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2019年4月 8日 (月)

ガバナンス改革-報酬諮問委員会の運用における素朴な疑問

報酬ガバナンスの深化ということで、会社法改正や金商法改正(開示府令の改正)でも役員の報酬制度の改革が論点のひとつとされています。主に開示規制に関する改正ですが、株主が自身で役員の報酬をコントロールすることは困難なので、社外取締役を中心とした報酬諮問委員会(報酬委員会)の設置・運用も検討課題に挙げられることが多いようです。ただ、実際に報酬委員会の委員としての経験から、そもそも報酬委員会は機能するのかどうか、私自身が浅学なこともあって素朴な疑問を抱いております。

任意の機関として報酬委員会を設置することは賛成なのですが、その運用に関する問題です。ひとつめはサステナビリティ経営と報酬制度の関係です。中長期の企業価値向上を目指して、中長期の業績連動型の株式報酬制度を採用する企業が増えています。そして業績評価の対象となる役員の中にはコンプライアンスやCSRなど、いわゆるESG経営への責任を担った方々もいます。しかし、業績を達成したかどうかというKPIに、ESG関連の指標は採り入れられていないのが現状です。たとえば法律雑誌「ビジネス法務」の2018年10月号に掲載されているウイリス・タワーズワトソン社コンサルタントの方の論稿を読んでも「ESG指標を採用している企業は極めて少ない」とされています(同誌「中期経営計画と報酬制度の連動」78頁参照)。こういった達成度は各役員のBSC(バランススコアカード)において評価の対象となっており、報酬に反映させている会社もあるかもしれませんが、このようなBSC自体が報酬制度に組み込まれているとなりますと、(BSC自体は人事管理のために内部で作成するものですから)そもそも報酬決定方針や算定方法を開示したとしても「ブラックボックス」はそのまま残るのではないでしょうか。

ふたつめは「中期経営計画と報酬制度」の関係です。インセンティブ報酬の一環として、中長期業績と連動する報酬は、会社が公表する中期経営計画のKPIを用いて達成度を検討せよ、と言われます。どのようなKPIを採用するかは会社によって様々です。しかし、会社を取り巻く経営環境は、ダボス会議で話題になっているようにVUCAの時代です(不安定、不確実、複雑、曖昧)。これだけビジネスリスクが変化する時代だと中期経営計画は頻繁に見直しを迫られます。そうなりますと、中期で業績を達成したのかどうか、判定を要する3年~5年後には、もはや計画も指標もズレているという状況が考えられます。そのようなズレが生じた算定方法によって報酬を決定してもよいのでしょうか。約束を守らないわけにはいかないので実行するわけですが、あまり株主に対する合理的な説明にはならないような気もします。

そして最後に日本企業の労働慣行と報酬制度との関係です。一生懸命に報酬委員会が個別取締役の報酬額を決定したとしても、社内取締役の方の関心は出てきた報酬額の金額(絶対額)と他の社内取締役の報酬額や経営幹部の給与額との差額(比較)です。どんなプロセスでそうなったのかは関心がありません。要は社員と役員の報酬バランスですよね。「ウチくらいの規模の会社の社員がこれくらいだから、まあ、役員報酬もこの程度でバランスがとれていていいんじゃないの?」ということで、年功序列、終身雇用、企業内組合制度の労働慣行が変わらないかぎり、株主からみえる報酬よりも社員からみえる報酬のほうが気になるところかと。実はこのあたりが一番報酬のインセンティブがしっくりこない要因ではないかと素朴に感じております。最近、上場企業においては社外取締役を中心とした指名・報酬委員会の設置が増加しておりますが、そもそも取締役会で指名や報酬の在り方、社外取締役の人数、機関設計などを真剣に協議しなければ委員会も形式的な運用に終始していまうのではないか・・・と考えております。

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