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2019年3月31日 (日)

現れるか?-商号・社名に「平成」が含まれる上場会社

3月31日の毎日新聞朝刊によると、平成になって社名に「平成」が入る会社は1270社(設立もしくは社名変更)だったそうです(東京商工リサーチのデータ登録317万社のうち)。かなり多いように思いましたが、調べてみると東証に上場している約3600社のうち、社名に「平成」が含まれる会社はありませんね。ちなみに「昭和」は11社、「大正」は1社、「明治」は4社存在ます。上記毎日新聞記事によると、「平成」への改元時に、新元号を社名にしようとする人たちが大挙して法務局に詰めかけたそうで、さて、今回はどうなりますでしょうか。

上場会社が1社もない・・・ということから、「平成の時代は景気が悪かったことを如実に物語っている」とも言えそうですが、上場するまでには時間を要します。3月30日の日経朝刊「老舗企業多い『新興市場』ジャスダック最高齢は120歳」なる記事によると、東証マザーズ上場会社の上場までの平均年数が16年、ジャスダックは平均年数46年、とのこと。ということは、社名に「平成」が含まれる会社はこれから上場する企業が増えるとみるのが妥当な推論ではないでしょうか。「昭和」や「明治」が「高度成長」をイメージさせるのに対して「平成」のイメージがややぼやけているのは気になりますが。ちなみに私が住む堺市の近所に明日(4月1日)「堺平成病院」が新たにオープンしますが、いまから「平成」を病院名に使用するというのもうーーーん、なにか理事長の想いがあるのでしょうね。。。

ところで社名に「平成」が入る会社といえば「平成電電」を想い出すマニアックな方もいらっしゃるかもしれませんが・・・これ以上、この話題は差し控えておきます(*´Д`)さて、新元号、どうなりますことやら。

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2019年3月29日 (金)

うるさい監査役はやっぱり必要である-鉄道重大インシデント報告書に学ぶ

平成29年12月11日に発生した新幹線台車亀裂事件に関する運輸安全委員会報告書が公表されました。私も関係会社の品質管理委員会委員を務めた関係上、報告書の原因調査に興味があり、早速読んでみました。

興味深いのは、JR東海とJR西日本の「異常時における対応フロー」の違いです。JR東海は一定期間中(平成29年4月1日~12月11日)、東海道新幹線区間で異音の申告が156件あり、そのうち車両保守担当社員が乗車して点検を行ったのが127件、つまり81.4%の申告事象について点検を行っています。一方、JR西日本は同期間中に山陽新幹線区間で異音申告は101件あり、そのうち保守担当社員が乗車して点検を行ったのはわずか4件、つまり4%の申告事象しか点検を行っていない(その代わりJR西日本は列車の最終駅で点検していた)そうです。

各メディアでも報じられているように、コミュニケーションを図るべき担当社員らが、異音を感じたとしても正常性バイアスに基づいて「たいしたことではない」との思い込みがあり、また確証バイアスに基づいて、自分で「そうあってほしい」と望んでいることを裏付ける情報だけを入手していたことが、JR西日本の対応遅延につながったとされています。保守担当社員が(車両を止めて)点検をする確率が4%ということですから、止めるのはかなり勇気が必要なのでしょう。また止めないための理由を心のどこかで探そうとするのでしょうね。JR東海の場合は80%の割合で「ダイヤが乱れてもいいから止める」実態があるので、現場社員も正々堂々と「安全最優先」の行動規範を示すことが可能です。

しかし、これはJR西日本固有の問題ではないと思います。不正や重大事故が発生した一般企業でも正常性バイアスが働いて「公表するほどたいしたことではない」と考えるのが通常です。また、経営者の不正が疑われても、これを指摘するだけの勇気がない自分を正当化するために「もう少し明確な証拠が見つかったら声を上げよう(いまはまだ明白ではない)」といいながら、経営者不正を裏付ける証拠から目を背けることは頻繁に見受けられます。

そもそも「バイアス」というのは種族保存本能に基づく脳のはたらきですから、バイアス自体は決して悪いものではありません。企業にたとえれば、持続的な成長を遂げるためには認知バイアスの働きは日常業務で必要です。ただ、鉄道会社の安全品質のように、そのバイアスの短所が企業の存亡に関わるリスクを生むことも事実です。ダニエルカーネマンの「ファスト&スロー」にたとえれば、スローの思考が優先されるべき課題には、ファストに支配される経営執行部以外の思考過程が必要となる場面もあります。昨日のエントリーの続きのようですが「うるさい監査役は退任させよ」ということだと、このスローの思考過程が入り込む余地はなくなってしまいます。

監査役でも社外取締役でも良いのですが、「おかしいと思ったら声を上げてほしい。我々はいったん止めて点検する」といった社長の姿勢があれば、彼らのスキルは存分に発揮しうるでしょうし、また彼らのスキルが未熟であれば、自己責任として厳しく受け止めることになると思います。この運輸安全委員会報告書の示唆するところは、他社も大いに参考にすべきです。

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2019年3月28日 (木)

うるさい監査役はいらない?-日産ガバナンス改善特別委員会報告書より

3月27日夜、日産自動車HPより「日産自動車株式会社ガバナンス改善特別委員会報告書」が公表されました。昨日のエントリーで「定款変更よりも社内ルールの充実を」と書きましたが、私の予想以上にガバナンス改善に向けた提言が出されており、委員会自ら「この内容を実現するとなれば日産に相当の負荷がかかる」と案じているほど、委員会の「本気度」が窺われる内容です。なお、4月8日の臨時株主総会ではなく、6月の定時株主総会を目途に指名委員会等設置会社への移行を提言しているようです(どなたかからご指摘を受けましたが、たしかに臨時株主総会の招集通知は発想済だと思いますので、もう今から定款変更議案の追加は無理ですね)。

前会長ゴーン氏とともに刑事被告人となっているグレッグ・ケリー前代表取締役の「日産における地位と役割」にも触れられています。前会長ゴーン氏は、ケリー氏を「隠れ蓑」にしながら(何度も「ブラックボックス」という言葉が出てきます)、管理部門による不正防止や早期発見の道を塞いできた経緯が示されています。このようなブラックボックスを放置してきた日産の取締役会には問題があったと委員会は認定しています。

ただ、私が報告書の中で一番驚いたのが取締役会の平均時間とのゴーン氏の監査役への対応です。2018年に社外取締役2名を選任するまで、日産の取締役会の平均開催時間はわずか20分(!)だったそうです。スルガ銀行さんの1時間にも驚きましたが、20分となると、なにも議論しないに等しいですよね(業務執行報告もなされないとなりますと会社法違反ではないかと?)。発言した取締役や監査役がいた場合には後でゴーン氏が呼びつけることがあったそうで、「うるさい監査役」は再任させなかったようです。また、「何も言わない監査役を探してこい」と命じられた方もいらっしゃるそうで(うーーーん、そういえば過去に「きみは『御用監査役』でいればいいんだよ」とおっしゃった社長さんの事件を扱ったことがあります・・・)特別背任の成否は別として、利益の付け替えに関する契約は、どうも取締役会には上程されていなかったと思われます。利益相反取引の事前開示をしていないとなりますと、それ自体、前会長さんは会社法違反で過料の制裁の対象になるかもしれません。

2018年の夏、日産の某監査役(週刊文春では実名が出ていましたが、ここでは伏せておきます)のところへ内部通報が届き、某監査役は調査を開始したそうですが、この報告書でもニュアンスが示されているとおり、それまでに某監査役さんは非連結の海外子会社の調査などを進めていたものと思われます(このあたりは文春の記事より)。内部通報を受領して2カ月、某監査役さんは内部調査の結果を現経営執行部と共有するわけですが、そのあたりの社内力学や司法取引に及んだ法務担当執行役員との接触(の有無)については報告書は明らかにしておりません。まあ、刑事手続が進んでおりますので、そのあたりはやむをえないところかと。

なお、改善特別委員会が示しているガバナンス改善に向けた具体的な提言ですが、これは日産固有の必要性に迫られたものではなく、今の時代は多くの上場会社にも要求されるところではないかと思いました。とくに「三様監査」の充実として、監査役監査や内部監査が実効性を持つためには、これくらいの本気度で取り組まなければ「経営者不正」に有効なガバナンスは機能しないと考えています。海外では「ルノーが日産統合に向けた協議を再開しようとしている」と報じているそうですが、実際にはこういったことへも柔軟に対応できるようなガバナンスの構築が求められるのでしょうね。

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2019年3月27日 (水)

日産のガバナンス改革-定款変更よりも社内ルールの改訂に期待する

日産自動車のコーポレートガバナンスの改善に向けて、いよいよ27日に同社ガバナンス改善特別委員会が報告書をまとめるそうです(産経新聞26日朝刊記事より)。産経記事によると、会長職は空席とし、取締役会議長と会長との関係を分離すべきである、指名委員会等設置会社に移行すべきである、といった改善案が盛り込まれる、とのこと。いずれも日産の定款変更が必要なので、4月8日の臨時株主総会では定款変更議案が上程されるようです(ただし機関形態の変更については準備が間に合わない可能性あり)。

世間では企業統治改革が進み、「形式から実質へ」とガバナンス改革が深化している最中です。日産のケースでは、ルノーとの経営支配構造にも配慮しながらのガバナンス改革・・・ということで、様々な思惑があるのかもしれません。しかし、本気で執行と監督を分離するのであれば、私は定款変更よりも、むしろ定款変更と同時並行で社内ルール(たとえば取締役会規程、執行役・代表執行役に関する職務権限規程など)を変更することこそ必要ではないかと考えます。たとえ指名委員会等設置会社に移行したとしても、①社外取締役は最低2名でも可、②取締役と執行役の兼務は可、③監査委員は取締役会がいつでも解職・選定可、ということなので、運用次第では「仏作って魂入れず」のガバナンスになってしまうおそれがあります。

そこで、私としては①取締役会では独立社外取締役を過半数とする、②取締役会議長は社外取締役から選定する(これまでの報道によると、この点は採用される可能性があります)、③内部統制の一環として、執行役の監査委員会への報告義務を明記する(指名委員会等設置会社では会社法357条相当の規定が除外されていますので)、④執行役の取締役会への報告について、原則として代理報告を禁止する(会社法417条4項の例外とする)、⑤監査委員会に最低1名以上の常勤監査委員を置く(監査権限を最大限尊重する、社外取締役の監査委員への情報提供を保証する)といった社内ルールを策定すべきと考えます。

②については採用される予定のようですが、ガバナンス改善委員会のトップの方がそのまま社外取締役に就任して議長となる・・・という点はどうなんでしょうか。機関投資家の評価が分かれそうですね。③、④、⑤は、グレッグ・ケリー氏が日産前会長とともに刑事立件されたにもかかわらず、これまでほとんど職務内容が報じられてこなかった点に配慮したものです。前会長の不適切行為が様々な形で報じられている(明るみになっている)にもかかわらず、捜査機関側からも、また日産側からも、代表取締役としてのケリー氏の行動については何らの情報も提供されていません。このあたりは改善特別委員会の報告書で明らかになるのかもしれませんが、日産のガバナンスにおける「黙認されたブラックボックス」だと思います。本気でガバナンスの改善を図るのであれば、このような「実質」のところに踏み込んだ改革が必要ではないでしょうか。

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2019年3月26日 (火)

会計監査人への高額賠償請求で憂鬱になるのは社外役員かもしれない

3月25日の読売新聞朝刊(関西版・社会面)に「東芝監査法人に1兆円請求 105億から増額・・・巨額損失で株主訴訟」なる見出しの記事が掲載されています。個人株主の方が、東芝の不正会計を見抜けなかったとして金融庁から課徴金処分を受けた監査法人に対して、これまで105億円の株主代表訴訟による賠償請求を行っていました。しかし、その後に米国の原子力子会社問題が発覚し、東芝が1兆円以上の損失を計上したことから、原告株主は「東芝の早期公表を促さなかった監査法人も損失の責任あり」として請求額の増額を行ったそうです。

記事で紹介されている上村早大教授のコメントのとおり、会社で発生した損失には多くの要因があり、1兆円の請求額には根拠が乏しいと思います。おそらく、東芝と当該監査法人の間で責任限定契約が締結されていなかったので、このような超高額賠償請求となったものと思います。ただ、(本件とは関係ないかもしれませんが)他の役員が、これを他人事として傍観しているわけにはいかないはずです。仮に数億円といった金額で監査法人の損害賠償責任が認められた場合には、責任限定契約を締結している社外取締役、社外監査役にも火の粉が飛んでくる可能性は否めません。

このブログを立ち上げた2006年当時にも、こちらのエントリーにおきまして、弥永教授の月刊会計監査の座談会記事を引用しながら話題にしましたが、たとえば社外取締役や社外監査役も株主代表訴訟で提訴されて善管注意義務違反(任務懈怠)が認められた場合、高額請求を受けた会計監査人とは会社に対して連帯債務を負うことになります。そして資産を保有している監査法人が高額賠償金を全額支払った場合、他の連帯債務者に対して求償債権を行使することができます。そして監査法人さんからの求償債権の行使に対しては、会社に対する責任限定の抗弁を主張できない、ということになる可能性があります。

私は当時、「そんなバカなことはないだろう。それだったら誰も怖くて社外役員なんか引き受けないのではないか」とブログで述べました。そのような理由で求償権行使に対して、社外役員は(会社に対する責任減免の絶対効を主張して)拒絶できる、とする有力説(たとえば江頭教授)もあるのですが、どうも通説は拒絶できない、ということのようです。とりわけ債権法改正による新しい民法445条が、「連帯債務者のひとりについて免除があった場合に、他の連帯債務者は免除を受けた連帯債務者に対して求償することができる」とされましたので、この民法改正の趣旨からすれば、とりあえず会計監査人と社外役員は不真正連帯債務の関係に立つとして負担相当額の支払いを拒むことはできないということになりそうです。

このあたりは学説上も争いもあると思いますが、いくら責任限定契約を締結していたとしても、自らの責任が認められてしまえば「おそろしいことになる」かもしれず、保険加入と誠実な職務執行を改めて心がける必要があると考えております。

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2019年3月25日 (月)

日産自動車の代表取締役らによる報酬決定協議の真相について

どなたかコメント欄でもお書きになっておられますが、3月23日(土)の東京新聞朝刊(社会面)に「日産社長『経緯知らず署名』ゴーン元会長の退任後報酬」との見出し記事が掲載されています。関係者の証言によると・・・とありますが、2011年~15年ころ、ゴーン元会長の退任後報酬に関する合意書が少なくとも3通作成され(退任後に顧問料名目等で支払うことを日産とゴーン氏との間で合意した、とされる書面)、3通とも西川氏の署名がなされていたそうです。たしかこのような合意書が存在することは、すでに昨年12月ころに東京新聞でも詳しく報じられていました。

特捜部の事情聴取に対して(3通の合意書に署名した理由について)西川氏は「ゴーン被告とケリー被告との間で話ができているのだなと思い、意味合いがわからないままにサインンをした」との趣旨の証言をしているとのこと。真偽のほどはさておき、西川氏が有価証券報告書に対する虚偽記載の認識を持っていなかったことを説明するためには、このような証言となることは当然に予想されるところだと思いますので、私としてはそれほど驚くべき証言内容だとは思いません。

ただ、(何度も申し上げますように)私としては元会長さんの金商法違反、会社法違反による刑事事件の成否よりも、日産のガバナンスがなぜ機能しなかったのか・・・という点に、最近は関心が向いております。たとえば上記のような記事が真実だとするならば、当時の代表取締役でいらっしゃったSさんの行動はどうだったのか・・・という点はどうしても知りたい。Sさんは2011年3月期、2012年3月期には西川氏、ゴーン氏、ケリー氏と並んで代表取締役です。当時の有価証券報告書を確認しますと、取締役の報酬は「取締役議長(ゴーン氏)が他の代表取締役と協議して決定する」とあります。この有報の記載を前提とするならば、取締役の報酬は、4名の代表取締役の協議が必要だったはずです。

そもそも合意書には3名の署名しかなかったとすれば、なぜSさんは協議に参加していなかったのでしょうか(逆にいえば、ゴーン氏とケリー氏で話ができていたのであれば、西川氏も協議に参加する必要はなかったのではないか?)。もし4名の署名が残されているのであれば、西川さんとSさんの間ではなんらの協議はなかったのでしょうか。いずれにしましても、代表取締役による協議というのは経営トップの独断を排除するためのガバナンスの一環だと思いますが、そこが機能していなかったとすれば、そもそも取締役会自体の監督機能にも何ら期待できなかったようにも思えます。こういった点が、今後明らかにされなければガバナンスの機能不全の根本原因は究明されないのではないでしょうか。

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2019年3月23日 (土)

当職登壇予定のシンポジウムのお知らせ

ようやくココログのシステム改良作業も落ち着いてきたようです。ということで、この週末は、私が登壇いたしますシンポジウムにつきまして、東京会場と大阪会場のものをひとつずつ広報させていただきます。

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まず4月2日午後2時からですが、日本取引所自主規制法人主催の上場会社セミナーです。日経ビジネス2019年2月25日号の久保利弁護士と日本取引所自主規制法人佐藤理事長との対談記事でも紹介されていたセミナーでございます。2018年3月に、日本取引所自主規制法人から策定・公表された「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」が実務でどのように実践されているか、(大阪会場では)関西電力さんの事例などをもとに議論・意見交換を行うというものです。場所はグランキューブ大阪10階の広い会場で。具体的な内容は左の写真をご参照ください(上場会社さん向けの企画ということで、日本取引所のHPには掲載されておりませんので、写真添付にて失礼いたします)。上場会社の方であれば、事前お申込みの上でご参加可能と取引所の方からうかがっております。

なおお申し込みはこちらのWEBサイトからお願いいたします。

次に4月12日午後3時からですが、日弁連主催・東京証券取引所後援の公開講座「改めて考える社外取締役の役割と責任~改訂後の社外取締役ガイドラインを参考に~」に登壇いたします。こちらは東京の日弁連会館2階のクレオ・ホールです(ご案内、お申込みはこちらでございます)。昨年6月に改訂されたガバナンス・コード改訂版に対応して社外取締役は平時および有事においてどのような行動が求められるか、錚々たるメンバーによるディスカッションが行われる予定です(ちなみに錚々たるメンバーというのは私以外の方を指します)。

2013年から毎年開催される日弁連の恒例行事ですが、毎年たくさんの方が聴講されますので、できればお早めにお申し込みください。

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2019年3月22日 (金)

企業不祥事による信用毀損に保険金が出るそうです

3月21日の日経朝刊に「企業不祥事に保険」との見出しで、東京海上日動さんの新しい保険開発について報じられています。企業不祥事発生時における企業のブランド価値の毀損を保険で賄う、とのこと(4月から販売開始)。食品への異物混入や情報漏えい、施設内事故、従業員による不適切行為などが保険の対象のようですが、組織的な違法行為は除外とされています。

補償限度額は約1億円で、具体的には第三者委員会の費用や弁護士、コンサルタント会社への相談費用等が想定されているようです。新聞が報じるように、こういった保険の開発が予防意識の向上につながればよいと思います。ただ、第三者委員会がまじめに仕事をすればするほど、保険を使いたい会社側の意思とは離れていきますね。件外調査を含めてフォレンジックス調査を厳格に行えば費用は著しく増えますし、また新旧にかかわらず「経営陣による指示があった」と第三者委員会が認定すれば保険会社が免責される可能性が高まります。そうなりますと、「なんちゃって第三者委員会」(会社側の意思を上手に忖度して「第三者委員会」のふりをする委員会)が出現する可能性がこれまで以上に高まるのではないでしょうか。

また「ブランド毀損を防ぐ」ことが目的であれば、たとえば世間に公表していない不祥事などはどうなるのでしょうか。公表しないための危機対応などにもかなり費用は要しますし、公表されずとも内部告発対応の支援なども「ブランド毀損の防止」といえそうです。いずれにしましても、保険金が出るための要件というのも、かなり微妙な場面が予想されるのではないかと思います。


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2019年3月20日 (水)

ココログのリニューアル作業のためブログ更新が遅れました。。。

日経法務面のアドバネクス前会長解任決議不存在判決(地裁判断)やLIXILのCEO解任に向けた機関投資家の動きなど、いろいろと興味深い報道がされておりましたが、ココログさんのリニューアル作業のためタイムリーなアップができませんでした。アドバネクス社の裁判報道は以前の記事の続編ということですね。また、頃合いをみながらコメントを書きたいと思います。とりあえず祝・復旧(?)ということで。

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2019年3月18日 (月)

伊藤忠とデサント、「ガバナンス・コスト」はどちらが負担するのか?

すでに報じられているとおり、伊藤忠商事によるデサント株式へのTOBが成功し、伊藤忠はデサントの40%の株式を保有することになりました。伊藤忠の思惑通りに買付けが進んだわけですが、大企業による敵対的TOBが成功した例は極めて珍しいそうです(たとえば朝日新聞ニュースはこちらです)。昨日(17日)、TOB成立後としては初めて、両社が今後に向けての協議を行ったそうですが、デサントの創業家社長さんは退任する方向で協議が進められていると報じられています(産経新聞ニュース)。

今後はデサントの取締役会の構成をどうするか・・・、といったところで双方の意見に食い違いがあるようですが、私がもっとも関心があるのは「今後、デサントの経営に伊藤忠が主導権を握るのであれば、そのガバナンス・コストはどっちが負担するのだろうか?」という点です。友好的なM&Aであれば(円満な協議によって)コストは双方が負担し合い、またそれほど大きなコストにはならないと思います。しかし、今回のように敵対的TOBによって経営支配権が変わる場合(40%の株取得→経営陣の交代)、従業員の多くも経営権交代に反対を表明しているわけですから、伊藤忠の経営方針をデサントに浸透させるためには多大なコストがかかるはずです。

たとえば新たな経営陣の人的資源(報酬を含めた)の投下、PMIの実効費用(通常は100日プランと言われていますが)、(TOBに反対を表明している)従業員とのコミュニケーションコスト、デサントの経営の「見える化」に向けた内部統制コストなどです。デサントは一貫してTOBには反対を表明していますし、また両社の企業規模には相当の差がありますので、おそらく伊藤忠側でガバナンス・コストを負担するものと思います。ただ、そうであるならば、これだけのガバナンス・コストを負担してでも、デサントと伊藤忠に資本コストを上回るだけのシナジー効果があることを説明できなければならないはずです。伊藤忠経営陣による威圧的な買収と(いまでも)囁かれているわけですから、そのあたりの合理的な説明がなければ「過去の遺恨による『弱いものいじめ』にすぎなかった」と言われてしまう気がします。

今年6月には政府(経産省)からグループガバナンスの実務指針が公表される予定です。積極的なM&A戦略が進む日本企業において、いままで「手つかず」だったグループガバナンスの在り方が示されます。友好的M&Aであれば経営判断として「管理強化」か「放任主義」か、といった選択肢もありそうですが、敵対的TOBによるM&Aとなりますと「放任主義」とはいかないでしょう。今回の伊藤忠、デサントの攻防も、TOBや株主総会が終了した後も、様々な面で世間の関心の的になるものと予想しています。

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2019年3月14日 (木)

日本監査役協会における研修(受講)に関する御礼

本日はご報告のみです。毎年恒例となりました公益社団法人日本監査役協会における春季研修講演ですが、今年は「内部通報制度の最新事情とその有効活用-近時の企業不祥事例から学ぶものは何か」と題するテーマで講演をさせていただきました。7会場、延べ2500名を超える監査役、監査委員、監査等委員の皆様に聴講いただきました。ご来場いただいた皆様、どうもありがとうございました。(大阪 2月14日・ANAクラウンホテル、15日・監査役協会関西支部会議室、九州 2月19日・TKPガーデンシティ博多新幹線口会議室、東京 3月5日~7日・東京プリンスホテル、名古屋 3月11日・ミッドランドホール)

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2019年3月13日 (水)

大塚家具、なぜ監査等委員会設置会社から監査役会設置会社へ戻るのか?

3月11日の大塚家具さんのリリースによりますと、同社は、3月31日開催予定の定時株主総会において、監査役会設置会社に移行するための議案(定款変更議案)を上程するそうです。同社は2017年3月に監査等委員会設置会社に移行したばかりですから、わずか2年で従前の監査役会設置会社に戻ることになります。3月12日の朝日新聞朝刊記事によれば、「意思決定のスピードを重視するため」(広報)に戻すそうです。

しかし、2年前の同社リリースでは、監査役会設置会社から監査等委員会設置会社に移行する理由として、以下のように開示しておられます。

監査等委員会設置会社への移行について   (1)移行の理由
当社は、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図るため、社外取締役の複数選任及 び役員の指名・報酬に係る任意の委員会設置など、コーポレートガバナンスの充実・強化に継 続的に取り組んでまいりました。今般、取締役会の監督機能を一層強化するとともに、経営の 意思決定をより迅速に行い、更なる企業価値の向上を図るため、監査等委員会設置会社へ移行 するものであります。

つまり、同社は(世間でよく言われるように)取締役会の監督機能の強化と迅速な意思決定のために監査等委員会設置会社へ移行しました。しかし、実際には監査役会設置会社の時代のほうが意思決定は迅速だった、ということのようです。ちなみに大塚家具さんのように、任意の指名・報酬委員会を持つ監査等委員会設置会社では、情報収集権を持つ監査等委員である社外取締役が、任意の委員会委員を兼務することでパフォーマンスを発揮しやすいと言われていますが、それでも実効性に乏しかったということなのでしょうか。なぜ監査等委員会設置会社ではスピード経営が実現できなかったのか、その真相をぜひとも知りたいところです。

三井住友信託銀行さんの調査では、2018年6月時点で監査等委員会設置会社は927社にまで増加しているそうです。しかし、すでに関西では複数の企業が監査等委員会設置会社から監査役会設置会社に復帰していることはご紹介済みですが、関東の企業にも「復帰」の兆しがみえてきたのかもしれません。また「復帰」とまではいかずとも、スピード感がないとして、社外監査役から横滑りしていた監査等委員全員を「総入れ替え」した関西企業もありました(旬刊商事法務の論稿で、ISSの日本法人代表の方が紹介されていました)。そもそも立案担当者は、制度開始にあたり「指名委員会等設置会社への移行過程として活用していただきたい」と説明しておられましたが、いまのところ指名委員会等設置会社に移行した監査等委員会設置会社は皆無だと思います(もしあれば教えてください)。

2月4日に日本監査役協会から公表された監査等委員会設置会社アンケート調査結果(選任等・報酬等に対する意見陳述権に関連して監査等委員会設置会社に期待される検討の在り方について)を拝読しましたが、経営執行部の意向とは異なる意見を株主総会で実際に陳述した企業がわずか3社(2018年の株主総会における。回答企業は450社)とのこと。会社法の機関である監査等委員会と任意機関である指名・報酬諮問委員会との関係もかなりグレーなままの企業が多いようです。取締役の選任や報酬について、総会上程議案とは別に広く審議、意見形成をしたと回答した会社も全体の3割程度ということで、うーーーん、かなり問題山積の状況ではないでしょうか。

ただ、社外監査役さんは社外取締役に「横滑り」できますので監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行は比較的容易ですが、社外取締役さんが社外監査役に横滑りすることはできませんので(会社法の決まりです)、戻りたいと思っても人材面で困難が伴う、ということになります。コーポレートガバナンス・コードの改訂や開示府令の改正、そして会社法改正に伴う事業報告の詳細化など、後継者選任プロセスや報酬決定プロセスの公正確保の要請が高まる中で、どのように取締役監査等委員が善管注意義務を尽くしていくべきか、経営評価権能を持つ監査等委員固有のリーガルリスクも含め、真剣に検討すべき時期に来ているものと思います。

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2019年3月12日 (火)

日産自動車のガバナンスから前会長の取締役会出席不許可決定を考える

3月11日の各メディアが報じるとおり、保釈中の日産前会長が3月12日の日産取締役会に出席できるよう地裁に許可申請を行ったところ、東京地裁は出席を許可しませんでした(準抗告も棄却とのこと)。ご承知のとおり、前会長さんは日産の取締役として、取締役会に出席する義務があるわけですが、保釈条件として「出席には地裁の許可を要する」とされておりましたので欠席には正当理由がある(善管注意義務違反には該当しない)、ということになります。

「3月8日に、前会長が出席の許可申請を出した」と報じられた際、私は特別な事情がないかぎり、許可決定は出るだろうと予想しておりました。といいますのも、「証人威迫のおそれがある」「利害関係人と接触するおそれがある」といった刑事手続の公正性を害するような危険性の有無で(出席の可否を)判断するのであれば、たとえば弁護人を同席させることで危険性を低減させたり、取締役会の議長の議事進行権によって一部の審議から前会長を排除することで足りるものと考えたからです(実際、弁護人から「同席」に関する提案は出ていたようですね)。

私見としては、刑事手続の公正性確保は、日産の取締役会の運用によって担保することは可能だと思いました。たしかに産経新聞ニュースが伝えるように、日産の反対理由として報じられているところは、(1)前会長は取締役を解任される予定で出席の必要がない(2)事件関係者が出席するため、証拠隠滅の恐れがある(3)議事進行への圧迫となる可能性がある、とのことだそうです。しかし、これらの理由にはどうも違和感をおぼえます。①そもそも取締役を解任するのは株主総会なので、日産の経営陣が「解任の予定」というのは理由にならないですし、②前会長は、もはやルノー、日産とも指揮命令系統からはずされていますので証人を優越的地位によってコントロールできる立場にはありません。さらに③前会長は、現在、取締役会議長ではありませんので、現議長が議事進行権を行使すればなんら証人圧迫のおそれもないはずです。なによりも、ここに記載された日産の反対理由を前提とするのであれば、そもそも「出席を許可制とする」という扱いではなく、はじめから「取締役会への出席禁止」という保釈条件を付していれば足りるはずです。

この10年間の日産におけるガバナンスが(事件発覚後に)何ら語られてこなかったにもかかわらず、前会長が保釈されるや否や「証人威迫のおそれ」とか「取締役会の議事が混乱する」といわれても、どうも唐突感が否めません。世間で作られたイメージだけで「証拠隠滅のおそれ」があるということになってしまうのでしょうか(むしろ事件発覚までの10年間にマスコミの作り上げたイメージはとてもクリーンだったように思います)。

ただ、それでも今回の出席許可申請に対して日産側から「取締役会の議論に影響する」との理由で反対意見が出された重みはありそうです。つまり、日産側としては①今回の取締役会では、前会長の解任に関する(臨時株主総会への)上程議案に関する審議が行われる予定であり、前会長が決議だけでなく審議にも加わることことになれば「会社法369条2項に基づき、特別利害関係人による審議への参加は議案に影響を及ぼしかねない」と判断されること、②日産は社内調査の結果に基づき、前会長に対する損害賠償請求を検討しているところ、このような状況において前会長が出席したとしても、そもそも自己の利益よりも会社の利益を尊重して審議に参加すること(取締役としての善管注意義務を尽くすこと)が期待できない状況にあること、③すでに保釈中である前代表取締役のグレッグ・ケリー氏も、同様の理由から取締役会には欠席していること等から、反対意見が出されたのではないでしょうか。そうであるならば、地裁はこの日産の自律的判断を尊重せざるをえないと考えます。

もちろん、特別利害関係にあり、また会社側と利益相反状況にある取締役も、会社側が積極的に出席を要請すれば、すくなくとも審議には出席が認められるはずです。しかし日産側は保釈された前会長に説明を求めるような意思は全くないことが明確になりました。つまり、このたびの地裁の不許可決定は、こういった日産側の自律権を尊重したうえで(日産側からの反対意見が出されたことを重視して)判断されたものと考えます。未確定報酬の開示や損失の付け替え、知人への資金援助とは別に、あまり起訴事実とは関係のないような前会長の不適切行為に関する報道が諸々出されていましたが、それらは日産と前会長との民事賠償の請求根拠にはなりうる、という意味において、このような場面で意味を持つように思います。

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2019年3月11日 (月)

東証の市場区分において検討すべき「コーポレートガバナンス基準」

東証において、市場第一部への上場に必要な時価総額を引き上げること、市場区分を変更することが検討されていることはこちらのエントリーなどでも述べたところですが、RMBキャピタルさんは「第一部を時価総額による基準で峻別することは反対」「コーポレートガバナンスによる上場基準を新たに設置すべき」との意見を表明しておられます(この意見内容を伝える時事通信ニュースはこちらです)。私も基本的にRMBキャピタルの意見に賛同いたします。

この6年ほど、ガバナンス改革の施策として、ポピュレーションアプローチとしての「コーポレートガバナンス・コード」「スチュワードシップ・コード」を深化させ、またハイリスク・アプローチとして機関投資家による集団的エンゲージメントを促すことにより、一定の効果が得られたようです。しかしながら、どうも日本企業の特質(集団が他の集団に及ぼす日本企業独特の影響)をみると、このようなアプローチを補完するものがなければガバナンス改革の目的は達成できないように思えます(たとえば後継者育成、後継者の選解任プロセスの透明化、報酬ガバナンス等)。RMBキャピタルの意見にもありますように、たとえば東証ルールによって(1部やプレミアム市場に上場する会社には)指名・報酬委員会の強制、過半数の独立社外取締役の選任の義務化、といったことがなければ、ガバナンス改革の深化も限界が来るのではないかと。

RMBキャピタルさんも指摘しているように、ここへきて機関投資家の方々が「守りのガバナンス」への関心を高めています。以前であれば、企業不祥事が発覚した企業の株価は(ほとぼりが冷めたことに)上昇することが見込まれていたのですが、2014年に導入されたスチュワードシップ・コードの影響によって株価の低下率が大きくなり、また株価が戻りにくくなりましたので、アクティブ・パッシブいずれにおいても「守りのガバナンス」に関心が高まるのは当然かと思います。

もちろん、東証では、これまでも内部統制に問題がある企業は「特設注意市場銘柄」に指定することをもって市場に注意を喚起することはしていますが、これも(企業不祥事等の発生を前提とした)「事後規制」であり、事前規制として活用されているわけではありません。いま機関投資家が求めているのは「事前規制」であり、そこに(恣意性を排除した形での)ガバナンス体制による基準を設置する実用性があるように思います。

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2019年3月 6日 (水)

日産前会長の裁量保釈はなぜ許可されたのか?(冷静に考える)

昨年12月21日および一昨日のエントリーで予想したとおり、日産の前会長さんの裁量保釈が三回目の請求により許可されました。5日深夜の報道によると検察の準抗告を裁判所が棄却したということで、これでようやく前会長弁護人は検察と対等に攻撃・防御ができる地位に立ったと思います。

これまでのエントリーをお読みになればおわかりのとおり、三回目の保釈請求は「機が熟したから」許可されたのであり、交代前の弁護人の方でも許可された可能性はあったと考えています。①司法制度改革の時代における保釈の在り方(とりわけ公判前整理手続きとの関係)を現役裁判官が示した、いわゆる「松本論文」(2006年)の存在、②証拠隠滅のおそれの解釈指針を提示した平成26年、27年の最高裁決定、③「日本版司法取引」という検察の新たな武器に対応して「裁量保釈の解釈指針」を示した平成28年刑事訴訟法改正と参議院附帯決議、そして④実質的な余罪捜査の終結(と評価されたこと)が、今回の裁量保釈が許可された大きな要因だと考えています。

では、新しい弁護人の弁護方針は保釈に影響がなかったのか・・・といいますと、けっしてそんなことはありません。たとえば新しい弁護人の方は、前会長との協議によって、自宅に監視カメラを設置したり、携帯・PCの使用を制限するなど、(前会長が証拠を隠めつするおそれがないことを示すために)厳格な条件を自ら裁判所に提案したといわれています。3月4日のエントリーでも書きましたが、裁判所がこの時点で保釈を却下した場合には、日本の刑事司法に対する国際的な批判が一気に高まることが予想されます。しかし、裁判所はこれを理由に保釈を認めることは(主権国家の司法機関としては)できません。

また、「無罪の他人を巻き込むおそれ」が日本版司法取引には懸念されるなかで、否認を続ける被告人への勾留には、裁判所は最大限のデュープロセスを保障しなければなりませんが、一方で事件の背景にある「日産・ルノーの政治力学」の存在も、裁判所は忖度(そんたく)せざるをえないのかもしれません。そこで弁護人は「裁判所の逃げ道を作ってあげる」必要があります。このような条件なら現行法の解釈によって保釈を許可することができる・・・といえる道を新しい弁護人は裁判所に示したものだと思います。とかく優秀な弁護士は「法解釈」によって裁判所を説得したくなるのですが、「新たな事実」を提示することで裁判所の解釈を助ける手法をあえて採用した点にとても感銘を受けます。

この「裁判所に逃げ道を作ってあげる」という発想は、元検察官の弁護人にはなかなか思いつかないものであり、長年、(被告人の利益のために全力を傾ける)刑事弁護に携わってきた弁護士だからこそ考え抜かれたものではないでしょうか。この点は「さすが」と言わざるを得ません。国連に人権侵害を申立てつつ、保釈審査の最中に外国特派員協会で会見を行うことで裁判所を追い込みながらも、一方で逃げ道を用意するという手法は、したたかな手法であり、私も見習わねば・・・と思うところです。ともかく、これでようやく「10年間の日産のガバナンスはどのようなものだったのか」明らかになる道が見えてきたようです。

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2019年3月 4日 (月)

日産前会長の(3度目の)保釈請求は認められるか

ひさしぶりの日産前会長・会社法等違反容疑事件に関するエントリーです。2月27日(木)、日産前会長の弁護人が3度目の保釈請求を行った、と報じられました。1回目、2回目の保釈請求時には、いまだ検察側の余罪捜査が続いているために「無理だろうなあ」と思いましたが、今回は裁判所が保釈を認める可能性があると推測しております。以下はその理由です。

1 マスコミのリーク記事の枯渇

ここ数週間はマスコミの検察リーク報道も影を潜めました。これは検察による余罪捜査や裏付け捜査がほぼ終了したため、検察側からマスコミに提供するネタがなくなってしまったことによるものと思います。検察側がほぼ立件に必要な証拠は収集したものとみて、今後は(たとえ否認をしてるとしても)被告人には証拠隠めつのおそれは乏しいと判断される状況になりました。少なくともゴーン氏が逃亡や罪証隠めつに出る「具体的危険性」を裏付ける事実は乏しいのではないでしょうか。

2 公判前整理手続きの決定

昨年12月のこちらのエントリーでも書きましたが、公判前整理手続きを被告人側(弁護人側)が維持するためには、検察と対等の立場で弁護人が対峙しなければならず、そのためには被告人の早期身柄解放が大前提です。2月21日にゴーン氏、ケリー氏、そして法人としての日産いずれの被告人の事件も公判前整理手続きを行うことになったそうなので、ゴーン氏は検察だけでなく、ケリー氏や法人としての日産との間でも利害が対立する可能性があります。ケリー氏や日産が十分な準備ができるのにゴーン氏だけが準備にハンデを背負うとなりますと、国際的に「人質司法」との批判がさらに高まるものと思います。

3 繰り返される日産側からのメッセージ

前会長さんの金商法、会社法違反事件を裏付けるようなニュースが影を潜めた一方で、最近は日産トップの方のインタビュー記事や特別ガバナンス委員会による審議内容などが出てくるようになりました。これはゴーン氏が保釈された場合には、おそらくゴーン氏の発言に社会の注目が集まることを想定して、日産側が機先を制するための広報作戦ではないでしょうか。日産側も「保釈される日は近い」と考えているように思います。

もちろん刑事弁護に詳しい同業者の方から「早くても(保釈が認められるのは)今年の年末くらいではないか・・・」との意見も出されていますので、上記は私の勝手な推測であります。ただ、今回の保釈請求が却下されることになりますと、本当に身柄勾留の長期化が予想される事態となります。そうなりますと、さすがに国際世論を敵に回すことにもなりかねず、もっと大きな刑事司法制度改正に向けた意見形成につながる可能性が出てくるのではないでしょうか。

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