うるさい監査役はいらない?-日産ガバナンス改善特別委員会報告書より
3月27日夜、日産自動車HPより「日産自動車株式会社ガバナンス改善特別委員会報告書」が公表されました。昨日のエントリーで「定款変更よりも社内ルールの充実を」と書きましたが、私の予想以上にガバナンス改善に向けた提言が出されており、委員会自ら「この内容を実現するとなれば日産に相当の負荷がかかる」と案じているほど、委員会の「本気度」が窺われる内容です。なお、4月8日の臨時株主総会ではなく、6月の定時株主総会を目途に指名委員会等設置会社への移行を提言しているようです(どなたかからご指摘を受けましたが、たしかに臨時株主総会の招集通知は発想済だと思いますので、もう今から定款変更議案の追加は無理ですね)。
前会長ゴーン氏とともに刑事被告人となっているグレッグ・ケリー前代表取締役の「日産における地位と役割」にも触れられています。前会長ゴーン氏は、ケリー氏を「隠れ蓑」にしながら(何度も「ブラックボックス」という言葉が出てきます)、管理部門による不正防止や早期発見の道を塞いできた経緯が示されています。このようなブラックボックスを放置してきた日産の取締役会には問題があったと委員会は認定しています。
ただ、私が報告書の中で一番驚いたのが取締役会の平均時間とのゴーン氏の監査役への対応です。2018年に社外取締役2名を選任するまで、日産の取締役会の平均開催時間はわずか20分(!)だったそうです。スルガ銀行さんの1時間にも驚きましたが、20分となると、なにも議論しないに等しいですよね(業務執行報告もなされないとなりますと会社法違反ではないかと?)。発言した取締役や監査役がいた場合には後でゴーン氏が呼びつけることがあったそうで、「うるさい監査役」は再任させなかったようです。また、「何も言わない監査役を探してこい」と命じられた方もいらっしゃるそうで(うーーーん、そういえば過去に「きみは『御用監査役』でいればいいんだよ」とおっしゃった社長さんの事件を扱ったことがあります・・・)特別背任の成否は別として、利益の付け替えに関する契約は、どうも取締役会には上程されていなかったと思われます。利益相反取引の事前開示をしていないとなりますと、それ自体、前会長さんは会社法違反で過料の制裁の対象になるかもしれません。
2018年の夏、日産の某監査役(週刊文春では実名が出ていましたが、ここでは伏せておきます)のところへ内部通報が届き、某監査役は調査を開始したそうですが、この報告書でもニュアンスが示されているとおり、それまでに某監査役さんは非連結の海外子会社の調査などを進めていたものと思われます(このあたりは文春の記事より)。内部通報を受領して2カ月、某監査役さんは内部調査の結果を現経営執行部と共有するわけですが、そのあたりの社内力学や司法取引に及んだ法務担当執行役員との接触(の有無)については報告書は明らかにしておりません。まあ、刑事手続が進んでおりますので、そのあたりはやむをえないところかと。
なお、改善特別委員会が示しているガバナンス改善に向けた具体的な提言ですが、これは日産固有の必要性に迫られたものではなく、今の時代は多くの上場会社にも要求されるところではないかと思いました。とくに「三様監査」の充実として、監査役監査や内部監査が実効性を持つためには、これくらいの本気度で取り組まなければ「経営者不正」に有効なガバナンスは機能しないと考えています。海外では「ルノーが日産統合に向けた協議を再開しようとしている」と報じているそうですが、実際にはこういったことへも柔軟に対応できるようなガバナンスの構築が求められるのでしょうね。
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コメント
色々面白そうですし、証拠次第では検察側の主張が通らない可能性もあるのではないかと。
また、三様監査もそろそろ限界かなと。執行部が自己を監査する部門を持つという自己監査の部分を解消しないと厳しいなと。
まあ、この会社のガバナンスは教科書にできそうですねl
投稿: Kazu | 2019年3月28日 (木) 22時45分
事実であれば言語道断であり、日産株主はもとより筆頭株主ルノーの兼ね合いでフランス国民はカルロス・ゴーンに激怒していい内容が出てきているように思います。
監査役や取締役の退任理由についてこれまで如何に無関心であったかを考えさせられる案件です
投稿: unknown1 | 2019年4月 3日 (水) 21時58分