« 2019年4月 | トップページ | 2019年6月 »

2019年5月31日 (金)

日本企業の労働慣行とサクセッションプラン(後継者育成)の親和性を考える

5月29日の日経夕刊「十字路」では、CEOの解任に関する判断基準の明確化、透明化への「取締役会の覚悟」が語られていました。会社の有事には、本気でCEOと向き合う気概を持て、とのこと。ガバナンス・コード改訂版が上場企業の浸透する中で、取締役会改革の実質化が今まさに求められています。ただ、取締役会はCEOと本気で向き合うだけで企業価値向上が果たせるかというと、そんなに簡単なものではないようです。

コーポレートガバナンス・コードのなかでも、コンプライの一環として後継者育成計画やCEOの選解任の明確化・透明化を図る企業が増えています。私がガバナンス構築の支援を担当している某上場企業さん(甲社)も、2年ほど前からサクセッションプランを実施しております。最近の経営陣主導の不祥事例や支配権争いに関する事例などをみておりますと、早い段階から後継者を育成することが大切ではないか、うまくいかなければ社外取締役が中心になってCEOの選解任を進めるべきではないか、と思うわけですが、実際にやってみると、「やらなきゃよかった」と思えるような場面に遭遇しますね。

甲社では、これまで社長が次期社長を指名するシステムで後継者が実質的に決まっていましたが、2年ほど前に後継者育成システムを導入し、社内でも後継者候補が早い段階で決まりました。しかし、この後継者候補の周りには「将来の社長に認めてもらいたい」ということで、後継者を支える会のようなものができて、これがまた現経営陣からみると「優秀だが現社長にかわいがられなかった不満分子」のような方々が、候補者を取り巻いておられます。候補者に吹き込まれる情報は、現経営陣を批判するようなものばかり。そうなりますと、現社長を支えている経営陣との間に派閥の対立ができてしまい、肝心の本業の効率性がとても悪くなりました。

GEの著名な経営者ジャックウェルチの著書などを読むと、3名ほどの後継者候補をあらかじめ社内で競わせて、最終的に現CEOが決定し、上手にCEOの地位を引き継ぐことが自慢話のように書かれています。しかし、こういった後継者育成計画や社長の選解任ルールの透明化、といった指針は果たして日本企業の労働慣行に合致するものかどうか、よく見極める必要があります。

同期入社制度、年功序列、終身雇用といった労働慣行があたりまえで、職務よりも人に対して給与が支払われる企業社会だと、やっぱり経営幹部にとっては「誰についていくか」はとても大切です。なので、早々と後継者候補が明らかになりますと、現社長に批判的な「取り巻き」現象が発生してしまい、現経営陣とうまくいかなくなってしまうケースも出てくるように思います。後継者を3名ほど指名して競わせるのは良いとしても、人に対して給与が支払われる慣行がありますので、後継者に指名されなかった方はどうされるのでしょうか?(米国のように、職務で転職できるのであればよいのですが、日本ではそんな甘くないと思います)。

CEOの選解任手続の明確化、透明化の実施についても同様です。たとえば社外取締役が主導して現CEOの退任を求めたとします。社外取締役が一番苦労するのは「現CEOとの対決」ではありません。現CEOに家族と自分の人生を賭けておられる経営幹部の方々からの厳しい攻撃です。日本の労働慣行が前提であれば、これは当然かもしれません。このあたりは機関投資家の方々にはなかなか理解していただけないと思います。

組織がひとつになって後継者計画を遂行しようとすると、結局は現CEOが退任後も相談役や顧問としてにらみを利かせて(?)社内抗争を防止し、企業活動の効率性を確保する、といった笑えない事態もありえます(なるほど・・・相談役・顧問制度はよく考えられた-日本の労働慣行にマッチした-仕組みなのだなぁと感心します)。よく企業統治改革2.0は「形式から実質へ」と言われますが、その「実質」とは企業だけではどうにも変えることができなくて、日本政府が(どんな選挙結果になろうとも)本気で労働慣行を変える政策を断行しなければ限界があるように思えてきます。

| | コメント (2)

2019年5月29日 (水)

敵対的買収防衛策はまだまだ捨てたもんじゃない?-ヨロズ完全勝訴

当ブログも(おかげさまで?)15年目に突入しましたが、記念すべき1つめのエントリ―(2005年5月4日)は松下電器産業(現パナソニック)の企業買収防衛プランについてのご紹介ネタでした(いま読み返しますと、よく恥ずかしくもなく偉そうなことを・・・笑、この15年の私の進歩はといいますと、世間のコワさを知った、ということかと・・・(^^;;スミマセン)。そういえば2005年当時は「会社法」なる新しい商法が誕生して、種類株式を活用した「ライツプラン」などが流行りだした頃でした。その後は夢真HD事例、ライブドア事例やブルドッグソース事例などの裁判例も出ましたので、大手法律事務所のアドバイスのもとで、事前警告型の買収防衛策を導入する企業が急増しましたね。

ただ最近は企業統治改革のなかで、買収防衛策は株主の圧力によって非継続、廃止されることが多いようです。今朝の読売新聞でも、また先日の日経新聞でも買収防衛策の廃止は総会のトレンドであり、また株価急上昇の要因として取り上げられていました。

そのような風潮の中、一部すでに報じられているように、自動車部品大手のヨロズ社とレノ社(村上世彰氏の実質保有会社とされる)との株主提案権行使に関する仮処分案件で、ヨロズ社が東京地裁でも東京高裁でも完全勝利をおさめたようです(詳しくは5月28日付けヨロズ社のリリースをご参照ください)なるほど・・・、この仮処分裁判にはいくつかの論点がありますが、やっぱり事前警告型買収防衛策って、企業統治改革が進む中でもそれなりの意義がありますね。本件はかなり重要な商事裁判例だと思いますので、今後は法律雑誌にて地裁決定、高裁決定の全文が明らかになるものと思います。その時点でまた詳細に検討したいと思います。

| | コメント (0)

2019年5月28日 (火)

野村HDの不適切情報提供事件は他人事(ひとごと)ではないと思う

本件はFACTA報道(4月号の記事)の時点から気になっておりましたが、事件当事者の方を(某委員会の同じメンバーとして)存じ上げている関係上、ブログネタにすることは控えておりました。ただ、5月24日に野村HDより調査報告書(要旨)が公表されましたので、FACTA4月号の記事と調査報告書を読み比べた感想を「組織論」としての印象だけ書かせていただきます。

メディアでは、2012年の(一連の)公募インサイダー事件以来の野村證券グループの失態と報じられ、今朝の日経社説でも「野村の風土は2012年当時と変わっていない」と批判されております。たしかに野村の関係者に「法令違反」は認められないかもしれませんが、市場の競争を大きく歪める不適切な情報提供であり、大いに反省すべき事件です。ただ、調査報告書を読んでおりまして、「これは他社でもあり得る話ではないか」と、私は思わずゾッとしました。

NRI研究員の方が、野村證券におけるセミナー資料を、野村のストラテジストの方へ送付したわけですが、当該資料送付の際に、メールで「(セミナー資料の一部を変更する理由は)どうも東証の方針がこんな感じになるように思われるからです」と伝えたそうです。このメールを受け取ったストラテジストの方が機関投資家向けに5000件のメールを配信した経緯は報告書記載のとおりです(FACTAの最新号はもっとえげつない感じで書かれていましたが)。この段階ではストラテジストの方は情報源はメールには記載せず、「あくまでも私の主観的な意見、印象です」といったイメージでメールを配信されたものと思います。

ところがこのストラテジストの方が配信したメールに飛びついたのがグループの営業社員で、メール受領後に情報源を問い合わせ、ストラテジストの方から情報源を確認したうえで、FACTA4月号に掲載されている情報源実名入りの営業メールを顧客に送ってしまった、とのこと(このメールがメディアに伝わってしまった・・・ということだと推測します)。

おそらくストラテジストの方が「こんなメールを機関投資家に送ってもよいか?」とひとことNRI研究員の方に確認していれば、まちがいなく今回のことは起きていなかったと思います(NRI研究員の方は「それは絶対マズイ!」と拒否していたでしょう)。しかし、グループの業績が芳しくない中で、社員の皆様が前のめりになっていますので(笑)「セミナー資料の一部ということは、公表してもかまわない、ということだ」「私に説明している以上、公表してもかまわない、ということだ」と自分に都合の良いように情報を受けとめたと思います。これは他社の不祥事の「情報共有の根詰まり」としてよく起きるところです。

さらにストラテジストの方の配信メールを読んだ営業社員も「前のめり」ですから、顧客にできるだけ有力情報を流したい、自分が野村グループの中で中心にいることを示したい、今以上に顧客との信頼関係を築きたい、といった欲望が湧いてきて「主観的な判断」などといったことはメールに記載せず、ストラテジストの方から情報源の秘匿を要求されていない以上は「確かな情報であることを示すためには不可欠」として、なにも考えずに情報源となる実名を書いてしまった、ということだと推測いたします。ちなみに、ひとりの営業社員は「こんなメールを顧客に送ろうかと思いますが、だいじょうぶですか?」と上記ストラテジストの方に送ったのですが、同人からは「判断できない」と回答があったため、そのままメールを送ってしまった、とのこと。

いま、こうやってブログを書いたり、お読みになったりしている瞬間は、頭が冷静ですから「そらアカンやろ!!」と即断できるわけですが、ノルマ達成に忙しかったり、顧客や同僚からの借りを返すことに必死だったりしていれば、バイアスがかかった状況で情報の伝達が行われることが多いはずです。第三者委員会の社員アンケートでは、多くの社員が「そらアカンやろ!!」との回答が返ってきたそうですが、それはアンケートに回答するときは頭が冷静な状況ですから、あまり参考にはならないと思います。むしろ「そらアカンやろ!!」と思っているにもかかわらず、なぜやってしまうのか?という点こそ深堀りしなければならないはずです。

たとえば重要な情報が5人の社員の間で伝達された場合、ひとりひとりが尾ひれ、背びれを付けて伝達しても「虚偽」にはならないかもしれません。しかし最初のひとりの情報と5人目が受けた情報とを比較すれば、最初のひとりは「それは虚偽だ、おれはそんなこと言ってない」となります。これは会計不正でも品質偽装でも、不正競争防止法違反でも普通に起きる「組織の構造的欠陥」です。みなさん、注目されたい、自分の価値を高めたい、人との信頼関係を高めたい、という気持ちがあるから尾ひれ、背ひれはつけるのが当然です。これは本当に恐ろしい。せめて頭が冷静でいられない時でも「まてまて。これって文春に送られない?FACTAやZAITENが飛びつかない?」と(ジョークでもいいから)語り合えるコミュニケーションが不可欠かと。。。

| | コメント (1)

田淵電機のM&Aにおける第三者委員会委員長を務めました。

5月27日付けのダイヤモンドエレクトリックホールディングス(DEHD)及び田淵電機によるリリースのとおり、DEHDが(株式交換により)田淵電機を完全子会社化するにあたり、田淵電機に設置されました第三者委員会の委員長を務めました。京都大学の砂川教授、京都の伊藤会計士らと4月2日より昨日まで審議を続け、ようやく昨日付けで委員会の答申書を会社側に提出いたしました。M&Aにおける第三者委員会の委員長は、ニッセンHD、ダンロップスポーツに続き、3件目でございます。

| | コメント (0)

2019年5月24日 (金)

社外役員の独立性と有事における「追加報酬」の受領

4月25日に経産省HPに公表されました「第7回公正なM&Aの在り方に関する研究会」資料には、近々公表される予定の「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」のドラフトが含まれています。

そこで、ほぼこの内容で指針が出されるものと思って読みましたが、MBOや支配株主による従属会社の買収の場面において、上場会社たる従属会社の社外取締役(社外監査役もほぼ同旨)は、少数株主保護を目的とした特別調査委員会の委員として積極的に関与すべき、とあります。社外取締役が増えることを想定して、社外取締役にこそ、少数株主の利益を守る役割を担ってほしい、との意向が強く出されているようですね。

いろいろと参考になるところが多いのですが、やや意外と思えたのが「社外役員が委員に選任された場合の追加報酬」に関する指針です。

特別委員会がその役割を十分に果たす上ででは、委員に対して支払う報酬は、その責務に応じた適切な内容・水準とすることが望ましい。また、社外役員が特別委員会の委員として職務を行うことは、上記3.2.4.2B)のとおり、社外役員としての職責から期待されることであるが、特別委員会に係る職務には通常の職務に比して相当程度の追加的な時間的・労力的コミットメントを要すると考えられるところ、元々支払いが予定されていた役員報酬には、委員としての職務の対価が含まれていない場合も想定される。そこで、このような場合には、別途、委員としての職務に応じた報酬を支払うことを検討すべきである。

社外取締役や社外監査役の有事における職務は極めて多忙を極めますから、個人的にはとても「うれしい」内容の指針です(笑)。そういえば第2期のCGS(コーポレートガバナンスシステム)研究会実務指針(CGSガイドライン)にも、社外取締役を増やすための対策として、指名委員会・報酬委員会等の委員長や委員を兼務する場合、取締役会議長を務める場合、筆頭社外取締役を務める場合には、適切な水準の報酬となるように検討すべき、とありました。業績連動型報酬を社外役員に検討してもよい、というのもありますね。現在のLIXILグループの状況などをみてもわかるように、他の仕事はそっちのけで、社外取締役としての職務を全うしなければならない状況(まさに有事)もあるので、「追加報酬」というのもアリなのかな・・・と考えたりします。

このような「追加報酬制度」が実務慣行になることは個人的にはうれしいのですが、社外役員の独立性といった視点ではどうなのでしょうかね?大株主が実質支配する会社から追加報酬をもらいながら本当に少数株主保護に全力になれるのか、中長期的な企業価値向上に資するためのインセンティブを受領しながら経営者の暴走を止めることはできるのか、ステイクホルダーへの説明責任を果たすための役割を担いながら、会社のリスク管理(レピュテーションリスクの低減)を優先するような対応になってしまわないだろうか・・・疑問は尽きません。

東証の企業不祥事対応のプリンシプルが公表されて以来、不祥事発生時の特別調査委員会に社外役員の委員が選任されることも増えましたが、そういった社外役員にも今後は「追加報酬を支払うべき」といった意見が出てきそうな気がしております。いずれにしても、社外役員の報酬開示のなかで「追加報酬に関する注記」などが増えそうですね。

| | コメント (1)

2019年5月23日 (木)

事業ポートフォリオ・マネジメントの在り方と富士フイルムの経営判断

(末尾に追記あり)

一昨日のエントリーには多数のコメントをいただき、ありがとうございました。本日も引き続き、経産省HPにリリースされております「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(仮)」に関連した話題です。親会社の子会社管理のひとつとして、当リリースに「事業ポートフォリオ・マネジメント」に関する指針が記載されています。当該指針には、コングロマリット・ディスカウントを回避するために、多様な事業を抱えた企業は、事業の将来性を検討しつつ、リソースの最適配分(選択と集中)に注力すべし」といった内容が含まれています。

CFOの方々からも同様の意見を拝聴することがありますが、上記はあくまでも指針であり、取締役が善管注意義務を果たしたと言えるためには、経営判断としては慎重な対応が必要ではないかと思います。以前、当ブログでも少しだけ紹介しましたが、富士フイルムもコダックも、1990年代に事業の多角化を進めていましたが、コダックは米国市場の株主からの圧力(集中と選択)により、多角化を断念し、3M(スリーエム)の株式買収等による本業特化を進めたそうです。その結果として、多角化を進めた富士フイルムは業績を向上させ、コダックは低迷してしまったことはご承知のとおりです(セブン&アイホールディングスの社外役員でいらっしゃるルディー和子氏の新書「経済の不都合な話」より)。

機関投資家はポートフォリオの生成・見直しのプロですから、そもそも上場会社が多様化を進めることの合理性は「私たちはプロのあなたたちよりも財務シナジー、事業シナジー両面において上手に発揮・向上させる自信があります。なぜなら・・・」と、理由を説明できなければならないはずです。その説明ができなければ、コダックのように「資本コストを上回る事業として存続しうるかどうか見極めて、自信がなければスピンアウトせよ」といった圧力に負けてしまう可能性が出てきます。ルディー氏の前記ご著書によると、1990年代から2000年にかけて、コダックの株主還元率は147%に対して富士フイルムは11%、その低い株主還元率のおかげで富士フイルムは8000億円ものキャッシュを積み上げ、自己資本比率は70%に及んだ、とのこと。そのときに7000億円をM&Aに活用できたことが大きな要因と思われます。

20年前と現在とでは、上場会社の株主に対する向き合い方が大きく異なりますが、ガバナンスコードや実務指針に単純に従うのではなく、たとえ株主の要望に反する経営判断であったとしても、当該戦略を当社が採用する理由をきちんと説明できることが重要だと思います。1990年代はマイケル・ポーター「競争の戦略」論が幅を利かせていた時代ですが、こういった戦略論の支柱となる理論とは、いったいどのようなものなのでしょうか?

PS コメント欄にHenryさんの有益な参考意見が示されておりますので、そちらもご参照ください。

| | コメント (2)

2019年5月21日 (火)

監査役への優先報告-経営者は「不正の疑惑」をもみ消すのだろうか?

5月20日の日経朝刊3面には「不祥事、監査役に優先報告」なる見出しで、経産省が新たにまとめるグループ会社企業統治指針の内容について報じていました。企業の内部監査部門において「経営陣の関与が疑われる不正」を確認した際、経営陣ではなく監査役への報告を優先させる規定を、社内で設けるように(同指針では)企業に要請するそうです。

記事によりますと、経営者に不正疑惑を報告してしまっては、不正がもみ消されてしまう可能性があるから、とのこと。ただ、条件反射的に危惧しますのは「では(現実問題として)監査役はもみ消さない・・・という理由(保証?)はどこにあるのか?」といったところかと。この指針を設けるのであれば、どんなことがあっても不正の兆候を見つけた監査役さんは、辞任覚悟で経営者の不正を調査することは当然、といった監査環境が整備されることが必須です。

さて、そのような「監査役の独立性」に関する話題は別としまして、企業内の不正調査を長年経験しておりますと「内部監査部門が経営者に不正の疑惑を報告するともみ消されてしまう」というのは、やや短絡的な発想のように思えます。上場会社クラスの経営者として、内部監査部門から「不正の疑いがある」との報告を受領して、これをもみ消すことができるほどの胆力のある経営者とは、オーナー経営者を除き、ほとんどお目にかかったことがありません。

出世競争を勝ち抜いて社長になった方は、内部監査部門から「不正の疑いがある」との報告を受けた時、「そうか、了解した。しかし仮にそれが真実だとしても、会社の存亡にとって重要性があるほどのことなのか」と問い詰めて、最終的には内部監査部門が「いえ、たいしたことではありません」と認めさせることが多いはず。中には「御用監査役」の力を活用して「なんなら常勤監査役にも相談してみてはどうだろう。そのうえで判断するよ」などとおっしゃる経営者もいらっしゃいます。つまり「もみ消す」のではなく、内部監査部門に自ら再考させる(納得させる)、というのが実態です。

内部監査部門の意見を聞いて「そうだろ。たいしたことではないだろう」となりますと、今度は経営者は「内部監査部門のお墨付きをもらったのだから、正しい行為として間違いない」と自信を持ちます。これは監査役と社長とのやりとりでも同じでして、「ほれみろ、監査役が『重要性はないので不適切とまでは言えない』と判断しているんだから、不正行為の故意も過失もないことのお墨付きをもらった。後で問題になったとしても、故意も過失もないよね」と考えます。

つまり、経営者は「不正の疑い」をもみ消すのではなく、そもそもなかったというアリバイ作りを行うのが常道であり、そのアリバイ作りに協力してくれる監査役、内部監査部門こそ社長に好かれるのです。また、監査部門の方々が、たとえ就任当初は高い志を持っていたとしても、そのうち独立性を保持できないような体制に慣れてしまいますと、「重要性バイアス」にとりつかれてしまうのが現実ではないでしょうか。この現実を直視して、(経営陣に対抗しうる)監査部門の実効性をどのように高めるべきか・・・というところに工夫が必要です。

先日、「内部監査は『経営監査』が重要であり、不正監査とは別のスキルが必要」と申し上げましたが、そもそも儲けることにメリットのある監査報告を提出しなければ、経営者は内部監査に一目置かないことが多い。まずは内部監査と経営陣との適度な距離感を作ったうえで不正リスクに関する情報を上げなければ、経営者は内部監査部門の意見を尊重しないと思うのです。ということで、あらためて内部監査部門は攻めのガバナンスにも、守りのガバナンスにも極めて有用な組織だと考えるところです。

 

| | コメント (6)

2019年5月20日 (月)

MTG社の不適切会計疑惑-「監査の品質」リスクへの企業対応

私が今年、第三者委員会委員長を務めました日住サービス社の代表取締役の方が、日経ビジネス最新号(5月20日号)「敗軍の将、兵を語る」に登場し「多重不祥事で覚悟の出直し」を語っておられます。委員会が指摘した「不正の根本原因」に真正面から向き合い、再発防止策をひとつひとつ実行しておられる姿を拝見し、とてもうれしく思いました。独立系の住宅関連サービス業界の経営環境は、まだまだ厳しいようですが、ぜひとも競争力を回復されることを祈念しております。

さて、本日はすでにいろいろなメディアでも話題となっておりますMTG社の「不適切会計の疑義判明」に関する件です。5月13日の同社リリースによりますと、会計監査人による四半期レビューの「審査の過程で」会計監査人から疑義を出され、再度の調査の過程で会計処理に問題が見つかった、とのこと。東洋経済ニュースによりますと、5月10日の決算短信の時点では、同社の担当役員が「問題ありません」と述べておられたそうなので、(決算短信には会計監査人の結論表明は不要ですが、通常は四半期レビューの結論表明を確認しているでしょうから)同社経営陣に大きな衝撃が走ったことは想像に難くありません。

いつもMTG社の経理部門と顔を合わせている監査法人の現場担当社員の方々は、「まあ、この程度であれば問題ないだろう」ということで会社側の会計処理(もしくは会計処理の変更手続き)を追認してしまうことも多いと思います。しかし、監査における不正リスク対応基準の策定後、東芝事件を契機として、さらなる監査の品質の向上が強く要請されるようになりました。大手の監査法人は、監査法人版ガバナンス・コードの遵守を宣言しており、監査法人全体の品質だけでなく、個々の担当社員の監査品質についても目を光らせるようになりました。

しかし、大手の監査法人のパートナーの方々が法人内で業績評価を受けるには、自身がどれだけ多くの監査法人を担当し、売り上げに貢献しているか・・・といった点も重要だと思います。そこで、現場の担当者は「まあ、今年はOKだけど、来年への宿題は残っていますよ」といった感覚でレビュー手続きを進めてしまうのではないでしょうか。しかし、上記のとおり大手監査法人の「監査の品質」への意識が向上していることもあり、現場と審査部門との「職業的懐疑心に基づくレビュー」の認識に食い違いが発生することも当然にあるものと推察されます。MTG社の場合、収益認識時期に関する解釈が問題となるようなので、監査法人の現場責任者の方々は会社側の解釈に押されてしまう、ということも普通にありうるのではないでしょうか。

たとえば会計不正の疑義が生じた場合、社内調査委員会で対応すべきか、第三者委員会で対応すべきか・・・といった判断にも、現場と審査部門で認識の差が生じるケースがあります。今回は、MTG社の不適切会計疑惑事例の中で露呈しましたが、今後はどの上場会社においても(表現はやや不適切ですが)「監査の品質」リスクが顕在化する可能性は高いものと考えております。もちろん、監査法人内のコミュニケーションが円滑であれば大事には至らないと思いますが、「こんなことになるんだったら、中堅の監査法人に会計監査人を交代してもらおうかな」と考える上場会社も出てくるかもしれません。ということで、今回のMTG社の事例については、第三者委員会の報告結果に基づき、会社側がどのような対応をとるのか、とても興味深いところです。

| | コメント (0)

2019年5月16日 (木)

GCフォローアップ会議における「内部監査」の議論はもっと深化させるべきである

ときどき内部監査部門の方々に向けた講演をさせていただくのですが、かつては「先生の話を聴いて失望した、時間のムダでした」「今日の話は20年前の内部監査ですよね(苦笑)」「先生はあまり実務をご存知ないようにお見受けしました」とのご異論・ご批判をたくさん受け、何度か悲しい思いをいたしました。とりわけ最近のCOSO-ERM(改訂版)や「三線監査(スリーディフェンス・ライン)」などを熱心に勉強されておられる大手企業の監査部門の方には厳しい意見を頂戴しておりました。「指導機能と保証機能くらいは理解してるつもりなのだが、どこがずれているんだろう」と思い、様々な監査実務担当者の方に教えを請い、ようやく最近は「経営監査」と「一般監査」の区別をほんの少しばかり理解するようになりました(ようやく、ズレずにお話ができるようになりました!)。

ところで、金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第19回)議事録及び資料が公開されておりまして、なかでも金融庁開示課の方が作成された意見書を拝見したのですが、そこでは「これからのコーポレートガバナンスの課題(監査に対する信頼性の確保)」として、内部監査の在り方が検討されています。そして「ガバナンス・コードの時代における内部監査はこうあるべき」と示された内容は、私がかつて内部監査部門の方々からご批判(いや嘲笑?)を受けていた内容とほぼそっくりなので、やや心配をしているところです。

内部監査は「守りのガバナンス」だけでなく「攻めのガバナンス」にも役立つもの、いやむしろ企業が中長期の企業価値向上のために投資家と対話をするために不可欠なもの、つまり「攻めのガバナンス」に必須なシステムとみるのが企業統治改革時代の「内部監査の在り方」です。経営目標達成の可否を判断し、その達成を確実にするための有効な施策を監査先責任者に助言し、監査の結果及び提供した助言を経営者に報告して、適切な経営判断および変更に貢献するのが内部監査人の本分です(日本内部監査協会で長年講師を務めておられる元三菱商事監査部長の川村眞一氏のご著書「取締役・監査役・監査部長にとっての内部監査(改訂版)はしがき を参考にしております)。

内部監査部門が不正を見つける、といったことが本分ではなく、経営者の代理人として、中長期計画の実施状況を経営者がきちんと把握できるような体制が整っているのか、経営者の施策が現場でムリ、ムラ、ムダなく実施されているのか、もし問題があるのであれば修正で足りるのか、やり直すべきなのか、といったことを監査・報告する(経営監査)からこそ内部監査人は正当な人事評価を得られますし、社内でもキャリアパスの一環として尊重されます。現場作業がルールに適合しているかどうかを指摘するのではなく、現場のルールの要否(不要であれば削除を提言)を指摘できるからこそ経営者に尊重される内部監査部門になります。

社長の直属として内部監査部門を置くか、監査機関の直属とするかといった議論がありますが、経営者に対する監視は監査役、監査等委員、監査委員が、その職務を補助すべき使用人を指揮して自分で行うのが適当であり、内部監査人はもともと補助者にしてはならない、というのがコーポレートガバナンス・コード時代の内部監査とされています(前記 川村氏のご著書「はしがき」より)。したがって内部監査人の報告は取締役会に行うものとされています。だからこそ、内部監査部門に有能な社員が配属される機運が高まりつつあるのが現状です。

内部監査人が寄与すべきなのは「不正予防」なのか「早期発見」なのか、といった議論もありますが、まずなによりも重要なのは「企業のアカウンタビリティ(説明責任の履行)に資する経営監査をどう構築すべきか」という点です。このあたりのご議論が、フォローアップ会議の議事録を拝見してもまったく出てきておりません。内部監査人にとって、不正を発見するスキルと経営監査のスキルは全く異なり、またそれぞれ高い見識を必要とします。ガバナンスを「稼ぐ力を取り戻す」ために議論しているのに、上記のような内部監査部門の進行形が全く議論されないのはとても残念です。このまま指針が改訂されてしまうと、内部監査の実務家の方々が目指す方向と大きなズレが生じてしまうのではないでしょうか。いまからでも遅くないと思いますので、内部監査の在り方については、もっと企業実務家の方の御意見をお聴きになってはいかがでしょうか。

| | コメント (3)

2019年5月14日 (火)

VUCA時代における「失敗から学ぶ」企業のリスクマネジメント

さきほど(5月13日午後10時)、日経ニュースで「大塚勝久氏、久美子氏の設立団体の名誉会長職就任を辞退」と報じられ、その理由が「むずかしい立場にありながら、匠大塚への協力を惜しまなかった取引先への感謝の気持ちを大切にしたい」とのこと。取引先と従業員との違いはありますが、昨日のブログで書いた予想がほぼ当たっておりまして、やはり勝久氏は経営者だなあと改めて感心いたしました。

また、話題は変わりますが、LIXILさんの会社側取締役選任候補者が発表されたそうですが、「取締役8名選任に関する件」となっています。LIXILさんの定款では取締役の人数上限は16名ということで、いよいよややこしいことになってきました。会社側8名、株主側8名の「取締役選任の件」は(2名が候補者として重複しているので実質は14名ですが)、いずれも「議題」として両立しそうです。つまり議題が2つとすれば14名の取締役が選任される可能性があります(株主側は「8名が一体として選任されることに意味がある」とのべておられるのは、こちらの解釈でしょうか。そこに修正動議ということも考えられます)。また、議題を一つとして「14名の候補者の中から8名を選任する」という取扱いも可能ですから(会社側はこちらの解釈をとるのでしょうか)、そうなりますと双方から重複して候補者とされている方々は、就任承諾をどうするか・・・という点にも慎重な配慮が必要になりそうです。総会検査役も巻き込んで、委任状争奪戦に向けて双方の戦略が練られることになるのでしょうね(ということで、ようやく本題です)。

本日は、過去に大きな不祥事を起こした某メーカーさんのコンプライアンス研修に、公認会計士のコンサルタントの方と行ってまいりました。同社に伺って感銘を受けたことが二つありました。

ひとつは「過去の失敗記念館」の存在です。企業の存亡に関わる重大不祥事を決して風化させてはいけない、ということで不祥事を発生させた製品の一群が飾られ、当時の生々しいマスコミ報道記事の多くがそのまま「切り抜き」として、大きな額に飾られていました。海外からゲストが来られたとき、新しい社員を迎えたときに、この記念館を回って紹介されるそうです。あまりに立派なモニュメントに驚きました。

そしてもう一つが「リコールの要否」に関するディファクト・スタンダードの転換です。重大不祥事が発生する前までは、リコールを不要とするほうを標準として、必要とする根拠事実が積みあがった場合にリコールを決定していたのですが、重大不祥事発生後はこれを180度転換し、現場から上がってきた事実については原則としてリコール必要とする、もし不要とすべき根拠事実が積みあがった場合には取締役会に上げ、そこで審議事項として社外役員も含めて要否の最終審議を行う、というもの。私には目に見える「記念館」の存在よりも、こちらの内部統制の運用転換のほうにたいへん感銘を受けた次第です。

VUCA( ブーカ、Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)の時代背景がますます濃厚となり、どこの企業でも不正リスクの顕在化は避けられません。企業が立ち直れないほどの不祥事は困りますが、私は失敗を繰り返す企業のほうが「予測困難な時代」には失敗をしていない企業よりも組織として強いと考えています。なによりも「不正リスクが顕在化した際の『ぶっつけ本番』の思考力や胆力」が養われていますし、また上記某メーカーさんをみていても、過去の失敗によって守りだけでなく、攻めの組織力も強化されるからです。過去の成功体験にとらわれず、大胆なガバナンス改革やESGへの取り組みを敢行する姿勢は、どうみても重大不祥事を契機にしたものとみられます。

仕事柄、過去に大きな不祥事を発生させた企業のコンプライアンス委員を務めたり、研修に伺ったりするわけですが、「またこの会社は重大な不祥事を起こすだろうな」と感じる組織と、「失敗を糧に以前よりも競争力が強くなった」と感じる組織に分かれます。とりわけVUCAの時代となり、その傾向は強くなっていると感じております。どこを見ればその差がわかるのか・・・いう点については、私の拙い観察による持論がありますが、それはまた別途講演等でお話させていただこうかと思っております。失敗はないに越したことはありませんが、でもやっぱり失敗は組織を強くします。

| | コメント (0)

2019年5月13日 (月)

4年ぶりの父娘対面-大塚家具と匠大塚の和解などありえない(と思う)

4月26日、4年ぶりに父(匠大塚会長)と娘(大塚家具社長)が対面した様子から、マスコミは「父娘の和解進展か?」と報じています。私も対面の様子をニュースで拝見しましたが、大塚家具の社長さんの笑顔とは裏腹に、対面の際、父である勝久氏は表情を変えませんでしたね。笑顔は同伴されていた大塚家具関係者の方のほうに少しだけ向けていました。これを契機に、マスコミも含めて、関係者の多くは父と娘の再会とビジネス上の和解を望む声が上がっています。

私も娘を持つ親として(?)和解してほしいなア・・・とも思うのですが、とてもじゃないけどビジネスとしての大塚家具と匠大塚の和解はありえないと考えています。6年前に発生した紛争は、親族だけでなく、多くの社員の人生を変えました。大きなリスクを背負いながら、社員はどっちについていくべきか悩み、選択に至ったわけです。本家に残った社員も、父とともに新たな会社に移った社員も、おそらく現状を受け入れて生活を送っておられると思います。中には見切りをつけて退職された方もいらっしゃるのではないかと。そういった状況の中で一組の親子の関係解消といった事情によってビジネスを変えるというのは、双方の社員の気持ちを考えると到底むずかしい。都心に一号店を構え、「さあ、これからだ」といった気持ちの匠大塚社員の面前ならばなおさらです。あの対面の際の勝久氏の表情は、そういった組織の事情をそのまま映し出していたと思います。

5月9日の文春オンラインのニュースでは、勝久氏自身も「会社が一緒になることはむずかしい」とインタビューに回答しておられます。週刊文春5月16日号の関連記事も読みましたが、大塚家具社長の実弟(匠大塚社長)の方が「久美子さん」という呼び方でインタビューに応じているのが印象的でした。資産管理会社を訴訟に巻き込み、さらには本家大塚家具の委任状争奪戦にまで至った騒動を経験すれば、親族の間でも和解はむずかしいようです。ビジネスの上では到底和解が困難だとすれば、あとは誰にも気づかれないところで(ひっそりと)父娘での個人的な仲直りができればいいな(でもそれをマスコミは報じてほしくないな・・・)と、個人的には願うところです。

| | コメント (0)

2019年5月 8日 (水)

LIXILのM&Aを社外取締役は阻止できただろうか?-伊子会社買収事例をもとに

5月8日、LIXILグループでは取締役候補者を決定する指名委員会が開催されようです。半数程度(過半数?)は独立社外取締役が候補者となるようですが、同社で社外取締役が機能するためには、まず会社としてやるべきことが3つあると思っています。

ひとつは2012年に買収したペルマスティリーザ社(LIXILグループが買収したイタリアの住宅設備会社)とのシナジー効果がなぜ得られなかったのか検証すべきです(いろいろとネットニュースを調べましたがわかりませんでした※)。中国の子会社については粉飾が判明した、ということで理解できましたが、こちらのニュース(投資家向けIR)にあるように、ペルマ社を買収した当時の経営判断としてはとても合理的な戦略だったと思われます。そこで、まずこの伊子会社買収の問題点を冷静に総括する必要がありそうです。なお、私なりにはライバル会社TOTOの代表者のインタビュー記事が参考になるように思いました。

※・・・LIXILグループは,イタリア子会社ペルマスティリーザ社における事業規模縮小や確実なキャッシュフロー経営への転換を図る再生計画を策定しましたが,事業環境の変化についてIFRSに基づく減損テストを実施し,のれんを含む無形資産の減損等245億円を計上しました。

そしてふたつめが、LIXILグループではこれまでも著名な方々が社外取締役として就任されていましたが、「ペルマスティリーザ買収は正しい判断だったかもしれないが、現状の判断として、事業ポートフォリオの見直しが必要ではないか、ペルマは売却すべきではないか」との意見を誰かが出さなかったのか・・・という点への回答です。もし出せなかったとすれば、その理由は単に「潮田氏に対する遠慮があった」ということでしょうか。先日の潮田氏の会見内容からすると、このペルマの売却に関連して潮田氏と瀬戸氏との認識の相違があったようです。しかし、遠慮があったとしても、重要な事業戦略の決定方針で潮田氏と瀬戸氏の対立がたびたび生じていたということ(調査報告書より)であるなら、社外取締役が中心になって経営トップの人事を決定すべきではなかったか。まさか社外取締役がトップ二人による話し合いでの解決を期待していた、ということではなかったのか。そうであるならば、遠慮があったのは潮田氏に対してではなく、むしろ会社に対してではなかったのか。

そして最後に「独立社外取締役の行動指針の策定」です。私には会社側、株主側、どちらの推薦する取締役候補者が選任されるのか予想もつきませんが、いずれにしても「この会社の社外取締役は、どのような役割を期待されているのか、期待された役割をどのような方法で果たしていくのか」選任された時点で明らかにしたうえで「LIXILグループ独立社外取締役行動規範」を策定し、これを開示することが必要だと考えます。選任指針は多くの上場会社で策定していますが、行動指針まで策定している会社は少ないのが現状です。これまでLIXILグループがコンプライしてこなかった独立社外取締役だけの定例会議の実施や筆頭社外取締役の選任もしっかり実行して、社外取締役の独立性を高めることが必要だと思います。

| | コメント (0)

2019年5月 7日 (火)

令和の時代の戦略法務-御社はプラットフォーマーになれるか?

GW期間中も通常どおりに執務しておりましたので、あまり読書も進みませんでしたが、「令和時代の戦略法務」について考えさせられる論稿がございました。ひとつはビジネスロー・ジャーナル6月号「法の『グレーゾーン』を乗り越えるためのルールデザイン」(株式会社メルカリの社内弁護士の方のご論稿)、そしてもうひとつは月刊「世界」5月号「歪められる政策形成-企業ロビイ 新たな利権構造」(NPO法人アジア太平洋資料センターの共同代表者の方のご論稿)です。

日本企業の法務部(法務課)や法務担当役員といえば、リスク管理を中心とした守りの役割、重要だが売上に寄与しないセクション、といったイメージが強いのですが、法創造や法改正への働きかけ(ロビイ活動)によって、自社をルールメイキング上でプラットフォーマー化する(自社にとって有利なルールを普遍化させる)、自社の主戦場におけるレッドオーシャンをブルーオーシャン化する、といったことへの(欧米企業における)法務の役割を考えさせられます。最近話題になっているアマゾンの「所得税支払いゼロ、還付金1億ドル」というのも、世間からの批判はさておき政府に対するアマゾンのロビイ活動(所得税減税政策への働きかけ)によるものですね。

ビジネスロー・ジャーナルのご論稿ではマイクロソフト社による政府への働きかけ、そして月刊「世界」のご論稿では昨年12月に衆議院本会議で成立した「水道法改正案」や浜松市「上水道事業でのコンセッション方式採用」に関する一連の経緯からみた大手監査法人(コンサルタント部門)のロビイ活動が印象的です。中長期の事業戦略に株主の関心が集まる時代となり、自社ビジネスモデルを取り巻く将来の経営環境、同業他社と比較したビジネスモデルの優位性を株主に説明するためにも、法務部門や法務担当役員はまさに「企業の成長」と緊密に関わる組織だと感じます。

驚いたのは人事交流と資金力を中心とした欧米企業やロビイストの活動です。企業の事業拡大を企図したロビイ活動(コンサルタントによる事業)と、そのロビイ活動の適正性を監視するNPO団体の活動が、欧米では近年極めて活発化しているのですね。このような海外のロビイ活動が、すでに日本でも活用されはじめているようです。ただ残念ながら日本ではまだ監視機構を担うNPO団体は存在しない、とのこと(日本ではこのようなNPOに寄付金が集まらないのでやむをえないところかと・・・)。

ここのところGAFA規制問題を拙ブログでも何度か取り上げていますが、ESGやSDGsを行動規範に置く経営環境の変化や日本政府による独禁法・個人情報保護法の規制強化が進みますと、ますます「リスクをチャンスに変える」GAFAの強さが際立つものと確信しました。一刻も早く、日本企業も「戦略法務」の在り方を研究・実践しなければ取返しのつかない事態になってしまうと思います。少なくとも、日本企業が従うべきルールは(グローバルの行動規範と日本文化や法規範とのバランスを図りつつ)日本企業が作るべきであり、ルールの運用面におけるプラットフォーマーとしての地位は海外政府や海外企業に譲ってはならない。

戦略法務の実力を高めるためには、(良くも悪くも)何度も失敗を重ねて「グレーゾーンはどこまでシロにできるか」「いけそうでも踏み込んではいけないグレーゾーンはどこなのか」「公共の利益と自社の利益をどう調査させるか」といった組織的判断を実践する必要があります。したがって敗者復活戦や健全なリスクテイクの発想が組織風土として存在することが前提になりそうですね。

| | コメント (0)

2019年5月 1日 (水)

金融財政事情(令和と歩む金融経済・特集号)に論稿を掲載いただきました。

1260134_o 週刊金融財政事情「『令和』と歩む金融経済」(4月29日・5月6日合併特集号)におきまして「真に社外取締役に期待すべき役割とは」と題する論稿を掲載いただきました。

令和特集号ということで執筆陣がとても豪華な顔ぶれです(「目次」が掲載されているきんざいストアさんのHPはこちら)。謙遜でもなんでもなく、私の拙稿を掲載しても大丈夫なのかとも思いますが、日本経済の活性化に寄与するための社外取締役の「あるべき姿」を私なりの視点から考察した内容です。独立社外取締役に求められる役割についての「期待ギャップ」(世間一般と法政策との間における期待ギャップ)に焦点をあてております。

ぜひとも多くの皆様にお読みいただき、ご意見を賜れればと存じます。令和の時代となり「社外取締役2.0」が求められることは間違いないわけで、その「あるべき姿」は今後も模索していきたいと考えております。

| | コメント (0)

« 2019年4月 | トップページ | 2019年6月 »