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2019年6月29日 (土)

ベネッセ情報流出事件-親会社に初の賠償命令(内部統制の視点から)

ベネッセ情報流出事件については、いくつかの裁判がありますが、6月27日にベネッセ本体の賠償義務を認めた東京高裁判決が出たそうです(朝日新聞ニュースはこちら)。当判決の原審でもベネッセ本体の過失責任を認めていますが、原告には損害がないとして賠償請求は棄却されていましたね。

情報取扱事業者に直接委託をしていたベネッセの100%子会社の過失とベネッセ本体の過失とは内容が異なるのではないか(そもそもベネッセ本体に過失を認めるのはどうなのか)・・・と、原審の報道時には疑問をもっておりましたが、どうも日経や読売のニュースを読むと、東京高裁は「ベネッセには関連会社を適切に監督する責任がある」と判示しているようです。100%子会社とベネッセとは共同不法行為として原告に連帯責任を負うものと考えられますが、そうなりますとベネッセ本体がどのような法的根拠によって過失ありとされたのか、親会社の過失認定が、親会社取締役の情報セキュリティ体制整備義務(内部統制構築義務の一環)違反とどのような関係に立つのか、とても興味が湧いてまいりました。

奇しくも6月28日、経産省からグループ・ガバナンス・システムに関する実務指針が公表されました。グループ会社の経営管理に関するガイドラインが、今後の法人や役員の法的責任にどのような影響を及ぼすのか、このような重要判決を参考にして検討したいと思います(どなたか判決文をPDFで頂戴できればありがたいのですが・・・)。

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2019年6月27日 (木)

LIXILグループ支配権争奪戦とコーポレートガバナンス改革の限界

自分が当事者の株主総会が続き、新聞もネットニュースも確認する時間的余裕がほとんどなかったので、すっかり世間の総会ネタから取り残されておりました(*´Д`)(自身のほうは平穏無事に終了しました)。LIXILグループ、日産、スルガ銀行等、すでにメディアではタイムリーな記事をまとめた総括記事が掲載されておりますので、以下で述べる感想は、もはやライブ感の乏しいブログネタでございます💦

LIXILグループの株主総会に関する日経ニュースでは、会社側取締役候補者6名、株主側取締役候補者8名、株主側CEO候補者の賛成票53%得票ということで、たいへん僅差で株主側勝利に終わったと報じられています。とりあえず決着がつきましたので、今後は「ワンLIXIL」として、一般株主の方々の期待に応えて、業績をぜひとも回復していただきたいと思います。

さて、株主側勝利の要因としては、機関投資家の多くが株主側の主張に賛同したことが大きいと考えますが、会社側の敗因としては、朝日新聞インタビューで新しい取締役会議長の方が述べているように「会社側候補者2名が議決権助言会社の反対推奨を受けたことが大きかった」と思います。ちなみに否決されたお二人は(たとえばISS意見では)所属している組織がLIXILグループと取引関係にあったことから、独立性がないとして反対推奨を受けておりました(新聞に掲載されているような「関東財務局」とか「ベネッセ」ではなく、それぞれの前職である「日本政策投資銀行」「野村證券」のほうが問題とされています)。

取締役、とりわけ社外取締役の推奨方針として「独立性」を持ち出すことにはいろいろと批判もあるようです。しかし、6月21日の日本証券新聞のISS日本代表の石田氏のインタビュー記事によると、ISSの来年度の助言方針として「政策保有銘柄企業出身の社外取締役、社外監査役には独立性を認めない」ものとして、さらに独立性要件を強めるそうです(ただし、今回のLIXILグループの候補者について、独立性要件だけで賛否を決めているのではなく、その独立性への疑問がどれだけ希薄化しているか・・・といった実質まで検討したうえで判断されているので、決して「独立性」要件のみで形式的に判断されているものではないことを付言しておきます)。

企業統治の世界で「株主が取締役を信頼する(信認する)」というのは、原則としてふたつの方向性があります。ひとつは「裏切ったら厳罰が待っている」ということ。上記石田氏のインタビューでも「ガバナンス優等生に『恐怖の規律』」として、日本には「恐怖」(たとえば株主代表訴訟や金商法21条違反による損害賠償リスク)がほとんど存在しないことが指摘されています。たしかに「私は株主共同利益のために職務を全うする」と口では言いつつも、実は創業家の利益のために働く、ということを防止するための規律には、厳罰が機能しない以上は限界があると思います。

そうしますと、もうひとつの「信頼」である「人格・識見への信用」というところに依拠せざるをえません。しかし、優秀な社外取締役や社外監査役が活躍する企業というのは、「攻めの場面での優秀さ」は全て経営者の功績に包摂されるものであり、また「守りの場面での優秀さ」は有事に至らずに「何事もなかった平時」が維持されるものなので、そもそも社外役員の人格・識見への評価はかなりむずかしい。また、社外役員さんの業務支援の経験からしますと、「A社との相性が良かったのでとことん力を発揮できたが、B社との相性が悪かったので1年で退任勧告を受けた」という経営者OBの方もときどきいらっしゃいます。そこで、「人格・識見への信用」に関する社外取締役への発露としては「独立性」というところに求めざるをえない。ここにも「取締役会の役割」に焦点をあてるコーポレートガバナンス改革には限界がありそうです。

ご承知の方も多いと思いますが、日本の株主総会の権限は米国と比較しても格段に強いものであるため(米国企業における株主総会の法的拘束力はとても弱い)、このたびの企業統治改革は取締役会改革が中心です。しかし、その取締役会改革に株主の力を借りようとするとそこに上記で述べたような限界があります。日経ビジネス2019年6月17日号の特集記事「正しい社長の辞めさせ方」において、神田秀樹先生(東大名誉教授、学習院大学教授)が「(ガバナンス新時代には)多元的なけん制機能を」と題して、経営者を監視するためにはもっと敵対的買収や企業間訴訟を用いるべき(取締役会の監視によるけん制とのバランスを図れ)と提言されています。デサントさん の事例では、敵対的買収の圧力が株主と経営陣との対話(和解?)を進めましたが、このガバナンスの限界を超えるためには、やはり厳罰の在り方を含めた法政策的なルールの活用が必要と感じました。

なお、「社外取締役として優秀な人を探したい」とお考えの企業にとって、いま一番欲しいリストは「LIXILグループの指名委員会からの要請を受けたが、諸事情により辞退した方々の名簿」ではないかと(ヘッドハンティング会社にとっては垂涎モノでしょうね)。

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2019年6月25日 (火)

吉本興業「闇営業」事件-コンプライアンスを前向きに考えよう

反社会勢力(特殊詐欺グループ)のパーティーに、会社を通さずタレントが出席していたとして、吉本興業さんは6月24日、パーティーに出席していた所属タレント11人を謹慎処分にした、と発表しています(詳細に報じる毎日新聞ニュースはこちらです)。「なんで芸人の世界にまでコンプライアンスがうるさくなったの?そんなの昔からあったはずでは?」「お笑いの世界にまでコンプライアンスなど言ってたら笑えなくなるよ」といったご意見が出てくるのも当然かと。しかし、時代の流れを考えますとやむをえない部分もありますし、また企業として「前向きに」考えたほうがよいと思われる部分もあります。

1 サプライチェーン・コンプライアンス

東京証券取引所が上場会社向けではありますが「企業不祥事予防のプリンシプル」を公表しており、その原則6ではサプライチェーン・コンプライアンスを推奨しています。上場会社は取引先や下請会社のコンプライアンスにまで目を配る責任がある、ということなので、たとえばテレビ局やCMスポンサーとしては、所属タレントの不正を放置している企業と取引するわけにはいかない、ということです。会計不正事件に発展したオリンパス事件が騒がれたきっかけは、海外メディアが「反社疑惑」を大々的に報じたことでした。とりわけ海外では反社会的勢力との癒着問題が大きく社会的信用を毀損することを考えますと、吉本興業さんとしては徹底して自浄作用を発揮する必要があります。

2 不正はバレる

ご承知のとおり、昨今の不正・不祥事は、スマホによる動画、録音がSNSやマスコミを通じて拡散します。「噂話」なら隠し通せるものも、友人・知人の申告による「決定的な証拠」でバレてしまう時代になりました。また、いったん疑惑が浮上すると、今度はフォレンジックスの発達によって、消したメールや画像でも容易に復元でき、不正調査の精度は格段に向上しています。

加えて「〇〇ペイ」をはじめとするフィンテックの発達で、不正調査では「お金の流れ」を容易に把握できるようにもなりました(お金は受け取っていない、と証言しても、バレる可能性は高いはず)。したがって、私的なスマホやPCを任意に提供しないとなると、それだけで自己に不利益な事実を認めたものと認定されてしまいます( へたをすると口裏合わせをしたことまで証拠物として上がってきます)。もはや不正は仲間うちで墓場まで持っていける時代ではなくなったといえます。

3 商品の品質から企業の品質の時代へ

かつて行政による事前規制主流だった時代には、消費者保護のために「新商品の品質」は個々に厳しくチェックされるのが当然でした。しかし、規制緩和政策が進み、生産者に寄り添う行政から消費者に寄り添う行政へと変わり、事後規制主流の時代になります。すると、企業はできるだけ多くの商品を消費者に提供できるようになり、品質が粗悪な商品は消費者の使用感やレピュテーションで淘汰される傾向が強まってきます(その代わりに、市場で爆発的に売れる商品が、行政や企業の過剰に保守的な判断で眠ってしまう可能性が低下します)。そして、粗悪な商品によって消費者が被害を被らないよう、「企業の品質」で商品の品質を(一定程度ではありますが)担保します。この企業の品質を維持することこそ「コンプライアンス」です。

もちろん、吉本興業さんの場合にはタレントの方々が商品ではなく、タレントさんの提供するサービスが商品ですが、消費者の目の前にできるだけ多くの若手タレントを輩出することができれば、それだけ爆発的に売れるタレントさんが生まれる可能性は高まり、将来収益への期待も上がります。そのためには吉本興業という企業の品質を向上させることで、所属タレントさんのサービス提供に(最低限度の)お墨付きを付与しなければなりません。つまり、吉本興業という会社は、コンプライアンスの向上こそが持続的成長に不可欠、ということになります。平時のコンプライアンス経営に失敗すると、今度は行政機能の一翼を担う(たとえばひとりひとりの芸人さんのチェックを警察に代わって会社が行う等)ことで信用を回復しなければならず、企業経営の効率性は低下します。

つまり「時代が変わったんだからコンプライアンス経営もしかたがない」という後ろ向きの姿勢も理解できるのですが、「コンプライアンス経営を推進すればするほど儲かる」という前向きな姿勢で経営をすることが大切であり、エンターテイメント業界以外の会社でも、同様の発想でコンプライアンス経営に臨んでいるのが現状です。

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2019年6月22日 (土)

中央経済社「ビジネス法務」2019年8月号に小稿を掲載いただきました。

Img_02055-2_400 本日(6月21日)は「今年最初で最後の株主総会支援業務」ということで、某社定時株主総会に伺っておりました。業績連動型報酬への質問や政策保有株式の議決権行使方針への質問など、総会リハーサルでは偉そうに(?)レクチャーさせていただいたのですが、(お土産を廃止しているせいもあってか)無風のままあっけなく終了(*´Д`)。株主の皆様方の対応も含め、最近は企業統治改革が総会に及ぼす影響にも「二極化」が進んでいるように思いますね。来週は話題の株主総会が目白押しですが、私は自分が当事者(社外役員)の株主総会が続きますので、ブログを書く時間もとれそうになく、皆様のTwitterやブログなどを拝見しながら勉強させていただきます。

さて、本日発売の「ビジネス法務」8月号・特集企画「平成から令和へのメッセージ」におきまして、「神戸製鋼等品質不正」なる論稿を掲載していただきました。平成の時代も終わりに近づいたころ、日本のモノづくりのお家芸である「品質」に関して偽装事件が相次いで発生しました(発覚しました、というほうが正確でしょう)。その代表的な事例である神戸製鋼さんの品質偽装事件を総括して、令和の時代のコンプライアンス経営を展望する、といった内容です(1頁にまとめるのに苦労しました)。カナダでの集団訴訟がようやく和解によって終結したかと思いきや、本日は同社社員によるインサイダー取引に関するSESC勧告が報じられており、事件の落とす影の大きさを感じます。

ところで、江頭憲治郎先生の「会社法の制定」に関するメッセージの中で、東京地裁立川支部平成25年9月25日判決(金融・商事判例1518号54頁)が紹介されている点に目がとまりました。この判決は、神田秀樹先生も岩波「会社法入門」の改訂版の中で紹介されています(あのコンパクトな新書の中で、改訂に合わせて紹介されているのです)。この両先生がなぜ中小規模の株式会社の個別紛争に注目して会社法を語っておられるのか・・・そこを考えるだけでも「会社法改正の奥の深さ」を知ることができてワクワクします。

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2019年6月21日 (金)

大和ハウス中国合弁会社不正から垣間見えるグループガバナンスの教訓

大和ハウス社の問題事例といいますと、違法建築に関する不祥事が大きく報じられております。この一件については同業他社の役員をしております関係でコメントを控えますが、もう一件、「中華人民共和国の関連会社における不正行為に関する『第三者委員会報告書』受領のお知らせ」のほうはしっかり報告書を読了しましたので、ひとことだけコメントさせていただきます。大和ハウス社の経営陣の方々にとっては、違法建築問題よりも、こちらのほうが重大問題として認識されているのではないでしょうか。

同社は、中国におけるマンション開発を中国国内の建設会社(相手先企業)と合弁で進めていたのですが、2014年ころから現地のJVを管理していた相手先企業に好き放題不正をされてしまい、約234億円の損害を受けてしまいました。最終的な出資比率は大和ハウス社が80%を超えていたにもかかわらず、JVの議決権は50対50、経営執行も相手先企業が事実上の支配を続けていたそうです。

報告書を読むと、①2012年ころから、監査役会が「当社役職員の、中国企業に対する責任と権限が不明確であり、コントロールが効かない状況にある」と警鐘を鳴らしていたにもかかわらず、なぜパートナーとの立場を見直さなかったのだろう、②法務部が従来より不正の兆候を把握し、問題提起をしていたにもかかわらず、なぜ経営陣の中で法務部の提言を認識していた人と認識していなかった人がいるのだろう、また認識していたとしても、なぜ法務部の提言は無視されたのだろう、③そもそも2009年当時から、相手先企業の不正が判明していたにもかかわらず、どうしてJVの総経理の職務をもっと早く停止させなかったのだろう、など疑問は尽きません。

毎年積みあがっていく不正送金の金額表示をみますと、5年ほど前に抜本的な対策をとっていれば損害はほとんど発生せずに済むと思われますので、同社のグループガバナンスが甘かったと言われれば反論できないかもしれません。ただ、私がこの60頁ほどの報告書の中で、もっとも印象に残ったのが、大和ハウス社の代表取締役会長さんの相手方企業への「思いやり」に満ちた行動です。

「a氏(代表取締役会長)は、こうした中方(中国企業側)の状況について、重要な合弁パートナーである中盛集団(中国企業のグループ)が困っているのであれば、手を差し伸べることも必要である、と述べている」(報告書51頁)。

資金繰りに困っている中国の合弁パートナー企業について、会長さんは「手を差し伸べよ」と指示されたようです。それまで大和ハウス社は、当該相手方企業による背信行為を受けていたのであり、私などは「こんな対応されたのならすぐに合弁解消じゃないの?(怒)」「すぐに解消とまではいかないのであれば、相手が泣きついてきている今こそ、JVの支配権を奪う機会にしたらいいのでは」と考えます。しかしカリスマ経営者は「それでも手を差し伸べよ」とおっしゃる。おそらく、a氏はこの経営姿勢(経営理念)で成功を重ね、大和ハウス社をここまで大きくされたのでしょうね。救済の条件として支配権の譲渡を要求することができたかもしれませんが、建設工事まで掌握している相手方企業と決裂してしまえば投資分の回収も困難となりますし、なによりも信頼関係を最後まで維持することが大和ハウス社の理念に沿うものだったと思います。

しかし、社内で絶対の権力を有する(と思われる)a会長の意向が「手を差し伸べよ」というものであれば、おそらく社内ではその意向を忖度してしまうのではないでしょうか。中国事業を推進するための権限と責任の明確化、海外関連会社を統制するためのグループガバナンス、JVにおける不正予防のための内部統制システムの構築、といった提言が出されたとしても、役職員の皆様が「あえて火中の栗を拾う」ような対応は、a会長の意向に反することとなりかねないため、実行困難な状況に至っていたのではないかと(もちろん、私の推測です)。そういえば昨年の積水ハウス社の「地面師詐欺」事件のときも、(WEBニュースからの引用ではございますが)社長さんが「五反田の土地は絶対に手に入れたい」といった意見表明をされ、これを認識した役職員らが、「おかしいとは思いつつも」(社長さんの意向を忖度した結果として)取引相手を見る目が曇ってしまったことが問題だったのではないかと思いました。

6月下旬、経産省CGSの在り方研究会から「グループガバナンス指針」が公表され、なかでも海外子会社の経営管理の在り方が示される予定です。おそらく(全体最適のための視点から)教科書的にガバナンス・ルールや内部統制の仕組みが提唱されると思います。しかし、実際のところ、グループガバナンスは「そんなに甘いものではない」という教訓を、大和ハウス社の報告書は示しています。「なんでもっと早く不正送金に気づかなかったのか」と非難し、憤るのは簡単です。しかし「気づくこと」と「止めること」とは1:100くらい「止めること」のほうがむずかしいのです。大和ハウスほどの巨大企業で、社を挙げて「マンション開発による中国富裕層の取り込み」という事業戦略を推進するなかで、誰が体をはって止めることができたのか・・・他社でも議論する価値はありそうです。

上記大和ハウス社の報告書によりますと、2014年に本社による(当該JVに対する)財務検査を中断したころから、中国JV内で不正送金が開始されています。つまり、本社の誰かが不正リスクを感知して「財務検査だけは継続したほうがよい」と提言して、そのとおり継続していれば不正送金の事件は発生していなかった可能性が高い。でも、「継続せよ」と提言した人は、(何か良いことが起きたわけではなく、ふだんどおりの業務が継続するだけですから)誰からも称賛されることはなく、社内評価が高まることもないのです。毎度申し上げるところではありますが、「オオカミ少年を歓迎する企業風土」をどのように根付かせるか・・・、「守りのガバナンス」の実力差は、この土壌の有無によるところが大きいと確信しています。

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2019年6月19日 (水)

IR担当者受難の時代?-法務と会計の狭間で悩む実務担当者

山形沖地震で被害に遭われた方々にお見舞い申し上げます。いまのところ津波の被害は出ていないようですが、余震の可能性はありますので、どうかご注意ください(ちょうど1年前の大阪北部地震を思い出しました)。

さて、定期購読している旬刊商事法務と週刊経営財務ですが、いつも楽しみにしているのが「時事談論」(経営財務)と「スクランブル」(商事法務)。どちらも時事ネタについて企業会計、企業法務の視点から有益な意見が述べられ、ブログの参考にさせていただいておりますが、両誌の最新号ではいずれも「IRの重要性」が話題となっておりました。

経営財務(時事談論)のほうは「時価評価、将来見積もり、M&Aによる無形資産評価等、会計基準が複雑になりつつある時代、開示された内容だけで会社の実体表現がわかりづらいのであれば、会社の会計処理をわかりやすく説明しなければならず、そのためにもっと(企業側が)会計基準の有用性を理解しなければならない(経営者側の分析内容も開示する等)」とのこと。いっぽう旬刊商事法務(スクランブル)では「IR担当者はESGやガバナンスに関するリテラシーが乏しい、IRは数字ばかりではなく、会社法を含めた法務やガバナンスへの理解がなければ説明責任を尽くせない」というもの。いずれも経営者の意識を高める必要がある、といった主張では一致しています。

「株主との対話」に光があたり、総会シーズンの新聞ネタとして株主提案権や議決権行使に関する話題が多いのですが、企業法務の実務家や会計の実務家の視点からはIRの重要性が説かれるのですね。「とりあえずルールに従って必要事項を開示しておけばよい」というわけにもいかず、投資家への説明責任を尽くすことが要請されるようになりますと、なるほど、上記のような要望が出てくることも頷けます。ちなみに私、最近「経営陣に伝えるための『税効果会計と財務諸表の視点』」(荻窪輝明著 税務研究会出版局 2019年3月 2,000円税別)を読みましたが、本書のように(仕訳の解説を省略して、読み手の視点から)「どう説明すれば経営者にわかってもらえるか」といった視点で難しい会計基準を(ご専門の方に)解説していただくと、とてもありがたいと思いました。

ただ、「わかりやすい会計基準、決算数値の説明」がなされたからといって、会社の実態の真実に迫れるかというとちょっと違うような気もしますし、ESGを理解しているからといって、当該「部分最適」の理解が全体最適(中長期の企業価値向上)の理解と矛盾しないかどうか、IR担当者が判断できるかどうかもわからないので、IR担当者に定量・定性情報への理解をどこまで要求すべきか、もうすこし議論が必要かもしれませんね(巷の噂によりますと、最近、旬刊商事法務の発行部数が頭打ち、とのこと。法務担当者だけでなくIR担当者も購読するような論稿を増やすことで購読者を増やすべきかもしれませんね。余計なお世話ですが-笑)。

以前、私は(個人投資家や運用担当者が集まる)東京の某開示研究会に参加しておりまして、「同じ適時開示情報を読んでいるのに、こんなにも『会社を読む力』に差があるのか」と愕然としたことがありました(自分の実力の乏しさに情けなくなりました)。IRに対する経営者の意識を高めることも重要ですが、市場の活性化、健全化に必要な法務や会計のリテラシーを磨くことによってトクをするのは株主の方々ではないでしょうか。「株主との対話」が進むのであれば、その充実に向けて会社、投資家双方が勉強する必要があると思います。

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2019年6月17日 (月)

「社外取締役、知らぬが仏」では済まない時代へ

先週金曜日(6月14日)の日経朝刊2面「社外取締役、知らぬが仏?-相次ぐ不祥事、第三者目線働かず」を興味深く読みました。会社役員の法的責任が認められるためには、「やろうと思えばやれたのに、やらなかった」こと(善管注意義務違反)が要件とされますが、社内の不祥事について社外取締役に情報が届かず「社内の不正に気づかなかった(気づかなかった以上、とめようと思ってもとめられない)」と釈明すれば責任(善管注意義務違反)は認められない、これでは社外取締役など「お飾り」にすぎないのでは?といったテーマの記事です。

法的責任が認められる理屈は記事のとおりですが、記事中でコメントされている国広正弁護士がおっしゃるように「何もしないほうが(社外取締役にとって)安全」と思われてしまうのは、とうてい健全とはいえません。ということで、最近は社外役員も監査役も「知らぬが仏」では済まない時代になったと考えています。まずひとつめは大原町農協最高裁判決(平成20年)です。記事中で中村直人弁護士が「日本の裁判例では、役員が悪い情報を知り得た場合、責任を認める傾向が強い」とコメントされていますが、上記最高裁判決は監事(株式会社でいえば監査役)さんが理事長の不正を見逃したことについて、「かりに(理事長の不正を)知らなかったとしても、監事としての一般的な注意を尽くしていれば知り得たのだから責任あり」としています。つまり「知らぬが仏」と言いながら、耳をふさいでいる社外取締役さんは法的責任が認められる傾向が強まっていると考えられます。

さらに、悪い情報でもきちんと社外取締役に届く体制が整っていないのであれば、日常からこれを指摘しなければ「内部統制構築に関する勧告義務違反」を問われる可能性も高まっています。これは非業務執行役員の内部統制整備・運用への勧告義務違反を認めたセイクレスト事件判決、不正を知らなかったにも関わらず、常勤監査役の仕事ぶりを注視していなかった社外監査役の責任(金商法上の責任根拠たる相当な注意を怠ったことへの責任)を認めたエフオーアイ事件判決からの予想です。社外取締役さんに悪い情報が届かなかったのは、情報共有体制の運用に不備があったためで、その不備について日ごろから社外取締役さんは気づかなかったのか、不備を見つけたら勧告すべきなのに、なにも勧告しなかったのか、という点が、今後は裁判上の争点になると考えます。このように考えれば、不正防止に積極的に尽力している社外取締役さんほど法的責任は減免されやすく、また不正発生に無頓着だった方ほど責任が認められやすくなるため「健全な状況」に近づくものと思います。

ただ、過去に何度か監査役や会計監査人の「監査見逃し責任追及訴訟」の代理人をやらせていただいた経験からしますと、「知らぬが仏」とは最初から悪い情報とわかっている場合に言えることであって、情報が入ってくるときに「悪い情報」なのか「良い情報」なのかはわからない、というのが現実です。マスコミで大きく報じられて「ああ、あれは悪い情報だったのだ」と感慨深く思い返すのが関係当事者のホンネかと。結局のところ、同じ情報を受領しても「これって問題では?」と気づく人もいれば気づかない人もおられます。つまり「知らぬが仏」という姿勢で臨む社外取締役さんがいるとすれば、それは会社を良くする方向の情報(会社の業績を向上させるための戦略に関する重要な情報)にも目をつぶる姿勢ということで、かなりマズイ。

上記は「法的責任の視点から」という説明になりましたが、そもそも「何かあったら社外取締役の〇〇さんに相談しよう」と経営陣が思うか思わないかがもっとも重要です。要は日常から「攻め」も「守り」も関係なく、社外取締役が「会社ファースト」で経営陣とコミュニケーションをとっているかどうかが大切であり、その信頼関係の形成こそが「形式から実質へ」と深化が期待されている企業統治改革の目的のひとつであります。

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2019年6月14日 (金)

LIXILグループ-ISSに続き、グラスルイスも会社側提案を推奨

諸事情ございまして(?)、昨日から結論は存じ上げておりましたが、朝日新聞が6月14日の朝刊で報じておりますので、ひとことだけ。

一昨日のISSの推奨意見に続き、グラスルイスのレポートが関係者に届けられました。結論からすると、ISS以上に株主側提案(株主側の推薦する取締役選任議案)に厳しい意見です。1号議案賛成、2号議案賛成、3号議案分離(8名中3名賛成、5名反対)ということで、会社側が推薦する取締役候補者については全員賛成とのこと。

ISSの意見と同様、グラスルイスの意見も「ガバナンス上の問題は重大だが、多様な経歴を持つ社外取締役のもとで取締役会の機能再生が期待される」ということと「瀬戸氏の就任後の業績に関する問題」ということのようです。

なお、英国の機関投資家が株主提案に賛成する旨、さきほど日経ニュースで報じられました。

私はどちらかを応援しているつもりはありませんが、取締役会とCEOの関係(社外取締役に期待された役割を含め)、CEOの執行責任に関する徹底した審議など、あらためてコーポレートガバナンスの在り方をグローバルな視点から考察する必要があるように思います。

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2019年6月13日 (木)

ISSが株主提案に厳しい結論-LIXIL社外取締役候補者に課せられた重大な使命

日産の現CEOの方の再任について、議決権行使助言会社(ISS、グラスルイス)が反対意見を推奨していることが報じられています。「ゴーン氏の不正行為をきちんと監督できなかった人が、これからの日産の社長を務めるのは適切ではない」ということで、議決権行使助言会社の、企業統治に対する厳しい姿勢が窺われます。現CEOの方にとっては、昨日のルノーの書簡に続き、厳しい意見への対応に頭を悩ますことになりそうです。

ところで、こちらはあまり大きく報じられていませんが、LIXILグループの取締役選任議案(会社側提案及び株主側提案)に関するISSの推奨意見もなかなか興味深いところです。ISSは、6回ほど候補者らとの面談(ヒアリング)を重ねて、最終的に会社側提案の10名のうち8名の候補者について賛成(2名反対)、株主側提案の8名のうち4名の候補者について賛成(4名反対)という結論に至っているようです。そして、元CEOの瀬戸氏の選任議案に対しては反対推奨を表明していますので、総じて株主側には厳しい結果になりました(「マスコミ受けしない不都合な真実」ということで、あまり報じられていないのかもしれません)。

諸事情ございまして(?)、ISSレポートの原本を拝見しましたが、やはりISSは独自の「独立性基準」に準拠して、会社との独立性に疑問のある社外取締役候補者には(いずれの提案にも)厳しい姿勢で臨んでいることがわかります。そのうえで、会社側6名、株主側4名の取締役によって構成されたボードが望ましい(株主側の2名が退任されて会社側6名、株主側2名となってもかまわない)としています。瀬戸氏が解任された経緯については(そのプロセスに)重大な問題があるが、現状のLIXILの業績不振が瀬戸氏の経営手腕によるものではないとまで言い切れず、まずは新しいボードが、これまでの瀬戸氏の経営を総括すべき、その結果次第では瀬戸氏の再登板もありえる、といった理由から、上記のような意見形成に至ったようです(すいません、私の英語力が乏しいために、誤りがありましたらご指摘ください)。

会社側と株主側でどんなにケンカしていても、そんなことは重要ではない、要は社外取締役と業界に精通した社内取締役が一緒になってCEOをしっかり監督できればよい、だめなら堂々とCEOを代えればよい、といった徹底したモニタリングモデルの思想、ゲゼルシャフトの組織論がISSの判断の底流にあります。社外取締役候補者には、「お友達感覚」の共同体意識を排除し、self-disciplineに基づいて監督責任を尽くすことが求められており、まさにCEOの選解任を通じてLIXILの業務執行を監督することが強く期待されていることがわかります。そういえば6月10日の日経インタビューで、宮内義彦氏が

「社外取締役の役割はCEOの業績評価と後継者の育成や人選だ。執行側の見解や行動をじっくり見ていればいい。同じ誤りを再びすればその経営者はアウトだ。経営への助言やアドバイスなどはコンサルタントなどにやらせればいい。日本のガバナンス改革は第2幕に移ったばかりだ」

と述べておられるところに近い思想だと思いました(社外取締役の役割と取締役会の在り方とは論点がやや異なりますが)。ISSは、単純に「LIXILのガバナンス問題」だけを捉えて意見を形成しているわけではなく、潮田氏、瀬戸氏のマネジメント能力を十分に検討したうえで、社外取締役を中心とした役員構成の中での判断を尊重しよう、との立場です。

もちろん、上記は、あくまでも議決権行使助言会社の意見表明なので、株主総会での投票によって取締役構成がどのようになるのか未だわからないところです。ただ、このように会社側候補者と株主側候補者が混合して取締役に就任するケースも(可能性としては)考えられますので、双方から候補者として推薦を受けている2名の方々も、株主総会で選任された場合には、そのまま職務をお受けしたほうがよいのではないでしょうか。

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2019年6月12日 (水)

ココカラ正念場!?-マツキヨ・スギHDの統合提案になぜ特別委員会?

すでにご承知のとおり、6月10日、ドラッグストア大手のココカラファインは、同業のマツモトキヨシHDと、スギHDとの間でそれぞれ進めている経営統合や資本業務提携の協議について、両社からの提案を比較検討する特別委員会を設置すると発表しています(特別委員会設置に関するお知らせ)。 ココカラ社の社外取締役さんが委員に含まれていますが、こういった委員会の職務に就く社外取締役さんというのも珍しいですね。

この特別委員会の設置目的は、

当社の企業価値を向上させる可能性の有無の観点から、マツモトキヨシホールディングス及びスギホ ールディングスによる提案を客観的な立場から総合的に検討すること

とされています。企業不祥事発生時の第三者委員会や公正なM&Aのための第三者委員会への社外取締役の関与事例は増えていますし、敵対的買収防衛策発動時における企業価値評価委員会なども、経営陣と会社との利益相反状況が認められますので、社外役員関与の必要性は認められます。しかし、ココカラ社のケースでは、どういった意味合いから社外取締役さんが(外部の専門家とともに)委員として関与されるのでしょうか。

そもそも同業他社であるマツキヨ社、スギHD社は、ココカラ社からみれば完全な独立当事者であり、黙っていてもココカラ社の取締役は株主共同利益のために最善を尽くすことが期待できる状況です。いや、こういった有事においては、死に物狂いで株主の利益最大化のために社長以下の社内取締役が相手先と交渉することで「最適解」が得られる、と株主は期待しているのではないでしょうか。統合の相手先はライバルの同業者ですから、「業界で長年培った知見をもとに」相手先企業のデューデリを行い、できるだけ自社の価値を高めて有利な統合に持ち込むことが、ココカラ社の現経営陣の方々の善管注意義務を尽くす姿だと思います。

そこでは業界外の有識者による客観的な企業価値評価への意見など必要なのでしょうか。もし必要であれば、ココカラ社が財務アドバイザーを活用すればよいのではないでしょうか。経営者ご自身の「必死のパッチ」の姿勢を後方からモニタリングして、交渉の合理性を担保するための委員会であればわかりますが、「提案に応じることが企業価値向上につながるか、(応じるとして)どっちが統合先としてふさわしいか」を第三者に決めてもらう(第三者の意見を参考にする)というのは、私の中ではかなり違和感が残ります。

ドラックストア業界の勢力図を大きく塗り替えるためのリスキーな決断をしたスギHD、マツキヨ社としては、「ご提案は、第三者委員会の評価結果を参考にしながら検討します」と言われてどう思われたでしょうか。「オタクの会社の従業員の方々を、ウチの従業員の方々と一緒に絶対に幸せにしましょう」といった「(企業価値向上のための)統合の正当性」は、同業で切磋琢磨してきた経営陣だからこそわかってもらえる、といった気持ちとして提案には示されているように思うのですが。

たとえば①現経営陣が先頭に立って交渉を行うと、短期的な利益追求を優先してしまい、中長期の企業価値向上に配慮する姿勢が期待できない、②統合交渉の末、双方の提案をいずれも断り、独立経営を維持する可能性がある、③三社の歴史的背景から、ココカラ社の社内取締役は、どうしても公正な判断ができない事情がある、といったなんらかの理由があれば納得もできそうなんですが、社外取締役さんも関与するような特別委員会(第三者委員会)をなぜこの時点で設置しなければならないのか、もう少しココカラ社らの説明がなければ株主の方々も統合に向けた経営判断に納得がいかないのではないかと感じました。

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2019年6月11日 (火)

日産自動車の総会決議における定足数緩和規定の不存在

日産自動車の定時株主総会(2019年6月25日開催予定)に上程される「指名委員会等設置会社への移行に関する議案」(定款の一部変更に関する議案)について、大株主であるルノーが議決権行使を棄権する予定であることが報じられています。

この報道に対して、私は当初「いくらルノーが日産の43%の株式を保有しているとしても、9分の2さえ確保できれば議案が通るんだから、そんなに大きな問題ではないのでは?」と考えておりました(定足数1/3×賛成2/3=2/9)。しかし(念のため)日産の定款を確認したところ、特別決議を通す際に、定足数を1/3まで緩和する規定が存在しないことに気づきました。多くの会社の定款では、総会における特別決議の定足数緩和規定が盛り込まれておりますが(たとえば日産車体、日産化学でも当然入っています)、日産自動車の定款ではなぜか除外されています(いつからでしょうか?)。普通決議の定足数排除規定は存在しますが、これは特別決議には援用できないので、たしかに日産にとって「ルノーによる議決権行使の棄権」は定款変更議案を通すには苦しいところかと。

日産の機関形態の変更にルノーが反対する理由は、指名、報酬、監査の各委員会にルノーから派遣される社外取締役の方々を就任させる予定がないから、ということのようです。しかし、7名もの独立社外取締役候補者が選任される予定なので、日産自身が「誰を指名委員会委員にする予定である」と今から宣言することは、明らかにガバナンス改革の趣旨に矛盾することになります(この点は、委任状争奪戦に向けて「(代表取締役ではなく)代表執行役は誰がふさわしい」と会社側、株主側であらかじめ宣言しているLIXILグループの事例とは異なるところです)。また、ルノーは日産の主要株主ですから、主要株主の業務執行者が日産の指名、報酬、監査委員を務めることは、その職務執行に利益相反のおそれが高いものと思われます。したがって、日産がルノーの要求を拒絶することにもそれなりの理由があると考えられます。

一方のルノーにとっても、サンケイビジネスニュースが報じるように、日産の取締役選任議案に対する賛成協定(ルノーは日産が上程する取締役選任議案に賛成する義務を負う)が存在するとなれば、指名委員会等設置会社への移行は「総議決権の43%保有」という有利な立場を減殺してしまうことになりかねません。賛成協定が存在するかぎり、指名委員会さえ日産側が押さえておけば大株主といえども取締役会も、各委員会も、そして執行役も日産側がコントロールできる可能性が高いと思われます。「独立社外取締役といっても、どうせ日産側にカタをもつ人たちの集まりだろう」とルノーが判断するのも不自然ではないでしょう。「議決権行使の棄権」は未だ確定しておらず、両社の間で協議が続くものと思いますが、どのあたりで落ち着くのか興味は尽きません。

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2019年6月10日 (月)

平時にこそ学んでおきたい「資本市場とプリンシプル」

Sihonsijo 6月19日の通常総会をもって東証自主規制法人の理事長を退任される佐藤隆文氏の新刊書を拝読いたしました。

資本市場とプリンシプル 佐藤隆文著 日本経済新聞出版社 2,500円税別

当ブログでは、佐藤氏が金融庁長官時代に執筆された「金融行政の座標軸」(2010年)をご紹介し、内部統制報告制度に新しい行政規制手法「プリンシプル」が活用されていることを述べておりましたが、その後、東証においてエクイティ・ファイナンスのプリンシプル、企業不祥事対応のプリンシプル、企業不祥事予防のプリンシプルが策定されたことはすでにご承知のとおりです。最近ではプリンシプル準拠の本格施行として、コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードも策定、運用されています。

本書は総論と各論に分かれており、各論部分では東証が打ち出した各種プリンシプルの解説が中心です(ただし解説はあくまでも佐藤氏個人の見解です)。上場会社では、会計不正が発覚した時点において「企業不祥事対応のプリンシプル」に準拠した行動が求められます。しかし、ひと段落した後も、改善報告書提出のための「根本原因の解明、再発防止策の策定」とその実行計画が求められますので、「企業不祥事予防のプリンシプル」への理解も不可欠です。こういったプリンシプルの理解は、有事になってからでは間に合わないので、平時から学んでおきたいところです。

各論部分は企業の「守り」にとって重要ですが、総論部分は「攻め」にとっても重要です。総論部分については、企業規制全般に及ぶプリンシプル・ベースによる行政規制手法を理解するためのヒントが含まれています。6月8日の日経朝刊では、株主総会問題のひとつとして「複数議決権株式の行使」への機関投資家の反応が話題になっていましたが、本書でも複数議決権問題がとりあげられており、市場の規律付けの目的(自国の利益を優先させるのか、市場の公共性・公平性を尊重するのか)なども配慮しながら規制手法を検討する必要があることなどが示されています。複数議決権株式を活用したい企業にとっては、このような市場規制を行う側の論理(公正性に関する理屈)を心得ておくことが肝要です。

1990年代、「護送船団方式」による行政規制から脱却するために、いち早く規制手法の転換を模索していた金融庁で活用されだしたプリンシプルによる規制手法は、生産者重視の規制から消費者重視の規制へと大きく変わろうとしている現在、他の省庁でも多用されるようになっています。企業が競争に負けないためには「グレーゾーン対策」がとても重要ですが、ルール・ベースによる「行政法」に基づいて、行政と企業との法律関係を理解するだけでは「行政規制への対応」が十分とはいえない時代になったことを、あらためて感じました。

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2019年6月 7日 (金)

ACFE JAPAN(日本公認不正検査士協会)の理事を退任いたしました。

本日(6月7日)は諸事情ございまして、経済産業省産業組織課の皆様と意見交換をさせていただきました。中央大学(法科大学院)の大杉先生ともひさしぶりにお話ができて、とても楽しい時間を過ごしました。いろいろとブログネタを仕入れてきましたが、たぶんブログで書いてもよいといった雰囲気でしたので(?笑)、今後小出しにしていきたいと思います。

さて、昨日(6月6日)のACFE JAPAN(日本公認不正検査士協会)の社員総会をもちまして、2011年以来務めさせていただきました同団体の理事職を退任させていただきました。同団体の活動には、関係者の皆様に多大なご協力を賜り、厚く御礼申し上げます。<m(__)m>私の後任理事には、大阪の塩尻明夫氏(公認会計士、税理士、CFE)が就任いたしました(どうかよろしくお願いします)。会員数も2000名を超える規模となり、ちょうど良い時期に退任できることは幸せでございます。これからは一会員に戻って、引き続きACFEの活動に参加するつもりです。

懇親会では記念品をいただき、またご挨拶もさせていただいて、ありがとうございました(なお、退任に伴い、当ブログ及び当事務所HPのプロフィールは変更いたしました)。

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龍角散セクハラ訴訟を内部通報制度の視点から考える

すでにメディアが報じているとおり、製薬メーカーである龍角散の元法務部長さんが、不当解雇(解雇無効確認および損害賠償請求)で会社を提訴し、原告として記者会見も行ったそうです。昨年末の忘年会の席で、同社社長さんが業務委託契約を締結している女性の方に不適切な行為(セクハラ)を行った、との報告を女性法務部長さんが受けました。この法務部長さんが調査を行っていたところ、同社から自宅待機を命じられ、外部法律事務所のヒアリングを受けた後、「事件を捏造した」との理由で懲戒解雇処分とされたそうです(本件について、かなり詳しく報じているのは弁護士ドットコムさんの記事です)。

一方当事者による訴状をもとに各メディアが報じておりますので、事実関係の真偽を前提とした意見を述べることは差し控えます。ただ、こういった紛争の内容から、内部通報制度の運用に携わる者として、3点ほど意見を述べたいと思います。

まずひとつめは、通報に基づく社内調査は「真偽がわからないままに行われるのが当然」という大前提です。たとえ法務部長さんの調査方針に問題があったとしても、「法務部長の捏造」と結び付けるためには法務部長さんの悪意が立証される必要があると思います。これは単に会社が外部の法律事務所に調査を依頼し、「社長のセクハラはなかった」という結論が出ただけでは懲戒の根拠にはならないはずです(社内で一件落着・・・ということが確定したにもかかわらず、さらに法務部長さんがセクハラ調査を続行していた、ということなのでしょうか?)。なぜ法務部長さんが積極的に社長のセクハラを調査しようとしたことと、捏造という社内の正式判断とが結びつくのか、各メディアの報じるところを読んでも理解できませんでした。

ふたつめは「第三者による相談窓口の設置」です。法務部長さんも被害者の方も要望していた、とのことですが、これは第三者が窓口を担当し、さらに第三者が調査を行うことまでを含む趣旨でしょうか?サントリーホールディングス・パワハラ損害賠償請求訴訟事件以降、法務担当者やCSR担当者としては、徹底した社内調査をしなければ担当者自身の損害賠償責任が問われる(セカンドセクハラ、セカンドパワハラ)のがあたりまえの時代になりましたので、社長個人がなんといおうと法務部長として社内調査を徹底しなければ自分が法的責任を負う可能性があります。これを回避するための手段としては、社内調査を含めて、内部通報の窓口を第三者機関に依頼するというのもひとつの方法です。他社も含めて、パワハラやセクハラ防止のための体制整備義務が法制化される時代になりましたので、このあたりも今後の検討課題です。

そして三つ目は「セクハラの被害者はだれか」という点です。セクハラ的な言動を受けた方が「私はセクハラとは思っていなかった」といえばセクハラは成立しないのか・・・という問題です。言動を受けた方が「セクハラではない」と証言しても、その周囲にいた方々が「どうみてもセクハラ」と考えているのであれば、「明日は我が身」ということで恐怖心を抱く、嫌悪感を抱くということにもなりかねず、これも職場環境配慮義務違反として社長の不正行為に含めるかどうか。このあたりも裁判で重要な争点になりそうな気がします。たしかパワハラ事案では、「明日は我が身」と感じるようなハラスメントについて、ハラスメントの言動の対象者以外の周囲の従業員に対する損害賠償責任が認められた事案がありました。被害者を広く認めるべき、となりますと、社内調査の前提として「通報者の秘密」だけでなく、「通報の秘密」も保護する必要性が高まります。

いずれにしましても、本件は、従業員側からも、また会社側からも注目が集まる裁判になりそうな予感がします。

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2019年6月 6日 (木)

ZAITEN特集記事から見えてくる著名企業の広報・法務の在り方

仕事がら、日経ビジネス以外にもFACTAとZAITENは定期購読しておりまして、役員セミナーなどにお招きいただいた際「日経ビジネス、読みましたよ~♪」というのは申し上げることも多いのですが、「FACTA(ZAITEN)、読みましたよ~♪えらいことになってますね~!」とはなかなか言えない今日この頃であります。

今月も定期購読誌を拝読しておりますが、とても興味深かったのがZAITEN最新号(2019年7月号)の特集記事「大企業『違法コピー』の実態-記事ドロボーは許されない、大手企業一斉調査」(タイトルからしてZAITENらしさ満開であります・・・(#^^#))私が社外役員を務める会社も、ときどきZAITENさんから厳しい記事を書いていただきますが(笑)、今回の特集では、新聞や雑誌記事を勝手に複写して、社内ネットワークに配信している企業が結構あるのでは?との(経験に裏打ちされた)疑念から、ZAITENが独自調査を行った結果が紹介されています。

社内ネットワーク配信のための著作権利用の方法をきちんとZAITENに説明しているのがソフトバンク・グループ、キヤノン、武田薬品工業、明治ホールディングス、日清食品ホールディングス、東急電鉄といった企業さんです。説明にやや曖昧な点は残るものの、クリッピングサービス使用の点を説明しておられるのが日立製作所、キリンホールディングス、三菱UFJフィナンシャル・グループ、東芝、みずほフィナンシャルグループ、電通といったところでした。

ZAITENさんにはたいへん申し訳ない物言いですが、私もZAITENからのアンケート回答要請・・・となると、「ん?なんぞある?」と勘繰ってしまって、なにか無難な回答方法を考えたくなるのですが、きちんと回答される大会社は意外と多い。まぁ「木で鼻を括る残念企業」として紹介されている会社(「回答を差し控えさせていただく」との返事)も結構たくさんありますが、違法コピー問題は結構多くの会社でありそうな気もしますので、回答がないとアヤシイと思われるところは否めないかと。そういったところも広報や法務の方針が「積極開示」の姿勢に表れているのかもしれません。

回答方法には正解はありませんが、その会社の広報や法務の在り方を推察するには面白い記事でした。本誌では一面広告で「求む!著作権侵害情報」とあり、記事中にも証拠に基づいてZAITENからイジメられている著名企業さんもありますので、どうか心当たりのある会社さんは早めに著作権許諾の全社対応を万全にされることをお勧めいたします(私もブロガーとして、記事引用については最大限の配慮を尽くすようにいたします)。

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2019年6月 5日 (水)

議決権行使基準-独立社外取締役の「2人」と「3人」の差は大きい

日経イブニング・スクープ(6月4日)「社外取3分の1未満なら反対 機関投資家、監視厳しく」を読みました。指名委員会等設置会社や監査等委員会設置会社の機関形態をとる上場会社には、国内外の機関投資家が「取締役数の3分の1以上の独立社外取締役の選任」を要求し、これを満たさない企業では代表取締役候補者の取締役選任議案に反対票を投じるそうです(議決権行使基準の改訂)。東証が5月に公表した「ガバナンス白書2019」の80頁以下を読みますと、監査等委員会設置会社の独立社外取締役の数も若干増えているとは思いますが、上記記事によりますと、

17年度のデータでみて指名委・監査委設置会社でも、社外取締役の比率が3分の1に満たない企業が半分近くを占める

ようです。したがいまして、おそらく300社~400社程度の監査等委員会設置会社の組織形態をとる上場会社では早急な対応が求められるはずです。国内の機関投資家についてもスチュワードシップ・コードの実施を宣言しているところが増えていますので、来年の定時株主総会あたりでは(外国人株式保有比率に関係なく)なんらかの経営判断が求められるかと。

対応として考えられるのは、①ガバナンス・コードの趣旨を実施する方向で、独立性基準を満たす社外取締役を1名以上追加選任する(監査等委員以外の独立社外取締役を新たに選任する)、②社外取締役の数が3分の1以上になるように社内取締役の数を減らす(執行役員に移行させる)、③ (先日の大塚家具さんのように)「監査等委員会設置会社」から「監査役会設置会社」に逆戻りする(定款変更議案を上程する)、④東レの日覺社長のように「ガバナンス・コードはおかしな指針。うちはモニタリングモデルではなくマネジメントモデルでいく!」と宣言して無視する、のいずれかでしょう。

おそらく①の選択肢をとる上場会社さんが圧倒的に多いと思いますが、そうなりますと独立社外取締役がボードに3名、ということになります。これまで社外監査役だった方が横滑りで2名社外取締役に就任している間は平穏でしたが、「元経営者」の社外取締役がおひとり追加選任された場合には、「取締役会の風景」は大きく変わりますよね。

会議室の隅っこで社外取締役が二人でコソコソ内緒話をしていても気になりませんが、さすがに3人での内緒話は社長も気になります(笑)。構成員7名の取締役会(監査等委員会設置会社なので監査役はいません)で、3人が異論を唱える風景を想像してみてください。取締役会の前に開催される「経営会議」では(社長に忖度して)異論を唱えなかった社内取締役がひとりでも賛同すれば経営判断の見直しを迫られるわけです(実際には社外取締役が3人いると、3人の意見が一致することは少ないのです。だからこそ、3人の意見が一致することは社内取締役にとってはインパクトが非常に大きい)。また、多数決で経営判断を押し切ったとしても、M&Aに失敗して減損を余儀なくされるようなケースだと社長の法的責任を追及されるようなツライ状況が目に浮かびます。これを迅速な業務執行の阻害要因と捉えるか、健全なリスクテイクの実践と捉えるかは会社次第です。

監査等委員会設置会社の運用実績(たとえば、どの程度の比率の会社が指名委員会等設置会社に移行したのか、社外監査役から横滑りした方がどのくらい交代したのか)の様子をみていた議決権行使助言会社も、そろそろ3分の1基準を実施するのではないでしょうか。ボリュームの最も大きな監査役会設置会社には関係ないかもしれませんが、私はこの「独立社外2名→3名」の流れがガバナンス改革の大きなターニングポイントになる(結果をみなければ成功か失敗かはわからない)と予想しております。

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2019年6月 4日 (火)

内部監査機能を補完する「経営監査」に向けた監査役スタッフの役割

最近「当ブログで内部監査に関連するエントリーが多くて嬉しく思います」といったメールを頂戴するようになりました。また、「経営監査など非現実的であり、そのような意識で内部監査を見ている経営トップなどいない」とご異論をいただくことも増えました。ということで(?)、昨日は内部監査機能を内部監査部門以外で発揮しておられる企業の例をご紹介しましたが、本日は私が社外監査役を務める大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)の例を(守秘義務に反しない範囲で)ご紹介します。ご承知のとおり、大阪万博、IR構想により、大阪メトロも鉄道を安全に走らせるだけの会社ではなくなりました。

ところで、月刊監査役の最新号(2019年6月号)では、証券取引等監視委員会委員の引頭氏のご論稿と明治大学の柿崎先生のご論稿が、いずれも監査役の経営監査の重要性について指摘しておられます。モニタリングモデルの取締役会を目指す企業が多いとはいえ、マネジメントモデルで運用されている企業が多いのが現実であり、経営に重大な影響を及ぼすリスクが顕在化するケースでは監査役会(監査委員会)こそ「経営監査」を通じて重要な役割を担う必要がある、とのこと。

私が社外監査役を務める大阪メトロの監査役会は会社法上は常勤1名、非常勤社外2名で構成されていますが、実態としての監査役会は監査役3名と専従スタッフ5名で構成されています。スタッフは部長級のチーフ1名に30代、40代の優秀な社員が数名。私は「監査役スタッフ」が存在する会社の社外監査役に就任したのは今回が初めてですが、この1年の監査役としての活動を通じて、専従スタッフが4~5名も存在する場合、監査役会から見える会社の風景がこんなにも違うのか、と驚いております。先日、私から会計監査人に申し上げましたが、「これだけ監査役スタッフが充実している場合、監査役と会計監査人との連携の在り方についても、少し見直したほうがいい」と、素直に思います。

なんといってもスタッフを通じて経理部や内部統制室、内部監査部門が何を考え、何を優先して業務を執行しているのか、社長は内部監査や内部統制に何を期待し、何を優先価値とみているのか、タイムリーに理解できます。グループ会社の状況もしかり。常勤監査役ではおそれ多くて(?)形式論になりがちな「内部監査部門と監査役の連携」も、スタッフによるコミュニケーションではホンネが語られることが多いので助かります。

私のようにサラリーマン経験のない者からすると、社長の指示命令は当然のことながら一般社員にまで浸透するものと(安易に)思っていましたが、現実にはそんな甘いものではありませんね。実際には、それぞれの小集団において、指示に従うべき事項と(集団で従うべきかどうか熟考するために)一部ペンディングにしてしまう事項を選りすぐる、つまり指示命令はかならずしも現場に徹底されるわけではない、ということを監査役実務を通じて痛感します(これは、他社の社外役員の経験からも認識しました。だからこそ職務分掌や権限と責任の明確化が必要とされる)。

また、私が内部統制に詳しい専門家として、ご依頼を受けて提言するのは「部分最適」でして、その「部分最適」が果たして「全体最適」に資するものなのか、それとも障害となるものかは、長年当該会社に勤務する監査役スタッフの話を聴いてみないとわからない。つまり「経営監査」というものは、全社的リスクマネジメントを提言する前提となる「個々の組織における場の空気」を認識したうえで実施しなければ、経営陣に腹落ちするものにはならないと思います。なるほど、経営者が一度腹落ちすると、「モノが言える監査役」としての監査環境が整備されてきます。

大阪メトロの監査業務を通じて、本来的には内部監査部門が担うべき経営監査機能の一部は「監査役スタッフ」が担っているのでありまして、昨日の村田製作所でもそうですが、要は「あるべき内部監査機能」をどこの部署が担っているのか・・・という点は、各企業それぞれ検討しておく必要があると考えております。先にご紹介した柿崎教授のご論稿では、最近の米国では、経営監査部門が極めて重視される時代になったとのことですが、日本でも「利益につながる内部監査」を模索する企業も増えてくるものと思います。

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2019年6月 3日 (月)

村田製作所の高収益率を支える「秀逸な内部監査機能」

日経ビジネス最新号(6月3日号)の特集「村田製作所-なぜ最強なのか」を興味深く読みました。売上高営業利益率16.9%(2019年3月期)というダントツの業績を誇る組織力はどこから生まれるのでしょうか?私は「内部監査機能の強み」にあると思いました。

当社には約1000人の「改善士」なる社内資格者(専従者)が存在し、日々現場の効率性を高めるための仕事に従事されているそうです。現場の優秀な社員から選抜され、費用対効果の面で結果を残すことで評価され、さらに重要なポストに昇進するとのこと。コスト削減には組織横断的な提言がなされますので、様々な領域での知識が求められるそうです。また、「商品技術」なる社内資格者も存在しており、新商品の開発技術などを顧客に説明するために、エンジニアとしてのスキルと営業におけるスキルを具備するメンバーを社内で育成しているそうです。この「商品技術」のスキルを備えることで、営業現場に広く権限委譲が行われ、他社よりも迅速な意思決定が実現できる、とのこと。

「改善士」も「商品技術」も優秀な社員から選抜された専従者(社内資格者-ただし「内部監査部」に所属している、というわけではありません)ということで、多様なスキルを身につけて、当然のことながら結果を残されなければ評価されないはずです。また、各セクションの人的資源と物的資源とのバランスや、セクション間の力関係なども理解したうえで、改善提案や裁量権限の行使に至るわけですから、「儲けにつながる内部監査」のプロと言えます。

内部監査による現場改善の提案といえば、ルールによる監督強化、人的・物的資源の充実、といったところが一般的かとは思いますが、そもそも上場会社では効率経営のための努力は目一杯頑張っておられるわけですから、そう簡単に資源の充実は図れないはずです。また、監督強化策も一時的には効果があるかもしれませんが、現場が疲弊するだけに終わってしまうことが多い。村田製作所のケースでは、改善の提案や商品の説明に、製品技術や管理会計、営業活動のスキルを統合して活用するプロを活用することで業績の向上につなげている点は秀逸だと感じました。

村田製作所のように、ここまで社内資格を徹底している会社も珍しいとは思いますが、他社でも「内部監査部門」とは言わなくても、組織間の力学的なバランスにメスを入れるような「経営監査」に近い機能を果たしている部門が存在するケースもあるのかもしれませんね。

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