから、まあしかたないか」といった思考過程で経営判断を下すこともありえたかもしれません(平成24年の日産車体株主代表訴訟あたりも参考にして、そのように考えていたように思います)。

しかし、親会社が上場しているケースでは要注意です。昨今の企業統治改革の影響で「資源の最適配分が求められるなかで、いつ売却されてしまうかわからない」というのが上場子会社の置かれている状況です。親会社にも多数の社外役員が存在するわけで、最近は「親会社の攻めのガバナンス(選択と集中の推進)」という理由で(機関投資家の後押しもあって)子会社はいつグループ外に押し出されてもおかしくないのです。たしか今回の経産省実務指針でも推奨されていたと記憶しています。そうなりますと、「短期的には損だけど、中長期的には・・・」といった悠長なことは、子会社の社外取締役も言ってられない状況であり、短期的に子会社に損失が出る利益相反行為に対しては(少なくとも独立取締役は)断固たる姿勢を貫く必要があります。そうでなければ少数株主への説明責任は尽くしづらいでしょう。合理的な説明に失敗すると、利益相反行為自体が、会社法では「特定株主への利益供与」とみなされて刑事・民事責任を追及される可能性も残ります。

そしてなんといっても企業統治改革の影響で、シナジー効果が得られない場合には、常に親会社による子会社の統合(合併や株式交換)、非上場化の可能性も考えておかねばなりません。現実化しますと上場子会社の独立取締役にとってはまちがいなく「有事」です。他の仕事を放置してでも(?)少数株主保護のための様々なプロセスを主導(「関与」ではありませんよ!「主導」ですよ!)しなければ代表訴訟のリスクにさらされることになります。統合を決議する臨時株主総会が終われば「やれやれ」などという甘いものではありません。どんなに統合比率を高めるために頑張ってみたとしても、賠償責任に関する消滅時効の期間が経過するまでは(自分が退任した後の会社がD&O保険をかけ続けてくれることを祈りつつ→私の場合は、会社との間で保険をかけ続けてくれることについて契約書を作成しました・・・)「一定の覚悟」は保持しなければなりません。いや、ホント、上場子会社の独立取締役は(まじめにやればやるほど)つらい仕事であります。

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