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2019年6月21日 (金)

大和ハウス中国合弁会社不正から垣間見えるグループガバナンスの教訓

大和ハウス社の問題事例といいますと、違法建築に関する不祥事が大きく報じられております。この一件については同業他社の役員をしております関係でコメントを控えますが、もう一件、「中華人民共和国の関連会社における不正行為に関する『第三者委員会報告書』受領のお知らせ」のほうはしっかり報告書を読了しましたので、ひとことだけコメントさせていただきます。大和ハウス社の経営陣の方々にとっては、違法建築問題よりも、こちらのほうが重大問題として認識されているのではないでしょうか。

同社は、中国におけるマンション開発を中国国内の建設会社(相手先企業)と合弁で進めていたのですが、2014年ころから現地のJVを管理していた相手先企業に好き放題不正をされてしまい、約234億円の損害を受けてしまいました。最終的な出資比率は大和ハウス社が80%を超えていたにもかかわらず、JVの議決権は50対50、経営執行も相手先企業が事実上の支配を続けていたそうです。

報告書を読むと、①2012年ころから、監査役会が「当社役職員の、中国企業に対する責任と権限が不明確であり、コントロールが効かない状況にある」と警鐘を鳴らしていたにもかかわらず、なぜパートナーとの立場を見直さなかったのだろう、②法務部が従来より不正の兆候を把握し、問題提起をしていたにもかかわらず、なぜ経営陣の中で法務部の提言を認識していた人と認識していなかった人がいるのだろう、また認識していたとしても、なぜ法務部の提言は無視されたのだろう、③そもそも2009年当時から、相手先企業の不正が判明していたにもかかわらず、どうしてJVの総経理の職務をもっと早く停止させなかったのだろう、など疑問は尽きません。

毎年積みあがっていく不正送金の金額表示をみますと、5年ほど前に抜本的な対策をとっていれば損害はほとんど発生せずに済むと思われますので、同社のグループガバナンスが甘かったと言われれば反論できないかもしれません。ただ、私がこの60頁ほどの報告書の中で、もっとも印象に残ったのが、大和ハウス社の代表取締役会長さんの相手方企業への「思いやり」に満ちた行動です。

「a氏(代表取締役会長)は、こうした中方(中国企業側)の状況について、重要な合弁パートナーである中盛集団(中国企業のグループ)が困っているのであれば、手を差し伸べることも必要である、と述べている」(報告書51頁)。

資金繰りに困っている中国の合弁パートナー企業について、会長さんは「手を差し伸べよ」と指示されたようです。それまで大和ハウス社は、当該相手方企業による背信行為を受けていたのであり、私などは「こんな対応されたのならすぐに合弁解消じゃないの?(怒)」「すぐに解消とまではいかないのであれば、相手が泣きついてきている今こそ、JVの支配権を奪う機会にしたらいいのでは」と考えます。しかしカリスマ経営者は「それでも手を差し伸べよ」とおっしゃる。おそらく、a氏はこの経営姿勢(経営理念)で成功を重ね、大和ハウス社をここまで大きくされたのでしょうね。救済の条件として支配権の譲渡を要求することができたかもしれませんが、建設工事まで掌握している相手方企業と決裂してしまえば投資分の回収も困難となりますし、なによりも信頼関係を最後まで維持することが大和ハウス社の理念に沿うものだったと思います。

しかし、社内で絶対の権力を有する(と思われる)a会長の意向が「手を差し伸べよ」というものであれば、おそらく社内ではその意向を忖度してしまうのではないでしょうか。中国事業を推進するための権限と責任の明確化、海外関連会社を統制するためのグループガバナンス、JVにおける不正予防のための内部統制システムの構築、といった提言が出されたとしても、役職員の皆様が「あえて火中の栗を拾う」ような対応は、a会長の意向に反することとなりかねないため、実行困難な状況に至っていたのではないかと(もちろん、私の推測です)。そういえば昨年の積水ハウス社の「地面師詐欺」事件のときも、(WEBニュースからの引用ではございますが)社長さんが「五反田の土地は絶対に手に入れたい」といった意見表明をされ、これを認識した役職員らが、「おかしいとは思いつつも」(社長さんの意向を忖度した結果として)取引相手を見る目が曇ってしまったことが問題だったのではないかと思いました。

6月下旬、経産省CGSの在り方研究会から「グループガバナンス指針」が公表され、なかでも海外子会社の経営管理の在り方が示される予定です。おそらく(全体最適のための視点から)教科書的にガバナンス・ルールや内部統制の仕組みが提唱されると思います。しかし、実際のところ、グループガバナンスは「そんなに甘いものではない」という教訓を、大和ハウス社の報告書は示しています。「なんでもっと早く不正送金に気づかなかったのか」と非難し、憤るのは簡単です。しかし「気づくこと」と「止めること」とは1:100くらい「止めること」のほうがむずかしいのです。大和ハウスほどの巨大企業で、社を挙げて「マンション開発による中国富裕層の取り込み」という事業戦略を推進するなかで、誰が体をはって止めることができたのか・・・他社でも議論する価値はありそうです。

上記大和ハウス社の報告書によりますと、2014年に本社による(当該JVに対する)財務検査を中断したころから、中国JV内で不正送金が開始されています。つまり、本社の誰かが不正リスクを感知して「財務検査だけは継続したほうがよい」と提言して、そのとおり継続していれば不正送金の事件は発生していなかった可能性が高い。でも、「継続せよ」と提言した人は、(何か良いことが起きたわけではなく、ふだんどおりの業務が継続するだけですから)誰からも称賛されることはなく、社内評価が高まることもないのです。毎度申し上げるところではありますが、「オオカミ少年を歓迎する企業風土」をどのように根付かせるか・・・、「守りのガバナンス」の実力差は、この土壌の有無によるところが大きいと確信しています。

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コメント

相手先企業が中国共産党とどの位関係があったかによって、日本企業1社のガバナンス程度じゃどうにもならないんじゃないかな・・・
中国当局と相手先企業と中国現地監査法人がグルで圧力かけるってパターンもあったりするし
昨年7月のウォールストリートジャーナルで4大監査法人が米企業の中国子会社を直接できないって記事出してたりするし・・・

投稿: | 2019年6月25日 (火) 17時58分

多くの企業の内部統制報告書において、財務報告への信頼性に及ぼす影響が僅少であることを理由に多くの連結子会社を全体的な内部統制の評価範囲から外している企業が多く、ゆえに海外子会社が全体的な内部統制の評価範囲から外れているように見受けられます。

全体的な内部統制の評価範囲から外れているために管理が疎かになっている場合もあるかも知れません。

内部統制報告書を見る限り、全体的な内部統制の評価範囲に入っている連結子会社は、花王で117社中39社、大和ハウスで340子会社中19社、ベネッセHDで40社中25社、大東建託だと29社中2社といった具合です。

(意外にも連結子会社9社のスルガ銀行は不祥事前から連結ベース全ての事業拠点と記載しています。)

もっとも内部統制報告書において、全体的な内部統制の評価範囲に入る子会社の具体的な数字を出している企業はまだマシな方で、それを出していない連結決算採用企業の内部統制報告書も見受けられように思います(グルーバル大企業に限って多い感じですが)

ガバナンス向上のために、全体的な内部統制の評価範囲に入る子会社の対象範囲や子会社の連結外しは今後見直すべきかも知れません。

投稿: | 2019年7月 6日 (土) 11時13分

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