会計不正の「いま」を知る-「鼎談・不正-最前線」
日経ビジネス誌の最新号(2月25日号)の特集は「実録-不正会計(気づけば あなたも当事者に)」ということで、近時の会計不正事件が大きく取り上げられています。また、サンケイビジネスニュースでも「東京商工リサーチ特別レポート」として、開示されている会計不正事件が、ここ数年急増していることが報じられています。いずれも上場会社の不祥事の増加に警鐘を鳴らす内容ですが、私からみると、とくに上場会社の不正が増えているわけではなく(これまでも同様の不正事件は発生していたのですが)、発生した会計不正事件に対する会計監査人(監査法人)の審査が著しく厳しくなってきたことで、「不祥事の見える化」が進んできただけと考えております。
このようにメディアで取り上げられている会計不正の「いま」を知るのに最適なのが上の書籍です。2月15日に発売されましたが、この週末に一気に読了しました。
鼎談-不正-最前線 これまでの不正、これからの不正(八田進二、堀江正之、藤沼亜紀 同文館出版 1,900円税別)
会計監査の世界では重鎮として知られた3名の学者・実務家によって会計不正の「いま」を語り合う座談会記録です。企業不正の現況認識から始まり、会計不正と内部統制、ERM、監査との関係、国際動向、テクノロジーの発展と不正、不正に関する教育や人材育成が中心テーマです。会計専門職の方々が、いま発生している上場会社の会計不正に対してどのように向き合い、また会計監査は今後どのように向き合うべきなのか、企業実務家にとっては関心が高いところです。とくに2016年3月に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言書の内容が次々と具体化され、実施される中で、有事だけでなく、企業における平時の不正リスクの認識においても参考となる意見がいろいろと述べられています。
品質偽装や不正競争防止法違反事件などは、一見すると会計不正とは関係なさそうにみえます。しかし、重大性があれば会計的には偶発事象として財務諸表に注記が必要となり、また合理的な金額的見積もりによって引当金計上が求められるので、本書の話題は会計不正を超えた「企業不正」にも広がります。またグループ会社における不正が親会社のレピュテーションにも影響を及ぼす時代となり、会計監査の世界でも「グループ内部統制」に大きな関心が向けられていることにも言及されています。
さらに、ダボス会議でも有名になりましたが、世界がVUCA化していることから(変動性、不確実性、複雑性、曖昧化が進んでいることから)、不確実性の時代を前提としたリスクマネジメントが求められるようになり、COSO-ERMに真剣に取り組む企業が増えていることも紹介されています(おそらくリーマンショックにおける「ブラックスワン」の影響かと思います)。このあたりは、内部監査に力を入れだした企業が増えていることとも無縁ではないと思います。ホント、リスクに脆い組織と強い組織がありますので、自社が不正リスクに脆いのか強いのか、そこをまず(内部監査によって)きちんと実態把握することが大切です。
おそらく本書を読みたいと考えている方は「八田さんや藤沼さんの考え方を知りたい」という気持ちが強いかもしれませんが、私は一読して堀江先生(日本監査研究学会会長)の意見に最も共感を抱きました。内部統制報告制度の改正に向けた堀江先生の考え方には賛同するところが多かった。日本公認会計士協会への注文なども八田先生や堀江先生から出されていますが、ぜひとも実務に活かしていただきたいと思います。また、「法と会計の狭間に横たわる問題」についても議論されていますが(たとえば監査役監査の在り方等)、3名のご意見に対して、法律専門家もどのように受け止めるべきか、熟考すべきところもありました。なお、ACFE(公認不正検査士)JAPANの理事長に就任された藤沼先生が、不正調査の専門職としてのCFEの役割を逐次解説いただいており、ぜひCFE取得をお考えの方にもお読みいただきたいところです。
上記日経ビジネス誌でも取り上げられていたH社の会計不正事件などは、第三者委員会報告書が出た直後に、新たな内部通報が監査法人に届いたために、さらなる追加調査という事態になりました。これにより、H社のレピュテーションが大きく毀損されることになりましたが、ではなぜ通報が(第三者委員会報告書が開示された直後に)監査法人に届いたのか・・・。私も第三者委員会の委員を務めていて、このあたりの会計監査の厳格性を認識しましたが、こういった最新事情も、本書を読みますと「なるほど」と改めて認識するところです。
なお、本書への批判すべき点をあげるとすれば(もちろん個人的意見です)、まず誤字脱字が多い(笑)。一読しただけで、13か所の誤字脱字が見つかりましたので、関係者の皆様も最終チェックが甘かったのではないかと(まあ、私も人のことを言えたものではありませんが・・・でも「真剣に読んでやろう!」と考えている読者には気になってしまうのですよね・・・)。次刷のために、私が見つけた分は出版社に連絡しておこうと思います。そしてふたつめが「鼎談」であるにもかかわらず、「意見の相違」が少ない。みなさま「お仲間」なので、それぞれの意見の相違があらかじめわかっているから、かもしれません。しかし読者は「それは違います!」といった白熱した議論があるほうが座談会モノの場合には読んでいておもしろいと思います。そういった意味では週刊経営財務の最新号(2月18日号)の「座談会-KAMを意義あるものとするためには何が必要か」は、実務家と会計プロフェッションとの意見の相違が明確になっていて読み手を惹きつけるオモシロさがありますね。
ともかく、会計監査の最新の知識やスキルを学ぶということよりも、監査のプロフェッションが会計不正のどこに関心を持っているのかを知ることに興味を持っておられる方にはおススメの一冊といえます。
| 固定リンク
コメント