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2019年5月16日 (木)

GCフォローアップ会議における「内部監査」の議論はもっと深化させるべきである

ときどき内部監査部門の方々に向けた講演をさせていただくのですが、かつては「先生の話を聴いて失望した、時間のムダでした」「今日の話は20年前の内部監査ですよね(苦笑)」「先生はあまり実務をご存知ないようにお見受けしました」とのご異論・ご批判をたくさん受け、何度か悲しい思いをいたしました。とりわけ最近のCOSO-ERM(改訂版)や「三線監査(スリーディフェンス・ライン)」などを熱心に勉強されておられる大手企業の監査部門の方には厳しい意見を頂戴しておりました。「指導機能と保証機能くらいは理解してるつもりなのだが、どこがずれているんだろう」と思い、様々な監査実務担当者の方に教えを請い、ようやく最近は「経営監査」と「一般監査」の区別をほんの少しばかり理解するようになりました(ようやく、ズレずにお話ができるようになりました!)。

ところで、金融庁の「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第19回)議事録及び資料が公開されておりまして、なかでも金融庁開示課の方が作成された意見書を拝見したのですが、そこでは「これからのコーポレートガバナンスの課題(監査に対する信頼性の確保)」として、内部監査の在り方が検討されています。そして「ガバナンス・コードの時代における内部監査はこうあるべき」と示された内容は、私がかつて内部監査部門の方々からご批判(いや嘲笑?)を受けていた内容とほぼそっくりなので、やや心配をしているところです。

内部監査は「守りのガバナンス」だけでなく「攻めのガバナンス」にも役立つもの、いやむしろ企業が中長期の企業価値向上のために投資家と対話をするために不可欠なもの、つまり「攻めのガバナンス」に必須なシステムとみるのが企業統治改革時代の「内部監査の在り方」です。経営目標達成の可否を判断し、その達成を確実にするための有効な施策を監査先責任者に助言し、監査の結果及び提供した助言を経営者に報告して、適切な経営判断および変更に貢献するのが内部監査人の本分です(日本内部監査協会で長年講師を務めておられる元三菱商事監査部長の川村眞一氏のご著書「取締役・監査役・監査部長にとっての内部監査(改訂版)はしがき を参考にしております)。

内部監査部門が不正を見つける、といったことが本分ではなく、経営者の代理人として、中長期計画の実施状況を経営者がきちんと把握できるような体制が整っているのか、経営者の施策が現場でムリ、ムラ、ムダなく実施されているのか、もし問題があるのであれば修正で足りるのか、やり直すべきなのか、といったことを監査・報告する(経営監査)からこそ内部監査人は正当な人事評価を得られますし、社内でもキャリアパスの一環として尊重されます。現場作業がルールに適合しているかどうかを指摘するのではなく、現場のルールの要否(不要であれば削除を提言)を指摘できるからこそ経営者に尊重される内部監査部門になります。

社長の直属として内部監査部門を置くか、監査機関の直属とするかといった議論がありますが、経営者に対する監視は監査役、監査等委員、監査委員が、その職務を補助すべき使用人を指揮して自分で行うのが適当であり、内部監査人はもともと補助者にしてはならない、というのがコーポレートガバナンス・コード時代の内部監査とされています(前記 川村氏のご著書「はしがき」より)。したがって内部監査人の報告は取締役会に行うものとされています。だからこそ、内部監査部門に有能な社員が配属される機運が高まりつつあるのが現状です。

内部監査人が寄与すべきなのは「不正予防」なのか「早期発見」なのか、といった議論もありますが、まずなによりも重要なのは「企業のアカウンタビリティ(説明責任の履行)に資する経営監査をどう構築すべきか」という点です。このあたりのご議論が、フォローアップ会議の議事録を拝見してもまったく出てきておりません。内部監査人にとって、不正を発見するスキルと経営監査のスキルは全く異なり、またそれぞれ高い見識を必要とします。ガバナンスを「稼ぐ力を取り戻す」ために議論しているのに、上記のような内部監査部門の進行形が全く議論されないのはとても残念です。このまま指針が改訂されてしまうと、内部監査の実務家の方々が目指す方向と大きなズレが生じてしまうのではないでしょうか。いまからでも遅くないと思いますので、内部監査の在り方については、もっと企業実務家の方の御意見をお聴きになってはいかがでしょうか。

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コメント

フォローアップ会議19回議事録を読むと、池尾座長が注目すべき発言を行っています。「座長として、自己批判した上で、おわびしなければいけないんですが、「守りのガバナンス」に関して、まとまって議論する機会を、これまで持てなかったということがありまして、それゆえ、この7行ぐらいしか書けないということになっているということです。いずれ、コーポレートガバナンス・コードに関しても、再検討というか、見直しのサイクルが始まると思いますので、その際には、守りのほうについても、そろそろ、かなり本格的な議論をすべきだと思います。」

ここで仰せの「内部監査の議論はもっと深化させるべきである」を是非実現して頂きたいと思います。しかし、経営監査は重要ですが、その在り方は様々な考えがあり、未だ未決着だと思います(某研究会のフォーラムの名称は10年前から「これからの経営監査を考える会」です)。「むしろ『攻めのガバナンス』に必須なシステムとみるのが企業統治改革時代の『内部監査の在り方』」とか、「経営者に対する監視は監査役等が、その職務を補助すべき使用人を指揮して自分で行うのが適当であり、内部監査人はもともと補助者にしてはならない、というのがCGコード時代の内部監査」などと単純に言えるのかは正直疑問がありますが、大いに議論すべきところです。

フォローアップ会議では、併せて下記の問題についても本格的に議論して頂きたいと思います。
・監査役等と内部監査の連携の深化、とりわけデュアル・レポートラインの確立
・内部監査の法制化
・監査役等の指名・報酬決定プロセス
・内部統制報告制度の実効性向上
その際に、監査役等や内部監査部門の代表をフォローアップ会議のメンバーに加えることが、不可欠でしょう。前回のCGコード改訂時に、監査役の資質・能力問題が議論されたにも拘わらず、監査役等の意見は殆ど反映されませんでした。その轍を踏まないように是非お願いしたいものです。

投稿: いたさん | 2019年5月18日 (土) 01時04分

川村氏のいう経営監査モデルは、日本監査役協会が理想と仰ぐ、米国IIAにおける理想像を言っているに過ぎず、独立した守りの内部監査体制すらできていない多数の日本企業には2段、3段飛びの夢でありましょう。
因みに、フランスの会社には守りの内部監査とは別に、CEO直属の超エリート部隊の監察部門があって、まさにCEOの代理人として部門長を直に指示するようになっているようです。エリート社会のフランスらしいですが、日本軍の大本営参謀みたいなものでしょうか。
無論、一部の先端的かつ志高い経営者を頂く会社はその道を極めていただくのは結構ですが、そうでない会社ではステップを踏まないとミイラ取りがミイラになる結果を招くのがせいぜいかと思います。

投稿: 減らず口 | 2019年5月24日 (金) 16時54分

そういえば、スキャンダル前の「最先端のコーポレートガバナンス体制」であった東芝は、「経営監査部」という名称の部署をもっていましたね。今は、「内部監査部」という名称に変わっています。守りの内部監査もできなかったのに、攻めの経営監査をやろうとしていたんでしょうか。

投稿: 減らず口 | 2019年5月29日 (水) 17時31分

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